住宅弱者の“見えない声”を聴く。パーパス起点で戦略を描くLIFULLの『FRIENDLY DOOR』に迫る

昨年12月に授賞式が行われた『PRアワードグランプリ2022』。PR GENICでは、アワードを受賞された作品の実施背景やPRポイントを紐解いていきます。受賞事例シリーズの第1弾は、ゴールドを受賞した株式会社LIFULLの「あらゆる人の“したい暮らし”を実現する 『LIFULL HOME’S FRIENDLY DOOR』(以下、『FRIENDLY DOOR』)プロジェクト」。このプロジェクトでは、国籍や年齢、性別などに縛られることなく、あらゆるバックグラウンドを持つ人が住まいを探しやすくなる社会の実現を目指し、外国籍や高齢者の方などに理解の深い不動産会社を紹介するサイトの提供や、不動産会社・住宅のオーナー向けのセミナーなどを行っています。

今回、『FRIENDLY DOOR』プロジェクトのPR活動を担当する、株式会社LIFULL PRグループの遠山佳子さんと小田裕美さんにインタビューを実施。プロジェクト発足のきっかけや、一番の課題であった社会的認知獲得からスタートしたPR戦略、PR活動を行う中で意識していたことなどについてお伺いしました。

住宅弱者の課題解決に挑む『FRIENDLY DOOR』とは

住宅弱者当事者だった女性社員の提案からプロジェクトが発足

まず、『FRIENDLY DOOR』とは、どのようなプロジェクトなのでしょうか。

小田『FRIENDLY DOOR』は、国籍や年齢、性別などに縛られることなく、あらゆるバックグラウンドの方々が、住まいを探しやすい社会の実現を目指すプロジェクトです。現在の賃貸住宅市場では、外国籍の方やLGBTQ、障害者、高齢者といった、いわゆる“住宅弱者”と呼ばれる方々が住まいを探す際、選択肢が大きく限られてしまう状況があります。その原因となっているのは、不動産会社や住宅のオーナーが持つ、住宅弱者への理解不足からくる既成観念。日本の法律では、一度入居した人を容易に退去させることができないため、「リスクが大きそうに見える相手には、物件を貸すのをやめておく」という判断をされることが多いのです。

弊社は、そのようなさまざまなバックグラウンドを持つ方に対する既成観念を変えるべく、啓発活動を行っています。また、実際に住宅弱者の方々が物件を探しやすくなるよう、各カテゴリーごとに理解の深い不動産会社を紹介するサイトも運営しています。サービス提供だけでなく、社会の認識変容の部分まで含めて活動しているのが、『FRIENDLY DOOR』というプロジェクトの全体像です。

このプロジェクトを開始したきっかけについて、教えてください。

小田弊社には、新規事業の提案制度がありまして、中国籍の女性社員がその制度を活用して出したアイデアが、今回のプロジェクト発足のきっかけとなりました。5歳から日本で暮らす彼女は、住まい探しに苦労した経験があり、住宅弱者当事者として感じていた課題をもとにつくりあげたのが、『FRIENDLY DOOR』です。

そのため、企画当初は、外国籍のみにフォーカスされていました。ただ、住宅弱者問題について知る中で、住まい探しに困っているのは外国籍の方だけではないことに気がついたそうです。そこで、さらに幅広い方をサポートできるよう対応カテゴリーを順次増やし、現在では外国籍、LGBTQ、生活保護利用者、高齢者、シングルマザー・ファザー、被災者、障害者の7つのカテゴリーをカバーしたサービスとして運営しています。

住宅弱者を生み出す構造そのものをどう変えていけるか

『FRIENDLY DOOR』には、何社ほどの不動産会社が参加されているのでしょうか。

小田このプロジェクトに賛同してくださった、4,500店舗ほどの不動産会社に参画いただいています。ただ、弊社の運営する不動産情報サイト『LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)』には、20,000店舗ほどの不動産会社の登録があります。『FRIENDLY DOOR』の取り組みが広がっているかという意味では、まだまだ道半ばにあると考えています。

不動産会社や物件オーナーの認識も変えていく必要がある中で、プロジェクトに参加する関係者を増やすため、意識しているポイントはありますか?

