広報は“3つの断捨離”をしよう!南麻理江さんが考える、広報に必要な“SDGsマインド”

SDGsのゴール達成に向け、企業が活動を行うことが当たり前となった昨今。企業の情報発信やアクションの役割を担う広報・PRパーソンの中には、SDGsに対してどのように取り組んでいくべきか、自社ゴトとしてどう活動していくべきか、悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

今回、株式会社湯気代表・南麻理江さんにインタビューを実施。元ハフポスト日本版SDGs担当者としての経験も踏まえ、広報・PRパーソンが持っておくべき“SDGsマインド”についてお話いただきました。

株式会社湯気代表 南 麻理江(元ハフポスト 日本版エディター)
東京大学文学部を卒業後、2011年から6年間博報堂・博報堂DYメディアパートナーズでインターネット広告のセールス、企画・運用に携わる。2017年5月にハフポスト日本版に入社、エディターとして記事コンテンツの執筆・編集、イベントのプロデュース、ライブ番組など新規事業の立ち上げや制作に携わる。2021年1月よりSDGsの特集「SDGsで世界をリ・デザインする」をメインで担当。SDGsを学ぶライブ番組「ハフライブ」でMCを務める。2022年6月より、株式会社湯気を設立し、現在に至る。
インタビュアー
株式会社マテリアル SDGs/ESGプロジェクトリーダー 中野
さやか
PRに出会ったのは大学生の時。マーケティング学科生として4年間学びながら、シンガポールのスタートアップでのインターンシップを経て、2017年4月マテリアルに入社。プロデューサーとして日用品メーカー・ホテル・大手外食チェーン・スタートアップなど多種多様なブランドを50社以上支援。2021年9月からマテリアルグループのコーポレートブランディングとサステナビリティプロジェクトを担当している。<受賞歴>ACC:ブロンズ/CODE AWARD:GOOD EFFECTIVE/PRアワードグランプリ:ブロンズ

SDGsはリンケージで考える

中野:はじめに、南さんがSDGsに深く関わることとなったきっかけについて教えてください。

南:SDGsを強く意識し始めたのは、ハフポストの取材でお会いする経営者や企業の方々に「SDGsバッジ」を付けている方が増えたなと感じ始めたタイミングです。それまでは、2015年にSDGsが採択されたことは知りつつも、なかなか自分ゴト化はできていませんでした。しかし、SDGsバッジの存在で、世間がSDGsに注目しだしていることに気付き、「ここに何かヒントがあるかもしれない」と感じました。それから私自身もSDGsにアンテナを張って、集中的に情報収集をしたんです。

その中で、人権・ジェンダー・格差など、これまでハフポストとして、私自身として、課題意識を持ちながら力を入れて発信してきたテーマが、SDGsにすべて詰まっていることを再認識しました。加えて、これらの問題は、一つひとつ独立しているわけではなく、すべて一緒に解決しなければならない課題だということをSDGsのフレームワークが謳っていると知り、強く賛同しました。

中野:私も、SDGs/ESG担当になってから、より一層SDGsなどについて考える日々ですが、一つひとつの課題がつながっているということをひしひしと感じています。

南:そうですよね。私は、海洋プラスチックごみ問題の解決を目指すNPO法人『UMINARI(ウミナリ)』の代表を務める、伊達敬信さんの講演を拝見し、「リンケージで考えるということが何よりも大事」という言葉に強烈に影響を受けました。もし、あなたがジェンダーの問題に興味があるのであれば、それは気候変動の問題とつながっているし、あなたが貧困の問題に興味があるのであれば、それは生物多様性の問題につながっている、と。

私はこの“つながっている”というワードにハッとさせられました。SDGsに対して、「弊社が取り組んでいるのは〇番と〇番で」というようなフレーズをよく聞くじゃないですか。17のゴールをまるで試験の暗記問題のように誦じてくれる人に会ったこともあります。でも、そうではなくて、あの手この手のアプローチで包括的に地球を良くしていくことを考えるのが、このフレームワークなんだと気付かされてからは、すべてがつながって見えるようになり、SDGsに対する解像度が一段階上がった記憶がありますね。

広報・PRパーソンに必要な“SDGsマインド”とは?

