桃一Peach選挙や旅くじ…企画に“違和感”をつくり反響を呼ぶLCC・Peachの企画術

『センキョ割応援企画「桃一(トウイツ)Peach選挙」投票キャンペーン(以下、『桃一Peach選挙』)』や『旅くじ』など、SNSやメディアで多くの反響を呼ぶ企画を、次々と生み出しているPeach Aviation株式会社(以下、Peach)。広報・PRを行う上で、世の中に話題をつくりだす施策に取り組むことは、ひとつの理想的な形ではあるものの、なかなか難しいと感じている広報担当者も多いかもしれません。

今回、Peachのブランド企画部で、数々のプロモーションの企画・実施に携わっている山﨑彩さんにインタビューを実施。同社は、どのような体制や方針で企画を生み出し、世の中に発信しているのでしょうか。話題となった企画の背景から、立案時にPeachが大切にしている考え方などについてお伺いしました。

身近で「ちょっとおもしろい」と感じてもらえるブランドを目指して

事業戦略企画室ブランド企画部 山﨑 彩さん


はじめに、Peachさんの航空機の利用者層について教えてください。

日本でのLCC就航が10年以上経ったこともあり、現在は幅広い世代の方にご利用いただいています。創業当時は、20~30代の女性をメインターゲットとしていたのですが、最近では弊社としてもターゲットを拡大して、新たにファミリー層やシニア層のお客様も獲得していきたいと考えているところです。

—最近リリースされていた、プリキュアシリーズとのコラボ企画も、ファミリー層の獲得を目指して実現されたのですね。

そうなんです。プリキュアさんもまさに、2023年が20周年という節目の年。初代プリキュアを見ていたお子さんが、今度は自分の子どもを育てる世代となってきているため、コラボレーションを実現させることでファミリー層のお客様にご搭乗いただくきっかけのひとつとなるのではないかと企画しました。

そういったキャラクターコラボも含め、貴社では本当にさまざまなキャンペーンを実施されていますが、企画はどのような体制で立案、実施されているのでしょうか?

プロモーションについては、弊社のブランド戦略に基づきながら、ごく少人数でスピード感を持って、他部署も積極的に巻き込みながら、企画の立案から実施までを担当しています。弊社はLCCのため、JALやANAといったフルサービスキャリアとは異なり、お客様により身近で、気軽にご利用いただけるブランドでありたいと考えています。プロモーションの打ち出し方としても、Peachという社名とともに、ブランドカラーである明るい色を使用していることから、Peachといえば「ちょっとおもしろいブランドだよね」と想起していただけるようなものを実施したいと常に意識しています。ここ数年、コロナで旅行の需要も落ちていて、ただ飛行機に乗って欲しいというだけでなく、世の中が明るくなるような面白いメッセージが発信できたらと思い、取り組んでいます。

話題化企画①『桃一Peach選挙』

学生団体からの手紙がきっかけ。『桃一Peach選挙』実施の背景

ここからは、話題となった企画の裏側についてお伺いさせてください。20234月に、統一地方選挙と絡めた『桃一Peach選挙』というユニークなキャンペーンを展開し、SNSを中心に話題を集めました。改めて、この取り組みの概要を教えていただけますでしょうか。

『桃一Peach選挙』は、若者の社会参加を促す学生団体「センキョ割学生実施委員会」とともに実施した、10~20代の若者向けのキャンペーン企画です。選挙での投票促進と、飛行機での旅行を通しての地方創生を目的に、キャンペーンサイトではパイロッ党・CA党・事務方党という、航空機の運航に欠かせない3職種を政党に見立てた人気投票をTwitterで行いました。投票された方の中から抽選で1名様に、50,000円相当のピーチポイントをプレゼント。若い世代のお客様に、選挙とPeachの両方をより身近に感じていただけるような企画として展開しました。

この企画が誕生した背景についても教えてください。なぜ、学生団体とコラボレーションすることになったのでしょうか?

