オフィスビルや商業施設の開発のほか、住宅・設計事業など、街づくりに関する事業を広く手掛ける三菱地所グループ。同社は、1994年から社会環境室を立ち上げ、社会問題や環境問題への取り組みを長年行ってきました。現在、社会環境室はサステナビリティ推進部へと名称を変更し、社内外を問わずサステナビリティ推進に携わっています。三菱地所としてのサステナビリティに関する具体的な取り組みや、活動の現状を把握するためのKPI設定の仕方、社内を巻き込むポイントなどについて、サステナビリティ推進部の天野 友貴さん、松橋 由乃さんにお話を伺いました。
三菱地所株式会社 サステナビリティ推進部 天野 友貴 2020年9月入社。社内浸透や、社内外の情報発信、サステナビリティに関するプロモーションを担当。大丸有エリアを起点としたSDGs達成に向けたプロジェクト「大丸有SDGsACT5」では主にD&I分野を担当している。 |
三菱地所株式会社 サステナビリティ推進部 松橋 由乃 2021年2月入社。当社グループにおけるサステナビリティの目標設定やKPIに関する取り組み、ステークホルダーエンゲージメント、ESG格付け調査への回答やサプライチェーンマネジメント等を担当している。 |
インタビュアー 株式会社マテリアル ブランドプロデュース局 兼 SDGs/ESG担当 小林 遼香 兵庫県西宮市出身。学生時代は演劇や映画を学んだ後、大手通信キャリアに入社。副業でPRライター・岐阜県飛騨市ファンクラブの広報PRを経験。その後、2020年に株式会社マテリアル転職し、飲料メーカーや地方案件などを担当。昨年から社内のSDGs/ESGに関するイニシアティブに参加し、PRGENICにて企業へのインタビューを行っている。縄文時代が好きで、プライベートでは縄文時代好きが集まる某コミュニティに所属し活動している。 |
CONTENTS
自社のビジネスモデルと向き合い、いち早く社会課題解決に取り組む
小林:はじめに、三菱地所のサステナビリティ推進部について教えてください。
松橋:サステナビリティ推進部は、1994年に発足した社会環境室という部署から始まりました。三菱地所は、環境への影響が大きい不動産ビジネスを手がけていることもあり、もともと環境問題に対して強い課題意識を持っていました。そこで、環境と社会への貢献に関する企画立案実施を目的に発足したのが、社会環境室だったのです。この社会環境室が、名前を変えながら、環境・CSR推進部、そして現在のサステナビリティ推進部につながっています。
小林:サステナビリティ推進部に名称を変更した理由は何だったのでしょうか。
松橋:背景には、世の中の流れがESGやSDGsへと向き始めたことがあります。CSRよりもさらに広く、サステナビリティという大きな枠で考え、サステナブルな社会を作るために企業が取り組むべきこと、サステナブルな事業経営をするために取り組むべきことを検討し、実行するため名称を変更しました。また、同時に組織変更も行われ、それまで環境・CSR推進部は、総務や人事の担当役員のもとに置かれていたのですが、サステナビリティ推進部になってからは経営企画の役員の管轄になりました。
会社全体を巻き込み、社会課題に関するマテリアリティを抽出
小林:三菱地所では長年社会課題の解決に取り組んでおられますが、どのようにマテリアリティ(組織にとっての重要課題)の策定をされたのでしょうか?