時代の主役として成し遂げるべき“3つの断捨離”

中野:SDGsに関するさまざまな人物やコンテンツに触れられてきた南さんですが、企業の広報・PRパーソンが、SDGsに対して取り組む前に心得ておくべき“SDGsマインドとは、どういったものだとお考えでしょうか。

南:まず、広報・PRパーソン担当の皆さんには「私こそが会社の主役なんだ」と思って欲しいです。実際、本当にそうなんです。SDGsでは「ステークホルダー主義」が重要視されています。企業は、公共性を持った存在であり、株主や顧客だけではなく、未来の消費者や従業員の家族まで、さまざまなステークホルダーの幸せのためにビジネスを行うというのが、これからの常識になると信じています。そうなると、さまざまなステークホルダーとの関係調整の要である広報・PRパーソンが、まさにど真ん中の存在になってきます。是非とも“主役マインド”でSDGsにも取り組んでいただきたいです。

あわせて、時代の主役として成し遂げてほしい“3つの断捨離”があります。

まず、1つ目が「完璧主義の断捨離」です。現時点では、SDGsの17のゴールを完璧に達成できている、人も企業も国も存在していません。「みんなで協力し合って、ゴールに向かってさまざま活動を押し進めていこう」というフェーズなので、広報・PRパーソンの皆さんも「現時点で達成できていないこと」を、あえて声に出していくべきだと思います。

たとえば、企業の会見や発表会などに登場する人が「すべて男性」という場面を目にすることがあります。「役職の高い人」をアサインしたら男性になってしまったということは、2022年においてまだまだ多いのかもしれない。そういった場面で、広報・PRパーソンの方々が「現時点では、男性ばかりの並びになってしまっていますが、2年後・3年後には、この比率を変えていけるよう行動していきますということをセットで言いませんか?」と提案できると、企業の印象も、会見の意義も大きく変わります。このような“できていないことをあえて言っていく姿勢”が、いま広報・PRパーソンには求められているのではと思います。

2つ目は「セクショナリズムの断捨離」です。日本では、未だに縦割りの組織体系が根付き、SDGs活動を推進していくことが難しい企業もあると思います。「それは人事部マターで…」「これはCSR部門で…」「これは商品開発で…」という声が社内に溢れていると聞いたこともあります。3か月ごとに成果を出さなければならない部署も、5年ごとの中期経営計画をつくる部署も、大きなゴールは同じはずです。広報・PRパーソンが社内を飛び回って、さまざまな部署を行き来し、セクショナリズムを越えていくことも、今後さらに求められていく役割だと思いますね。

そして、3つ目は「社員感覚の断捨離」です。以前、SHARPのTwitterアカウントを運用している「シャープさん」に取材をしたことがあります。

▼「上から目線」や「大きすぎる主語」では伝わらない。“シャープさん”がSNS発信で実は心がけていたこと

その時に「Twitterアカウントの運用担当になってから、自分は半分社員を辞めようと思いました」とお話されていたのが印象的でした。これは、自分が最も世間と近い“外側の社員”であり、生活者に最も触れている存在だという意識を持つようにしたということ。社員感覚を半分“断捨離”して、くるりと振り返って“企業に最も近い一般人”というような感覚で会社を見ると、SDGsに反するような言動の回避や修正、チューニングにもつながるのではないでしょうか。

自分を“学びのベルトコンベヤ”に乗せ続ける努力をする

中野:なるほど。それでは、仮に明日から企業の広報・PR担当となった場合、先ほどの「主役意識」と「3つの断捨離」のマインドセットをもとに、どのようなアクションをしていくべきでしょうか。

