『sopo』大ヒットを手掛けたNOINに訊く。ユーザーのロイヤリティ化を促す3つの施策

年を追うごとに、EC市場が拡大の一途をたどるなか、他の商材に比べEC化率が低いと言われているのが、化粧品・コスメ業界です。「自分に合うか、実際に試さないと選びにくい」などの理由が障壁となり、実店舗の購入がメインで、コスメECの発展は難しい状況にありました。

そんな課題に着目し、事業を成長させてきたのが、化粧品ECプラットフォーム『NOIN(ノイン)』です。『NOIN』は、単にコスメを寄せ集めたECサイトではなく、国内外で評判の高いコスメを厳選して掲載しているほか、NOIN編集部が独自に取材・撮影することで、感度の高い情報発信を行っています。2017年10月にサービスを開始して以来、『NOIN』でしか得られない“購入体験”は、多くのユーザーに支持され、今では日本最大級のコスメショッピングサービスへと成長しました。

今回は、同サービスを運営するノイン株式会社 代表取締役の渡部賢さんに、コスメECをグロースさせた戦略や、自社コスメブランド『sopo(ソポ)』の販売好調の要因についてお話を伺いました。

『NOIN』でしか得られないサービス価値の醸成が肝

『NOIN.tv』で見えたコンプレックスビジネスの可能性

はじめに、『NOIN』の立ち上げについて簡単に教えてください。

ノイン株式会社は、「本当にほしい化粧品が見つかって、それが当たり前に買える世界をつくる」というミッションのもと、2016年11月に創業しました。Instagramのアカウント『NOIN.tv』をオウンドメディアとして運用し、若年層に刺さるメイク術やトレンドコスメの情報発信から始め、当初から多くのフォロワーを獲得していました。しかし、『NOIN.tv』でさまざまなコンテンツを作っていくなかで、私が化粧品に対して抱いていたきらびやかな印象、つまり“華”のあるコンテンツは、生活者のインサイトとの乖離があると感じるようになったのです。

たとえば、化粧品を使う女性には、「可愛くなりたい」というインサイトがありますが、同時に「抱えているコンプレックスを隠したい」といったインサイトもありますよね。それに気づいてから、「これはコンプレックスビジネスなのでは」と考えるようになり、2017年10月に化粧品ECプラットフォーム『NOIN』をローンチしました。

当初、運営していた『NOIN.tv』の投稿


『NOIN』のローンチ当初は、コスメの価格比較機能を軸にされていましたが、途中でECプラットフォームへとシフトし、現在では270万ダウンロードを超えるまでに成長しています。この、ユーザー数増加の要因はどこにあるのでしょうか。

今までは、化粧品やメイクに関する悩みをGoogleで検索すると、有象無象のコンテンツが出てきてしまい、その多くがキャンペーンや定期購入を促すような広告で溢れかえっていました。これだと、ユーザーが自分に本当に合う化粧品と出会うことが、かなり不可能に近いと思ったんです。

そこで、『NOIN』では、自分にぴったりの化粧品を、当たり前に買える世の中を目指すために、バリエーション豊かな商品展開を意識しています。デパートコスメ(以下、デパコス)からプチプラコスメ(以下、プチプラ)まで、およそ17,000を超える商品を取り扱っていることに加え、NOIN編集部が独自に収集したコスメ情報を発信することで、「NOINでお気に入りの化粧品が見つかる」というサービス価値を醸成していきました。これらの取り組みが、総じてユーザー数の増加につながったと思います。

デジタルネイティブ世代に響くサービス展開とは?

リアル店舗での購入が主流となっているなか、『NOIN』を利用したECでの購入につなげるため、どのようなサービスづくりを行ってきたのでしょうか。

化粧品市場の中で、最もボリュームが大きいのがドラックストア、そこに百貨店、バラエティストアと続くわけですが、SNSの台頭により、化粧品における購買体験やメイクの多様性は大きく変わりました。SNSが、ある種の革命を起こしたとも言えるわけです。特に、デジタルネイティブ世代は、SNSで気軽に自己表現を行うため、それに合わせてお顔も彩り豊かになっている。それが顕著に表れているのがTikTokで、最近は全身のファッションよりも、バストアップの見た目で勝負するようにシフトしていると感じます。そうなると、百貨店やバラエティストアなどのTier(階層)で分けた化粧品の訴求をしていても、ミレニアルやZ世代の女性には響きませんよね。