小田住宅弱者が抱える問題の構造そのものにどう風穴を開けるか」という部分は、強く意識したように思います。日本の賃貸住宅は、物件のオーナーに強い権限があります。多くの物件のオーナーが「この住宅を貸します」と言ってくださらない限り、住宅弱者に物件が行き渡らないんです。そのため、弊社ではセミナーや接客チェックリストを通じて、不動産会社への啓発活動を行うだけでなく、物件オーナーに向けた無料セミナーも開催しています。賃貸住宅の関係者全員が住宅弱者の実情を理解し、納得して取り組みを進められる。そのような「三方よし」の環境をつくることを意識しながら、取り組みを進めていますね。

3人で100名の記者へコンタクト。課題解決に取り組む空気醸成を目指す

住宅弱者への理解を深めてもらうため、目的にあわせ手法を変化させたPR戦略

左から、PRグループ 小田裕美さん/遠山佳子さん


今回、このプロジェクトがPRアワード・ゴールドを受賞されたということで、具体的なPR活動についても詳しくお聞かせください。『FRIENDLY DOOR』は、そもそも「住宅弱者とは何か」という前提の部分から、認知獲得を進めていかなければならなかったと思います。改めて、PR戦略についてもお聞かせいただけますか?

遠山おっしゃる通り、このプロジェクトを始めた当初は、住宅弱者の存在が世の中にあまり知られていない状況がありました。そのため、まずは多くの方に住宅弱者の課題と実情を知っていただこうと、広告的な手法を用いて認知拡大を図っていきました。具体的には、ラジオ番組のタイアップで代表・井上から住宅弱者について話す機会を設ける、渋谷周辺エリアで夏に屋外広告を掲出する、住宅弱者の属性に近いインフルエンサーにプロモーションツイートを行ってもらうといった取り組みですね。このような活動を1年ほど続けたことで、住宅弱者問題の認知度を少しずつ高めていきました。

小田問題への認知が得られてきたタイミングで、メディアの方に私たちの取り組みを取材していただくべく、広報活動へと注力しはじめました。日本には、社会課題を知ってはいても、特に行動しない知識ある無関心層が多いという調査データがあります。だからこそ、住宅弱者の問題やLIFULLの取り組みへの認知に留まるのではなく、社会全体でこの問題に取り組まなければならないという空気を醸成する必要があると感じていたんです。

広報活動では、具体的にどのようなことを行ってきたのでしょうか。

小田実態調査や『FRIENDLY DOOR』の活動の中で見えてきた当事者の声を持って、PR会社の方々にお願いするだけでなく、私たちPRグループのメンバーも、メディアの方に直接お話をしに行きました。アプローチしたのは、障害者やLGBTQなど、マイノリティの方々を精力的に取材されているメディアや記者です。さまざまな媒体を読み漁り、私たちの取り組み内容と親和性の高い記者を洗い出して、一人ひとりにご連絡を差し上げました。そのような地道な取り組みが功を奏し、少しずつメディア露出が増える中で、SNS等でも応援してくださる方が増えてきたんです。そのタイミングで、一般の方に向けた、住宅弱者への理解を深めるきっかけとなるような啓発活動にも、少しずつ力を入れていきました。

一般の方向けの活動では、どのような取り組みを実施したのでしょうか?

小田たとえば、世の中のさまざまな社会課題について一緒に考え学ぶLIFULLオリジナルの『しなきゃ、なんてない。』絵本を制作し、それに合わせて世の中のさまざまな既成概念から生じる社会課題について学べる本を、誰でも無料で読めるようにした原宿での展示イベント『一緒に学ぼう!LIFULL「しなきゃ、なんてない。」ライブラリー』を実施しました。また、弊社のオウンドメディア『LIFULL STORIES』で、外国人の住まい探しに関するインタビュー記事を掲載したり、弊社設立25周年にあたる2022年には、「住生活」「超高齢社会」「地方創生」をテーマとした、オリジナル短編作品『ソーシャルイシューストーリー』を、タレントの友近さんや小説家の石田衣良さんに執筆いただいて特設サイトに公開しました。

繊細なインプットでメディアアプローチのバランス感覚を養う

さまざまなアイデアをもとに、PR活動を進めていかれたのですね。これらの取り組みの中では、多様な背景を持つ方向けのプロジェクトだからこそ、言葉の使い方など、慎重になった部分もあったのではないでしょうか。

遠山そうですね。PR活動を行う上では、普段から言葉などには気をつけてはいますが、今回のプロジェクトではより一層注意をしながら、プレスリリースなどをつくっていたように思います。

小田本プロジェクトのPRを担当するにあたっては、自分たちが誰よりも知識を持てるよう勉強を重ねていきました。特に、メディアアプローチを行う際は、お話する記者の方自身が、外国籍やLGBTQの当事者であるかもしれませんよね。非常にバランス感覚が求められるかつ、私たちが一番正確に、熱量をもってプロジェクトについてお話しできる自信があったため、PR会社の方と並行して、自分たちでもメディアにお会いしていきました。

3人のメンバーで、年間100名ほどの記者にお会いし、自分たちで想いや熱量をしっかりと伝えられたからこそ、『FRIENDLY DOOR』のことをメディアの方にも深く理解していただけたように感じています。自社が中心となってPR活動を進めていった点は、今回受賞したPRアワードでも大きく評価いただけた部分でした。

『FRIENDLY DOOR』を実施して、反響はいかがですか?

