国連の持続可能な開発のための国際目標である、SDGs。2015年から始まって以来、「SDGs」というワードを耳にする機会は増えたものの、依然として日本人の意識は世界から見ても低いとされています。一方で、スターバックスコーヒーの紙ストロー導入や、無印良品の「自分で詰める水」サービス開始など、人気企業の取り組みが話題になるほか、今年からは「レジ袋の有料化」も始まり、環境問題への取り組みを中心に、人々のSDGsに対する意識も高まりつつあります。
今回は、各大学のミスキャンパスが集まり、社会課題に取り組む『キャンパスラボ』の所属メンバーと一緒に、企業がSDGs達成に向けた取り組みやサステナブルブランドで支持されるためのポイントを探ってみました。
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比較的SDGs意識が高いとされる若者のホンネ
現在、社会貢献活動のひとつとして「SDGs」や「サステナブルブランドの開発」に取り組む企業が増えていますが、日本のSDGsに対する意識は決して高いとは言えず、認知率は28か国中最下位となっています。
日本でSDGsが根付きにくい理由としては、「世界規模の取り組みなので、自分ゴト化しにくい」「世界的に最優先項目とされる“貧困問題”などが、あまり身近に感じられない」「そもそもアルファベットなので親しみにくい」などが考えられていますが、学校の授業や課題で取り上げられる機会が増えたことにより、“若者のSDGs意識は大人世代よりも高い”と言われるようになりました。実際の調査でも、「SDGs」の認知度は20代が最も高い結果となっています。(参照:https://miraimedia.asahi.com/sdgs_survey06/)
SDGsへの理解はあっても、自分にメリットのあるものしか買わない
全世代の中で、最もSDGsへの理解があると考えられる20代。しかしそんな若者でさえも、SDGsの取り組みやプロダクトをまだまだ“自分ゴト化”できていない実情が見えてきました。
今回取材に協力していただいた『キャンパスラボ』のメンバーは、ふだんの活動の中で、SDGsの達成に向けて社会的課題に取り組んでいるため、若者の中でも特にSDGsへの理解が深い層であると言えます。そんな彼女たちに「サステナブルブランドに対する購買意欲」について尋ねたところ、返ってきたのは「自分にとってのメリットが感じられるものでなければ、どれだけ地球にやさしくても買いたいとまでは思えない」という正直な回答でした。
特に、「オーガニック」などと記載されたものは価格が比較的高価な傾向があり、欲しいものを少しでも安く購入したいと考えている若者にとっては、まだ手が届きにくい存在としてあります。「エコな商品とふつうの商品が並んでいて、ふつうの商品が100円安かったとしたら、どちらを選びますか?」という質問に対しては、学生の7人中3人が「100円でエコに貢献できるのであれば高い方を選ぶ」と回答。「もし自分が欲しいと思っているものならば、100円でエコ意識を高く過ごしているという気持ちになれるので気にならない」という意見が上がった一方、その3人も「それが500円の差になると高くて選べない」と話しました。100円高いエコな商品を購入することで、“ちょっと自分も社会のためになることをしている”という満足感が得られますが、アルバイト代でやりくりしている大学生にとって、金額やその商品を本当に必要としているかという視点は、購入の意思決定において大きく影響します。
しかし、これは若者に限ったインサイトではありません。通常の商品選びと同様に、デザイン性や機能性が自分の求めているものと一致し、それに伴った適正価格になっていなければ、購入の決め手にはならないのが生活者の本音です。社会的に「エコ意識」が高まり、興味を持つように変わっていても、地球や環境にやさしいという理由だけでプロダクトを購入することは難しいと言えます。
「SDGs=流行のひとつ」と捉える若者
続いてわかってきたのは、「SDGsは今の流行り」と捉えている層もいるということ。学校の授業や課題でSDGsが取り上げられる機会が増えただけでなく、TBS系ドラマ『この恋あたためますか』の第4話では、廃棄リンゴでコンビニスイーツを作るというシーンがあり、エンタメコンテンツにもSDGsがテーマとして組み込まれるなど、目や耳にする機会が増えるようになりました。
このような社会の変化から、“SDGsは今の流行りである”と捉えてはいるものの、やはりまだ自分ゴト化しにくく、「エコ意識が高いわけではないのに、ただ流行っているからという理由で乗っかっていると、偽善者のように見られてしまいそうで取り組みづらい。」という声も上がりました。「SDGs」に接触する機会が多い学生ならではの、独特なインサイトであると言えます。
そのようなインサイトがあるためか、いかにも意識が高そうな形で売られているものは、手を出しにくいとの声も。自分の意識とプロダクトの意識に差ができればできるほど、その商品を手に取って、レジに持っていくまでのハードルが高くなってしまいます。サステナブルブランドを選んでもらうためには、地球や環境にやさしいことを説明しつつも、いかに手に取りやすく、また日常に馴染みやすいプロダクトを作ることが求められているのかもしれません。
レジ袋有料化で日々の選択に変化は起こったのか
前章で述べたように、若者たちには「SDGs」への理解はあるものの、まだ積極的にプロダクトを取り入れるまでには至っていない現状があります。しかし、今年の7月より、海洋プラスチックゴミ問題、地球温暖化などの解決に向けた第一歩として、全国で「プラスチック製買物袋の有料化」がスタートし、以前よりも「エコ」「サステナビリティ」「SDGs」などといったキーワードが身近に感じられるようになりました。実際に若者の行動に変化は起こったのでしょうか?
