“最高の朝食体験”で話題の『The BREAKFAST HOTEL』。V字回復を支えた社内コミュニケーションとは

『2023 63rd ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS』の2部門で、総務大臣賞/ACCグランプリとACCシルバー賞を受賞した『The BREAKFAST HOTEL』。リブランディングを機に、ホテルの存在価値にあらためて向き合い、これまでビジネスホテルではあまり注力されてこなかった「朝食」に、とことんこだわり抜いています。その水準の高さは口コミの好循環を生み出し、さらには『“賞味期限100秒”フレンチトースト』『⼆日酔い復活の麺神』などのユニークなメニュー名でも話題を呼びました。

これらの、ユニークな取り組みの実現を支えているのは「社内コミュニケーション」だと語るのは、The BREAKFAST HOTELを運営する、リゾーツ琉球株式会社 取締役の福嶋直さんです。リブランディングに至るまでにどのような経緯があり、何に重きを置いて施策を展開してきたのか。数々の結果を残すことになった今日までの過程を伺いました。

存在意義と向き合うことで生まれた『The BREAKFAST HOTEL』

朝食代金100%還元!こだわり抜かれた“朝食体験”とは

実際に提供される朝食の一部


ーはじめに、The BREAKFAST HOTEL(以下、BFH)について教えてください。

BFHは、“すべての人を最高の状態で送り出したい”をコンセプトにした、その名の通り「朝食」にこだわり抜いたホテルです。現在、石垣島と福岡県で計4店舗運営していますが、地域の特性を活かした店舗設計やメニュー作りをしているため、それぞれの店舗で異なる「朝食体験」をすることができます。リブランディングを機に構想を固め、2022年4月にオープンしました。

当社では、一般的なホテルの約2倍の朝食スタッフが業務にあたっています。食材の原価や調理スタッフの人件費は、合わせて朝食代金の約6割くらいになることが平均的ですが、BFHでは100%還元している状況ですね。また、メニューや味だけでなく、人の手でフレンチトーストはその場で焼き目をつけたり、豚丼はしっかりと炭で焼いたりと、調理工程や人材、オペレーションも、他では真似できないほどにこだわっています。

ーリブランディングのきっかけは何だったのでしょうか。

当時、親会社が新型コロナの影響で経営破綻になり、当社も経営難に陥っていたんです。そこから、新たなスポンサーと出会い、リブランディングを推し進めることに。その過程で、あらためてホテルの存在価値と向き合い、「朝食」に注力することを決めました。

ホテルを旅の“手段”から“目的”へ。「朝食」への注力に踏み切ったワケ

取締役 福嶋直さん


ー「朝食」に目を向けた理由は何ですか?

リブランディングのタイミングで話し合いを重ねるなか、BFHとして「宿泊してくださったお客さまに最高の状態でお帰りいただきたい」という想いが強いことに気付きました。そして、そのためには、客室や設備のスペック以上に、最後の出発の時間に最も近い「朝食」を大事にすべきではないか、という結論に至ったのです。

加えて、当社の経営理念のなかに、「企業価値を高めて、観光による地域発展への貢献をする」ことがあります。これまで、ホテルは宿泊の“手段”でしたが、私たちは「BFHに行きたいから、その土地を訪れる」というように、旅の“目的”の一つになるホテルを目指しています。選ばれるホテルとなるためには、他のビジネスホテルとの差別化も大切です。これまで、人手や原価の観点から、多くのビジネスホテルでは後回しにされてきた「朝食」に力を入れることで、“旅の目的となるホテル”になれるのではないかと考えました。

ーこれまで、多くのビジネスホテルが後回しにしていた「朝食」にあえてフォーカスすることは、非常に大きな挑戦だったのではないでしょうか?

そうですね。前例がありませんでしたし、やってみないとわからないことばかりだったので、正直葛藤はありました。ただ、「朝食」に注力する決断をしたのは、コロナ禍を経て変化した、世間の健康に対する意識の高まりや、生活が朝方にシフトした市場動向の変化も鑑みてのことです。そのような観点から、一定数の需要があるのではないかと踏んでいました。

また、レッドオーシャンであるホテル業界は、流行り廃りが非常に激しいため、スペック面で勝負をしてしまうと、アップデートし続けなければ新しいホテルに太刀打ちできない、厳しい現状があります。そこにかかる時間やコストを考えると、他のホテルが後回しにしている「朝食」で勝負をする選択は、効果的だったのではないかと感じますね。あらためて向き合ったホテルの存在価値、市場動向、差異化できるポイントなど、さまざまな要素を検討した結果、BFHが誕生しました。

こまめで自由な社内コミュニケーションが口コミの好循環につながる!?

良質な口コミサイクルを生むために「常に新しい仕掛けをつくる」

ー「朝食」にフォーカスしたリブランディングをおこなったことで、広告を使わずにV字回復を成し遂げられたと拝見しました。具体的にどのような施策を打たれたのでしょうか?