小田初めてお会いする記者の方から、社名を見て「FRIENDLY DOORの企業ですよね」と言っていただける機会が増えましたね。これまでは、「不動産を扱う企業」という認識の方が多かったのですが、弊社のイメージに変化が起きていると実感しています。また、『FRIENDLY DOOR』の取り組みを理解し、参画する不動産会社が増え続けている点も、PR活動が貢献できた部分ではないかと考えています。

自社のビジョンや姿勢を軸としてPR戦略を描く

『FRIENDLY DOOR』の根底にある、パーパス・ドリブンな組織風土

『FRIENDLY DOOR』のような社会課題に挑むサービスを、社外だけでなく社内にも浸透させていくにあたって、なにか苦労された点などはありますか?

遠山「社会課題解決のための取り組みを社内に浸透させる」という点については、苦労はありませんでした。というのも、初めから弊社の方向性と一致したプロジェクトとして推進することができたからです。弊社は創業当時から、企業姿勢として「事業を通じてあらゆる社会課題を解決すること」を意識しています。もちろん、ビジネスモデルの構築などで議論が必要になった部分もありますが、一つひとつの懸念事項をクリアしていくことで、3年続く事業へと育てていくことができました。

小田今回のような、会社の方向性と一致した事業アイデアが現場社員から出てくるのは、日頃から自社のパーパスについて考えている社員が多いからだと思います。経営理念にある「より多くの人々が心からの『安心』と『喜び』を得られる社会」をつくるために、全員が自分の使命を把握しながら、自ら考えて動いている。弊社は、そんな組織であるように思います。

遠山このような組織風土があるのは、採用の段階から、候補者の方と弊社のミッションやビジョン、大切にしている価値観がマッチしているかをしっかりと確認させていただいているからです。お互いが幸せに仕事をしていくためにも、必要なプロセスだと考えて行っていることなのですが、結果として、全社的に同じ方向を向いて仕事ができる土壌を生み出しているように思います。

大切なのは“目に見えない声”に耳を傾け、当事者理解を深めること

社会課題解決型の事業は、これからさらに増えていくように思います。後に続く企業の広報担当者に向けて、PR活動を行う上でのポイントなどを教えてください。

遠山私たちも道半ばのため、まだまだ学びながら進んでいかなければならないところではあるのですが、1つ言えるのは、企業活動の良い部分だけを切り取ってPRをしても、社会には伝わっていかないということでしょうか。社会課題の解決に挑む事業であったとしても、PR活動を効果的に行うためには、自社のビジョンや姿勢を軸として戦略を描く必要があります。企業としての想いと熱量が根幹にあってこそ、世の中に広く伝わる事業活動になる。表面的なコミュニケーションの部分にこだわるのではなく、「なぜ、それをやるのか」という部分をしっかり描くことの大切さを、今回のプロジェクトを通じて実感しています。

小田本当にその通りだと思います。PR活動に取り組むうえで、どうしても「情報を外に出す」ということに目が向いてしまうのですが、同時に、関係する方々の“目に見えない声”を聞くこともとても大切であると今回のプロジェクトで感じました。付け焼き刃的に事業PRを行うのではなく、その課題の背景となる部分に、当事者のどのような声があるのかをしっかりとヒアリングして、それを事業やPRに落とし込んでいく。その部分がとても重要であるように思います。

さいごに、今後の目標について教えてください。

遠山『FRIENDLY DOOR』が目指すのは、住宅弱者の解消です。住まい探しに困る方がいなくなるまで、私たちPRグループとしてもプロジェクトに伴走し続けていきたいと思っています。この取り組みは、弊社の企業姿勢やブランドのあり方を象徴するものでもあります。今回のプロジェクトとそのPR活動を通じて、LIFULLを好きになってくださる方が増えたらとても嬉しいですね。

小田そうですね。これからも弊社はワンチームで、多くの方の幸せに結びつく事業を行ってまいります。広報PR活動に携わる私たちとしても、各事業の見せ方やコミュニケーション手法に引き続きこだわって考え抜きながら、PR活動を続けていきたいと思います。

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