パーパス経営を体現するサントリー。「水」起点の一貫したコミュニケーション活動に迫る

パーパス経営の重要性が問われる前から、自社の本質的な価値観を起点にした活動を数多くおこなってきたサントリーグループ。「水と生きるSUNTORY」をコーポレートメッセージに、サステナビリティの観点をベースとして、「水」にまつわる総合的なコミュニケーションを展開しています。

今回は、サントリー食品インターナショナル株式会社 SBFジャパン ブランドマーケティング本部 課長の佐藤匡さんにインタビューを実施。生活者へのブランド×サステナブルコミュニケーションとして意識していることや、パーパスを生活者に理解してもらい、浸透させるための勘所などについてお話を伺いました。

「水」を起点に展開されるサントリーの活動に迫る

事業の根幹「水」に対するサントリーの想い

サントリー食品インターナショナル株式会社 佐藤 匡さん


サントリーでは、「水と生きるSUNTORY」というコーポレートメッセージを掲げていますが、どのような想いから制定されたのでしょうか。

サントリーでは、1923年に山崎蒸溜所を建設し、ウイスキーの製造に着手した創業当初から「水はなくてはならない資源」という考え方を大事にしてきました。サントリーが生み出している製品は、基本的に「水」がなければ作ることができないので、自然と水の恵みに生かされる企業として、2003年よりコーポレートメッセージに掲げています。そして、そのような想いから、2003年に「天然水の森」を、2004年に「水育」という活動をそれぞれスタートしました。

「天然水の森」活動は、森林の保全活動を通じて良質な地下水を育むことを目的にした取り組みです。国内4か所の採水地で製造されている「サントリー天然水」は、良質な地下水を原料としていますが、ミネラルが溶け込んだ清らかな天然水になるまではおよそ20年以上かかります。良質なミネラルウォーターを作り続けるためにも、慈善活動ではなく基幹事業として取り組んでいるのが特徴ですね。

「水育」の様子

「水育」活動は、次世代の子どもたちに水の大切さを伝え、水や自然を愛する心を育てていく「次世代環境プログラム」です。サントリーグループの講師が学校に出向き、体験学習型の出張授業を実施しているほか、オンライン形式によるリモート授業や森と水をテーマにした自然体験プログラムを提供しており、日本だけでなく海外にも展開しています。これまで、累計で58万人を超える子どもたちに、水育を提供してきました。

「ウォーター・ポジティブ」で水資源の大切さを自分ゴト化してもらう

近年では、「ウォーターポジティブ」という活動もされていると伺いました。

サントリーグループでは取水量以上の水を、水系に育むことを「ウォーター・ポジティブ」と考えています。2023年からはじまった「ウォーター・ポジティブ」コミュニケーションは、貴重な資源である水と、100年先の未来もおいしい天然水を守り育むためにはじめたサステナビリティを伝えていく活動です。この活動によって、お客さまに「水資源の大切さに気づき、未来に繋げていく」ことに対して“自分ゴト化”してもらうことをゴールに定めています。今までの「天然水の森」や「水育」と比べ、お客さまに向けてより身近に伝えていきたいという想いから生まれた取り組みで、さまざまな観点から「ウォーター・ポジティブ」の訴求や啓発をおこなっています。

その流れで、「次世代ウォーター・ポジティブ プロジェクト」と称した活動もスタートしています。こちらは、どのような取り組みなのでしょうか。

10代以下の学生を対象に、水資源を未来に繋いでいく上で「自分たちには何ができるか」を自分ゴト化して考えてもらうためのプロジェクトになります。具体的な取り組みとして、2つあります。

1つ目は、小学生を対象にした水の啓発授業です。小学校4年生の単元に「総合的な探求」という授業があり、その時間にSDGsやサステナビリティについて学習するのですが、先生が自分で使う教材や授業内容を考えなければいけないんですね。「次世代ウォーター・ポジティブ プロジェクト」では、サントリーが水とサステナブルの教材を作成し、連携先の株式会社ARROWSのサービスであるウェブの教育プラットフォームに載せる仕組みを提供しています。開始時は5,000人規模を上限にしていましたが、想定を上回る反響をいただき、来年度からは今年の10倍以上となる7万人以上に規模を拡張して展開できればと考えています。

