人物取材特化の『ほ・とせなNEWS』から学ぶ。読者に影響を与える報道の作り方

今、広報の現場では、ストーリーを通じて情報発信する手法に注目が集まっています。特に、商品の開発秘話や創業エピソードなど、山あり谷ありの“人物ストーリー”は、多くの人の関心を誘うもの。自社でも、そのような「ストーリーを用いたPR」を実践したいと考える方は多いかもしれません。

2020年11月に立ち上がったウェブメディア『ほ・とせなNEWS』は、そんな“人物ストーリー”から、読者の人生に役立つニュースを伝えるニュースサイトです。人の語る物語と報道性をバランスよく兼ね備えた日本でも珍しいこのメディアは、岡山県・香川県を放送エリアとする、KSB瀬戸内海放送が運営しています。今回、『ほ・とせなNEWS』の編集長を務める澤晶子さんにインタビューを実施。“人物ストーリー”に焦点を当てる『ほ・とせなNEWS』のコンセプトや、ニュース性の定義、生活者に興味を持ってもらうための工夫などについてお話を伺いました。

ほ・とせなNEWS 編集長 澤 晶子
テレビ朝日系列のKSB瀬戸内海放送(キャストKSBパートナーズ所属)にて長年勤務。放送業務から人事労務、採用、開局50周年特別企画、CSR事業のプロデューサー等を経て、2021年4月より現職。およそ80名のライターが登録・執筆する『ほ・とせなNEWS』で、人物取材からニュースを伝えるべくメディア運営を行っている。

“人物ストーリー”を介した発信で報道を自分ゴト化してもらう

―はじめに、『ほ・とせなNEWS』について教えてください。

『ほ・とせなNEWS』は、人の持つストーリーから「今の社会や時代を切り取ったニュース」を読者にお届けするニュースサイトです。そのため、純粋なPRメディアとは趣が異なるかもしれません。コンセプトは「人がニュースになる。ニュースが人を元気にする。」で、私たちの記事を読んだ人が元気になったり、前向きになれたりする「グッドニュース」を全国に配信しています。

運営主体は、地方テレビ局のKSB瀬戸内海放送ですが、『ほ・とせなNEWS』で扱うニュースは、全国区。編集部が取材するだけでなく、日本各地や海外に住むライターの方にも取材・執筆をお願いしているので、地域を問わずさまざまな場所で取材した、旬な記事を読んでいただくことができます。

―メディアの主軸を人物ストーリーに置いたのは、なぜでしょうか?

人が興味を持つのは、やはり“人”の話題だからです。世の中の動きや社会的に関心度の高い出来事を、ただ事実として伝えるのではなく、「人の語り」を通して伝えることで、よりリアルな出来事として感じてもらうことができます。

たとえば、現在、ウクライナで暮らしていた多くの女性や子どもが他国に難民として逃れ、なんとか生活をしている状況があります。そのニュースをただ事実として報道するだけでは、心が動かず「ふーん、そうなんだ」で終わってしまう方も多いかもしれません。しかし、ウクライナからスペインに避難してきた小学生の女の子を助けようと行動するスペインの子どもたちの物語として伝えると、少し話は変わってくる。読者は、子どもたちの行動や考えを知ることで、「平和とは何か」を深く考えてしまうのではないでしょうか。

『ウクライナの子を迎えたスペインの小学校の今 ロシア語で通訳も 子どもたちは戦争をどうみるか』

また、健康や病気に関する内容は誰もが関心を寄せるテーマです。「自分や家族が病気になったとき、どう向き合うのか?」ということについては、多くの人がその答えを探し、知りたいと思っているのではないでしょうか。

以前、私たちのメディアでもこのテーマで記事を公開したことがあります。がんで余命宣告を受けた男性が、さまざまな人形や置物をつくることで、痛みを紛らわせていたという“人物ストーリー”です。この記事では、ただ事実を伝えるだけでなく、男性の行動に対する思いを深く掘り下げることで、読者に「病気になるとは」「生きるとは」といったことをよりリアルに考えてもらうことができたと思います。実際、この記事は多くの反響を呼びました。

『がんで余命宣告 痛みを紛らわせる作品づくりで、人も自分も笑顔になった 「笑いは抗がん剤よりも強い」』

このように、人のストーリーを介しニュースを伝えることで、より具体的に自分ゴト化して捉えることができると考えているからこそ、「人」に焦点をあてたメディアを運営しているのです。

―よりリアルな形でニュースを届けたいからこそ、「人物取材」という形をとったのですね。

そうですね。“人物ストーリー”の魅力は、やはり「誰かの生き方や考え方」から新しい価値観や人生の歩み方を学べる点にあると考えています。私たちは自分以外の人生を生きることはできません。だからこそ、記事を通してさまざまな生き方や考え方を知ることで発見があり、ひいては読者の人生をさらに豊かなものにしてくれると思うんです。

そういう意味では、人の興味も生き方も千差万別ですから、『ほ・とせなNEWS』では特にターゲットの読者像を定めていません。一応、ボリュームゾーンとなる読者は30~40代の女性ではあるものの、記事によってアクセス数の多かった読者層は異なっています。性別や年齢、在住地域を問わず、さまざまな方に読んでいただけたらと考えています。

「想像を超えた新しさ」を追い求めた取材企画

取材先の選定は“3つのニュース性”を大切に。雑談レベルでのネタだしも

―取材対象の選び方を教えてください。

生き方や取り組んでいることに「読者の想像を超えた新しさ」のあるユニークな人、意外な経歴を持っている人、記事を読んだ後に元気・勇気づけられるストーリーのある人を取材するようにしています。加えて、傾いていた家業を黒字化させた、といった「苦しい状態から前向きに頑張っている人」も、読者に人気のあるテーマなので記事にしますね。『ほ・とせなNEWS』は、ただの人物紹介メディアではないため、“人物ストーリー”にジャーナリズムの精神をプラスしながら、ニュース性も大切に記事をつくっています。

