昨年12月に授賞式が行われた『PRアワードグランプリ2022』。PR GENICでは、アワードを受賞された作品の実施背景やPRポイントを紐解いていきます。受賞事例シリーズの第3弾は、ゴールドを受賞したクックパッド株式会社のウクライナ人道支援プロジェクト『#powerofcooking 私たちは料理でつながろう』です。自社事業を絡めることで、継続的なウクライナ支援ができるよう企画された本プロジェクト。クックパッドの「毎日の料理を楽しみにする」というミッションからもブレることなく、料理を軸とした支援活動を組み立ててきました。
そんな、ウクライナへの人道支援プロジェクト立ち上げでは、どのような背景やPR活動におけるポイントを意識していたのでしょうか。今回、クックパッド株式会社コーポレートブランディング部の小竹貴子さんと、広報部の小堀彰子さんに、本プロジェクトにおけるクックパッドとしての想いやゴールド受賞の勘所、外部への広がりを見せる全体の反響について伺いました。
CONTENTS
クックパッドのウクライナ人道支援プロジェクト『#powerofcooking 私たちは料理でつながろう』とは
「料理」を介して行う、ウクライナ人道支援3つの活動
ーまず、ウクライナ人道支援プロジェクト『#powerofcooking 私たちは料理でつながろう』の実施背景について教えてください。
小竹:大きなきっかけは、ウクライナ語版クックパッドの運営に携わる現地スタッフの存在でした。2022年2月にウクライナ侵攻が始まってから、「クックパッドとして何かできることはないか?」を考えた先に、まずは、現地スタッフである彼らをサポートしていこうと思ったんです。すぐに、エリアを統括する海外メンバーを通じて、困りごとのヒアリングを行いました。
その結果見えてきたのは、家庭料理を大切にするウクライナで、食材や調理環境が十分ではないという現状。現地のスタッフからも、「ウクライナは災害の少ない国なので、非常時の対策方法をあまり知らない。災害の多い日本ならではの知恵を貸してほしい」という声が寄せられました。
―具体的にはどのような活動をされたのでしょうか?
小竹:本プロジェクトでは、2022年3月~8月にかけて、3つの活動を行ってきました。1つ目が、3月7日より開始したレシピ募集プロジェクト『#powerofcooking』です。食材や調理環境が十分ではないなか、現地で求められている「電子レンジやスロークッカーなどで調理が可能なパン・パイ・クッキー等のレシピ」や「ガスがなくても料理できるレシピ」などを全国から募集。集まったレシピの一部を翻訳し、ウクライナ版クックパッドに掲載することで、現地の方に情報提供を行いました。
2つ目は、6月30日に発売した電子書籍『ウクライナのレシピ帳』出版です。これは、クックパッドに投稿されていたウクライナ料理から、企画の趣旨に賛同いただいた方のレシピを書籍としてまとめたものです。経費を除いた売上を、横浜に滞在しているウクライナ避難民を支援する、公益財団法人横浜市国際交流協会に寄付したほか、料理を通じた支援活動に使用しています。
3つ目は、8月に実施した料理教室です。ウクライナの食文化を体験できる小学生向け料理教室と、ウクライナからの避難民に向けた料理教室の2種類を開催しました。後者の教室は、「日本の食材の扱いに困っている」「人とのつながりが欲しい」という避難民の具体的な声を耳にしたことをきっかけに開催。1回目は「大根」をテーマに、料理方法をレクチャーしながら、避難民同士や地域の方と交流を図れる場として機能させることができました。
東日本大震災時の経験を活かして。ミッションを軸とした一人ひとりの行動がスピード感を生む
―ウクライナの現地スタッフから届いた声が、プロジェクトの発想につながっているのですね。
小竹:一口に支援活動といっても、さまざまなサポートの形があります。個人や部署単位での取り組みに限定することもできましたが、全社的な活動にしたのは、当時、多くの社員がウクライナに対して「何かできることはないか」とやきもきした気持ちを持っていると感じていたからです。クックパッドは「毎日の料理を楽しみにする」という理念を掲げ、人々の暮らしに寄り添うサービスを提供する会社。日々の暮らしを支えるという観点では、自分たちが1番でありたいと思っています。そのような想いのもと、全社的なプロジェクトとして立ち上げることに決めたのです。
―今回のプロジェクトは、圧倒的なスピード感があったことも大きな特徴だと思いますが、背景にはそのようなコミュニケーション体制があったのですね。
小竹:普段から、ある程度のスピード感を持って業務を進めていることと、先述した、社内で「ウクライナで困っている方たちのために何かしたい」という気持ちが一致していたことという、2つのポイントがあったように思います。弊社は、テクノロジーベースの会社で、日々変わりゆく技術に対応するために、もともと業務スピードは早い方です。意思決定についても、「毎日の料理を楽しみにする」というミッションが、あらゆる施策の判断軸になっていますから、ミッションに沿っているか否かの2択で、迷うことなく進めるんですね。
加えて、企画を円滑にスタートできたという点で言えば、2011年の東日本大震災の経験が大きく影響しています。実は当時も、被災された方に向けて、限られた物資で調理可能なレシピを全国から集め、レシピブックにして支援物資とともに東北地方へ届けていました。会社として、被災地支援を行った実績があるからこそ、社内を動かすことは難しくありませんでしたし、すぐに対応してもらえる環境が整っていましたね。
自分たちはあくまで「場」の提供者。共感の輪を社会に広げるために
―東日本大震災の支援経験の中で、今回のプロジェクトに活かせた部分はありますか?
