“変化”を“当たり前”まで昇華する。59種類の栄養素がバランスよく含まれたスーパーフード・ユーグレナが多くの認知を得られたワケ

企業がサステナブルな活動に取り組むのは、もはや当たり前の価値観になりつつあります。そんな中、事業そのものがサステナビリティへの貢献に直結している、株式会社ユーグレナ。栄養失調問題の解決が起業の出発点であることから、「企業の成長=社会課題の縮小」を目指して、さまざまな事業を展開しています。

サステナブルが世の中の当たり前として掲げられている一方で、生活者にはなかなか浸透しづらいことも事実。しかし、ユーグレナ社は、サウナやお風呂上りにユーグレナドリンクを飲んでいる様子を、写真や「#ユー活」というハッシュタグをつけて生活者が自発的に投稿するなど、生活者への認知を着実に広げています。

今回は、広報宣伝部 部長 北見裕介さんにインタビューを実施。某大手メーカーや化粧品、IT企業でプロモーション経験を積んだ後に、ユーグレナ社へと参画した北見さんが仕掛ける、サステナブルを“自分ゴト化”してもらう広報戦略とは、どのようなものなのか。持続可能な社会の実現に向け、生活者を巻き込みながら推し進めていく広報戦略や、コミュニケーションポイントを詳しくお聞きしました。

「変化」と「日常への定着」をセットで考えるユーグレナ社の広報活動

『Sustainability First』を体現する株式会社ユーグレナ

広報宣伝部 部長 北見裕介さん


―まず、ユーグレナ社とはどのような企業なのでしょうか。

ユーグレナ社は、東大発のバイオベンチャーです。藻の一種である石垣島ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の世界初の食用屋外大量培養をきっかけに、食品をはじめ、化粧品・バイオ燃料・遺伝子解析・アグリテックなど、さまざまな事業を展開しています。

会社を立ち上げるきっかけとなったのは、出雲(代表取締役社長・出雲 充)が、大学生の頃に訪れたバングラデシュで、栄養失調の子どもたちの姿を目の当たりにしたこと。当時、ユーグレナが豊富な栄養素を持っているのは分かっていても、人が摂取できるだけの効率的な大量培養技術がまだ見つかっていない中、「絶対に世界の栄養失調問題を解決するんだ」という想いで、2005年に株式会社ユーグレナを創立しました。創業当時から受け継がれてきた想いは、2020年に制定したユーグレナ・フィロソフィーである『Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)』にも反映。世の中に向けて、私たちがありたい姿をしっかり言葉にして示せるまでに事業を成長させることができました。

「ユーグレナ社が成長すればするほど社会課題は縮小する」方程式を目指す

―サステナビリティ経営に加えて、ユーグレナは59種類の栄養素を持つスーパーフード。この新しさ万能さを生活者に受け入れてもらうことは容易ではないと思います。ユーグレナを受け入れてもらうために、意識されていることはありますか?

人と地球を健康にするために、イノベーションで変化を起こし、その新しい変化を生活者の「当たり前」にするまでを、セットで考えてコミュニケーション設計しています。変化が一時的では、持続可能な社会は実現できませんから。イノベーションとは、いわゆる“普通”ではない発想から生まれる、これまでにない価値の創造です。しかし、その研究が新しすぎて世の中に受け入れてもらえなかったり、「理系の人や研究者だけに関係あるもの」などと他人事にされてしまったりすることが、今の日本の傾向としてあります。

0→1で新しい「変化」を生み出すのは、研究者や技術者などのプロかもしれませんが、そこで生まれたイノベーションを「日常生活にまで浸透」させるには、1→10の社会実装が必要不可欠。ここに、企業体で実施していく、介在価値があると考えています。

社会課題の解決が出発点であるスタートアップ企業だからこそ、事業を通じて「経済的な価値」と「社会的な価値」を同時に追求していきたい。そうして、生活者の日常において当たり前なものとして、自然に受け入れてもらえるようになることで、持続可能な社会が実現される。このような、「ユーグレナ社が成長すればするほど社会課題は縮小する」という方程式を成り立たせるためのコミュニケーションを意識しています。

―事業そのものがサステナブルだからこそ、「新しい変化を日常に定着させるまで」をセットで考えられているんですね。

たとえば、この『からだにユーグレナ サウナプロジェクト』は、まさに「変化」と「定着」を意識したひとつの例です。いくら、石垣島ユーグレナが「59種類の栄養素がバランスよく含まれているスーパーフード」だと伝えても、はじめは、生活者にとっては馴染みがないのでなかなか手にとってはもらえません。そこで、サウナプロジェクトでは、「お風呂上がりは水分がほしい」「おいしいから飲む」という“みんなの当たり前”に着目しました。

