サステナブル経営を目指し、ESG投資やSDGsアクションを行う機運が社会全体で高まるなか、「サステナビリティ」と「ビジネス」の結びつきがうまく見出せずにいる企業も少なくありません。企業として持続可能な成長を果たすためには、SDGsの勘所を抑え、ビジネスとしていかに昇華できるかが大切になってくるのではないでしょうか。
そんな中、国内外の厳選された最新のサステナブルな情報や暮らしを提案するメディアが『ELEMINIST(エレミニスト)』です。今回は、ELEMINISTの編集長を務める深本 南さんに、SDGsの本質を捉えてビジネスを展開するコツや、今注目すべきサステナブル関連のトピックについてお話を伺いました。
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エシカルやサステナブルとの馴れ初め
幼少期の頃から地球環境と向き合う心を持っていた
深本さんは小学生の頃から、「環境問題に対して強い関心があった」と当時を振り返ります。
「エンパシー(感情移入する力)が強い子どもだったんです。たとえば、小さなころから動物性の食品を食べるのに抵抗感を抱いていました。あとは水族館にイルカショーを見にいったときは、傷だらけで泳ぐイルカを目にしていたたまれない気持ちになったのを覚えています。そして小学生の頃に父の転勤で移住したアメリカでは、現地のガールズスカウトに入団しました。
ボランティアやチャリティ活動に参加していたこともあり、誰かのために力を尽くすことや地球環境と向き合うマインドセットはそこで自然と育まれていったと思っています。帰国後、すぐには日本語の授業についていけませんでしたが、唯一わかったのは、道徳の時間で学んだ視覚的な情報でした。日本の環境汚染や水俣病に代表される産業公害などを知ったとき、『私は地球を救わなければならない』と心に誓い、環境活動家を目指すと心に決めたんです。」
そんな深本さんですが、小学校4年生の時の学校行事で、20歳の自分にあてた手紙をタイムカプセルに託したそうです。
「いまちきゅうはへいわですか?四年のわたしは水やでんきをたいせつにつかっています。あなたもちきゅうをまもってください。ちきゅうを大切に――。(中略)」
成人式の日、当時の自分が書いた手紙を受け取った深本さんはすぐに行動に移します。ボランティア活動を通じて出会った仲間たちとともに環境NGO団体を共同設立。音楽フェスティバルを中心に環境活動を行っていたといいます。
「様々な野外イベントで活動を続けましたが、私としては環境活動家として生計を立てようと画策していた時期でもありました。そんななかで糸口を探していたところ、ゴミ拾いボランティアNPO『グリーンバード』という団体を立ち上げた長谷部健さん(現 渋谷区長)のコラムを見つけ、すぐに問い合わせをして会いに行きました。彼ら団体のメンバーが醸し出す大人の余裕や、楽しくやりつつも有名ファッションブランドやレコード会社など名だたる企業のスポンサードを受けている状況に、衝撃を受けたんです。宣伝力、クリエイティブの質、企業を巻き込む力を身につけなければいけない。まずはビジネスの基礎を学ぶ必要があると気づいた瞬間でした。」
エシカルを求める時代になったことを機にELEMINISTを創る
こうして、大学卒業後はアパレル業界に就職した深本さん。クリエイティブの力があれば、人の思いや心を動かせる。そう信じ、ひたむきにファッションビジネスへ取り組んできたそうです。
「私はファッションECの黎明期から、ずっとEコマースに携わってきました。ECサイトの運用から商品企画、広告運用、PM(プロジェクトマネジメント)などさまざまな業務を経験し、複数の会社を渡り歩きながら、15年ほどファッションのECビジネスに関わってきました。そして、ようやくエシカルやサステナブルが通用する時代が来たので、一念発起して『ELEMINIST』の立ち上げに至ります。10歳のころから夢に描いてきた“地球を救う”という夢。30年越しでようやく実現できた瞬間でした。」
2020年5月にローンチしたELEMINISTはサステナブルな暮らしをガイドするプラットフォームとしてメディアやECサイトを運営しています。
「メディアでは、世界中から厳選した最先端のサステナブルなニュースを配信しています。クリエイティブかつ本質的な情報だけをお届けするため、EQC(エシカル・クオリティ・チェック)という部門を設けているのが最大の特徴です。基準をクリアしたものだけを採用しています。」
「情報収集」と「逆算思考」がサステナブル経営の勘所
SDGsの本質を捉えた経済活動は経営者の理解が必要不可欠
ELEMINISTの編集長として、これまで多くのサステナブルに取り組むサービスや商品、人と関わってきた深本さん。サステナビリティ経営やESG投資が注目されるなか、表面的にならずにSDGsの本質を捉えてプロジェクトを推進させるために重要なことは何なのでしょうか。
「シンプルに、経営者が地球環境や社会へ与えるインパクトに対しての感度を高く持ち、その必要性を理解できているかが大切だと思います。そうでないと、たとえ中間管理職の方が経営層にサステナビリティ経営のプレゼンをしても、採用されないことは往々にしてあります。そういう意味では、地球がいまどういう状況に置かれていて、グローバル全体でどのような潮流が起きているか、情報収集することが肝要になります。
そして、これまでの利益追及型ではなく、サステナブル経営を推進するには“業績の脱成長”も必要になってきます。企業は株主に還元するだけではなく、地球や生き物、人権などにも配慮し、包括的に考えなければなりません。これからのサステナブル社会にフィットさせるには、どうしていくべきか。利益を度外視してでもやらなくてはならないことは何か。こうした考え方をしないと、SDGsの本質を捉えた経済活動は続かないと考えています」