南:具体的なアクションとしては、ハフライブを見てください!(笑)、というのが1番にありつつ、ハフポストのコンテンツでなくても、何かしらで学び続けることが大事だと思います。SDGsや社会課題には「ここまでいけば終わり」という線はない。常に変容し、新しい問題が生まれてきます。だからこそ、定期的な学びの場を自分でセットし続けることを、意識したいですね。そういった意味で、月1回・1時間のハフライブは、忙しい皆さんでもルーチン化しやすいのではと思います。1度本を読んで終わり、ウェビナーに参加して終わりではなく、まずは自分を“学びのベルトコンベヤ”に乗せ続ける努力から始めるといいのかもしれません。

また、SDGsに関わりたての頃は、先述した「17のゴールすべてがつながっている」という感覚がなかなか腹落ちしない方もいらっしゃると思います。そんな方に見ていただきたいのが「気候正義」について書かれたこちらの記事です。

▼『気候変動で“真っ先に死ぬ”のは誰? 「気候正義」という言葉が日本にも浸透してほしい理由』

「気候正義」は、「Climate Justice」の日本語訳。グレタ・トゥーンベリさんらの気候マーチでも“What do you want?” “Climate Justice!”といったコール&レスポンスが繰り返しなされています。端的に言うと、気候変動の悪影響を真っ先に被るのは、普段から弱い立場である貧困の国や女性、子どもであるという不条理を訴えるものです。人によって感じ方は異なると思いますが、現時点で「17のゴールがつながっている」という感覚に納得感がない方には、ぜひ読んでいただきたいです。

中野:終わりのない問題だからこそ、より一層学び続ける意識は大切ですね。

南:そうですね。また、SDGsに関わらずですが、「学びたければ、まずは発信しよう」と言われたりしますよね。自分が知りたいテーマについて多くのツイートをしている人には、求めている情報がどんどん入ってきます。最近だと、企業の広報・PRパーソンの方がPodcastやTwitterに匿名で、自分の考えや読んだ本、モヤモヤしたニュースなどの情報発信をされているのをよく見かけます。このように、自ら発信をして、世の中に壁打ちし続けることはとても大切だと思いますし、自社や本業にも何らかのポジティブな影響を与えられているのではと思います。

いち生活者である自分の感覚を大切に

生活者が自分ゴト化できるテーマとの接続点をみつける

中野:近年、多くの企業がSDGsに対する活動を行っていますが、このような社会の流れを受けて、生活者はSDGsをどのように捉えているのでしょうか。

南:SDGsという言葉の認知度は、数年前よりも劇的にあがっていて、本当にみんなが知っている言葉になったなという感覚があります。一方で、「SDGs=環境問題のこと」だと思っている人がまだまだ多いという肌感も…。エコバッグや古着リサイクル・リメイクなどのイメージが先行し、ジェンダー平等や働き方改革とつなげて考えられている人は、少ないかもしれません。

もちろん、悲観はしていません。知らないよりも知っている方がいいし、教育現場や職場での会話も着実に変わっていますしね。ここからもう一歩先に踏み込んで、SDGsというフレームワークのもと、環境問題とその他の社会課題を同時に解決していこうという機運に持っていけたらいいなと思います。

中野:生活者に自分ゴトとして捉えてもらうため、企業はどのようなことを意識できるとよいでしょうか。

南:「子育て」や「働き方」など、多くの人が自分ゴト化できる話題との接続点をみつけて発信していくことは、ひとつ重要なポイントです。たとえば、「自分の子どもが通う学校の給食」にスポットを当ててみてください。

宗教上の理由やアレルギーなどでみんなと同じ給食を食べられない生徒が、教室にいるかもしれない。その時に、「選択肢があることの大事さ」を子どもと話し合えるかもしれません。食のスタイルから見る文化の多様性、気候変動における肉食の課題、もしかすると先生たちの働き方改革にまで話が及ぶかもしれません。給食からさまざまなSDGsが見えてきますよね。

SDGsやESG、カーボンニュートラルなどの大上段の言葉からもう一歩踏み込んで、「いち生活者としての自分は、どんなキーワードだと自分と共通点のある話題として捉えられるのか」を考えて、発信する姿勢は大事だし、有効だと思います。

