生活者視点のコーポレートコミュニケーションはマーケティングにも貢献する!企業力を高めるダイキンの広報活動

「換気」に関する知見やノウハウを収集し、日常生活で実践できるように分かりやすくまとめたダイキン独自のウェブコンテンツ、『上手な換気の方法』。全国で緊急事態宣言が発令される直前の2020年4月10日に公開されて以降、当コンテンツはSNSを中心に大きな反響を呼び、昨年には「PRアワードグランプリ2020」で見事グランプリを受賞しました。なぜダイキンは、非常事態下でウェブコンテンツ制作に力を入れ、このスピード感での情報発信を実現することができたのでしょうか。今回は、ダイキン工業株式会社 コーポレートコミュニケーション室 広報グループの重政周之さんと、株式会社インテグレート Perception/Behavior design 戦略部の倉渕雄太郎さんに、『上手な換気の方法』の取り組みの背景と、コーポレートコミュニケーションがもたらす効果について伺いました。

買い替えサイクルを意識したブランディング活動

左から、インテグレート倉渕氏、ダイキン工業重政氏

-今回PRアワードグランプリを受賞した『上手な換気の方法』の以前から、『空気とくらし』というウェブコンテンツを作り続けてこられていますよね。このコンテンツは、どのような目的のもとで始まり、これまで運用されてこられたのですか?

重政:『空気とくらし』については、コーポレートブランディング活動の一環として取り組んでいます。なぜブランディングが必要なのかというと、エアコンはそもそも毎年買っていただけるような商材ではなく、一般的に13年に1回買い替えられると言われています。そのため、「次にどのエアコンを買おうか」と、毎年エアコンメーカーについて考えて下さるようなお客様はほとんどおらず、生活者との接点を持ち続けることが非常に難しい商材です。

また、エアコンを買い替えるきっかけとして最も多いのは「故障」ですが、いざ買い替えるシーンになっても比較検討する時間が短く、メーカーやブランドへのこだわりを持たないまま、店頭で直感的に選んでしまう方が多いです。このように、エアコン特有の買い替えサイクルがある中で、商品選びのタイミングでダイキンのエアコンを指名していただくには、13年の間も生活者との繋がりを持ち続け、ダイキンの存在と活動価値を知ってもらう必要があります。これこそが、我々がブランディングに取り組む目的です。

-生活者との結びつきを作るための手段として、ウェブコンテンツによる情報発信を選択された理由はありますか?

重政:ダイキンを身近な存在として感じてもらうには、生活者のためになる有益な情報を継続的に発信し、寄り添い続けることに重きを置くべきだと考えたためです。

ウェブコンテンツを通じた生活者への情報発信の取り組みは、2011年の東日本大震災後に公開した『エアコン節電情報』から始まっています。震災直後、電力不足により節電が呼びかけられた中で、「エアコンは家電の中でも消費電力が大きい」というイメージを持たれていたため、エアコンにまつわる節電方法について発信しました。その後も、例えば2017年頃から災害レベルの猛暑が続いたことを受けて、熱中症にならないための上手なエアコンの使い方を伝えるなど、その時々に合わせて生活者にとって有益な情報を、日頃から発信し続けています。

『上手な換気の方法』で生活者に寄り添う

商品の価値訴求よりも生活者へのお役立ち度を優先する

-2011年から継続的に取り組まれてきた中で、今回の『上手な換気の方法』は、どのような経緯で始まったのですか?

重政:新型コロナウイルスの感染対策として、「換気」への注目が集まり始めた一方で、どう換気を行ったら良いか、本当に効果的なやり方を知っている人は、まだまだ少ないのが実情でした。実際にコンタクトセンターには、「エアコンを運転していれば、自動的に換気できるんですよね?」といった内容の問い合わせが最も多く寄せられたのですが、実際は、ほとんどのエアコンでは換気ができません。このような世の中の誤解を解き、正しい換気の仕方を知っていただくためにも、誰でも理解できるように嚙み砕いたコンテンツを、どこよりも早く発信する必要があると感じました。

『上手な換気の方法~住宅編~』より

倉渕:実はダイキンさんは、業界で唯一の“換気できるエアコン”を持っている企業なんです。それにも関わらず、「うちのエアコンだけは換気できます」とは言わずに、「ほとんどのエアコンでは換気ができないので、こうやって窓を開けて換気してください」と、誰もが実践できる解決策を提示されました。換気ができる自社製品の購買を促すこともできる中で、ダイキンさんはその選択をしなかったんですよね。13年の間に生活者と情緒的な繋がりを持つために、自分たちの技術力や商品を直接アピールするではなく、“どうやって困っている人々を助けるのか”というところを、徹底的にこだわられていました。これには、同じプロジェクトメンバーでありながら、非常に感銘を受けましたね。

重政:「うちの製品良いでしょ?」と伝えるだけでは、あまねく皆さまに役立つ情報ではなくなってしまいますからね。大きな社会課題に直面している時、それに乗じて自社を優位に見せるなど、“我田引水”のようなことをやっても人の心に響くことはないと思っています。それよりも、まずは皆さまのためになる情報を出し、生活者に寄り添うことのほうが、私たちにとっては大切でした。例えその場で購買に直結しなかったとしても、ダイキンの存在や取り組みに対する評価を得ることで、それが後にダイキンの製品を選択することに繋がっていくと考えています。

-“生活者にとって有益な情報”については、具体的にどのように企画を考えていらっしゃったのですか?

