サステナビリティを企業文化として根付かせる。生活者の選択肢を広げ消費を後押しする楽天の試み

近年、世界的に注目を集めるSDGs。日本国内でも多くの企業がSDGsの推進に取り組んでいますが、中でも積極的に取り組みを進めているのが楽天グループ株式会社(以下、楽天)です。楽天では、2018年からCSR部をサステナビリティ部へと名称変更し、よりSDGsの推進に注力していく姿勢を打ち出しました。

また、楽天市場内に『EARTH MALL with Rakuten』をオープンし、楽天市場で販売されているサステナブルな商品をピックアップしたり、生産者やメーカーへのインタビュー記事を掲載したりするなど、サステナブル消費を後押しする取り組みを行っています。

サステナビリティ部や、EARTH MALL with Rakutenなどの取り組みを通して、楽天は今後どのような社会を目指すのか。楽天 サステナビリティ部 上野 友加さんと、地域創生事業部 平井 江理子さんにお話を伺いました。

楽天グループコーポレートカルチャーディビジョン サステナビリティ部
サステナブルビジネスグループ マネージャー 上野 友加
サステナブルビジネスグループでは、楽天のサービスや事業活動をサステナブルにする活動を担っており、eラーニング立ち上げやサステナブル調達活動に取り組む。
楽天グループ コマースカンパニー 地域創生事業
メディアコミュニケーションデザイングループ 
平井 江理子

2018年からサステナビリティ部にて「EARTH MALL with Rakuten」のリリースに携わる。現在はコマースカンパニーにて、EARTH MALL編集長としてサステナブル消費の拡大に取り組む。
インタビュアー
株式会社マテリアル ブランドプロデュース局 兼 SDGs/ESG担当 小林 遼香
兵庫県西宮市出身。学生時代は演劇や映画を学んだ後、大手通信キャリアに入社。副業でPRライター・岐阜県飛騨市ファンクラブの広報PRを経験。その後、2020年に株式会社マテリアル転職し、飲料メーカーや地方案件などを担当。昨年から社内のSDGs/ESGに関するイニシアティブに参加し、PRGENICにて企業へのインタビューを行っている。縄文時代が好きで、プライベートでは縄文時代好きが集まる某コミュニティに所属し活動している。

楽天サステナビリティ部の活動に迫る

役割はサステナビリティを企業文化として根付かせること

サステナビリティ部 上野 友加さん


小林:まずは、楽天さんにサステナビリティ部ができた経緯についてお聞きかせください。

上野:サステナビリティ部ができたのは2018年です。サステナビリティの考え方を楽天の企業文化として根付かせ、社員一人ひとりが日々の実務を通じた社会課題の解決を推進していくため、それまでのCSR担当部署を改組し、サステナビリティ部が生まれました。当社がサステナビリティに力を入れる背景については、楽天という企業そのものの成り立ちをご説明した方がわかりやすいかもしれません。

楽天が創業した1997年は、地方都市で商店街の活気が低下するなど、経済の衰退が問題視されていた時代でした。そうした中で、「店舗さんが簡単にECショップを開設できるように」と生まれたのが楽天市場だったのです。楽天は、企業理念としてミッションに「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」を掲げており、一貫して、持続可能な社会を目指してきました。つまり、楽天の成り立ちや事業は、もともとサステナビリティとの親和性が高いものだったのです。

小林:そんな楽天さんのサステナビリティ部は、どのような部署なのでしょうか。

上野:サステナビリティ部は、楽天のサービスや事業活動をサステナブルにする活動、サステナビリティ情報の開示、NPOを含む社外との連携による社会課題解決に向けた活動などを行っており、サステナビリティ部全体としては活動を通じた企業価値の向上を追求しています。

楽天のサービスや事業をサステナブルにする活動をとっても、楽天は事業が多様化しており、サステナビリティ部だけで進めようとしてもうまくいきません。そこで、日々、さまざまな事業担当者の巻き込みを図ると同時に、『サステナビリティポータル』を設け、そこを窓口に他の事業部と連携をとっています。

社員へサステナビリティを浸透させるための活動とは?

小林:サステナビリティの考え方を社員の皆さんに浸透させることは簡単ではないと思いますが、どのようなコミュニケーションや施策を行われているのでしょうか。

上野:様々な取り組みを行っています。たとえば、サステナビリティの基本的な知識を学んでもらうeラーニングを用意しています。具体的には、「楽天グループにおけるサステナビリティ戦略とは何か」を解説したり、SDGsやCSR、ESGといった言葉の違いを説明したり、自社だけでなく他社の事例についても紹介したりしています。また、グリーンウォッシュ(※)など、サステナビリティな活動をする上においての、負の側面についてもしっかりと説明するようにしています。
※環境に配慮していない商品やサービスにも関わらず、あたかも“環境に配慮している”かのような訴求を行うこと。