そこで『NOIN』は、百貨店・バラエティストア・ドラッグストアで扱うそれぞれのコスメブランドが揃いつつ、商品を横並びにしても、各ブランドの世界観が崩れないようなサービスとして展開しました。さらに、金銭的な問題でデパコスが買えないという悩みに対し、『NOIN』内で使えるポイントを購買に応じて還元する仕組みも導入しています。そうすることで、『NOIN』が、新しい化粧品を試すきっかけづくりにもなっているんです。

『NOIN』急成長の裏にあるファンビジネス

強みは『NOIN』でしか扱えない新進気鋭のコスメブランドの存在

ほかにも、化粧品ECの競合が多数いる中で、どのように差別化を図っているのでしょうか。

『NOIN』は、世界中のSNSやメディアを参考に、コスメマニアに刺さる独自のコンテンツを展開しています。そのため、競合のひとつである『@cosme』さんなどとは、攻め方が異なっていると考えています。たとえば、『@cosme』で評価されている化粧品は「売れている=口コミが多い」という構造で成り立っているため、『NOIN』が扱っているような新進気鋭のコスメブランドは、口コミの件数が少なくフィーチャーされないんです。他方で、百貨店のリアル店舗では、一定のブランド力がないとそもそも取り扱ってくれません。

つまり、『NOIN』でしか扱えないコスメブランドがあることが、多くの競合と差別化できているポイントだと言えるんです。そして、『NOIN』が行う、EC・オウンドメディア・自社コスメブランドの3つの事業を、すべてのドメインにユーザーと紐づけていることが大きな特徴になっています。それぞれの顧客接点から、どうサービスの回遊性を高め、『NOIN』の経済圏を構築できるかにフォーカスし、サービスを開発しています。

「ユーザー数 × 仲の良さ ×ここにしかない品揃え」が成長のポイント

ユーザーに使い続けてもらうため、また、LTV向上のためにどのような工夫をされているのでしょうか。

化粧品はファッションに比べ、オフラインでの顧客接点が20倍という数字が出ています。つまり、既存のECにおける「ユーザー数 × 体験価値 × 品揃え」というセオリーが通用しない市場なんです。そのため、『NOIN』では「ユーザー数 × 仲の良さ ×ここにしかない品揃え」と定義することで、LTV向上を図っています。

言ってしまえば、アイドルのようなファンビジネスに近いかもしれません。時代の流れが早い世の中において、いつどの瞬間に『NOIN』の脅威となりうるテクノロジーが出てくるかもわかりません。それならば、お客様と仲良くなり「NOINが好き」とユーザーに言ってもらえるように、『NOIN』のファンを増やすことが、優位性につながると考えています。

なるほど。まさにユーザーファーストでサービスをブラッシュアップしているわけですね。

そうですね。ただ、ユーザーファーストという視点で何かやろうとすると、「ポイント還元」や「送料無料」などの機能的価値を提供しがちです。もちろん、これらも大事ですが、それに加え『NOIN』では、「友達のようなコミュニケーション」と「Eカウンセリング」を行っています。たとえば、ビューティーやコスメに詳しい社内の美容部員が、LINEのオープンチャットやSNSのDMで来た生活者の質問・悩みに対し、テンプレートを使わずに1対1で丁寧に返しているんです。その際、ユーザーに寄り添うのはもちろん、絵文字などを使うことで距離感が縮まるようなコミュニケーションを心がけています。こうすることで、唯一無二のロイヤリティ形成ができるのです。

『greencomse NOIN SDGs Beauty Event』の様子

さらに、創業時からやっているオフラインイベント『NOIN MAKE HAPPY DAY』は、ユーザー同士の交流やコスメの商品展示、メイクレッスンなど、ユーザーとつながるコミュニティ施策として機能しています。こうした取り組みが、ユーザーのロイヤリティ化を促し、『NOIN』のファンを増やすことに成功しているんです。今年は更にそのイベントに、クリーンビューティーの要素を追加して、『greencosme NOIN SDGs Beauty Event』を開催し、約500名の方にご来場いただきました。

緻密な戦略設計が爆発的なヒットを生んだ『sopo』

「緊急需要買い」から「目的買い」にシフトさせる訴求

そのような『NOIN』の事業展開を経て、2020年11月より、コスメブランド『sopo』を発売されました。ブランドを立ち上げた背景についてお聞きできればと思います。