松橋:2018年度に全社横断でワーキングを実施し、マテリアリティの策定を行いました。具体的には、サステナビリティの観点で、当社グループが注力して取り組むべきテーマを社会課題・動向から洗い出していった形です。結果として、「気候変動の深刻化」、「既存資源の枯渇とそれに伴う社会全体としてのエネルギー構成変化」や「ソーシャルインテグレーション・ユニバーサルデザインへのニーズの高まり」など、24の社会課題・動向を抽出しました。
そこから7つのマテリアリティを策定し、7つのマテリアリティから「Environment」、「Diversity & Inclusion」、「Innovation」、「Resilience」を4つの重要テーマとして、三菱地所グループのSustainable Development Goals 2030と設定しました。近年は、これらに関連するKPIを設定し、取り組みを推進しています。
小林:マテリアリティの決め方に悩む企業もあると耳にします。マテリアリティを抽出するポイントがあれば教えてください。
松橋:いろいろな手法はあると思いますが、ステークホルダーからのご意見を参考にするのも、よく取られている手法の一つかと思います。たとえば、投資家が参照するような項目を参考にする、あるいは、NGOの記事などを参考にして、彼らが重要視する項目を自社の事業内容と紐付けて考えてみると、重要テーマが絞りこみやすくなります。当社の場合はさらに、外部の有識者に入っていただき、マテリアリティが当社の事業にとって適切なものになっているのかをチェックしていただきました。
サステナビリティ活動に対するKPI設定はどう行うべきなのか?
小林:サステナビリティの取り組みについて、現状をどのように把握されているのでしょうか。KPIや検証方法などを教えてください。
松橋: 三菱地所グループのSustainable Development Goals 2030の4つの重要テーマ、「Environment」「Diversity & Inclusion」「Innovation」「Resilience」に紐づいたKPIを設定し、取り組みを推進しています。年度初めや年度末に関連するKPIのデータを集計し、開示しています。ただ、サステナビリティの分野においては、毎年変化が大きく、新たなテーマや課題が次々と議論されています。そうした変化に対応するためにも、投資家やNGOといったステークホルダーの意見を伺い、不足しているものに関しては新たにKPIを設定してデータ収集を続けるといった形で、PDCAを回しています。
小林:先ほど、ステークホルダーというキーワードも出てきましたが、サステナビリティの活動に関してはステークホルダーの理解が不可欠だと思います。理解を得るためにどのようなアプローチをしているのでしょうか。
松橋:投資家面談を開いたり、NGOの方に面談の機会をいただいたり、積極的にコミュニケーションをとっています。当社の取り組みや、現状、今後の計画についてお話し、ご意見いただいています。こうしたプロセスを経て、ステークホルダーの方に当社のサステナビリティに関する考えや姿勢についてご理解いただけるよう、毎年継続して実施しています。
社内の枠を超えてSDGs達成に向けて取組む『大丸有SDGs ACT5』プロジェクト
小林:三菱地所では『大丸有SDGs ACT5』という活動も行っておられます。こちらの活動についてもお聞かせください。
天野:『大丸有SDGs ACT5』は、2年前に立ち上げたプロジェクトです。農林中央金庫、日経新聞グループ、当社を中心に実行委員会形式で、大手町、丸の内、有楽町(大丸有エリア)を起点に、SDGs達成に向けた活動を推進しています。主に5つのテーマ「サステナブル・フード」「気候変動と資源循環」「ウェルビーイング」「ダイバーシティ&インクルージョン」「コミュニケーション」を掲げ、企業や団体の枠を超えて、街ぐるみで多様なアクションを展開しています。
小林:非常にユニークな取り組みですが、活動のきっかけは何だったのでしょうか。
天野:日経新聞グループから「大丸有エリアでSDGsの大規模なカンファレンスを開催したい」というご意向をいただいたことに端を発し、まちづくりを担う当社として「まちづくり×SDGs」で何ができるかを検討し始めたことがきっかけです。さらに、農林中央金庫の担当者の方と当社の担当者が意気投合し、まちや地域の将来について熱く語り合う中で、持続可能な社会に向けてそれぞれのリソースを活用しながら社会課題の解決を目指そうと盛り上がったことから『大丸有SDGs ACT5』がスタートしました。
小林:具体的にはどのような活動を行っているのでしょうか。