今回のキャンペーンに関しては、弊社宛にセンキョ割学生実施委員会からお手紙をいただいたことが、企画実施の大きなきっかけとなっています。お手紙を読んでみると、現代社会に対して感じる課題やこれまでの活動、弊社とのコラボレーションへの想いが、熱のこもった言葉でしたためられていました。その想いに触れたことで、私たちとしても学生さんとともに企画に取り組みたいと感じ、すぐに団体と連絡をとって具体的に話を進めていきました。より学生に近い視点で企画を設計したかったので、企画部門ではない若い社員も巻き込みながら、新しい手法で組み立てていきました。

また、今の学生のみなさんは、コロナ禍で旅行に行けず、学生時代の思い出づくりに難しさを感じてきた世代でもあります。そういった学生さんに、今回の企画を通じて「旅行の楽しさを改めて身近に感じていただけたら」と思ったことも、『桃一Peach選挙』を実施する後押しのひとつとなりました。

温度感やリアルさが若者向けプロモーションのポイント

—1020代の若者向けの企画ということでしたが、特に意識したことや工夫したことはありますか?

強く意識したのは、「若い世代に最も届く方法を考える」ということでしょうか。今回、キャンペーンを行うツールとしてTwitterを選んだのは、若者世代が日頃からよく利用しているSNSだったからです。

また、政見放送を模した動画をキャンペーンサイトに掲載したのですが、動画に出演する弊社スタッフは、若者により親しみを持ってもらえるよう、なるべく若手のスタッフを選出しました。さらに、動画を飽きずに見ていただけるよう、学生団体の学生さんにも出演を依頼。スタッフとの対談形式で動画を制作したことで、スタッフと学生さんの等身大でリアルな会話シーンを収めることができました。特に「パイロッ党」の動画では、もともとパイロット志望だった高校生の、本物のパイロットと対談できて嬉しそうな姿を収めることができたんです。そういった温度感やリアルさも、若者世代にプロモーションする上でのひとつのポイントになったと考えています。

話題化企画②『旅くじ』

行き先は運任せ。SNSでも大反響を呼んだ『旅くじ』誕生の背景とは?

続いて、『旅くじ』についてもぜひお話を聞かせてください。まず、『旅くじ』とはどういうものなのか、改めて概要を教えていただけますでしょうか。

『旅くじ』は、2021年8月に販売を開始した、行先を選べない旅を楽しんでいただくカプセル型自販機です。1回5,000円でカプセルを引くと、指定の行先に向かう航空券を購入する時にのみ使える、6,000円分もしくは10,000円分のピーチポイント引き換えコードと缶バッチが入っています。引き換えコードを記載した紙には、現地で取り組んでいただきたいミッションも記載。ミッションをクリアして、Peachが運営する旅の口コミサイト『tabinoco(タビノコ)』に「#旅くじ」をつけて投稿すると、毎月1名様に3,000円相当のピーチポイントが当たるキャンペーンも実施しています。

『旅くじ』は、どのような経緯で誕生したのでしょうか。

この商品は、コロナ禍で日常から失われてしまった「旅」を、お客様に再び身近に感じていただきたいという想いから企画しました。第1弾の『旅くじ』を発売した2021年8月は、感染拡大もなかなか収束せず、緊急事態宣言がいつ発令されるか分からない不安感に、まだ多くの方が戦々恐々としていた時期でした。そのため、ともすれば「旅」に対してマイナスイメージがついてしまいかねない状況でした。

しかし、旅とは本来、自分の世界を広げてくれる楽しい体験のはずです。そういった、旅の楽しさやドキドキ感、ワクワク感を改めてお客様の日常に取り戻せたら。そのような想いからアイデアとして出てきたのが、「行き先をくじ引きで運任せにして決める」という、旅に行く前からワクワクしていただけるような企画でした。企画の軸が「日常の中に旅の楽しさを取り戻す」という部分にあったからこそ、販売する場所もあえて空港ではなく、PARCOなどの街中の商業施設を選んだのです。

従来の旅行と逆転の発想だからこそ新しい旅の形が生まれる

『旅くじ』は発売から約2年が経過していますが、これまでの反響はいかがですか?

『旅くじ』を企画した当初、社内からは「売れるのか?」と疑問の声があがっており、私たちとしてもかなり攻めた企画であると認識していたため、「1日1個売れればいい」と思っていました。しかし、SNSでの拡散のおかげもあり、発売開始当初から大きな反響をいただくことができました。累計販売個数は3万個を突破。(※2023年6月現在)TikTokなどのSNSで、大勢の方が『旅くじ』を買う様子を投稿してくださったことで、メディアにも取り上げていただき、今ではZ世代からシニア世代まで幅広い層の方に購入いただいています。

