“時報”でスポンサー・ファンとの関係強化!鹿児島ユナイテッドFCが行う地域との接点づくり

コロナウイルスの影響で、ファン離れが危惧されるスポーツ業界。チームがスポンサーやファンサポーターとのつながりを維持するための重要な手段として、これまで以上に「PRの力」が注目されています。

Jリーグクラブの鹿児島ユナイテッドFCは、東京オリンピック/パラリンピックの開催によってJ3リーグが中断していた2021シーズン、SNSを使ったユニークなPR施策を実施。地元のスポンサー企業を巻き込むと同時に、ファンサポーターとのつながりも強化し、地元鹿児島でチームの存在感を高めることに成功しました。そして、その活動が評価され、昨年末に開催された『スポーツPRカンファレンス2021』にて、スポーツPRアワードグランプリを獲得しました。

今回は、鹿児島ユナイテッドFC代表を務める徳重剛さんと、営業の宮脇理江さん、広報の久保尚子さんのお三方を招いてインタビューを実施。『ユナイテッド時報2021夏休み編』が実施された背景や、スポーツクラブ視点のPRのあり方について伺いました。

『ユナイテッド時報2021夏休み編』とは?

当初の目的はスポンサーの露出増加

鹿児島ユナイテッドが実施した『ユナイテッド時報2021夏休み編』とは、どのような取り組みだったのでしょうか?

宮脇:『ユナイテッド時報2021夏休み編』とは、東京オリンピック/パラリンピックの開催でJ3リーグが中断していた、7月12日から8月27日のおよそ1か月半、クラブの公式Twitterで展開した時報動画です。毎回、スポンサー企業のロゴとともに32名の監督と選手が持ち回りで登場し、朝8時/昼12時/夜18時の1日3回、日付と時刻、そして自身が考えた一言アピールを発信しました。

この取り組みを行った背景と狙いを教えてください。

宮脇:そもそもこの企画は、営業部が立案した対スポンサー施策のひとつでした。当時、営業ミーティングの議題に上がっていたのが、ホームゲームがないオリンピック/パラリンピック期間、スタジアムに広告掲出をしているスポンサーのために何ができるか?ということだったのです。

そこで出たアイデアのひとつが、2020年の緊急事態宣言下で実施した『ユナイテッド時報』を応用した施策です。2020年度版は、クラブの応援リーダーが1日3回、動画で時報を告げるといったシンプルな内容でしたが、今回はそこにスポンサーロゴの掲載や選手のアピールを入れることで、バージョンアップを図りました。1回の動画で1社、全90回の配信で、オフィシャルスポンサー以上の82社のロゴを掲出し、ファンサポーターの皆さんが楽しみながらスポンサーロゴに触れる機会を作りました。

スポーツクラブにはPR目線の営業活動が必要

クラブ代表 徳重 剛さん

※撮影時のみマスクを外しております。

営業発信だったからこそ、ファンとスポンサーを同時に巻き込んで盛りあげる発想が生まれたのですね。

宮脇:そうですね。ファンサポーターはもちろん大切ですが、私たち営業部にとって、まず頭に浮かぶのは「スポンサー企業やその社員の家族に喜んでもらう」ということ。どのように会社のロゴを露出させて、ファンサポーターに認知していただくかという目線で活動しています。

鹿児島ユナイテッドFCでは、今回の事例のように営業部発信のPR活動が多いのでしょうか?

徳重:そうですね。大前提として、スポーツクラブのスポンサードは、モノに対してお金を払ったり、メディア露出で成果を測ったりしにくいという点があります。とはいえ、営業部はスポンサーにできるだけ気持ちよくクラブと一緒に戦っていただくためには、どうしたらいいのかを考えなければいけない。その部分を突き詰めていくと、結果としてPR的発想に行き着くのかもしれません。

そもそも、スポーツクラブがPR的な活動を行うのは、予算を増やしてスタジアムにご来場いただく人を増やすためです。私たちのように、大きな親会社が付いているわけではない地方クラブの場合、その目的を実現するためにはまず、地元の方々やスポンサー企業と連帯していかなければなりません。ですから、営業と広報は、部署として離れていますが、実際はクラブ全体でPR活動に取り組んでいると言えますね。

スポーツクラブがステークホルダーと良好な関係を築くには?

アナログな接点とSNSで地場ならではの発信を意識

営業部 宮脇 理江さん


普段はどのような営業・広報活動をされているのでしょうか。

宮脇:営業部としては、月に1度『ユナだより』という会報誌を発行したり、選手の面白ショットで季節のご挨拶のはがきを作って、各スポンサーに送付したりしています。SNSを使った今回の施策は、結構特殊な事例だったかもしれません。

徳重:対ファンサポーター向けという意味では、普段からSNSでの発信に力を入れています。ただ、それだけで実際にスタジアムに足を運んでくれる方が増えるかというと、なかなか実感が得られないのが正直なところです。手間もコストもかかりますが、会報誌など、あえて紙の制作物を渡すことで、地道にステークホルダーとの接点作りをしています。今回の施策の成功は、そうした接点作りがベースにあってのことかもしれません。

今回の施策を実施するにあたって、モデルにした事例などはあったのでしょうか?