天野:SDGsに関する様々なテーマについて学ぶセミナーを開催したり、海洋プラスチックゴミ問題を考えるゴミ拾いイベントを開催したり、SDGsについて考えるきっかけとなる映画を上映する『大丸有SDGs映画祭』を開催したりと、さまざまな活動を行っています。難しくならないよう、やわらかい切り口でSDGsに関する理解を深めてもらい、一人一人の行動を促すきかっけとなることを意識しています。まちづくりを事業として行っている当社にとって、『大丸有SDGs ACT5』は重要な取り組みだと感じています。
社員の日常の中にサステナビリティとの接点をつくる
小林:社内で行っているサステナビリティ推進活動についてもお聞きします。またサステナビリティの取り組みを推進していく上で、どのように社員を巻き込んでいったのか、またどのようにサステナビリティに対する理解を高めていったのか教えてください。
松橋:ポイントになったと感じているのが、先述したワーキンググループの取り組みです。各部署からメンバーを募り、マテリアリティをつくっていく過程で、自分たちの事業に何が必要なのか、どんな社会課題があるのかなどを改めて考える機会になったと思います。このような取り組みを実施することで、社員の当事者意識を高めることにつながるのではないでしょうか。
天野:最近ではそれに加えて、サステナビリティに関する意識付けのためにさまざまな取り組みも行っています。たとえば、2021年には社会課題をクリエイティブに解決する世界のアイデアマガジン「IDEAS FOR GOOD」とコラボレーションし、オフィス空間を活用した展示コーナー『IDEAS FOR GOOD Museum in MEC』をスタートしました。
天野:『IDEAS FOR GOOD Museum in MEC』は、国内外のサステナブルなプロダクト展示を通して、サステナビリティに関する社員の意識浸透を図る企画です。三菱地所本社内にあるスペースを活用し、「プラスチック」「サーキュラーエコノミー」「まちづくり」等、毎月テーマごとにプロダクト選定し展示しています。ただ情報を掲示するだけではなく、社員が楽しみながら、実際にプロダクトを手に取り、触って、体感できるような情報発信を目指しており、サステナビリティをより身近に感じて日々の業務の刺激にも繋げて欲しいというコンセプトで実施しています。
天野:さらに、展示テーマについて掘り下げて学んでもらえるよう、社内でランチタイムを利用したオンラインイベントも実施しています。イベントでは、展示プロダクトの紹介と共に、テーマにまつわるゲストをお呼びして、先進事例の紹介や背景にある社会課題について解説いただいています。時には、社員食堂とコラボレーションして、パネル展示やSDGsのテーマに沿ったメニューを開発してもらうこともあります。最近では、国際女性デーのイベントとして、社員食堂をミモザの花で飾って情報発信したり、企業でダイバーシティを推進されてきたゲストをお招きしてお話しいただいたりもしましたね。
サステナビリティ活動の拡大と社員の自分ゴト化を促進する
小林:さいごに、サステナビリティ推進部としての今後の展望について教えてください。
松橋:CO2排出量や廃棄物関連についての数値目標をしっかりと達成するよう、具体の取り組みを推進していくことは勿論ですが、生物多様性や人権問題、ダイバーシティなどへの社会的関心も高まっている中で、当社グループの持続的成長に向け、幅広い社会課題に取り組んでいく必要を感じています。「大丸有SDGs ACT5」の活動も3年目に入るので、ステークホルダーとの連携も含め、さらに活動を広げていきたいですね。
天野:サステナビリティの推進は企業としての取り組みも大事ですが、社員がいかに自分ゴト化していけるのかという点も重要だと思います。そのためにサステナビリティに関する社内コミュニケーション施策や研修プログラムを更に充実させて人材育成にも力を入れていきたいと考えています。
取材を終えて
SDGsに関する取組みを、会社全体で実践するにはどうしたらよいか悩んでいる方も多いと思います。今回のインタビューを通して、会社の「サステナビリティへの意識」をあげるポイントとなるのは‟自分ゴト化”だと気づきました。企業のサステナビリティ担当者が立てたマテリアリティを一方的な形で伝えると、当事者意識が持てず、事業部内では不満が出てしまうこともあると思います。その点、三菱地所様のように事業部自身がサステナビリティの観点から事業を振り返り、マテリアリティを策定することによって、能動的な取り組みにつながるとわかりました。今回のお話をもとに、より効果的なサステナビリティ活動を行う企業の増加につながると良いなと思いました。(小林)
2001年からマルコ名義で趣味のテキストサイトを運営しているうちにいつのまにか書くことが仕事になっていた“テキサイライター”。好きなものはワインとカメラとBL。