近年、社会的問題となっている「闇バイト」は、高額な報酬と引き換えに、違法な犯罪行為に加担するアルバイトです。主に、中高生をはじめとした若年層がトラブルに巻き込まれることが多く、新たな社会問題として耳にするようになりました 。そんな闇バイト問題の解決に向けて、新たなプロジェクトを立ち上げたのが『バイトル』を運営するディップ株式会社です。同社では、2024年2月より『高校生アルバイト応援プロジェクト』をスタートさせ、高校生やその他ステークホルダーに向けた活動を行っています。
今回は、プロジェクト担当者のディップ株式会社マーケティング統括部ブランド戦略部の堤花野さんと、PR設計を担当した株式会社マテリアル ブランドプロデュース局 兼 PRプランナーの菅野瑞樹さんにインタビューを実施。プロジェクトの全体像から、10番組を超えるメディア露出を獲得した情報設計に加え、社会課題を絡める際のPR戦略のポイントなどについて伺いました。
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バイトル『高校生アルバイト応援プロジェクト』とは?
近年の社会問題「闇バイト」への注意喚起と高校生の「働く」を応援するバイトルのチャレンジ
ーはじめに、「闇バイト」とはどのようなアルバイトのことを指すのか教えてください。
堤:闇バイトとは高額な報酬と引き換えに、違法な犯罪行為に加担するアルバイトです。そのほとんどが「SNS上に情報を掲載している」という特徴があります。たとえば、「DMで応募された方のみ、○○を運ぶだけでXX万円もらえます」「電話をかけるだけで1日数万円お支払いします」といった求人のものです。明らかに高額な報酬のものであれば、ある程度社会経験がある人であれば怪しいなと判断することができますが、まだアルバイトをしたことがなく、一般的な日給の金額をあまり理解できていない中高生からすると、判断がつかないような金額のものまで、さまざまな種類があります。
このような情報は、大手求人情報サイトを介さず、SNS上に情報を掲載し、ダイレクトメッセージや専用のアプリでやり取りするケースが増加しているんです。特に、中高生をはじめとする若年層のなかには、SNS上でアルバイトを探す方が一定数いるため、トラブルに巻き込まれることが多く、警察庁による公表だと、2023年における特殊詐欺の少年検挙数は446人にも上っています。※1
菅野:特に、直近1年以内では、闇バイトのニュースが数多く報道されるなど、若年層だけではなく、世間一般的にも注意を払わなければならない社会問題として取り上げられていますね。
ーそのなかで、バイトルでは『高校生アルバイト応援プロジェクト』を実施されています。こちらは、どういった取り組みなのでしょうか?
堤:『高校生アルバイト応援プロジェクト』は、高校生が自由に就業機会の選択ができるよう、多様性のある職場づくりを応援していこうという活動です。昨年からディップでは、高校生だけではなく「さまざまな個性を持つ人たちが、働きたい職場・環境を選択できるような社会の実現を目指していこう」という取り組みを始めていました。そのなかで、高校生は、これから社会で活躍していく次の世代であることに加え、「働く」ことに初めて挑戦するタイミングでもあります。そこに注目した際に、アルバイトがお金を稼ぐだけではなく、コミュニケーション能力や対人スキルを高めたり、社会勉強になったりする機会であることを知ってほしいと感じ、プロジェクトを発足しました。
※1 参考:令和5年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値版)
あらゆるステークホルダーを意識したコミュニケーション設計
ープロジェクトでは、①高校生 ②保護者・教員 ③企業 の3者が主なターゲットだと思います。それぞれに対して、どのようなアプローチをされていたのでしょうか。
堤:プロジェクトをスタートするにあたり、特に、挙げていただいた3者からの障壁があるのではないかと考えていました。調査を行っていく中で、高校生や保護者・教員の視点だと、そもそも校則がある場合や、学校との両立ができるのかという不安。企業の視点だと、学生を採用することに対する不安や、就業可能時間が短いことから、大学生・フリーターの方を優先採用してしまう現状などがあることがわかりました。そうした障壁を払拭していくことと、闇バイトという社会問題を解決することで、高校生の新しいチャレンジを応援していきたいという想いから企画を詰めていきました。
