外出自粛により活動が制限され、休日の過ごし方や働き方に大きな変化をもたらした新型コロナウイルス。その影響は様々な業界に及んでおり、地方自治体も決して例外ではありません。観光や移住など、「地域を訪れる」ことが前提となる地域活性化事業が受けた打撃は、計り知れないものです。
しかし、このような状況下でも、機転を利かせた取り組みによって、“新たな自治体プロモーション”を成功させている自治体も少なくありません。「地域に訪れる」前提が崩壊した今、地域活性化はどのような形で実現していけばよいのでしょうか?今回はWithコロナの地域活性を探るべく、「地元観光」に視点を置いて、今後の自治体プロモーションについて考えていきたいと思います。
CONTENTS
BeforeコロナとWithコロナの地域活性化
Beforeコロナの自治体プロモーション
現在、「人口減少」は日本の大きな社会問題です。特に地方部では、転出者数が転入者数を上回る「転出超過」の状況が続き、若手人材の不足や空き家問題など、様々な問題を引き起こしています。さらに、人口が減少することで、自治体が財源を確保することが難しくなってしまい、それらの問題に対して十分な政策を行うことが難しくなるという、悪循環が生じているのです。
現在、自治体が行っている財源確保の手段は大きく二つの選択肢に分かれており、どちらを選択するかによって戦略やプロモーションは大きく変わります。一つ目は、観光誘致による地域経済の活性化です。観光資源を持つ自治体は、観光プロモーションや、地域資源や産品のブランド化を図ってきました。二つ目は、移住・定住施策による人材の確保です。近年では郊外への移住を考える若者も増え、多くの自治体が移住支援制度の充実や、移住のプロモーションに積極的に取り組んでいます。
これらの観光や移住のコミュニケーションは、「地域を訪れる」ことが前提です。そのため、自治体プロモーションにとって、「どうしたら自分たちの地域に来てくれるか?」が一番大きな課題となっていました。しかし、近年もう一つの選択肢として、「関係人口」という考え方に注目が集まっています。関係人口とは、その地域を訪れた観光客でもなく、その地域に定住する市民でもない、「地域に多様に関わる存在」と定義されています。
従来の自治体プロモーションを阻むコロナ
私たちの生活に様々な影響を及ぼしている新型コロナウイルスは、観光や移住にも大きな影響を及ぼしました。「地域を訪れる」という前提は大きく崩れ去り、従来のような自治体プロモーションは困難を極め、特に観光業は大きな打撃を受けています。GOTOトラベルキャンペーンなど、観光業を復興させるための施策がはじまっていますが、感染拡大への恐怖から旅行や帰省を自粛する声は多く、旅行に対する生活者のハードルは未だに高いままです。
生活者の旅行へのハードルは、以下の3つのフェーズにわかれると考えられます。
現状の生活者のハードルは、「制度的には旅行に行けるが、周りの目や感染の恐怖など心理的な不安がある」のフェーズにあります。制度上も心理上もハードルがなくなり、本格的に観光業が復興するには、まだ時間がかかりそうです。
一方で、外出自粛により自宅やその周辺地域いる時間が増え、地元への関心が高まっている傾向があります。また、コロナ禍で「ワーケーション」というワードが注目を集めました。ワーケーションとは、「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた造語で、観光地やリゾート地で休暇を取りながらテレワークする働き方のことを指します。この働き方が、観光客以上に地域と強いつながりを持つ関係人口の獲得方法として、期待が高まっています。
それでは自治体としては、「旅行には行けない」が「地元への関心が高まっている」この状況をどう活かしていけばいいのでしょうか。”地元への関心”をキーワードに、Withコロナの観光プロモーションについて考えていきます。
旅行先のニューノーマルは「地元」
星野リゾートが提唱するマイクロツーリズムとは?
新型コロナウイルスの影響により、遠方への旅行が難しくなっている中で、星野リゾートの代表星野佳路氏が”新しい旅行のあり方”として提唱しているのが、「マイクロツーリズム」です。「マイクロツーリズム」とは、自宅から1時間以内で行ける近場の観光地を訪れたり、近隣のホテルや旅館に宿泊し、地元を観光したりする、新たな旅行のスタイルです。
マイクロツーリズムは、現在の生活者の旅行へのハードルに非常に適しています。現状の生活者の旅行へのハードルは、「県をまたいだ移動が可能になった」「GOTOトラベルキャンペーンで旅行が推進されている」といった状況から、制度的には制限のない状態です。しかし、連日の感染者増加による感染拡大への恐怖や、まだまだ続く帰省・旅行自粛ムードによって、心理的には強い制限がかかっており、依然として”観光に消極的”な状態のままです。
このような状況で、感染拡大予防に配慮し、周囲の視線を気にしすぎることなく、コロナ禍でも旅行を楽しむのに「地元」はもっとも適した選択肢だと言えます。それでは、地元観光はどうすれば成功に導けるのでしょうか。近年話題になっている、佐賀県嬉野市の観光コンテンツ『嬉野茶時』から、マイクロツーリズム成功への秘訣を紐解いていきます。
マイクロツーリズム成功へのカギは“融合”と“新体験”
『嬉野茶時』とは、お茶をフックにした斬新な体験を提供する、”ティーツーリズム”を展開している観光企画のことで、佐賀県嬉野市の温泉旅館の経営者らがグループを組んで取り組んでいます。
『嬉野茶時』では、嬉野市の伝統文化である「嬉野温泉」「嬉野茶」「肥前吉田焼」の三つのコンテンツを融合させ、新しい切り口でお茶を楽しむ”唯一無二”の体験を提供しています。例えば、『嬉野茶時』のティーツーリズムの一つ「茶泊」では、宿泊中自分専属の茶師が付き、単にお茶を出してもらえるだけではなく、茶畑へのアテンドやティーセレモニーといった、”新しいお茶の楽しみ方”を体験することができます。「嬉野茶」をただ提供するのではなく、温泉旅館宿泊の中で特別な体験としてお茶を提供することで、新しい体験を生み出しています。
