国内売上No,1!オランダ発“奴隷労働”と闘うチョコレートTony’s chocolonelyから学ぶSDGsビジネス

オランダ生まれのチョコレートブランド、『Tony’s chocolonely』をご存じでしょうか?昨年の11月に、日本でも初めてポップアップショップが展開されたTony’s chocolonelyは、現在オランダ国内のチョコレート市場で売上1位の人気を誇っているだけでなく、世界中でも年々売上を伸ばし続けています。

そんなTony’s chocolonelyが、世界中で人気のチョコレートブランドに成長した背景には、既存のチョコレート市場に対する“メッセージ“が込められていました。ポップで目を引くデザインの裏に込められた、「100%強制労働に頼らないチョコレートを業界標準にする」という同社の想いは、どのように国境を超えていったのでしょうか。今回は、Tony’s Chocolonely Nederland B.V.本社と、日本での国内展開を手掛けた国分グループ本社に話を伺いました。

たったひとりのジャーナリストが生み出したチョコレートブランド

2020年11月に日本に初上陸したTony’s chocolonelyは、チョコレート市場の現代奴隷制と児童労働搾取を終わらせるために、オランダ人ジャーナリストTeun van de keuken(英語名 Tony)氏が2005年に設立したチョコレートメーカーです。

同社の商品は、カカオ豆をはじめ、原材料はおもにフェアトレード認証を受けたものを使用。売り上げが増えれば増えるほど、チョコレート市場の労働環境が改善され、雇用も安定し、サステナブル化される仕組みになっています。母国オランダではNo.1の売上を誇るメーカーで、スーパーマーケットや多くの路面店で扱われており、気軽に購入することが可能です。

このTony’s chocolonelyが誕生し、母国オランダで売上No,1まで上り詰めた背景について、Tony’s Chocolonely Nederland B.V.本社に話を伺いました。

自らを“奴隷労働ほう助”で提訴したオランダ人ジャーナリストTony氏

-オランダ人ジャーナリストがチョコレートブランドを立ち上げた背景と、その後の社会的な反響について教えてください。

2005年、オランダのテレビ番組は、西アフリカでのカカオ生産に現代の「奴隷制」と「児童労働」が関与していることを報道しました。この報道を見たジャーナリストTony氏は、この問題を一般の人々に認識させたいと考えました。

そこで彼は、複数の有名ブランドのチョコレートを食べている様子を撮影し、「私はチョコレートを食べることによって、奴隷労働に加担した犯罪者であるため、有罪判決を受ける必要がある」として自らを提訴しました。裁判では、証言のためにコートジボワールの元児童奴隷も法廷に立ちましたが、最終的に「これらのチョコレートの製造に使用されたカカオと、奴隷労働との因果関係を証明することは不可能である」と判断され、結果は不起訴に。この結果を受けて、ジャーナリストはたったひとりで会社を立ち上げ、独自のチョコレートブランドである『Tony’s Chocolonely』を生み出しました。
※社名のChocolonelyは、「choco(チョコ)」と、当初はTony氏一人の取り組みだったことを表す「lonely(孤独な闘い)」をあわせた造語です。

その後、これらの一連のストーリーがテレビ番組で取り上げられ、番組を見たオランダ人の視聴者を中心にTony’s chocolonelyのチョコレートは一躍人気を獲得。オランダの小売業者はこのブランドにチャンスを与えたいと考え、これによりTony’s Chocolonelyは、オランダで最大のチョコレートブランドのひとつまで成長することとなりました。

国内チョコレート市場でトップに上り詰めるまでの軌跡

-ブランド立ち上げ当初から現在に至るまで、主要購買層に変化は見られましたか?

2005年にブランドが設立されたときの主な購入者は、テレビ番組を視聴したオランダ中心部に住む消費者でした。その後さまざまな場所での購入が可能になり、「100%強制労働に頼らないチョコレートを業界標準にする」というブランドミッションが知れ渡っていくうちに、年齢や国に関係なく幅広い消費者に購入されるようになりました。そして2019年、Tony’s chocolonelyはオランダのチョコレート市場で売り上げトップになりました。

-国内売上No,1のブランドになるまで、どのようなプロモーションを行ってこられたのですか?