キャンラボリサーチによる女子大生のエコバッグ利用状況
キャンラボリサーチは、今年の10月に「女子大生100人にレジ袋有料化による大学生の変化を調査」を実施。その調査結果では、女子大生の8割近く(79%)がエコバッグの所有について「持っている」と回答しました。エコバッグを持ち歩いている理由として目立ったのは、「エコバッグも持っていると、サステナブルを意識している自分にテンション上がる。」「レジ袋をもらうと環境意識低い人と見られそうでエコバッグを持つようになった。」などの意見。今まで“写真映え”を意識してきた女子大生ですが、レジ袋の有料化を機に、サステナブルに対しての意識も高まっていることが考えられます。
続いて、エコバッグの購入についての調査では、エコバッグはいつ購入しましたか?という質問に対して、約9割(86%)の女子大生が「元々持っているものを使用」と回答。多くの女子大生は、エコバッグと呼ばれるような商品を購入するのではなく、今まで持っていたトートバッグを代用していることがわかりました。中には、「エコバッグで可愛いものが少ないので、持っていたトートバッグをエコバッグとして使っている。」という声もあり、女子大生がエコバッグに求めているのは利便性ではなく、持ち歩きたくなるデザイン性であると捉えることもできます。
若者から支持されているサステナブルブランドとは
レジ袋の有料化に伴い、女子大生たちは“エコバッグで自分らしさを表現できる”“サステナブルを意識しているアピールができる”などの独自のメリットを見い出し、積極的にエコバッグを利用していることがわかりました。
そこで次に学生たちに尋ねたのは、自分が好きな、もしくは周りで流行っているSDGs達成に向けた取り組みについて。真っ先に上がってきたのは、「マイストロー」という回答で、その理由は「かわいいデザインのものが多くて、写真映えするから」「紙ストローが嫌いだから」などでした。マイストローは昨年ごろから若者世代を中心に普及しつつあり、デザイン性や機能性の優れたものが種類豊富に展開されています。彼女たち曰く、SDGsへの関心やエコ意識があまり高くない人でも、マイストローは取り入れていることが多いのだそう。
次に上がったのは、話題にもなったサントリー緑茶『伊右衛門』のラベルレスボトル。ラベルが撤廃された一番の目的は“お茶本来の色を見せるため”とされていますが、ラベルレスボトルを取り上げた理由について、「単純に目につきやすいから、手に取ってしまう」「捨てる手間が減るという、自分にとってのメリットがある」などが挙げられました。また、ある学生からは「フードロス削減を目的としたお店“フードレス救”を利用している」という回答も。廃棄になってしまう食材を安く購入できるため、エコなだけでなく自分にとっても節約できるメリットがあり、近所に店舗がある学生は頻繁に利用していると話しました。
反対に意外だったのは、『スターバックスコーヒー』の「紙ストロー」に対する意見。「ストローではなくカップを紙にすればいいのに」「紙の味が気になる」など、改善の余地が見られる取り組みに対しては、むしろ好感度よりもネガティブな感情のほうが勝ってしまうことが明らかになりました。たとえ環境に良い活動であっても、自分にとってのメリットが減ってしまったと感じたり、それが本当に必要な活動なのかを冷静に見ていたりと、若者たちのリアルな視点が見受けられます。このように「なぜ?」という感情を抱かせてしまわないためにも、具体的なファクトや取り組みの意図を生活者にきちんと伝えることは、SDGs達成に向けて取り組む上で非常に大切です。
サステナブルブランドに欠かせないストーリーテリング
若者の間では「マイストロー」などのトレンドが生まれているものの、“節約になる”“写真映えする”などの自分にとってのメリットがなければ、購入に繋がらないことには変わりありません。また、学生と話をする中で、「例えばコンビニのように身近なところで販売されていて、ほかのものと比較しながら選択できる状況にあれば、手を出しやすいかもしれない」という意見もありましたが、商品棚の獲得や販路拡大には時間がかかってしまいます。
取り入れやすい手段の中で、SDGsやエコに対する意識がそこまで高くない層からもサステナブルブランドを選んでもらうには、どのような取り組みが有効なのでしょうか。
メディアの“おすすめ”で出会ったサステナブルブランド
ここでは、実際にサステナブルブランドを購入したという2名の、購入に至るまでの経緯を辿ってみましょう。
①Instagramの「発見」機能
Aさんが最近購入したものは、「竹歯ブラシ」です。きっかけは、Instagramの虫眼鏡マーク「発見」機能で見つけた、あるインスタグラマーの投稿でした。学校や『キャンパスラボ』の活動などで、SDGsについて学ぶ機会は多いものの、積極的にそのようなプロダクトを選択する段階までは至っていなかったAさん。しかし、梱包も全て竹からできた紙袋を使用しているなど、この「竹歯ブラシ」のブランドのコンセプトやストーリーに共感し、応援したいと考えたのだそう。
