今見直される「テレビだけが持つ価値」とは?業界歴40年の社長に訊くテレビの変遷と未来

映像コンテンツの中で最も長い歴史を持つ、テレビ業界。テレビはこれまで、視聴者である我々に様々な価値を提供し続けてくれましたが、他の映像コンテンツの台頭や新型コロナウイルスの流行など、業界を取り巻く環境の変化により、その価値は今改めて見直されようとしています。長くテレビ業界に従事し、様々な番組の制作を手掛けてきた方々にとって、また我々視聴者にとって、これからテレビはどのように変化していくことが予測されるのでしょうか?

今回は、新連載企画『ニューノーマル時代のテレビ』の第2弾として、大手映像制作会社「株式会社NEXTEP」の代表取締役社長・堤 康一さんに「テレビ業界の変遷と未来」について話を伺いました。

変化するテレビと視聴者の関係性

現役制作者としても活躍する堤社長の日常

株式会社NEXTEP 代表取締役社長 堤 康一さん
1982年、フジテレビ入社。めざましテレビプロデューサー、スーパーニュースプロデューサー、報道局・報道番組部長、情報制作局・制作担当局長を経て、フジテレビ系制作会社(株)NEXTEP代表取締役社長に就任。これまで数々の番組で視聴率改善やトップの獲得、またアワード受賞を果たし、東日本大震災検証番組「わ・す・れ・な・い」ではジョージ・フォスター・ピーボディ賞を受賞した。
同席:株式会社NEXTEP ディレクター 吉崎 真理 さん
2001年よりテレビの制作現場で勤務。情報バラエティや再現ドラマ、料理紀行番組、生放送のディレクターを担当。プロレス好きで、会場で流れる煽りVTRや、プロレスラー番組を作る夢を叶える。産休・育休を経て、主婦目線を活かし、現在はキー局のニュース番組の芸能・情報コーナーのチーフを担当。
インタビュアー:株式会社マテリアル メディアグループマネージャー 波賀 創太
25歳までプロキックボクサーとして活動(最高位:日本ランキング4位)。引退後は、イベント演出家の下でイベント制作及び演出を学び、ファッションに特化したマーケティング会社を経て、株式会社マテリアルに入社。大好きなメディアへの提案に頑なこだわりを持ち、メディア視点を活かして多岐に渡るプロジェクトを担当。提案したアイデアが某大型バラエティ番組の企画となり、2週連続でOAを獲得したことも。ほぼ毎週のようにメディアの方々とお酒を酌み交わしていたため、早く通常に戻ることを切に願っている。

波賀:堤社長は普段どのような業務をされているのですか?

:制作会社の社長として経営らしきことをしつつ、半分は今も自分で番組制作に関わっています。もともとフジテレビ出身で、報道・情報畑で30数年番組制作を続けてきたのですが、突然制作会社で社長をやることになりまして。いい番組を作ることが、制作会社にとって一番の経営であると信じて、僕自身も番組を作り続けてきました。実際、そんなに甘くはなかったですけどね(笑)

吉崎:上の方々もガシガシ働いているので、後輩としては鼓舞されます。

波賀:今現在担当されている番組はありますか?

:これまで比較的広いジャンルに携わってきましたが、ここ2年近くはある事件を取材していて、年内にはその番組を放送できたらと思っています。通常、企画立案も含めて、2つから3つの番組制作に同時進行で関わっていて、その中で僕は完全に現場寄りの仕事をやっています。番組制作を建築に例えると、僕は「設計図」を描くのが一番好きなんですよね。施工や内装をするのももちろん好きですし、骨組みも内装も土台も大事だけど、どれかひとつってなった時に一番自分のイメージを実現できるのは、「設計図」だと思うんです。

”ピュアだった”視聴者の視線の変化

波賀:堤社長はテレビ歴が長い中で、視聴者側の視点と制作者側の視点の両方で見て、テレビ業界の変化をどのように感じていますか?

:40年前は、視聴者がテレビを見る目はもっとピュアでした。ストレートに親近感を感じて、「なんか馬鹿なことやってるけど、面白くて“有為やつ”だなあ」って、親しみを持って観てくれていたと思います。でも今は、疎んじられもしている。親近感と嫌悪感がない交ぜになって、気にはなるけど気に入らない存在…みたいな。その変化に、我々制作者サイドはまだ完全にはアジャストできていないのではないでしょうか。