徳重:ないですね。というのも、一口にスポーツクラブといっても、スポンサー、ファンサポーターとクラブの関係性はどこも同じというわけではないんです。親会社がある都会のクラブとステークホルダーとの関係性と、親会社がない地方のクラブとステークホルダーとの関係性はやはり異なります。

私たちのように、スポンサー企業、ファンサポーターとの距離が近い地方のクラブは、決められた予算の中でアナログな手法とSNSを使い分けながら、地場ならではの発信をしていくスタイルが合っています。この施策は、そんな条件があってこそ生まれたものではないでしょうか。

ファンサポーターにとっての“日常”になる

広報部部長 久保 尚子さん


地域にとって身近であることが、活動の核になっているのですね。ファンサポーターとの関係作りにおいては、身近になるためにどのようなことを意識されていますか?

徳重:極端な話、スポーツって生活になくても生きていけますよね。実際このコロナ禍で、ほかのスポーツと同様、Jリーグも多くのファンが離れたのではないかと思います。だからこそ、私たちが“忘れられない”ためには、人々にとって日常になる」ということがなによりも重要だと思っています。まずは毎日、ファンサポーターとの接点を作り、クラブを身近に感じていただくこと。それを一番意識していますね。

久保:そういった意味では、「オリンピック期間で試合がない」「コロナ禍で練習の見学やファンと接触できるイベントもない」という状況下で、毎日決まった時間に配信した『ユナイテッド時報2021夏休み編』は、皆さまとのよい接点作りになったと思います。好きな食べ物や一芸など、選手が自分自身の言葉でファンサポーターにアピールしたことで、選手たちの新たな一面も楽しんでもらえました。

施策が新たなコミュニケーションの機会を創出

入場者数はJ3で第1位を記録し、各方面から好感の声を獲得

『ユナイテッド時報2021夏休み編』は、スポーツPRアワードでグランプリを獲得されました。一連の取り組みを通じて、各ステークホルダーからはどのような反響がありましたか?

徳重:公式Twitterのフォロワー数は、8月だけで243も増加しました。普段は1日11,000程度だったツイートのインプレッションも、企画を行った42日間の間、1日あたり平均209,687にまで伸びています。特に、クラブの新メンバーとなった選手が登場した回は注目度も高く、1日で75,069ものインプレッションを獲得しました。数字以外でもポジティブな反応は多く、ファンサポーターの皆さんのコメントでは、日課として動画をチェックしてくださっていることがわかりました。

こうした反応が実を結んだのか、鹿児島ユナイテッドFCの2021シーズン入場者数は、J3リーグで第1位。リーグ中断期間後は、たびたび4,000人を上回る入場者数が記録され、平均入場者数も前年を上回りました。ファンサポーターに関しては、来場者数を増やすことよりも「コロナ禍での離脱者を減らしたい」というのが私たちの本音だったので、ここまでの効果は予想していませんでしたね。

宮脇:スポンサー企業には、時報上でロゴが露出される日を事前にご連絡してありました。皆さん、自社のSNSで告知していただいたり、会社のロゴが出た回をリツイートしたりして、すごく喜んでいただきましたね。この動画をきっかけに、クラブとスポンサーの新たなコミュニケーションの機会も生まれました。

選手たちが楽しんでいることが、コンテンツとしての肝に

スポーツPRアワードグランプリを獲得した際は、低予算で多くのステークホルダーを巻き込んだ点が評価されていましたね。制作現場では、どのようなことを意識されたのでしょうか?

宮脇:ひとつは「お金をかけずにどれだけ活動できるか」ということ。そしてもうひとつは「選手に負担をかけない方法で行う」ということですね。このふたつをクリアするには、撮影、編集は全て自前という条件の中、真夏の炎天下で手早く撮影しなくてはいけませんでした。

久保営業部がしっかり撮影の準備を行ってくれたことや、選手たちが積極的に取り組んでくれたことで、実現できた部分が大きかったと思います。特に、選手たちの一言アピールは、選手たちが楽しみながら取り組んでくれました。多くの反応があったのも、選手自身が楽しんでいることが画面から伝わったからだと思います。

編集部のスタッフも、中原選手の一言アピールにハマって何度も動画を見たそうです。

久保:実際に、「選手の素が見られて嬉しい」というお声は多くいただきました。コロナ禍で取材が減っていましたが、発信を見て取り上げてくださるメディアが増えたのも、選手たちのおかげだと思います。

地元に根ざしたクラブとして、地元企業のファン化を狙う

最後に、今後チャレンジしていきたいことなどがあれば教えてください。

宮脇:営業部では現在、スポンサー配布用のカレンダーを作成しています。通常の企業カレンダーは1月始まりが一般的ですが、今年は開幕に合わせた3月始まりというのがカギで、開幕から全試合のスケジュールが掲載されています。他にも、選手の誕生日やオフィシャルトップパートナーの記念日を記載しており、色々な楽しみ方をしていただけると思います。

徳重:見開きで卓上に飾るタイプのカレンダーで、片側に推しの選手の写真を飾れるんです。スポンサー企業の皆さんに、自分のデスクで使っていただいて、仕事中にニヤニヤしてもらうのが狙いです(笑)。ファンサポーター向けに販売することも決まっているんですよ。今後も地元に根付いたチームとして、まずはスポンサーである地元企業の皆さんに喜んでいただくことを大切にしていきたいですね。

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