小林:しっかりとプログラムを構築されているのですね。

上野:そうですね。ですが、これらの他にカジュアルな施策も行っています。従業員を対象に、サステナビリティや社会貢献をテーマとしたオンラインイベントを毎月開催しており、社内外からテーマに沿ったゲストスピーカーを招いてご講演いただいたりしています。たとえば、9月は防災月間ということで、NPOの方をお招きし、東日本大震災から得られた知見などをお話いただきました。他にも「昆虫食」や「児童労働のない未来を考える」など、様々なテーマで開催しています。

また、楽天で行うイベントのサステナブルな運営も目指しています。オフライン/オンライン問わず、500人以上が参加するような比較的規模の大きいイベントを対象とし、イベントを運営する上でのチェックリストを作成しています。項目としては、「環境に配慮しているか」や「多様性に配慮しているか」などを挙げ、担当者に確認してもらっています。

『EARTH MALL with Rakuten』とは?

バリエーションに富んだサステナブル商品の発信で独自性を発揮する

地域創生事業部 平井 江理子さん


小林:続いて、楽天さんが運営されている『EARTH MALL with Rakuten』(以下、EARTH MALL)についてお伺いします。まずは、EARTH MALLをローンチされた背景について教えてください。

平井:「EARTH MALL」という用語やコンセプトは当社のオリジナルではなく、SDGsに関する変革とイノベーションを創出することを目的とした、有識者のプラットフォーム『OPEN 2030 PROJECT』から生まれた社会適用プログラムの名称です。同プラットフォーム代表を、日本のSDGs第一人者である慶應義塾大学の蟹江憲史教授が務め、具体的な社会適用への推進を博報堂が担っています。2017年頃、楽天としてサステナビリティにどう取り組んでいくのかという議論が行われました。

ちょうど、世の中にSDGsが少しずつ広まってきた時期でもあり、楽天としても持続的な消費活動を後押しして、SDGsの12番目の目標として示された「つくる責任 つかう責任」への貢献を目指そうという声があがりました。そのような背景から、弊社は同プラットフォームの考え方に大いに共感し、サステナビリティに配慮した商品を扱うECサイトとして、2018年4月26日にEARTH MALLをローンチしました。

小林:EARTH MALLは、楽天市場の中でも特にサステナブルに配慮した商品をとりあげて紹介されています。

平井:EARTH MALLがオープンするよりも前から、楽天市場ではサステナブルな商品が多数取り扱われていました。ただ、楽天市場には約3.4億の商品があり、その中から消費者がサステナブルな商品を探すのは大変です。それならば、すでにあるサステナブルな商品をセレクトして紹介するのが、EARTH MALLの役割だと考えたのです。現在、EARTH MALLでとりあげているサステナブル商品は約13万点に上っています。

小林:近年はサステナブルをうたう商品を目にする機会が増えました。また、サステナブル商品を中心に扱うECサイトも増えています。そうした中で、EARTH MALLとしての独自性をどのように発揮されているのでしょうか。

平井:一番の特徴は、商品のバリエーションの豊富さです。家電や家具、食べ物など、楽天市場と同じくあらゆるジャンルの商品が揃っています。ここまでバリエーション豊富なサステナブル商品を取り扱っているサイトは、日本はもちろん、世界的に見ても珍しいと思います。

小林:EARTH MALLのユーザーはどのような層なのでしょうか。

平井:EARTH MALLは楽天市場の中にあるサービスなので、楽天市場と同じく30〜40代の女性がメインです。また、若年層ほどサステナブルへの関心が高いため、今後はさらにサステナブルを軸に買い物をする人が増えてくるでしょう。そういう方々がお買い物しやすい場を、EARTH MALLでつくりたいと考えています。

ユーザーにサステナブルな買い物を提案するショッピングガイド

小林:EARTH MALLで紹介する商品の選定基準について教えてください。

平井:消費者に信頼できる情報を届けるためにも、商品の選定基準はとても重要だと考えています。きちんとした考え方がないと、グリーンウォッシュにもつながりかねません。そこで、ローンチ時には蟹江教授のご協力を得て、国際的なサステナブル認証を表示している商品を中心に紹介していました。ここで言うサステナブル認証とは、「国際フェアトレード認証」や「有機JAS認証」「GOTS認証」などが挙げられます。

たとえば、「国際フェアトレード認証」は、発展途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入し、開発途上国の生産者や労働者の生活改善、自立をサポートする商品であることを証明しています。「有機JAS認証」は、農薬や化学肥料などの化学物質に頼らずに生産された、農林水産物や加工品であることを証明しています。

ただ、こうした取り組みを行ったからといって、お客さまが楽しくお買い物できるとは限りません。お客さまが自分自身で軸を持って、サステナブルな商品を選べるようになるためのガイドが必要だと考えました。そこで、2021年10月にリリースしたのが、『サステナブルショッピングガイド』です。ガイドでは、「フェアトレード」「オーガニック」「サステナブルシーフード」「エコフレンドリー」「アニマルウェルフェア」「地域活性」「社会貢献」「ダイバーシティ」という8つのキーワードを設けて、サステナブルなお買い物をお客さまにご提案しています。