―記事に「ニュース性」もたせるため、どのような点を大切にされているのでしょうか。

ニュース性のある記事として、「世の中の関心度があるか」「タイムリーな話題か」「読者への影響度があるか」の3つの要素を大切にしています。広報の方だと、前2つはご存じの方も多いと思いますが、「読者への影響度」という視点もニュースにはとても大切なんです。記事の内容が読者の仕事や人生に何らかの影響を与えられてこそメディアだと言えます。そのため、連携しているライターの方には、単なる取材対象者の人生録にならないよう、企画の段階でこの3つの視点からアドバイスをしており、上がってきた原稿もこれらの原則をもとにチェックしています。

―なるほど。ちなみに、ライターが企画する取材は、各個人のやり方でネタ探しをされるかと思いますが、編集部では日頃どのように取材ネタを探しているのでしょう?

弊社に所属する記者が個別に出してくるネタもありますし、私たちの周囲にいる人から話を聞いて取材に至ることもあります。SNSを運用するチームがいるので、SNSの情報をもとに取材を進める場合もありますね。あとは、時代は巡るものですから、私自身の過去を振り返り、今記事にしたらおもしろい話題はないか探ったりもしています。意外と良いのが、メンバー5~6人で行う雑談会。会議で「何かネタはないか」と聞いても、頭が固くなって出てこないことも多いんです。雑談レベルで「そういえば」と思い出した話題が結構おもしろかったりもするので、雑談をする機会は頻繁に設けています。

プレスリリースには「商品開発秘話」や「創業ストーリー」を組み込んで

―企業から送付されたプレスリリースをもとに、取材することはありますか?

企業からいただいたニュースレターやプレスリリースから、取材テーマのヒントをいただくこともあります。もし『ほ・とせなNEWS』にプレスリリースをお送りいただく場合、私たちが大切にしている「ニュース性」や「タイムリー性」を意識した内容だと取材につながりやすいです。世の中の人にまだあまり知られていないニュースバリューの高い情報はもちろん、年中行事に絡めた季節性の高い話題などが書いてあると、複数届くプレスリリースの中でも目を引きます。コンセプト上、企業や商品をPRしたプレスリリースは取り上げにくい傾向があります。「商品開発秘話」や「創業ストーリー」など、社内にあるユニークな“人物ストーリー”に焦点をあてていただけると、私たちとしてもネタの検討をしやすいですね。

―取材してほしい話題があったとき、何日前にプレスリリースを送ると良いのでしょうか?

前提として、プレスリリースをいただいたすべての企業を取材できるわけではないのですが、私たちの場合は2~3日前に送っていただければ取材可能です。ただ、1~2週間前にいただけると、もう少し余裕を持って対応できるかと思います。メディア内に情報提供の専用フォームを設けているので、そちらから送っていただけると編集部全員で確認できます。

国境を越え「人と人がつながるメディア」を目指す

―『ほ・とせなNEWS』には本当にさまざまな人物の記事が掲載されていますが、特に人気のジャンルはありますか?

「人と動物の絆」に触れた記事は、多くの方に読んでいただけますね。ほかに反響の多いものだと、「どん底から這い上がる」といった頑張る人のライフストーリーや、注目されているライフスタイルを実践している人の記事、専門家に「今話題のこと」について解説していただいた記事も読まれることが多いです。

―立ち上げから1年半とまだ若いメディアですが、多くの方に興味を持ってもらう工夫は行っているのでしょうか?

メディア離れの進んでいる若い方を念頭に置きながら、InstagramやTwitterといったSNSの運用と、『ほ・とせなNEWS』オリジナルで記事のジャンル分けを行っています。SNSは、専門チームをつくり、データをもとに日々試行錯誤しながら運用しています。

また、記事のジャンルも、通常は「経済」「社会」「エンタメ」といった分け方になると思うのですが、私たちのメディアでは「はっとする」「ひぃと驚く」「ふっとほほえむ」「へぇと納得」「ほっとする」の5つでジャンル分けを行っています。今の気分で読みたい記事にたどり着けるようにしたこの分け方は、若い方にきちんと刺さっているようで、実際にこのジャンルから記事を読む方もいらっしゃいますね。

―今後、力を入れて取り組みたいテーマなどはありますか?

私たちは、取材するテーマや注力したいテーマは一切決めていません。世の中のトレンドは日々変わっていくものですから、「人のグッドニュース」を取材するという軸はぶらさずに、さまざまな領域・テーマの記事を配信していきたいと思っています。SNSを開けば、何らかのニュースでいつも誰かが怒ったり、悲しんだりしているように、今の社会は、悲しいニュースや腹立たしいニュースに触れる機会がとても多いように感じます。だからこそ、私たちが「グッドニュース」のみを扱う意義みたいなものが、あるのではないかと考えています。

―さいごに、メディアの今後の展望について教えてください。

さまざまな方に取材して、読みたくなる記事が毎日載っているような、今よりもさらに多様性に富んだメディアにしたいです。また、いろいろな人のつながりが生まれるメディアになればいいなとも思います。先日、記事を読んで興味を持った人とつながり、新たな仕事が生まれたという事例があると聞きました。いずれはワールドワイドに、外国語に翻訳して、記事を海外に配信していきたいとも考えているので、国境を越えてさまざまな人がつながれるメディアに育てていくことができたら嬉しいなと思います。

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