ウォッシュへの感度を高めながら、アクティブな発信を

中野:最近だと、企業が発信する内容に対して「グリーンウォッシュ/SDGsウォッシュだ」というような指摘も少なくないと思います。それらを踏まえ、企業がSDGsに関するアクションを行う際に気を付けるべきポイントはどこになるのでしょうか。

南:ウォッシュの問題は非常に難しいですよね。ですが、先述したとおり、SDGsというゴールを完璧に達成できている人・企業・国は、現時点で存在していません。今までの社会経済システムでは不備があるから、これからみんなで変わっていきましょうと謳っているのがSDGsなので、全員が不完全であることをまずは意識すべきですよね。

ウォッシュへの感度が高まることで「批判されるかもしれないから発信しない方がいいんじゃないか」と守りに入りすぎると、社会全体の変化スピードが鈍ってしまいます。ウォッシュへの感度を高めながら同時に、社会とどう対話をして、ブランドや施策をブラッシュアップしていくかを考え、発信することが大事かなと思います。

社会的なコンセンサスを早く取っていくためにも、声を上げる個人や心ある生活者に任せきってしまわず、システムを変えるパワーを持つ大企業の皆さんにこそ頑張ってほしい。不完全であることを自覚し、アクションや発信を続けてほしいです。

中野:ありがとうございます。さいごに、これからもチャレンジを続ける広報・PRパーソンの皆さんへ、メッセージをお願いします。

南:メッセージなんて烏滸がましいのですが、私が意識していることの共有として、とにかく生活者としての自分の感覚を大切にし続けてほしいです。たとえば、少し前にあったサッポロビールさんとファミリーマートさんが共同開発されたビールのラベルに、スペルミスがあった事例(https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5ffeb492c5b691806c4db8d0)。広報・PRの頭でいると、「スペルミスをしている商品を売ることなんてできない」と判断してしまうかもしれませんが、いざ自分の中にある生活者マインドで考えてみると、「販売中止して商品廃棄なんてもったいないのでは?」と思うかもしれません。自分が感じていることは、1万人、10万人が同じように感じることかもしれない。自分の中の広報・PRパーソンスキルと生活者マインドを融合させて、自分の本音に耳を傾けてみることが、世間に耳を傾けることにつながるのではないでしょうか。

それにしても私たち、本当に難しい時代に生きていますよね…(笑)。資本主義を根本から見直していこうという、歴史の分岐点になるような時代の最先端に、広報・PRパーソンの皆さんがいると思います。毎日大変だけど、時代の最前線で働いているという状況を一緒に楽しみましょう、とお伝えしたいです。

取材を終えて

この度は、貴重な機会をいただき大変ありがたく思っております。
「さまざまなステークホルダーとの関係調整の要である広報・PRパーソンが、まさに時代のど真ん中にいらっしゃると思います。」南さんがそうおっしゃられた時は、正直ドキリとしましたが、全て読み終えて、励まされるような気持ちになったのは、私だけではないのではないでしょうか。

完璧主義/セクショナリズム/社員感覚の3つの断捨離をして、PRパーソンが社内を飛び回って、さまざまな部署を行き来し、企業のPRだけでなくマーケティング、人事、経営に関わることは、社内外への発信に広がりを持たせることができると同時に、PRパーソン自身が多様な視点を身につけることにつながると感じています。

後半では、情報発信時のQ&A作成に関してのお話がありましたが、こうしたQ&Aを作成する際にも、PRパーソンが社内外を飛び回ったことで得た、多様な価値観への理解や複数の視点を持ち合わせていることが活かされていくと思います。取材時には「通常のQ&A以外にも、自分の中で繰り返し問い続け持っておく“B面Q&A”があるといいのでは」というお話もさせていただきました。私自身も、3つの断捨離をして、まずできることからトライする。またそこで得た経験や知識を持って、ブランドを支援させていただきたいと思います。(中野)

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