プロジェクト自体は、高校生に向けた認知キャンペーンと『バイトル高校生出張授業』の2軸で展開しています。ただ、その他にも、高校生や保護者・教員に向けては、オウンドメディア『BOMS』で高校生のアルバイト事情などの情報提供をしたり、プロジェクトサイト上で、実際にユーザーインタビューや独自調査をもとに、アルバイトと学業の両立ができている割合を示したり、実際のアルバイト体験談などを掲載したりしています。また、企業に向けては、高校生のアルバイト採用を率先して行っている企業様の特集を組み、これから高校生採用を検討されている企業様の情報提供を行ったり、高校生の採用におけるガイドブックの配布をしたりと、育成に関するサポートを行いながら、それぞれの不安を払拭できるようなコミュニケーションをしています。このように、ただ高校生に向けた施策を行うだけではなく、あらゆるステークホルダーがどう感じているのかを把握したうえで、それぞれにどのようなコミュニケーションを取るべきなのかを常に考えていましたね。
生徒とメディア、双方からの視点を意識した授業設計
ープロジェクト内で実施されていた『バイトル高校生出張授業』について、詳しく教えてください。
堤:『バイトル高校生出張授業』は、対面での授業とバイトル公式YouTubeで提供しているオンライン授業 にて、2つのテーマをもとに展開しているものです。ひとつは、社会全体の労働環境から同世代の高校生が働いている環境について伝えたり、アルバイトで得られる経験値や「働く」とはどういうことなのかを説明したりするもの。いまの高校生のアルバイト事情や実際にどのような働き方をしているのかなど、「働く」をより理解できるように工夫をしています。もうひとつは、闇バイトに関する知識やトラブルに巻き込まれないための情報を提供するもの。警察庁や警視庁が公表している情報をもとに、闇バイトの特徴や実情を交えながら説明しています。
私が高校生の頃もそうだったのですが、授業や講義を聞くには体力が必要ですよね(笑)。集中力が要りますし、自分ゴト化できなければ、しっかりと耳に入ってこないと思うんです。そこで、「これは自分に関係のある授業なんだ」ときちんと感じてもらうために、国内外の高校生のアルバイトに関する情報を組み込んだり、闇バイトに関するクイズを出題して生徒の皆さんに答えていただいたりと、能動的に参加してもらえるように意識しました。
堤:加えて、授業自体に信憑性を持たせるためには、第三者メディアからの発信も重要だと考えていました。そのため、メディアの方々に「取り上げるべき内容だ」と判断してもらうために、どのような情報を欲しているのか、どのようなテーマに注目しているのか、どういう切り口だと発信してくれるのかなど、細かく考えながら授業を設計しましたね。
菅野:メディアからすると、動きのある画が取り上げやすいですよね。その点から見ても、生徒の皆さんが主体的に参加できるような内容にしたことがよかったと思いますし、生徒や教師の受け手からの視点と、この取り組みを見たメディアからの視点の双方を大切にしながら組み立てられたと思います。
社会課題を絡めた施策のPR戦略に迫る
メディアに関心を持たれる、インパクトのあるフックを都度用意する
ー対面での出張授業は、東京と大阪で開催されたと伺いました。
菅野:1回目を今年の2月に東京で、2回目を4月に大阪で実施したのですが、先述したようにメディアからの発信も重視していたため、それぞれに“フック”を用意しました。まず、東京では、授業を開催する前に事前調査を実施。闇バイトの危険性がある求人と、そうではないと想定される求人をクイズ形式で出題したところ、全問正解した高校生が約23%とかなり少なく、その調査結果をひとつのフックとしました。加えて、同様のクイズを授業内でも生徒に回答してもらい、調査と授業が地続きになるような設計を行いました。
堤:“8割の高校生が闇バイトに引っかかってしまう可能性がある”という調査結果は、かなりのインパクトだったと思います。私たちとしても、このような調査結果が出た以上、正しい情報を提供していかなければならないと感じましたし、それらを通じて、高校生の新しいチャレンジを後押ししていきたいと改めて思いましたね。そのフックに加え、高校生の春休みや新学期に向けた期間として、アルバイトの応募が増える2月に授業を開催したこともひとつのポイントです。
ー大阪の方はどのようなフックを用意されたのでしょうか?