このような体験を提供した結果、『嬉野茶時』で提供したお茶は市場の3倍近く高額であるにも関わらず、市内で開催したイベントでは、多くの市民が詰め掛けました。地域に既に存在し、多くの市民に知られている観光資源でも、それらを組み合わせることで市民に新しい体験を提供し、満足してもらうことができるのです。
『嬉野茶時』から学ぶマイクロツーリズムのポイント
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地元応援消費で地域を盛り上げる
SNSを活用した地元応援消費キャンペーン
地域経済を盛り上げる方法は、旅行だけではありません。外出自粛期間中、打撃を受けた地元の飲食店を救うため、”SNSを活用したテイクアウト支援”の動きが日本各地に広がりを見せました。
その立役者となったのが、大分県別府市が実施した『#別府エール飯』です。他の自治体でも、『#東京都北区帰宅メシ』『#つく映えテイクアウト』など類似の企画が全国に広がり、多くの生活者が地元の飲食店を応援するために、消費活動を行いました。
さらに鳥取県では、飲食店支援だけでなく、地元観光にも応援ハッシュタグを活用。県内の観光地や飲食店のうち二箇所を撮影し、ハッシュタグと共に投稿する『#WeLove鳥取』キャンペーンを実施しています。
それでは、どのようなポイントをおさえてSNSを活用すれば、地元応援消費を盛り上げることができるのでしょうか。
地元応援消費を成功させる3つのポイント
各自治体で行われた“SNSを活用した地元消費応援キャンペーン”には、3つの共通点が見られました。
1つ目は、「消費」と「応援」を結びつけることです。外出自粛によって外食を避ける状況が続き、飲食店や生産者側は苦境に立たされ、テイクアウトの推進などの対策を実施しています。このコロナ禍という危機的状況下では、生活者の「自分も誰かの役に立ちたい」とう気持ちが強まっています。そこで、”テイクアウトすることが「応援」になる”ということを生活者にコミュニケーションし、消費行動をうながしました。
2つ目は、SNSを活用して「参加のハードルを下げる」ことです。“応援”と聞くと多くの人は身構えてしまいます。そのため、テイクアウトした商品の写真を撮り、SNSにハッシュタグをつけて投稿するという、簡単な行為そのものが”応援”になることを訴求したことで、生活者の参加ハードルを下げることに成功しました。
3つ目は、生活者の“いい行い”の合言葉になるハッシュタグをつくることです。外出自粛期間中、SNSでは「#おうち○○」の投稿が増加しました。ステイホームが呼びかけられた中で、家にいることをアピールできるハッシュタグが生活者の中で積極的に発信され、好意的に受け止められたのです。一方、「コロナで影響を受けた飲食店を助けています。」というメッセージは、なかなか自分では発信しずらいです。そこで、飲食店支援の合言葉になっていた「#○○エール飯」ハッシュタグをつけて投稿することで、気構えることなく自分の行いをアピールできるようになりました。
生活者に、“SNSに投稿する”という簡単な行為が“応援”に繋がることを訴求し、応援を行うことで生活者の貢献欲や承認欲まで満たすことができる仕組みを用意することが、SNSキャンペーンを成功させるカギになります。
SNSを利用した「地元応援消費」のポイント
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「地元観光」で実現する新しい地域活性化
“応援”こそ地域活性化の糸口
コロナウイルスによってさまざまな業界が危機に直面する中で、多くの生活者の「自分も誰かの役に立ちたい」「自分の好きなものを守りたい」という貢献欲は高まっています。そのため、各地でクラウドファンディングなどのさまざまな支援活動が積極的に行われてきました。
これと同様に、「いま危機的状況にある地元の助けになりたい」と考えている生活者は、決して少なくありません。そのような人たちの行動を促すポイントは、“何が応援になるのか”をコミュニケーションすることです。「マイクロツーリズム」では、“地元を観光すること=応援になる”ということを訴求しました。テイクアウトグルメをはじめとする「地元応援消費」でも、“テイクアウトグルメを購入しSNSにアップすること=応援になる”ということを訴求しています。
「マイクロツーリズム」や「地元応援消費」を促進するために最も重要なのは、それが“応援”になることを生活者にコミュニケーションし、ただの旅行や消費を超えた、付加価値を提供することにあるのです。
Withコロナは「地域の魅力再発見期」
マイクロツーリズムや地元応援消費を盛り上げることは、コロナ禍で減少する観光収益を補填するための、苦肉の策のように感じるかもしれません。しかし、今まで地元の観光地を訪れたり、宿泊施設に泊まったりする機会が少なかった分、近すぎるからこそ見えていなかった多くの魅力を知る転機にもなり得ます。そのため地元観光や消費は、地域の魅力を再発見し、地域愛着を向上させることに繋がります。
さらに、そこにSNSとハッシュタグを掛け合わせることで、地域の情報や魅力、市民の地域へのポジティブな声を集めることができ、その一元化された情報をマーケティング活動やプロモーションに利用することができます。
Withコロナを悲観視するのではなく、「地域の魅力再発見期」と捉え直し、地元観光や地元応援消費を通して、市民から“応援”という形で地域の魅力を募ることが、Afterコロナの観光プロモーションに向けて重要になってくるのではないでしょうか。
20卒でマテリアルに新卒入社したコンビ。アクティブ行動派の「ゆず」と研究者肌の「まめ」で、主に地方創生をテーマに執筆担当予定。PRについてもモクモク勉強中。