小竹:1つは、「長期的な目線で活動を設計すること」を強く意識しました。このような支援は、本来長期的に行っていくべきですが、東日本大震災の支援は単発で終わってしまったんです。その反省を活かし、今回は長期的な支援を行うことをベースに、さまざまな企画を考えていますね。また、東日本大震災のときのように、クックパッドならではの支援を行う点はとても大切にしています。
―たしかに『#powerofcooking』の取り組みを見ると、「料理」を軸とした支援が展開されていますよね。貴社ならではの支援内容にこだわる理由はどこにあるのでしょうか?
小竹:今回の人道支援を「単なるCSRではなく、社会的なムーブメントにしていきたい」という想いがあるからです。そして、そこを目指すのであれば、共感の輪を広げていくことが大切ですし、多くの方に取り組みへの価値を感じ、共感していただくためには、やはりクックパッドとして「料理」を通じた支援を行うことが必要不可欠だと考えたのです。
―なるほど。「共感の輪」を広げ、生活者を巻き込んだ取り組みへと発展させていくために、生活者向けのコミュニケーションで気をつけたことや工夫したことはありますか?
小竹:私たちクックパッドは、あくまで「場」の提供者であるという点は意識していました。私たちが前面に立って、協力してくれた方にプレゼントをお渡しするような、いわゆるキャンペーンをつくるのではなく、クックパッドの企画や想いに賛同し、「一緒に参加しよう」と自発的に思っていただけるか。ここを大切にして、クックパッドならではのウクライナ支援の形を提案するようにしていました。
本業で社会課題に取り組む姿勢が評価されたPRアワード
―本プロジェクトは、PRアワードでゴールドを受賞されましたが、エントリーに際して、工夫したポイントはありますか?
小堀:エントリーシートを書くにあたっては、弊社の姿勢をそのままお伝えすることを大切にしていました。取り組み内容を飾らずにお見せすることで、審査員の方もきっと共感してくださるはずだと考えていたんです。PRアワードへの応募を意識して立ち上げたプロジェクトではありませんから、もしかすると、エントリーシートの書き方は通常の作法と少し異なっていたかもしれません。でも、私たちの伝えたかったことは、すべて盛り込んで提出できたと思っています。
―今回の受賞のポイントは、どこにあったと考えていますか?
小堀:いま、旬の話題であることは大きかったと思います。私たちも、この機会を逃せば受賞には至らないと感じていたため、「今年しかない!」とエントリーを決めた記憶があります。また、これは授賞式で審査員長の本田哲也さんからお話しいただいたことなのですが、受賞のポイントは「ウクライナという世界的な社会課題に対して、本業で取り組んでいる姿勢にこれからが期待できる」と、弊社の姿勢と今後の可能性を評価していただきました。
小竹:弊社のウクライナ人道支援は、事業と明確に結びついています。私たちにもメリットが生じる取り組みとして設計したからこそ、支援を継続できる。このような、企業による新しい社会貢献の形を示せた点が、今回の受賞につながったのだと思います。私としても、多くの企業が取り組む社会課題について、本業と別枠で考えるのではなく、事業とセットで推進している事例を広く世の中にお伝えしたいと考えていました。その想いも、今回の受賞で達成できたように思います。
クックパッドの支援活動を社会的なムーブメントへ拡大させる1年へ
メディアから波及し、自分たちの活動が新しい支援の輪を広げるきっかけに
―プロジェクト全体の反響は、いかがでしたか?