味に関しては、さらなるおいしさを追求して2020年9月に、お子様から大人までお楽しみいただける『からだにユーグレナ フルーツグリーンオレ』を発売。2021年6月には、栄養豊富なスーパーフード・ユーグレナをさらにおいしくする『ユーグレナ あとはおいしくするだけプロジェクト』を発足し、1つ星掲載店『sio』の鳥羽周作シェフをコーポレートシェフに迎えました。鳥羽シェフ初監修のアイテムの1つが、2022年3月に発売した『からだにユーグレナ トロピカルフルーツオレ カロリーオフ』です。フルーツの味の変化を楽しめる飲料に仕上がりました。このように、ユーグレナ社では「みんなが使える状態にまでもっていくにはどうしたらいいか」を常に考えて、コミュニケーションを設計しています。商品やサービスを日常に馴染ませる活動は、イノベーションとは関係ないように見えて、実はイノベーションの先にある社会実装の話につながるのです。

SNSでは“信頼関係から成る小さなコミュニティ”にアプローチ

“小さな盛り上がり”の連続性で、確実にUGCを生み出す

Twitterでは「#ユー活」の投稿を数多く見かけます。SNS上でのUGCを生むために、何か仕掛けられていることはあるのでしょうか。

「ユーザーが投稿するためのツール」をつくり、生活者の声が広がる基盤を整えることを意識しています。先ほどのサウナプロジェクトに関しても、最初につくったのはウェブサイト・動画・ポスターの組み合わせなんですよ。面白いと思ったらシェアしてもらえますし、写真撮影できるものがあれば話題にしてもらえる可能性があるので、とにかく気になって話題にしたくなるようなツールを考えました。サウナプロジェクト専用のSNSアカウントは、あえてつくらなかったです。企業側が把握しやすく発信するための分類を考えるより、生活者との接点を持つ手段の1つとしてSNSがあることをふまえながら、さまざまな企画を打ち出していくことに尽力しました。

また、「小さな盛り上がり」をたくさんつくることも意識していますね。SNSの台頭によって、情報の消費スピードが圧倒的に早くなっています。大規模なキャンペーンをしても、おそらく1日で情報が消費されてしまいますし、生活者に情報を自分ゴト化して発信までしてもらうには、手間が多すぎて数も動きません。情報過多の社会の中で、結婚式の二次会のような“身内感から盛り上がるシーン”を連続的に生み出すこと。ユーグレナ社の広報活動では、確実にUGCを生むために、「信頼関係から成り立つ小さなコミュニティ」にアプローチしています。

『からだにユーグレナ サウナプロジェクト』ポスター

このサウナプロジェクトでも、今のサウナブームを牽引しているサウナ好き「ではない人たち」に、ゆるく広がることを意識しています。「サウナを楽しんでみたいけれど、本格的にはちょっと…」という方や、逆に「ブーム前からサウナ好きで、自分流ができあがっている」という方にとって、いまのサウナに入るときの“鉄板パターン”みたいなものにハードルや抵抗を感じることもあると思うんです。だから、温度が低い最下段に座ってもいいし、1セットだけで終わってもいいし、そもそもサウナじゃなくてお風呂だけを楽しんだっていいなど、ポスターにはあえて「定番のサウナフレーズではない言葉」を使用しました。

ついマジョリティの情報ばかりに気を取られるのは私もよくあるのですが、全体を見渡して「世の中の人たちは今何を求めているのか」を考えたうえで、会社・事業としてのポジションを見極め、戦術を立てています。

質の高いタッチポイントを増やすコツは、「お店自体を盛り上げる」意識

さまざまな温浴施設とのコラボレーション

銭湯やサウナとのコラボなど、事業と生活者のタッチポイントが多いように感じます。こういった企画を行った背景や、大切にされたポイントなどがあれば教えてください。

どんな企画でも、常に「そのお店自体を盛り上げていく」意識をもって、広報活動にあたっています。事業と生活者のタッチポイントをつくる企画が多いのも、その意識で取り組んできた結果です。

たとえば、滋賀県にある『都湯‐ZEZE‐』で実施した写真撮影会も、お店を盛り上げるために実施したプロジェクトのひとつ。ほとんどの場合、当たり前ですが銭湯やサウナの中は、一般のお客さんの写真撮影は禁止されています。せっかくコアなファンがいるのに、彼らは好きな気持ちを表明したいけど、それをSNSで表明できるコンテンツ(絵)がなかなかありません。それはもったいない、常連にこそファンであるということを表明できる機会が必要と考えて、銭湯に通っている常連の方を呼んで写真撮影会を実施しました。