波賀:なぜ視聴者の視線は、そのように変化したのでしょうか。

:僕は、ひとつはテレビ自体が変質したからだと思っています。僕が入社したころって、「どこにも行けなかったからこの仕事やってる」みたいな、社会からドロップアウトしたような人間がテレビを作っていたんですよ。その頃から狭き門ではあったんですけど、本物のエリートが来るようなところではなかった。それがだんだん人気業種になって、いつのまにかエリートが入社するようになり、“はみ出し者の職人集団”から、“エリートのサラリーマン集団”に変化したんです。それがちょうどバブル期ぐらいの話で、その時代は全ての業種が派手でしたが、テレビはとりわけ派手に振舞っていたように見えたかもしれないですね。そこからだんだん、視聴者から少し疎んじられるようになった気がします。

もうひとつは、テレビしかない時代はそれでも良かったんですけど、今は全く別の映像コンテンツがたくさんありますよね。ネットの映像コンテンツのクオリティが上がって、視聴者からすると、テレビを抜かそうとするネットのほうが応援したくなるじゃないですか。「別にテレビなんかなくたっていいもんねぇ」って、冷たい視線を向けられている感じがして、その変化に制作者サイドはまだうろたえていると思います。

SNSは社会の温度感を探るツール

波賀:そのように視聴者の視線やテレビへの見方が変化する中で、番組の制作方法やトレンドに変化はありましたか?

:日々、番組制作者はとにかく何かを変えようとしています。一瞬たりとも、このままでいいと思っている制作者はいないです。でも以前までは、ある一瞬でダイナミックな変化が起こることがもっと多くて、「テレビ面白いことやってくれるなあ」って、突然変異のように面白い番組が現れたりしていたんですけど、最近はその頻度がどうしても減ってきています。ふとある一定の時間が経って後ろを振り返ってみると、「あぁ、変わってるなあ」って気づく程度。ブランニューな展開の数が減ってきていることも、視聴者から冷ややかな視線を向けられるひとつの要因だと言えるかもしれませんね。

なぜ突然変異が起こらなくなったかと言うと、ひとつは社会の変化で、規制が大きくなったためです。この数十年で、人権、差別、捏造など、コンプライアンスに対する見方がどんどん厳しくなりました。ただこれは社会が成熟した証拠なので、決して悪いことではないのですが。もうひとつは、別の映像コンテンツと広告媒体が現れたことで経営的にも厳しくなって、大型予算の付く番組が減っていったことですね。とはいえ、新たな変化を起こすことが全く出来なくなったわけではないので、現在もなお、今の時代のブランニューを模索し続けています。

波賀:新たな変化を起こそうとする中で、視聴者の声として「SNS」を意識されることはありますか?自分もよくSNSで話題になったものや現象は確認しているのですが、テレビの方々は制作の時点でどれだけSNSの声を気にされているのでしょうか。

:とても気にしていますよ。いつもSNSの動向を見て、世の中の温度を探っています。「こんなことに視聴者は興味を持っているのかぁ」って。SNSリサーチに長けた人から情報をもらって、番組作りの大きな指標にしています。でも、番組の方向性を大きく変えるときや、新しい番組を作るときなど、本当に大きな判断をする時は、大事な指標ではあるけどそのワンオブゼムに過ぎないです。

波賀:SNSをチェックする中で難しいと思うのは、ある特定の話題について、自分の趣味嗜好と似ている人が集まっている中で盛り上がっていても、実は自分の周りだからそれが騒がれているだけで、社会全体で見たらそこまで話題になっていない…みたいなことがたくさんあって。世論の取り方が難しいですよね。

吉崎:特にお年寄りの声とかは、SNSには入っていないですしね。

:だから、SNSの動向を掴めるか掴めないかは、制作側にとって特に若年層のハートをつかむ生命線なのですごく大事にするし、気にもするけど、あくまでワンオブゼムなんです。SNSの声だけを世論として捉えるのではなく、常に全体を俯瞰して見ています。でも、その中でも特にSNSを意識する割合は間違いなく高くなっていると思います。

今見直されるべきテレビの価値

テレビは“タダ”で享受できる「ライフライン」

波賀:ネットの映像コンテンツが充実する中で、堤社長はテレビだけが持つ価値についてどう捉えていますか?