『NOIN』のメインユーザーは10代後半~20代前半と、Z世代に支持されているのですが、サービスを運営するなかで、「都市部のユーザーは、トレンドコスメの情報収集がメイン」なのに対し、「地方のユーザーは、実際の購買までつながる」ことが分かりました。SNSの台頭で、情報の格差はなくなりましたが、既存のトレンドコスメはどうしても都市部に行かないと買えません。このユーザーのペインをどうにか解決できないかと考えたのが『sopo』を開発するきっかけになっています。トレンドコスメを当たり前のように買えるようにするにはどうすればいいのか。アイデアを巡らしていくなかで、たどり着いたのがコンビニでした。

ドラッグストアやバラエティストアは数千店規模ですが、大手コンビニのひとつであるファミリーマートは、全国に16,000を超える店舗があることに着眼し、「全国にあるファミリーマートで、高品質かつリーズナブルな価格でトレンドコスメを買える」ようにすれば、勝算があると感じたんですね。そこから企画を進めていったのですが、実はコンビニ側もZ世代の集客や販促について課題感を持っていたんです。

それは、具体的にどのような課題感でしょうか。

要は、コンビニでの化粧品購入の需要が「緊急需要買い」しかなかったんですね。コンビニで化粧品を購入するタイミングというのが、近くのドラッグストアが閉まっている朝か深夜の時間帯か、急な予定が入った場合に限ったものだったのです。そこで、コンビニでの化粧品購入の需要を「緊急需要買い」から「目的買い」にシフトさせるため、ユーザーの悩みに寄り添い、ユーザーが欲しくなる高品質な商品を販売し、そのコスメを買うためにコンビニへ来店するという仕組みを作りました。実際の商品開発は、化粧品OEM大手の日本コルマーさんに依頼し、専任の研究員が3名も担当してくださるなど、かなり手の込んだ形で開発をしていきましたが、販売価格を抑えることができたのは、ファミリーマートという、全国に店舗展開している企業ゆえのロット数の確保があったからでした。

受け手が何度もSNS投稿したくなるギフティングと丁寧なブランドづくりが鍵

なるほど。緻密なマーケティング戦略を構築したんですね。プロモーションに関してはどのようなことを意識されたのでしょう?

『NOIN』では、総フォロワー数が1,000万人を越える美容系特化のTikToker(ティックトッカー)を囲っており、『sopo』の立ち上げ時にだけ、拡散力に長けているTikTokerを起用し、Z世代の女性やいわゆる「美容垢」「整形垢」といったTwitterユーザーに注目してもらえるよう、プロモーションを行いました。もちろん、ただギフティングしたのではなく、ギフティングのボックスをすごくおしゃれにして、SNSに映えるような工夫を凝らしました。そうすることで、TikTokerの方たちも、一度のみならず何度も投稿してくれるようになるんです。「ギフティングの開封動画」「コスメのテスター動画」「メイクをした動画」と3回投稿されることで、『sopo』の認知度向上に大きく寄与しました。“1回のギフティングで、どれだけ多く投稿してもらえるか”が非常に重要だと思いますね。

また、「#コンビニコスメなのにめっちゃいい」というハッシュタグをつけ、ファミリーマートでしか買えない限定感や、リーズナブルかつハイクオリティな商品スペックが美容垢のユーザーに伝わるよう、ハイブランドさながらのクリエイティブな店頭ポップを作りました。さらに「セット買い」を狙えるように多色展開することで、単価も高められるように取り組みましたね。確実に成功確率を上げるために、ひとつずつ丁寧にブランドを作ってきたことが、『sopo』の売上100万個を達成した要因だと考えています。

これからも『sopo』のヒットは続きそうですね!それでは、さいごに今後の展望についてお聞かせください。

『NOIN』は、ブランドもメディアもECも運営しているプラットフォームなので、どの面から入っても、ユーザーがプラットフォーム内で回遊してもらえる経済圏を作っていければと思っています。たとえば、『sopo』や今年3月に出したサステナブルヘアケア『ABÜR(アブール)』などのブランドを接点として『NOIN』に来てもらったり、『NOIN』でしか買えないブランドの限定商品を出したりと、新たな付加価値の創出に挑戦していきたいですね。

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