重政:世の中の動向を捉えながら、生活者が興味を寄せるであろうテーマを先読みし、アドバイスを加えて発信することを大切にしています。例えば、コロナ流行当初の「換気が大切」と言われ始めたタイミングでは、“家の中の上手な換気方法”について発信し、緊急事態宣言が解除されて、人々が再びオフィスに通い始めた頃には、“オフィス・店舗の上手な換気方法”について発信しました。こちら都合のタイミングでの発信ではなく、生活者にとって関係性の高いテーマ設定で、半歩先を見越しながら企画を組み立てることを心掛けています。

倉渕:表現の仕方についても生活者視点を徹底していて、ただ調査結果を報告するのではなく、具体的なアクションまでをセットで提示しながら、わかりやすく掲載することにこだわりました。専門知識的な難しい話や、文字だけの説明であれば、他のサイトでも既に公開されています。そのため、“空気の専門家”として誰でも実践できることを、誰が見てもわかるような言葉遣いで、イラストなども添えながら発信しました。

スピード感を実現するダイキン広報のチーム体制

-この『上手な換気の方法』は、企画からコンテンツ公開に至るまで、どれくらいのスピード感で動かれたのですか?

倉渕:“どこよりも早く、生活者が今欲しい情報を提示する”という意気込みがあったため、緊急事態宣言が発令される前から構想を開始し、わずか2週間で公開まで走り切りました。通常であれば、ある程度企画が固まった段階で制作会社にお声掛けをしますが、今回は企画の段階から制作会社の方にも入っていただき、ワンチームで一丸となってプロジェクトに取り組みました。結果、初めに定めた目標通り、4月10日のアップに間に合わせることができました。その間も、ウェブサイト制作メンバー以外は、既に次の施策を考えているような状態で、分担しながら複数のことを同時進行しましたね。

重政:非常事態ということで、とにかくスピード感を優先できるようなチーム体制を取りました。船頭が多いと企画が迷走してしまうこともあるため、広報の中でも「コンテンツを企画し、制作を推進する係」と、「できたコンテンツをメディア取材につなげ、より詳しい説明を交えて対応する係」などと、役割分担をはっきりさせることを意識しました。

また、もう1点心掛けていたのは、“ベストではなくベターで動く”ということです。100%の完成度を求めてしまうと、スピード感が犠牲となり、場合によっては機会損失に繋がってしまいます。そのため、正しい情報を発信することは大前提のもと、“他のものは後から追加したら良い”という精神で、スケジュール通りに公開することを最優先にしました。不完全な状態で出すことで、世の中の疑問をメディアが代弁する形で取材してくれることもあり、公開時に盛り込みきれなかった残りの部分を、メディア取材を通じて発信することもできました。当社には「一流の戦略と二流の実行力よりも、二流の戦略と一流の実行力」という考え方があるのですが、今回は特にこの教訓が活かされたと思います。

-社内ではどのようなチーム体制になっていたのですか?

重政:『上手な換気の方法』に関しては、社内の気流のプロや、商品に詳しい開発者、お客様と向き合う営業部門、メディアに伝える広報部隊など、複数部署のメンバーが入り混じったようなチーム編成で取り組みました。伝え方の部分では、どのように発信することがお客様にとってベストであるか、広告宣伝部門と広報部門の両方の立場で考え、積極的に意見交換を行っていました。『エアコン節電情報』の時よりもさらにチーム規模が大きく、関わる部門も多かったですが、日頃から他部署間のコミュニケーションが取れているため、特に困ることはありませんでしたね。

-今回このスピード感での公開が実現した要因として、ダイキンさんの企業カルチャーが大きく関係しているように感じました。

重政:ダイキンの行動指針の中にも「フラット&スピード」というものがあるため、チームで協力するカルチャーや、部署に関係なく助け合えるカルチャーは、もともと根付いているかもしれません。また、“横ぐし連携”を体制化したことも、ポイントのひとつだったと思います。チーム内の縦割りが強すぎると、化学反応が起こらなくなってしまうため、共通の目的意識を持った上で、フレキシブルに連携できる体制を整えました。当社は外部パートナーと連携する際に「協創」という言葉を使うことが多いですが、社内で「協創」が生まれる環境があることも、我々にとっては重要な要素です。部門間の連携がなければ、この『上手な換気の方法』も実現できなかったと思います。

ダイキンが実証するコーポレートコミュニケーションの効果

ファン獲得だけでなくマーケティングにも大きく貢献

-『上手な換気の方法』について、生活者からはどのようなリアクションがありましたか?