まずは、プレスリリースで配信をおこない、「朝食にこだわり抜いたホテル」というフックから、メディア取材やテレビでの紹介に繋げました。そこからお客さまに情報が広がっていき、大変ありがたいことに、今はお客さまの口コミが、また新たなお客さまのご宿泊へとつながっています。

プレスリリースでの配信などはよくある施策ですが、私たちが何よりもこだわったのは、良い口コミのサイクルを回すために「常に新しい仕掛けをつくる」ことです。たとえ、お客さまが宿泊してくれても、ホテルでいいものを提供できなければ、当然ながらポジティブな口コミにはつながりません。ご満足し、評価していただけるように、大変だけれども新しいチャレンジを継続しました。

ー具体的には、どのようなチャレンジをされていたのですか?

チャレンジのひとつとして、メニューの定期的な更新をおこなっていました。何をすればホテルに訪れるお客さまに対して素晴らしい朝食時間を提供できるのかを考えながら、季節や地域、新年会などのイベントごとにさまざまなメニューに挑戦しています。昨年の忘年会シーズンが近づいたタイミングでは、栄養管理士の方と調理スタッフが共同で考案した、二日酔いに効くラーメン『⼆⽇酔い復活の麺神』をつくりました(笑)。

ーBFHのユニークなメニューは、調理スタッフの方の考案だったのですね!

そうなんです。基本的には、メニューを開発した本人が名前決めまで担当してくれています。「賞味期限“100秒”のフレンチトースト」という、リリース時に話題となったメニューも、実は調理スタッフの考案でした。

“お客さまと社内をつなぐコミュニケーション”を意識

朝食会場の様子


ー現場のスタッフから積極的に意見があがってくる仕組みは、どのように確立されたのでしょうか。

当社は「全社員の物心両面の幸福を追求し、お客さまに夢と感動を伝える最高のサービスを提供します。」を経営理念に掲げております。もともと社内には、やりたいことは何でも言える環境が根づいており、スタッフからの意見に対して上層部が却下することはほとんどありません。

この社風があるからこそ、社内からは絶えず「次こんな料理をつくってみませんか?」「こんなことやってみたいです」といった意見が出ています。まさに今も新メニューの開発が進んでいるところです。スタッフが意見を伝え、自信をもって提供した料理が、お客さまの満足度に直結し、口コミが広がる。経営理念に則って、PR以前に「社内に対するコミュニケーション」に重きを置いてきたことが、結果として口コミの好循環につながったのだと思います。

ー他にも、社内コミュニケーションで意識されていることはありますか?

スタッフには、料理に対するお客さまの声を都度共有するようにしています。料理を作った先のつながりやリアクションが見えなければ、単に業務をこなすだけになってしまい、スタッフたちも疲弊するはずです。きちんと評価につながっていることを実感することが、モチベーションにも直結するため、日々お客さまと社内をつなぐコミュニケーションを意識しています。

たとえば、1年に2回実施している社内表彰制度。20以上の項目を設け、BFHに貢献してくれたスタッフを表彰しています。ACCや楽天トラベルで受賞した際も、調理に携わってくれたスタッフ全員を社員みんなの前で表彰しました。これまでは脇役だった朝食がホテルの顔となり、調理スタッフたちにもスポットライトが当たる。日々コミットしていることの結果もしっかり伝えていくことで、仕事に対する誇りやホテルへの愛着も醸成されていると感じています。

前年比280%超の朝食申込数!旅の目的となるホテルへの第一歩

すべてが経営理念に基づいたものだったのですね。実際にリブランディングを経て、反響はいかがですか?

通常のビジネスホテルの朝食喫食率は20~30%ですが、嬉しいことにBFHでは50%を超えています。天神店舗の朝食プラン申し込み数は、前年比280%を記録しました。皆さんが朝食やホテルを目当てに来てくださっているのはとても嬉しいですね。なかには、会場のキャパオーバーにより、朝食を食べられない方もいらっしゃるので、そういった方々へ何か提供できないか、新しいプロジェクトも始動しています。

また、お客さまからも直接、「今回だけでは朝食のすべてのメニューを食べきれなかったのでまた来ます」「ここの朝食を食べたいから福岡に旅行することを決めました」と嬉しいお声をいただいています。リブランディング当初から目標に掲げていた、「旅の“目的”の一つになるホテル」に、少しは近づけているのかなと感じますね。

手前味噌ではありますが、ホテル数が増加しているなかで、地域でのポジショニングも徐々に確立されており、「BFHで働いていること自体がスタッフの誇りになる」状態になりつつあることも、大きな変化のひとつでした。

ーさいごに、今後の展望を聞かせてください。

今回のACCでの受賞は、経営理念のもと、目の前にある一つひとつの課題と向き合い、お客さまにご満足いただける状態を追求しつづけてきた先にあったものです。私たちは「人」に関わるホテル業界だからこそ、日々の積み重ねこそがすべてであり、一発逆転はないと考えています。お客さまからのポジティブなお声だけでなく、ご指摘も真摯に受け止め、次に改善すべく、スタッフとともに話し合いを重ねていきます。

現状維持は衰退と同じです。常に走りつづけることは決して容易ではありませんが、「お客さまにいいものを提供したい」「ご満足いただきたい」というおもてなしの気持ちを何よりも大切に、これからもスタッフ一丸となって実直に業務に取り組んでまいります。

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