小堀:ウクライナで被災された方、日本に避難されて料理教室に参加された方、クックパッドを通じて支援を行った方など、さまざまな方から多様な声をいただいています。特に、料理教室に参加された方からは、「つながりができて嬉しい」「料理を通じて笑顔が生まれ、あたたかい気持ちになった」という声を寄せていただいています。誰かと料理を作り、それを一緒に食べる。ただそれだけでも、家庭料理には人を結ぶ力があり、大きな意味を持つのだと、今回いただいた反響から改めて実感することができました。
―メディアからの反響についても、教えていただけますでしょうか。
小堀:日経ビジネスやNHKといった大手メディアから、神奈川新聞、TVKなどの地域メディアまで、さまざまな記者の方に取材していただきました。今回の活動は、1回の取材で関係が終わるのではなく、メディアと継続的に連絡を取り合えている点が特徴として挙げられると思います。メディアの方も、ウクライナ侵攻に関連した報道を続けていきたいと考えるなかで、長期目線でプロジェクトを運営する弊社を、ある意味でウクライナに関わる「仲間」として、注目していただいているのだと思います。
小竹:私自身は、ここまでメディアから引き合いをいただけるとは想像もしていませんでしたが、その波及効果を見ていると、私たちの開催した料理教室をきっかけに、地方でも料理教室を開催していたり、何かご一緒できないかとお声がけいただいたり、新しい支援の輪が広がりつつあるように感じています。私が企画を立ち上げた時にやりたかったのは、ウクライナの方の日々の暮らしの支援と、新しい支援の輪が広がるきっかけとなること。メディアに取り上げていただいたことで、それが少しずつ実現しつつあり、とても良い流れができたと非常に嬉しく思っています。
家庭料理の持つ力と意味を世界に発信する唯一の会社を目指して
―ウクライナ人道支援プロジェクト『#powerofcooking 私たちは料理でつながろう』の今後の計画や展望について、教えてください。
小竹:2つの視点から、今後のプロジェクトの構想を描いています。まず、ウクライナの方々の支援については、現地への直接の支援は難しい現状があるため、徐々に増加している日本に避難されてきた方を対象にサポートを続けていく予定です。2023年も、夏に親子料理教室などを開催しながら、支援を続けていけたらと考えています。
また、今後は私たちが主導せずとも、料理教室などの支援が全国各地で行われているような状態を目指していきたいです。2022年は、きっかけ作りの年になったので、2023年からは、徐々に取り組みを自分たちの手から離して、社会的な動きへと拡大させることができればと思っています。
―さいごに、今後の目標やビジョンをお聞かせください。
小竹:弊社は、今後も変わらずに「毎日の料理を楽しみにする」というミッションを軸としながら、自分たちにしかできない領域に集中していきたいと考えています。サービスとしては、料理を楽しむ方をエンパワーメントして、その影響の輪をどんどん広げていくようなものにしていきたいですね。
料理は、ただ作って食べるだけではない力を秘めています。人道支援で大きな役割を果たしたこともそうですし、環境やウェルビーイングなどの観点からも大きな意味があるものです。そのような家庭料理の持つ力と意味を、世界に伝えている唯一の会社としてブランディングしていきたいですね。最終的には、事業で利益を上げるだけでなく、あたたかな世界をつくる一助となれば嬉しいなと思います。
小堀:クックパッドというプラットフォームには、料理への熱量の高いユーザーが多く集まっています。そのような方々と一緒に、クックパッドからムーブメントを起こしていけるようなサービスへと広がりを見せていけるよう、私としてもPRに力を入れていきたいと思います。
広報歴7年のフリーライター。中堅大学、PR会社、新規事業創出ベンチャーにて広報・採用広報を経験。2021年より企業パンフレット、オウンドメディア、大手メディア、地方メディアなどでインタビュー記事を執筆中。書籍の編集・ライティングも行う。