実は、オリジナルの『旅くじ』から、色々な変形型も生まれているんです。たとえば、スシローのお寿司のレーンに『旅くじ』のカプセルが回ってきたり、宝くじチャンスセンターの窓口でおみくじ型になったりするなど、異業種のコラボレーションで進化を続けています

『旅くじ』をきっかけに、新しい旅の楽しみ方が生まれているそうですね。

そうなんです。大変ありがたいことに、私たちも想像していなかった新しい旅の楽しみ方をお客様が次々と生み出してくださっています。これまでにお客様から伺ったものとしては、2人組が卒業旅行の行き先を決めきれず、『旅くじ』を利用して決めてくださったというものや、大学生4人組がそれぞれ『旅くじ』を引き、各々バラバラの旅先に向かって、現地でLINE電話をつなげて感想をシェアするものなど、「行き先を指定される」という従来の旅行とは逆転の発想だからこそ生まれた新しい旅の形が散見されています。『旅くじ』は、多くの方に旅を楽しんでいただきつつ、Peachを知っていただくきっかけになったのではないかと考えています。

違和感をつくり出し、中心軸を必ず残す。自社らしい企画立案の2つのポイント

貴社のこれまでのプロモーションを見ていると、自社の特徴やカラーを活かした企画が得意な企業であるように感じます。企画を考える上で、どのようなことを大切にしているのでしょうか。

企画を立てる上では、“違和感をつくり出す”という点をとても大切にしています。航空業界は業務の性質上、どうしても「旅」や「飛行機」というイメージが強くなるものです。しかしそこに、あえて業界のイメージとは異なる違和感を生み出すことで、お客様の琴線に触れるような、一味違うおもしろい企画ができあがると考えています。そのため、弊社では新たな化学反応が生まれることを期待して、異業種企業とのコラボレーションに積極的にチャレンジしています。

なるほど。自社らしいPR活動を行うために意識すべきことについても、ぜひ見解をお聞かせいただけますか?

自社らしいPR活動をどう展開していくか。答えのない、とても難しい問題ですよね。私たちも日々悩みながら取り組んでいるところではあるのですが、2つのポイントがあるように思っています。

1つ目は、企画内容が自社のチャームポイントをしっかり発揮できるものかどうかに気を配ることです。もう少し言えば、どのような企画でも、必ず角を立てて世の中にひっかかりを残せるように意識するということでしょうか。プロモーションの企画は、広報・PRの部門だけでは完結しません。社内のさまざまな決裁を通した上で、ようやく実現するものです。しかし、そのような決裁ルートを通る中で、当初は尖っていた企画が徐々に丸くなっていくという現象はよく起こるものです。角がとれて、どこにでもあるような企画になってしまっては元も子もありません。私たちはいつも、「企画の中心軸を“角”として残し、世の中におもしろいものを仕掛ける意識」を大切にしながら、企画の実現に向けて行動するようにしています。

2つ目が、他社とのコラボレーション企画を立てる場合、その企業との間にどのような化学反応を生み出せるかを考えることです。どうすれば相手方の一番の魅力を残せるのか、コラボによってお客様にどのようなメリットやおもしろさを生み出せるのか。そして、それがどのように世の中に広がっていくのか。そういったことを、企画段階からしっかりとイメージしておくことが大切だと思います。

「おもしろい企画を考えたけれど、いつの間にか丸くなってしまっていた」という悩みは、広報・PR担当者によくあるものかもしれません。

そうですよね。私たちも社内で企画を揉む中で、毎回いろいろな意見をいただいています。ただ、大切なのはバランスだと思っています。会社にメリットのある企画を立てるのはもちろんですが、お客様にメリットがあり、ワクワクを感じていただけるものをつくることも、BtoC企業である弊社にとっては重要な要素です。社内の決裁にかける際は、お客様にとってどのようなメリットがあるのか、どのように楽しんでいただけそうなのかという点もしっかりと伝えながら、その結果として会社にどのような効果を生み出せそうなのかを理解していただけるよう意識していますね。

さいごに、PR活動における今後の目標をお聞かせください。

弊社は今年、11周年を迎えました。この10年で多くのお客様にご利用いただけるようになったからこそ、改めて、このタイミングで、航空業界の“ど真ん中”とも言えるお客様サービスの品質を捉え直していきたいと考えています。この方針をベースとしながら、今後も他社とのコラボレーション企画も含めて、お客様に楽しんでいただける企画を次々と打ち出していきたいと思っております。ぜひ楽しみにしていただけたら幸いです。

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