Tony’s Chocolonelyは、非常に限られた予算の中でプロモーションを行っています。これは、バリューチェーンのすべての人が公正にシェアを獲得した場合、チョコレートは決して安価に購入できる製品ではないことを、一般の人々に認識させたいためです。Tony’s Chocolonelyは、チョコレート業界を内部から変えたいと考えています。そのために、全ての行動において以下3つのロードマップの柱に従っています。

  1. 消費者、生産者、小売業者、政府の間で、カカオ生産における社会的不公正についての認識を高める。
  2. チョコレートを新たな方法で、より公正に製造できる例を示す。 例えば、農協から直接カカオ豆を購入し、豆が追跡可能であることを確認した上で、カカオ豆にもきちんと高額を支払うなど。
  3. 他の企業に対してもチョコレートビジネスに対する行動や変化を促す。

③は、他の企業と一緒になって初めて、業界をより良く変えることができると考えているためです。
(翻訳済み)

“スレイブフリー”のチョコレートで日本人の心を掴む

ブランド誕生から国内売上No,1になるまで、3つのロードマップの柱に基づいた活動で人気を獲得していったTony’s chocolonely。ブランドが生まれた背景にあるストーリーと、それを伝えるためのパッケージを始めとした世界観づくりだけでなく、実際に社会課題の解決を試みる生産方法や、他企業への働きかけ、そして他の人気チョコレートブランドに劣らない美味しさなど、すべての要素が組み合わさって国内最大級のチョコレートブランドへと成長しました。

パッケージの裏面で『Tony’s chocolonely』の創業後の取り組みが紹介されており、不規則な割れ目には“チョコレート産業の不平等さ”が表されています。

それではそんなTony’s chocolonelyは、どのような経緯で日本に初上陸することとなったのでしょうか。サステナビリティへの取り組みを幅広く行い、今回Tony’s chocolonelyの国内展開を手掛けた、国分グループ本社株式会社の経営企画部広報課・柚木彩花氏に話を伺いました。

Tony’s chocolonelyが日本で展開されたきっかけ

-1712年から代々続く国分グループ本社様が、さまざまなSDGsやサステナビリティ活動に取り組まれる中で、Tony’s Chocolonelyに目を付けられたきっかけと理由を教えてください。

取り組みのきっかけは、株式会社丸井グループの青井社長が、サステナブル先進国である北欧での取り組みを視察した際に、Tony’s chocolonelyと出会ったことでした。Tony’s chocolonelyも日本市場へ興味を持たれており、日本での代理店を探していたとのことです。丸井グループ様は、メインは小売事業ということもあり、輸入に関するノウハウを持っていらっしゃいませんでした。その中で、ノウハウの持っている弊社へお声掛けを頂いたことが、今回弊社が輸入代理店となった経緯となります。

-Tony’s Chocolonelyを日本で展開するにあたって意識されことはありますか?どうすれば日本人の心を掴めると思ったか、また実際にどのようなことを行ったかについて教えてください。

Tony’s Chocolonely社が掲げるミッションである「スレイブフリー」は日本にはあまり馴染みがなく、少し受け入れ難いイメージを持たれますが、シリアスな話から入るのではなく、まずはチョコレートのおいしさを楽しんでほしいとの思いから、明るいデザインのポップアップショップを展開致しました。チョコレートを楽しみながらそのおいしさの背景にある事実に気づいていただき、「スレイブフリー」の理念を理解していただくことができたと感じています。また、包装紙もカラフルな色合いになっているため、手土産やギフトとしての需要があるのではないかと思い、リボンをかけて販売いたしました。

日本初上陸後の生活者のリアクションと今後の展開

-ポップアップショップの展開後、どのようなリアクションがありましたか?

コロナ禍での販売となり不安もございましたが、チョコレートのパッケージを意識したポップな店装が興味喚起につながり、多くのお客様にご来店いただくことができました。お客様の中には、すでにTony’s chocolonelyをご存じで日本での販売を心待ちにされていた方や、授業でフェアトレードやSDGsについて勉強して来場される学生の方、さらにはリピーターの方も大変多くいらっしゃいました。難しい時期ではありましたが、期間内に完売する恐れもあるほど好調だったため、途中で販売の調整をかけるなどをし、最終的には多くのフレーバーが完売となりました。

お客様の多くが、商品への興味に加え、ショップ内に展示したTony’s Chocolonelyの想いや歴史についてのパネルを見て下さったり、スタッフの話に真剣に耳を傾けて下さったりと、スレイブフリーに関する認知や共感が広がったと感じております。今回11月30日までの期間限定だったこともあり、「終了後はどこで購入できるのか」などの問い合わせも多く頂いております。

-店装やパッケージのポップさから、開催期間中はSNS上でも多く発信されたのではないでしょうか。

SNSではポップな写真が数多く投稿され、見た目やおいしさだけでなく、Tony’s chocolonelyの取り組みやミッションについて記載して下さる方もいました。Instagramでの『#トニーズチョコロンリー』の投稿数が、発売前から2倍以上まで増えたことも、とても大きな成果だと思います。また、ラジオや雑誌、WEB、SNSなど様々なところで取り上げていただけたほど反響も大きく、店舗だけでなくオンラインでの販売数も増えました。

-今後のTony’s Chocolonelyの国内展開について、現時点ではどのようにお考えですか?