自治体やJICAとの提携でサステナブルに関する課題解決をサポート

小林:楽天さんは、滋賀県や独立行政法人 国際協力機構(JICA)と包括連携協定を締結されるなど、外部団体とも様々な取り組みを行っておられます。こうした取り組みは、どのようにして実現したのでしょうか。

平井:EARTH MALLはもともとサステナビリティ部が運営していたのですが、より事業として拡大していくため、2022年に運営体制をコマースカンパニーの地域創生事業部に移しました。上野が申し上げたように、そもそも楽天は「地域をエンパワーメントする」という理念を持っており、地域創生事業部が各自治体とのコミュニケーションを行っていました。その中で、EARTH MALLの運営が地域創生事業部に移動したことから、今後、各自治体との取り組みも可能性が広がって来ると考えています。

こうした流れの中で、滋賀県との包括的連携協定が実現しました。楽天は以前から、多くの自治体と提携して地域の課題解決に取り組んできましたが、滋賀県との協定で特徴的だったのは、連携する際の第1項目として「県産品の持続可能な消費の促進に関する事項」を設けたことです。

小林:SDGsに関する内容が、第1項目になっているのは画期的ですね。自治体としても、SDGsの取り組みを進めたいという想いを持っていたということでしょうか。

平井:そうですね。滋賀県のようにSDGsに関してもともと先進的な動きをされている県もありますが、各自治体にあるサステナブルな商品を紹介するという形を通じて、地元だからこそ気づいていなかったサステナブルな面を、改めて発見するお手伝いが出来ればと思っています。

小林:JICAとはどのような取り組みを行っているのでしょうか。

平井:途上国で作られている商品の日本への販路拡大や、サステナブルな消費に対する意識向上などを目指しています。現在は、どのような形で関わっていくのが一番いいのかを、定期的な打ち合わせを通して探っている段階です。

嘘のないリアルな情報を届け生活者の選択肢を広げる

小林:EARTH MALLは商品を紹介するだけでなく、生産者やメーカーへのインタビューを通して商品の背景にあるストーリーを発信されるなど、オンラインメディアとしての顔も持たれています。メディアとして大切にしていることを教えてください。

平井:私たち自身もまだまだ学びの途中ですから、「こういう商品じゃないとサステナブルじゃない」というような投げかけ方ではなく、楽しみながら「サステナブルな買い物の選択肢」を広げていただけるような情報発信を心がけています。

また、嘘や誇張のないリアルな情報であるかどうかも意識しています。たとえば、「編集部のお買いもの日記」という連載を掲載しているのですが、この連載では本当に編集部が普段購入して使っているものを嘘偽りなく紹介しています。

小林:生産者の方のお話からは学ぶことも多そうです。

平井:サステナブルな商品って、見た目には表れていないこだわりや良さが多いんです。でも、お話を伺ってみると、サステナブルであるためにものすごい努力をされていることが伝わってきます。サステナブル商品は、そうでないものに比べて手間がかかっている分、少し単価が高いことも多いです。ですから、商品の背景をお伝えしないと、「高いから買うのをやめよう」となってしまいかねません。そして、需要と供給が成り立たなくなるということは、当然ながら今後も商品として提供されることは難しくなります。

サステナブルな商品を作る人、買う人のバランスがきちんと保たれていることも、サステナブル消費には重要なポイントです。私たちは、商品の背景をセットでお伝えすることで、価格だけではなく商品の背景も考慮した、サステナブルな買い物の視点を持った消費者を増やしていくことで、サステナブル消費を後押ししていきたいと考えています。

小林:最後に、EARTH MALL、そしてサステナビリティ部としての今後の展望について教えてください。

平井:EARTH MALLは、サステナブル消費を日常的なものにしたいという想いを持って運営しています。そのためには、まだまだ商品数もコンテンツも足りていないので、まずはそこを増やしていきたいと思います。

上野:楽天市場では、サステナブルな取り組みをしている店舗さんを表彰する「サステナビリティ賞」を設けたり、楽天市場の店舗さんがサステナビリティについて学ぶためにオンラインで閲覧できる講座を用意したりしています。今後もこうした取り組みを通して、サステナビリティを推進していきたいです。

取材を終えて
昨今、サステナブルやSDGs関連の話題について、よく耳にするようになりました。多くの企業がサステナビリティに関する取り組みをしている中、楽天さんは、SDGsに取り組む先進的なモデル会社だと改めて思いました。社員一人ひとりのサステナビリティへの意識が部署間連携になり、それらが地方自治体やNPOなどの社外連携につながるのだと実感しました。私自身もSDGs/ESGプロジェクトメンバー として、まずは社内にプロジェクトの役割の明確化をし、サステナビリティ意識を根付かせる文化形成をしていこうと思います。(小林)

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