参考:https://twitter.com/UtopiaNaniwa/status/1527070591848955904?s=20

また、大阪府にある『なにわ健康ランド 湯~トピア』では「お店側で流行りはじめているポーズがある」という状況から、そのポーズをカメラマンに撮影してもらえる企画を考え、そこに『からだにユーグレナ』を持ってもらうシーンを組み合わせる状況をつくりました。撮影した写真が、常連、言い換えればコアなファンのSNSにアップされていくと、その界隈に話題が波及し、お店に足を運ぶ人が増える。すると、次は私たちを介さずとも、写真撮影会やイベントが企画されて、コミュニティが循環・拡大していくんです。

この信頼関係から生まれるつながりこそが、まさに私たちが大切にしていることで。「ユーグレナの飲料が売れる以上のメリットがあった」と感じてもらったお店とは、受発注の関係を超えたパートナーにもなれると信じています。お店に対してユーグレナ社ができることを考えた結果、事業と生活者とのタッチポイントが増えていき、ありがたいことに今では、お店側からさまざまなコラボの提案をいただくようになりました。

多角的な事業展開でサステナブルに本気で向き合う仲間を増やす

BtoC向けの企画を数多くされていますが、生活者からの反響はいかがですか?

3年前と比べると、商品の購買数はもちろんのこと、「#ユー活」をつけて『からだにユーグレナ』の写真をSNSにアップしてくれる人がかなり増えました。ハッシュタグは、本来プロモーションごとに分けたほうが計測しやすいのですが、今回は「盛り上がり」を一番大事にして、すべてのプロモーションで統一してみたんです。その結果、たくさんの方がつぶやいてくださり、今もその盛り上がりが継続しているように感じます。

あとは、ユーグレナに関係するSNSでの投稿ワードが栄養素や用途から「おいしい」に変わってきたことも大きな変化ですね。生活者にとって石垣島ユーグレナがより身近なものに近づいている証だと思うので、とても嬉しいです。

これから、広報としてどんなことに取り組んでいきたいですか?

私たちのような小さな会社として「いかに多くの場所でパートナーシップを組めるか」がカギになると思います。SDGsの目標が17個ある理由は、一人ひとりが同時に改善に向けて取り組まなければ地球は破壊されてしまうから。他人事のような“誰か”だけが頑張るのでは、意味がないんです。これからの未来を考えた時に、サステナブルな社会の実現を本気で考えている人とともに、ユーグレナ社となにかしら関わってくれる方を増やして、みんなでサステナブルに取り組む必要があると考えています。

さいごに、今後の展望を聞かせてください。

ユーグレナ社は、食品・化粧品・バイオ燃料・遺伝子解析と、実に幅広い事業を展開しています。2023年に突入した今も、バイオナチュラル・スキンケアブランド『NEcCO(ネッコ)』が立ち上がりました。今後は、一つひとつの事業を成長させていきながら、「社会を変えていく存在=ユーグレナ社」と知ってもらえるための企画を進めていきたいです。この動きは、実はすでに始まっていて、2022年12月には“サイエンスフィクション”ならぬ“サステナビリティフィクション”としての「SF小説」を創作しました。

サステナビリティフィクションは、真の「サステナビリティ」について考え、何世代も先の未来を予測(空想)し、「サステナビリティ」を伝えることを目的とした文学の新ジャンル。ユーグレナ社経営陣4人が、早川書房の協力のもと、人気作品を多数輩出する作家たちとコラボレーションし、100年後の未来を描いた物語です。小説では、たとえば貧困が根絶された世界を生きる少年が「貧困の博物館」を訪れ、かつての途上国の暮らしを再現した「貧困体験プログラム」を受けるストーリーが描かれているなど、100年後の地球の姿を通じて、今できることと向き合える内容になっています。経営陣の脳内を明るみにするという、一見すると経営リスクにもつながりかねない挑戦。しかし、この4つのストーリーから将来にわたって変わることのないユーグレナ社の哲学と、本気度を感じていただけると思います。

イノベーションを他人事で終わらせず、人と地球を健康にすることが、ユーグレナ社の存在意義。100年後を考えたサステナビリティフィクション小説の創作や、未来を生きる当事者である世代の経営参加など、ユーグレナ社はこれからも本気でサステナブルの実現を社会に提示し続けていきます。

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