また、少し高価なイメージがあった「竹歯ブラシ」が、意外にも1本200円前後とプラスチック製のものとほぼ変わらない価格だったため、そのまま購入に至ったと話しました。コンセプトに共感できるものに対して、無理なく手を出せる価格帯で貢献できることは、自分にとってのメリットになりうるのです。
②ウェブメディアのおすすめ記事
続いてBさんが購入したものは、今年の9月に誕生したばかりのオーガニックコスメブランド、『&WOLF』のリップ。もともと肌が弱く、オーガニックコスメに関心があったというBさんには、「荷物が多いためコンパクトなコスメが欲しい」というニーズもありました。そんな時に、普段から見ているウェブメディアのおすすめ記事で『&WOLF』に出会い、「素肌を思いやりながらメイクアップする」「ポケットに忍ばせる、新しいオーガニック」というコンセプトに惹かれたのだそう。
『&WOLF』は、エコプログラムにも取り組んでいる国産品質オーガニックコスメ『N organic』から誕生したブランドです。オーガニックコスメは“自然由来成分で肌にやさしい”という自分にとってのメリットがわかりやすいため、エコ意識の有無に関係なく人気がありますが、さらに“コンパクト”というベネフィットも加わり、数あるオーガニックコスメブランドの中から選ばれることとなりました。
いかにベネフィットを作り、ストーリーテリングできるか
実際に購入にまで繋がったサステナブルブランドに共通して言えることは、“自分にとってのベネフィット”が明確で、そのプロダクトが持つコンセプトや誕生背景について、きちんと“ストーリーテリングされている”ということ。このどちらか一方でも欠けてしまえば、学生たちはこれらのプロダクトを購入していなかったかもしれません。
“自分にとってのベネフィット”を持たせることは、これまでの学生の話からわかるように、SDGsに対する意識の高さに関わらず、プロダクトを手に取ってもらうためには欠かせないものです。地球や環境にやさしいだけでなく、そのプロダクトが自分好みのデザインであり、自分らしさを表現できるものであるか。また、そのプロダクトを持つことによって何か自分の悩みが解決され、かつ手に取りやすい価格になっているか。若者たちの購入の選択肢に入っていくためには、通常のプロダクトと並んでも負けないメリットを用意してあげる必要があります。
一方で、「竹歯ブラシ」を購入したAさんのように、プロダクトが持つコンセプトやストーリーに心を掴まれ、購入にまで至るケースもあります。このように、ストーリーテリングを通じて生活者の心を掴むためには、まずはその企業がプロダクト開発を通じてSDGs達成に向けて取り組む理由について、理解を得るところから始めなければなりません。その上で、ひとつのプロダクトが生まれるまでの一気通貫した“ストーリー”を、わかりやすく、かつ多面的に伝えることが大切です。ひとつの軸を持ってストーリーテリングを繰り返していくうちに、長期的に応援してくれるファンの獲得や、購入への導線づくりにも繋がっていくでしょう。
全世界で掲げているSDGsは、特に日本のような国ではどうしても自分ゴト化されにくいのが実情です。それでもSDGs達成に向けて取り組み、環境や地球に配慮したプロダクトを広めていくために、企業がストーリーテリングを習得することがこれまで以上に重要になっています。通常のプロダクトを開発するときと同様に、生活者のインサイトをよく観察しながらサステナブルブランドを開発すること。そこから、ストーリーテリングを通してSDGs達成に向けた取り組みやプロダクトに興味を持ってもらい、プロダクトを自分にとってのメリットに落とし込んでもらうこと。そんなコミュニケーション活動が広まることで、サステナブルブランドが国内でももっとマジョリティーになっていくかもしれません。
■キャンパスラボについて
各大学のミスキャンパスが集まり、社会課題に取り組むプロジェクトチーム。企業様や自治体様と共創し、商品開発やマーケティングからプロモーション企画まで一緒に実践するプロジェクトチームです。「ミスキャンのイメージを変えたい、ミスキャンの力で社会を変えたい」という熱い志を持った各大学のミスキャンパスが集結し、『ミスキャンが世の中を変える!』を胸に、お客様の課題に合わせ、プロジェクトメンバーとしてマーケティング~ムーブメントまで一貫してサポートします。これまでにも神奈川県様との未病の取り組みや風しん撲滅に向けた啓蒙活動をはじめ、国土交通省様、東京都下水道局様などの公共団体、その他にも電鉄会社様、百貨店様、食品系企業様、そして航空会社様など様々な自治体様や企業様と社会課題解決に向けたプロジェクトの実施をおこなっています。
https://www.campuslab.jp/
1995年生まれ大阪育ち。2018年同志社大学卒業後、株式会社マテリアルに新卒入社。1年目でウェブメディア『PR GENIC』を立ち上げ、記事の執筆と編集全般や、セミナーの企画など、コンテンツ作りを幅広く担当。半年間ハウスメーカーのマーケティング部への出向も経験。現在はオープンイノベーション支援に従事しつつ、外部アドバイザーとして編集のサポートを行っている。