日本国内におけるブランド認知の期間と位置付けて、丸井様での販売を中心に展開いたします。2021年春に2回目となるポップアップショップを開催する予定で、前回は有楽町店のみの開催でしたが、次回はエリアを広げ複数店舗で行う予定です。

また、2021年秋冬より販売先をコンビニエンスストア、高品質スーパー、百貨店、ネット販売等全国へ広げ、Tony’s chocolonely のおいしさ、理念を日本市場に広めていき、Tony’s chocolonely社の長期目標でもある、“日本のチョコレート市場のシェア1%の獲得”を目指します。

食品のサステナビリティを普及させる国分グループ本社の取り組み

-Tony’s chocolonelyの次に、何かサステナブルで目を付けているブランドや、既に扱っているブランドの中でご紹介したいもの・お取り組みがあれば教えてください。

弊社のオリジナル商品で『K&K缶つま』というブランドがございます。その中の『K&K缶つま 伊勢志摩産サザエ水煮』という商品は、海女漁業で獲れた天然の伊勢志摩産サザエを使用しており、志摩の海女さんが1粒1粒手作業で仕上げた一品となっております。海女漁業は究極のSDGsとも言われており、海女さんの想いが詰まった商品です。

-そういった“食品が持つストーリー”を伝えるために普段から意識されていることはありますか?

ただ商品を置いているだけでは、もちろんお客様に想いは伝わりません。1メーカーの立場ですので、なかなかお客様と直接お話をする機会がないため難しいのですが、イベント等でお会いできる機会があれば、その場を大事にしております。直接お客様と対話することで、こちら側の想いを伝えることが出来、お客様からも直接お話をお伺いすることができます。コロナ禍でイベントの開催は難しくなっておりますが、例えばホームページやSNSを活用して、お客様への発信は続けてまいります。

-国分グループ本社様の「食のマーケティングカンパニー」というビジョンに対して、“マーケティング”と“サステナビリティ”をどう紐づけていらっしゃいますか?

9月に発表させていただいたSDGsステートメントにもありますが、弊社の使命は商品と共に「生産者の想い」を運び、そこに新たな価値を加えて世界中の人々にお届することです。地球の有限な資源を守り、持続可能な食糧生産を支援していくことにより、生活者のみなさまが価値のある、より良い商品を手にすることのできる社会の実現をすることが弊社のサステナビリティと考えております。また、最終的には生活者の皆様が手にした商品のすべてが、意識することなくサステナビリティな商品である、ということを目指しています。

サステナブル先進国オランダに学ぶSDGsビジネス

創業から15年の時を経て、日本国内に初上陸したTony’s chocolonely。“チョコレート”という非常に身近な食べ物でありながら、その生産過程に潜む世界的な課題について知る人は、これまでほとんどいなかったかもしれません。しかし、ポップアップショップの開催期間中は、「強制労働」や「違法な児童労働」というワードとともにSNS上でも情報拡散され、国分グループ本社の想い通り、ブランドミッションが日本の生活者にもきちんと届けられていました。

ひとりのジャーナリストが、自らを“奴隷労働ほう助”の罪で提訴したことから始まったTony’s chocolonelyは、これまで認知されていなかった課題を人々に知らせただけでなく、「国内売上1位」というビジネス的な成功まで収めました。その過程では、メディアの注目を集めるようなジャーナリストの行動や、ミッションを伝えるための世界観づくりが徹底されていましたが、それに加えて、社会性のあるブランドを支援するオランダの国民性も大きく起因していることが考えられます。社会課題に立ち向かうSDGsブランドが、国内シェア1位を獲得するような国だからこそ、オランダは世界的にも「サステナブル先進国」と呼ばれているのです。

まだSDGsが身近に感じられない日本でも、このような一つ一つのブランドが持つストーリーを、様々なステークホルダーで協力し合いながら生活者に伝え続けていくことで、SDGsブランドが自然に支持される世の中に変化していくかもしれません。

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