堤:大阪については、まず開催時期から決めました。4月は、新学期が始まり、GW前であることからアルバイトの応募が増加傾向にあるため、メディアにも取り上げてもらいやすいと考えたんです。そのタイミングで、菅野さんから「大阪の特殊詐欺件数が過去最多」という情報を共有してもらい、それをフックにして、大阪で授業を行う意味や価値をメディアに訴求しました。
広報と広聴のサイクルで常に求められる情報を届ける
ーかなり綿密な情報設計をされていたんですね。
菅野:やはり、メディアは「なぜいま取り上げるのか」という部分を重視しています。闇バイト問題は、この1年間ほど、社会全体が関心のある話題として、ニュースがあるタイミングで取り上げられていました。そのため、今回バイトルが、いよいよ課題解決に向けて動いていくというフェーズに入った時に、「なぜいま解決しなければならないのか」という理由をつけてあげることがとても重要でした。
加えて、先述したように「いま東京で授業をやる理由」「いま大阪で授業をやる理由」をつけたことがポイントだったと思います。「第2回を大阪でやります」と言ってしまってもいいのですが、大阪には大阪ならではの社会背景やその時々の状況がありますよね。そこも踏まえたうえで、授業を行う意義をメディアに伝えていくと、特にその地方のローカルメディアには興味を持ってもらえると思います。
堤:ニューネスな情報がなければ、「この間やっていたから」という理由で取材する価値が下がってしまいます。そこをどのように防ぐのかという点においては、かなり話し合いを重ねましたね。また、メディアにあわせてリリースの内容を変えるなどの工夫もしていました。たとえば、同じ新聞社でも、部が違えば着目するポイントや取り上げたい内容は変わってきますし、提供する情報が同じでも、魅せ方を変えることでアプローチがしやすくなる。そのようなメディアアプローチのポイントを菅野さんから共有してもらい、情報を作り上げていきました。
あとは、ただ単にプロジェクトを取り上げてもらうだけではなく、バイトルとして高校生や社会に訴えかけたいことがセットで露出されつつも、広告色が強くならないように意識していました。そう見えないようにするためには、トレンド性・独自性・地域性・社会性が必要で、どれが欠けてもいけません。授業の内容も学校へのリレーションの組み方もメディア誘致の方法も、すべて4つのポイントを押さえながら「なぜいまこれを伝えたいのか」「取り上げてもらいたい内容なのか」を詰めていきました。
菅野:発信する情報設計の部分で言うと、東京でのメディアのリアクションを踏まえて、大阪で発信する内容を整えていきましたね。PRの役割で重要なのは、広く知らせる「広報」と広く聴く「広聴」で、この2つが揃ってこそ、PRの本質的な活動ができると考えています。1回目の東京で、授業をやりますと「広報」を行った際に、メディアからの声を「広聴」して、2回目の大阪での「広報」に活かす。今回、実施できたサイクルを、今後の授業でも続けていきたいですね。
昨対比130%超えの応募数達成!10番組以上での露出も獲得
ー実施しての反響などはいかがでしたか。
菅野:メディアの露出でいうと、10以上のテレビ番組で取り上げてもらうことができ、中には、特集を組んでかなり長尺で放送してもらった番組もありました。
堤:露出数は想定の5倍ほどになりましたね。また、出張授業を実施した学校で、授業後にアンケートを行ったのですが、授業満足度は88%を達成し、自分の将来に役立ったという方も92%を超えるなど、価値のある情報を提供できたと感じます。
今回のプロジェクトを通じて、バイトル経由での応募数が、3月は昨対比で137%と高校生アルバイトの応募が増えています。また、バイトルに掲載されている求人情報の中では「高校生歓迎」の求人が増えています。高校生の新しいアルバイト挑戦を応援する施策として、数値としても結果が出たことはとても嬉しく思いますね。
ーさいごに、バイトルとしての今後の展望についてお聞かせください。
菅野:回数を重ねることで、バイトルに対してのパーセプションが作られていくため、今後も出張授業や情報発信を続けていくことが重要ですが、その際にもメディアから発信してもらえるよう、しっかりと「いまなぜその場所でやるのか」を考えていきたいですね。「出張授業」という大きな傘がありつつ、そのなかで、都度テーマを設定して、取り上げるべき情報を付与していくことを忘れずにやっていくことが大事なのではないでしょうか。
堤:先述したように、高校生は初めて「働く」ということに向き合う人が多いタイミングです。毎年、誰かが新しい挑戦をする中で、バイトルはこれからもその挑戦を応援し続けたいと思いますし、そこに対してさまざまな情報を提供できる立場であり続けたいと思います。今後もプロジェクトを続けつつ、高校生を含め、さまざまな方が自分らしく働けるような社会の実現を目指していきたいと思います。
1997年生まれの道産子。2020年に横浜国立大学を卒業し、株式会社マテリアルに新卒入社。新設のメディアリレーションチームに配属され、約1年間メディアの知識全般を深める。2021年6月より、『PR GENIC』の2代目編集長としてメディア運営を引き継ぎ、記事の執筆や編集業務に従事。新米編集長として、日々奮闘中。