地域活性のカギは“地域の協力者”を増やすことにあり!保存版シティプロモーションの手引き

シティプロモーションの好事例

事例1:京都府福知山市『謀反のお知らせはがき』

―具体的な地域での暮らしを明示してワクワク感を醸成し、実際に行ってからの「関わる余白」を創ってあげることが重要なのですね。

そうですね。その余白のことを“かかわりしろ”と呼んでいて、この“かかわりしろ”をうまく創ったなと感じる事例として、京都府福知山市の「本能寺の変プロジェクトがあります。福知山市には明智光秀の城があるため、前々から「光秀を大河ドラマの主人公にしたい」という想いがあり、ようやく2020年にそれが叶うも、コロナの影響で色々な企画が白紙になってしまったんです。その中で、同市は“推し説”をオンライン投票してもらう「本能寺の変 原因説50 総選挙 #HNG50」を新たに企画し、抽選で「謀反のお知らせ」が届くとしたところ、全国および海外から3万人以上が参加する結果となりました。

―実際に、どのような点を評価されているのでしょうか?

この取り組みは、ナッジが十分に効いていた点がとてもよかったと思います。ナッジという言葉は色々な意味合いで使われていますが、ここで言うナッジとは、「ハードルを下げる仕組み」と「インセンティブ」のことを指しています。そして、それをわかりやすく説明するために、ジョーナ・バーガーが提唱した『STEPPS』を例に挙げています。この考え方は、単なる情報共有支援にとどまらず、行動促進までつながるように設計されています。

STEPPS 本能寺の変プロジェクトとの関係性
Social currency(社交的・社会的価値)
– 行動すると褒められる・いい気分になる
– インサイダー気分(希少価値/限定価値)を用意
福知山市民は明智光秀の仲間=インサイダー気分を味わえる
Triggers(引き金)
– 日常の中で思い出すようなきっかけが豊富にある
謀反のお知らせはがきは行政がよく使用するシールはがきのため、日常的に思い出すきっかけがある
Emotion(高揚感)
– 盛り上がり・競争
「謀反」という言葉を使い、高揚感を演出
Public(「みんな」の可視化)
– 同じ「コミュニティ」のみんなが行っている
福知山市民全員が参加できることが分かりやすく明示されている
Practical Value(実用的・金銭的価値)
– モノ・カネという実用的な価値を見えやすくする
「謀反のお知らせはがき」がもらえるかもしれない
Stories(自らが登場人物になれる物語)
– 関わりたいと思える波乱万丈・驚きの物語
– 素材はありきたりでも、付加された物語の力で
明智光秀の物語に自分が登場人物として参加できる

このように、STEPPSのそれぞれの項目を効果的に発動し、地域内外の人の行動を促せたことと、それを単なる思い付きではなく、地域では何が語られているかを分析して、ロジカルに考えられていることが、評価すべきポイントです。

事例:埼玉県北本市『アンドグリーン』

―その他に、シティプロモーションの好事例はありますか?

埼玉県北本市の「アンドグリーン」という取り組みですね。この取り組みは、自分たちの街のブランド形成、つまりどのような暮らしができるのかを明確にしている点を非常に評価しています。北本市は高崎線沿線に位置しているのですが、その沿線の中で「緑がある暮らし」をフックに、創業や支援を積極的に行っています。

また、北本市には大規模スーパーがないのですが、一見マイナスに受け取られがちな側面を、「大規模スーパーがないからこそできる暮らしがある」とポジティブな印象を確立させることで、そういったライフスタイルに関心がある人に対するアプローチを可能にしています。モノやお金をくれるから引っ越すのではなく、そういった暮らしをしたいから転入しますという人を増やすことに注力したんですね。結果、社会増(地域への転入数から転出数を引いた数がプラスになっていること)まで獲得している、非常に優秀な事例です。

地域全体でシティプロモーションに着手する環境を創る

―最後に、これからシティプロモーションに着手する方へ、大切なポイントなどがあれば教えてください。

シティプロモーションに着手する際に大切な点としては、役所の中でのモチベーションの差をいかに埋めていくかというところです。やはり、シティプロモーションを担当している部門と、その他の業務を担当している部門とでは、温度差が大きいんです。たとえば、児童保護に関する部署の職員は、「私たちがやることは、児童手当の現況届を受け付けること、子どもの虐待防止に取り組むことです、なのでシティプロモーションは関係ありません」と思いがちです。しかし、この状態だと、先述した『関与の窓』を創ることなどできません。

ですが、見方を変えると、子どもの虐待防止に取り組む際に、地域に関わる意欲が高い人たちへ積極的に働きかけることができれば、「虐待防止」という課題に対して、役所だけで対応しなくても済むようになるかもしれませんよね。実際に、東京都立川市では、それぞれの職員がなぜ自分の仕事が立川市のシティプロモーションに繋がるのか、なぜ地域に関わる人の意欲を上げることができるのか、場合によっては高まった意欲をどう活用できるのかという視点で、自分の仕事を見直してもらう研修を連続的に行っています。

そのように考えることができれば、シティプロモーションという「地域に関わる意欲を高めていく」ことが、自分たちの仕事にとって極めて有効で、役所全体の生産性を上げるために、非常に重要だと感じることができると思います。まずは、ここをしっかり理解してもらうことが大切ですね。


\シティプロモーションアワードのご紹介/
今年度、一般社団法人日本経営協会、合同会社政策支援、公共コミュニケーション学会の講演を得て、シティプロモーションアワードが新たに発足しました。

シティプロモーションアワードは、データとロジックモデルによって地域に関わる人々の幸せの実現につながることが説明できる、「優れたシティプロモーションの実現」「優れたシティプロモーションを進めようとする地方自治体への支援」「優れたシティプロモーションを支援しようとする企業・団体との連携推進」「優れたシティプロモーションを積極的に進めている地方自治体及び担当者の共創の場づくりへの貢献」を目的としています。今年度は31件の応募を得ることができました。各応募自治体に対してはオンラインでの取材を行い、詳細な内容分析を行っています。

今後、河井孝仁(東海大学文化社会学部教授)を委員長、細川甚孝氏(合同会社政策支援代表)を副委員長、田中輝美氏(島根県立大学地域政策学部准教授)、西山敏樹氏(東京都市大学都市生活学部准教授)、畠田千鶴氏(一般財団法人地域活性化センターメディアマーケティングマネージャー兼月刊「地域づくり」副編集長)を委員とする審査委員会での議論を経て金賞他の授賞団体を決定します。

授賞された団体については、今後、オンライン及びオフラインの場で表彰式等を行い、その取り組みを多くの皆さんと共有する機会を作っていきます。詳細はシティプロモーションアワードwebサイトでご確認ください。(https://www.cpaward.net/

 

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