重政:ウェブコンテンツの内容をSNSでも投稿していたため、生活者からのリアクションについては、SNS上でどれだけいいねが付いているか、また何をつぶやかれているか、というところで確認していました。結果、Facebookのいいね数は14,000件を超え、Twitterでは医療機関で働いている方からの声も含め、「わかりやすい」「実践的」「ありがたい」などのツイートが数多く寄せられました。

倉渕:反響はウェブ上にも表れていて、Googleで「換気」と検索すると、『上手な換気の方法』が一番上位に表示されるようになりました。

重政:このSEOの成果も相まって、当社サイトでは商品ページへのアクセスが伸びる傾向にある中、『上手な換気の方法』へのアクセス数は50万PVまで伸びました。それ以外にも、「換気」に関連するメディア露出を1,500件以上獲得したほか、ダイキンの株価が176%(2020年4月1日と2021年4月1日の終値の比較)も上昇したり、換気が可能な『うるさらX』モデルの売り上げが前年比で175%(2020年11月単月の前年同期比)アップしたりと、行動変容を促すことにも成功しました。情緒的なコンテンツを通じた情報発信が、マーケティングの成果にも繋がったことは、非常に大きな功績だったと思います。

-株価まで動かしたPRアワード受賞事例は、初めてかもしれませんね。『上手な換気の方法』を発信しつつ、同時に他のコミュニケーションにも取り組まれていたのですか?

重政:ウェブコンテンツとはまた別の切り口で、例えば「ダイキン独自のストリーマー技術で、コロナウイルスを99.9%以上抑制できた」というプレスリリースを発信したり、換気にフォーカスした新商品群を紹介するメディア向けの発表会を開いたりと、同時に様々なことを広報から仕掛けていました。

また、ダイキンでは、商品を購入いただいたお客様に向けて『CLUB DAIKIN(クラブダイキン)』という会員制度を導入していて、会員に向けたオンラインセミナーなども積極的に行っています。セミナーでは、換気の正しい方法を直接レクチャーするなど、購入後もダイキンを身近な存在として感じ、日常的に頼ってもらえるようなテーマ設定を心掛けました。このセミナーにもメディアを誘致していますが、メディアを通じた情報発信だけでなく、生活者とも直接双方向のコミュニケーションを取ることを大切にしています。

倉渕:昨年ダイキンさんが全社一丸となって取り組んだテーマは、「コロナ禍での空気課題とどう向き合うか」であり、その中の取り組みのひとつが『上手な換気の方法』でした。今回のPRアワードでは、この「換気」切り口で評価をいただきましたが、様々な取り組みが総じて、これらの大きな結果に繋がっています。

「北風と太陽」の“太陽”のようなコミュニケーションを心掛ける

-アワードを受賞しての感想や、『上手な換気の方法』に取り組んで何か起こった変化などはありますか?

重政:まず取り組み後の変化として、メディア露出の機会が増えたことにより、色んな人から「見たよ」と声を掛けてもらえるようになりました。自社に関するメディア露出が増えることは、ダイキン社員にとってモチベーションアップにも繋がりますので、社内コミュニケーション的な効果も得られたと思います。また、PRアワードを受賞する前後あたりから、広報関連の勉強会で登壇させていただくような機会も増えました。決して賞を狙って企画したものではありませんでしたが、結果的にこのような評価をいただけたのは非常に嬉しいですし、世の中と人のためになれたのだと、実感を得ることができました。社内では、「やってよかったね」という素直な達成感があります。

倉渕:それでもダイキンさんの間では、受賞後すぐに「今回の取り組みの課題点はなんだったっけ?」という議論になっていましたね。あるメディア取材の際に、記者さんから「ダイキンさんは危機に強い企業ですね」と言われたことがあったのですが、私自身が今回ご一緒させていただいた中でも、非常にその“強さ”を感じました。全社共通の目的に対して、ひとりひとりがチームの一員としての意識を強く持ち、自分の職務を全うしようとするカルチャーが根付いているからこそ、非常事態でも臨機応援に対応できるのだと思います。対面でのコミュニケーションが難しい状況下でも、今回のようなスピード感を実現するには、日頃からの信頼関係に基づく「役割分担」と「横ぐし連携」がカギとなるため、今後もこの教訓を大切にしていきたいです。と考えています。

重政:そういう意味でも、今回の取り組みは、決してダイキンだけで頑張ったとは言えません。より効果的な提案で情報の質を高めてくれるインテグレートさんがいたからこそ、このような大きな成果を得ることができました。1週間しかない検討時間を、13年間の地道な広報活動で培ったチームワークで、最大限に活かすことができたと思います。

-最後に、コーポレートコミュニケーションにおいて、今後も心掛けていきたいことがあれば教えてください。

重政:企業が情報発信するとき、自分たちが言いたいタイミングで、言いたいことを、言いたい声の大きさで発信しても、生活者にはなかなか振り向いてもらえません。そのため私は、「北風と太陽」の“太陽”のように、日頃から生活者を優しく照らすようなコミュニケーションが大切だと考えています。これからも、お客様の役に立ち、頼りにしてもらえるような情報発信を心掛けていきたいと思います。

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