「ウォーターポジティ部」のメンバー

2つ目は、高校生を対象にした水資源の大切さの興味喚起や理解促進を図る「ウォーターポジティ部」の活動です。“水が好きでよく飲んでいる”という共通点を持つ、有志で集まった高校生のチームに、水の大切さを学んでいただいた上で、「自分たちの日々の行動に生かせること」を考えてもらい、Instagramから発信していきます。同世代にとって、共感できる等身大の啓発活動を目指していますが、基本的には高校生の自主性や意志に従うようにしていて、座談会などを通して意見を出し合う形を取っています。

こうしたプロジェクトをおこなう理由は、ミネラルウォーター市場において若年層の伸長率が伸びている背景があるからです。サントリー天然水の購買層のうち、ボリュームゾーンは40代〜50代ですが、近年は若年層からの支持が高まっています。「次世代ウォーター・ポジティブ プロジェクト」を通じて、若年層へのアピールもおこなっていければと思っています。

サントリー×サステナコミュニケーションの勘所

話者を変え、伝えたいメッセージの理解・浸透につなげる

ハローキティと連携したウォーター・ポジティブの施策


取り組みを経て、実感している効果などはありますか?

正直に言うと、サステナブル活動をどのように製品の実売に結びつけていくかという部分について、まだ誰も解を持っていないので、いろんなことを試しながらトライアンドエラーを繰り返しています。テレビCMは有効な手段ですが、テレビCMだけではメッセージの深い理解までつながらない層が一定数存在するという課題を感じています。

そうしたなかで、ハローキティと連携した施策は、これまで企業発信で「ウォーター・ポジティブ」を訴求していたのを、「話者を変えることで内容理解につなげる」ことにチャレンジした取り組みでした。このような取り組みを通じて、「サントリー天然水は未来に水をつないでいく活動をしているんだ」という認知度向上に大きく寄与していると考えています。

その一方で、サントリー天然水は、国内清涼飲料水市場で6年連続売上No.1(サントリー調べ)を誇るブランドに成長しつつも、より盤石な顧客基盤を作ることが次のフェーズだと捉えています。味のない水において、お客さまから選ばれるためには「好きになってもらえるか」がひとつの基準になっており、サステナブル活動を推進することで、「ブランドイメージの変化とどう影響しているのか」という相関は見るようにしていますね。サステナブル活動によってブランドの好意度が高まれば、お客さまが店頭で悩むわずかな時間のなかで、“無意識に選ばれるかどうかの差”が出てくると思っています。

生活者の気づきを促すためには“具体的な数字”が有効

当初のCMメッセージ


色々な手法を使ってアプローチをされていますが、企業が自社のサステナブル活動を生活者へ浸透させるためのポイントや、意識すべきだと考えていることがあれば教えてください。

先述したように、試行錯誤しながらPDCAを回している段階ですが、ひとつわかったのは、「具体的な数値をメッセージの中に入れることで、生活者の“気づき”を促すきっかけになる」ということです。芦田愛菜さんに出演いただいたテレビCMでは、「すぐ使える水は地球全体の中でわずか“0.01%”しかない」や「サントリー天然水はおよそ“20年”かけて育まれた、かけがえのない天然水である」という具体的な数字を入れたことで、生活者がハッとするような気づきを与えるコミュニケーションにチャレンジしました。

一方で、このような発信をおこなう際に気を付けているのは、グリーンウォッシュにならないように、ファクトに基づいて正しく伝えることです。サステナビリティ経営推進本部と密に連携を取りながら、「言う言わない」の線引きを確認しつつ、コミュニケーションの開発をおこなっています。また、企業目線で「ウォーター・ポジティブ」の大切さを説いても、生活者に何も伝わらないですし、理解されないと思っているので、「どのようにしたら共感や自分ゴト化につながるのか」を考えるようにしていますね。

「飲用価値」と「サステナ価値」の両立を目指すサントリーの挑戦

さいごに、「サントリー×水」の活動における、今後の展望についてお聞かせください。

サントリー天然水の「飲用価値」と「サステナ価値」の両軸を意識しながら、今後も取り組みを継続していきたいと思っています。こんな場所で生まれた水ならおいしいに違いない」と感じてもらうことを目的にした飲用価値コミュニケーションをベースにしながら、「ウォーター・ポジティブ」の活動でサステナ価値を積み上げていきたいと考えています。

また、最近では「水」のサステナブルではなく、「人」のサステナブルの重要性にも着目しています。自然災害が多い日本において、防災備蓄の観点からブランド起点のコミュニケーションを設計できないかと考えているところです。水を「飲料」「資源」「インフラ」と多角的に捉えたうえでサントリーならではの活動を広げていきたいです。

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