サステナブル経営に求められる「バックキャスティング」
また、サスティナブル経営のビジョン策定や戦略を立てる際には、「バックキャスティング」が大事になると深本さんは続けます。
「現状を起点に未来の目標を定める『フォアキャスティング』ではなく、未来のあるべき姿を決め、そこから逆算して目標や指針を決める『バックキャスティング』がサステナブル経営には非常に重要になります。SDGsを推進する上で、自社のビジネスモデルやアセットに何が足りないのか。課題はどこにあるのかをしっかりと洗い出すことが大切です。
また、海外の先進企業や、グローバルに展開する日系企業の動向を参考にするのもいいですが、実は日本の江戸時代では、今で言う『サーキュラーエコノミー(循環型経済)』が成り立っていました。」
写真は江戸東京博物館にて、深本さんが撮影したものです。左上から「洋服のサーキュラー」「当たり前だけど木製の日用品」「江戸時代の風呂敷」「季節のものを食べるという文化」の写真になります。
「この時代では、古着売りや呉服屋で購入した着物は、修繕や補強を入れたり、仕立て直しをしたり、縫い目をほどいて反物に戻してから洗濯する“洗い張り”をしていたそうです。また、古くなった着物は、端切れにして雑巾やかまどの焚きつけ、おむつとして再利用されていました。それらを燃やした灰は「灰買い」という業者に回収され、肥料や焼き物の釉薬として循環していたそうです。このように、日本古来の商習慣からも学ぶべきことはあると思うので、情報は広くキャッチアップした方がいいでしょう。」
サステナブルを理解し、正しい知識を持つことが重要
作れば作るほど、環境が良くなる「リジェネラティブ農業」
国内外におけるサステナブル関連の事例はたくさんありますが、なかでも注目すべきトピックはどのようなものなのでしょうか。深本さんは「リジェネラティブ農業(環境再生型農業)が世界的に注目を集めている」とし、その背景を次のように説明します。
「リジェネラティブ農業を語るうえで欠かせない、『4パーミル・イニシアチブ』からご説明します。4パーミル・イニシアチブとは、『土壌中の炭素量を毎年4パーミル(4/1000)ずつ増加できれば、大気中のCO2増加を実質ゼロに抑制できる』という考えにもとづいた、国際的な取り組みです。2021年6月時点、日本を含む623の国や国際機関が参画していますが、2015年の気候変動枠組み条約(COP21)でフランスによって提案されて以来、年々加盟国や団体が増えています。
この流れを受け、土を耕さずに農作物を作る『不耕起栽培』を実践するリジェネラティブ農業への関心が高まりました。農業機械の使用や農薬の散布などによって、温室効果ガスの排出がなされてきた農業も、地球温暖化の問題を考えたときに、地球環境に負荷のかからない農法を取り入れていくことが求められています。
この農法にいち早く取り組んだのが、サステナブルなものづくりを推し進めるパタゴニアでした。同社は1996年から100%オーガニックコットンを製品に使用してきましたが、次のフェーズとして『リジェネラティブ・オーガニック』を掲げ、リジェネラティブ農業でコットンを栽培する取り組みを実施しています。特筆すべきなのは、『コットンを栽培すればするほど、地球環境が良くなる』ということ。地球環境を破壊するのではなく、“再生する”という考えこそ、これから重要な視点になってくると考えています。」
サステナブルやSDGsの本質的な知識を持つことがビジネス展開では必須
今後もELEMINISTの編集長/プロデューサーとして事業を展開していく深本さん。最後に、これからの展望やサステナブルとビジネスを結びつける際に必要なマインドセットについて伺いました。
「サステナブルに対して感度の高いイノベーターユーザーは、SDGsウォッシュを簡単に見抜けてしまうくらい目が肥えています。ひとつの事例を紹介すると、とあるフードブランドがヴィーガンを売りにした商品を発売したのですが、 その商品には上白糖が使われていました。上白糖は製造過程で牛骨が使われていて、ヴィーガンの方のなかには上白糖を使用した食品を避ける人も一定数います。ブランドをPRするエージェンシーも取り上げるメディアも、そのことを知らずに大々的にプロモーションしたんですね。おそらく多数の指摘が入ったのか、最終的には上白糖以外の砂糖に変えたようです。このように、正しい情報発信には物事を多角的に捉える力が必要となります。
サステナブルとビジネスを結び付ける前に、本質を抑えた知識を習得しなければ、思わぬ炎上にも繋がってしまうこともあるでしょう。私自身、一般社団法人エシカル協会が開催する「エシカル・コンシェルジュ講座」を受講し、最新の情報収集に努めています。PRパーソンやマーケティングに従事する方は、プロフェッショナルから学び、実務に活かせるような知識を身につけることが大切になるのではないでしょうか。
年内に立ち上げ予定のスクール事業『ELEMINIST SCHOOL』でも、サステナビリティやSDGsなど幅広いテーマを用意し、初心者から上級者まで、あらゆる人にとってわかりやすく学べる授業をいくつも企画しています。1人でも多くの方が正しい知識を身につけられる学びの場にしてきたいと考えています。」
主にwebメディアでの編集・執筆・取材を行なっており、ビジネスからライフスタイル、イベントまで様々な領域で記事を寄稿している。 趣味はダンスやDJ、旅行。