:視聴者も僕らも気づききれていないかもしれませんが、ますますテレビは便利になったと思います。なぜなら“タダ”だからです。同じクオリティを持つ映像コンテンツは増えましたが、それらはおおよそ有料ですよね。このテレビの「タダの価値」って、もう一度見直されても良いのではないかと思います。

特に今回の新型コロナで、テレビの「ライフライン」としての情報発信機能が、生活に欠かせないものであることを、改めて感じてもらえたのではないでしょうか。例えば、「三密を避けましょう」とか、「ソーシャルディスタンスを保ちましょう」とか、最新の情報を知らなければ命に関わってくるようなことは、メディアが盛んに言い続けたから浸透したわけで、その最大の機能をテレビが発揮したと思っています。

波賀:たしかに、自分自身も毎日テレビで新型コロナの状況を確認していました。

:ライフラインとしての機能を保つ中で一番良くないのが、わかっているようでわかっていないことを発信してしまうこと。例えば、新型コロナの件で、「不安を煽るな」と批判がテレビに向けられることがありました。それを受けてテレビは、「正しく恐れる」とか「寄り添う」などといった言葉を使ってしまうことがある。でもその言葉の意味はよくわからない。そうすると、結局我々はどう行動したら良いのかわからなくなります。このように、意味がよくわからないまま、曖昧な言葉を使って番組を作ろうとすると、視聴者は離れていきがちです。

それに、恐らくほとんどの人が、テレビを観ていて不満に思うことがあれば、好き放題に言っていると思います。僕自身もよくああだこうだと文句を言いながらテレビを観てるし、それが良いストレス発散にもなったりするので(笑)。タダで、しかも言いたいこと言って、文句の一つも言い返されないわけですから、こんな便利なものないです。制作側の人間がもう少し時代の変化にアジャストできれば、テレビの便利さがますます増して、また新たなテレビ像が生まれるかもしれないです。そうしたら視聴者も、この「タダであることの価値」と、「ライフラインとしての便利さ」に、もっと気づいてくれるんじゃないですかね。

痒いところに気づかせてくれる報道

波賀:外出自粛や在宅ワークの増加によって、テレビの視聴率が上昇したというデータを目にしましたが、視聴者に対してどのような価値を提供することを意識されていましたか?

:ジャンルによっても違いますが、僕が担当してきた報道情報系で言うと、繰り返しになりますが生活者の「ライフライン」としての機能が最大の価値だと意識してきました。価値ある情報の要点は、①早くて②正しくて③わかりやすくて④鋭くて⑤深い この5つくらいあって、唯一これら全てがバランスよく磨かれているのが「テレビ」だと思っています。そうした情報を総合的にブラッシュアップしながら、ライフラインとしての機能を高めることは、テレビそのものの価値を向上させることにも繋がります。

この5つの要点の中でも、特に僕が報道情報番組を制作する際にいちばん意識していたのは、「⑤鋭さ」です。よく「痒いところに手が届く」ことってあると思うんですけど、「どこが痒いのかわかならい」という人も多いと思うんですよ。どこが痒いのか、つまり何が知りたいのかわからない時、「そこ痒いんじゃない?」って“痒いところを指摘してくれる”ような鋭い報道って、ありがたいじゃないですか?だから僕は、疑問に対する回答を正しく教えてくれる「痒いところをかいてくれる番組」よりも、知りたいって思ってたことに気づかせてくれるような「痒い所を教えてくれる番組」が、最も信頼できると思っています。

波賀:PRでも、最初から生活者が「欲しい」って思っているものを施策でやっても、なかなか情報として広がっていかないですが、そうではなく「あ、これ私欲しかったんだ!」って気づいてもらえるような情報を提供できたときに、話題が広がっていきやすい気がします。

:テレビと似ていますね。情報の勘所はそういうところなんでしょうね。

アフターコロナ時代のテレビはどう変わる?

東日本大震災で変わった番組のトレンド

波賀:堤社長は、この新型コロナのインパクトをどう捉えていますか?

:テレビ業界に対するインパクトは非常に大きいと思います。中でも番組トレンドで言うと、この先また大きく変わる可能性がありますね。

新型コロナ以前で言うと、東日本大震災の後に、番組の内容が「リアル」な志向に大きく変化したと言われました。だとすると、当時フジテレビの得意分野は、例えば“非現実的だけど感動できるドラマ”とか、“ナンセンスだけど笑えるバラエティ”とか、「アンリアリスティック」な世界だったので、東日本大震災の影響はフジテレビに対してアゲンストでした。人々がリアルな方向に傾いていく一方、フジテレビは非リアルな方向で天下を取っていたので、その後パワーが衰える一因になったかもしれません。だから今回も同じように、番組トレンドも制作現場も、もっとリアルなほうに振れるのではないかと思います。

波賀:東日本大震災の時、堤社長はどのポジションにいらっしゃったのですか?

:当時僕は情報局にいましたね。でも、これまでの災害やテロって、ある一定の限られた人の中での危機だったんですけど、新型コロナは全世界中の全人類に関わる出来事じゃないですか。これを経て、人々の関心はまたさらにリアルな方向に向くと思うんです。

それに今回の件で、世界が「一体」であることを思い知らされました。他の国はどうしてるんだろう?って、僕自身も世界の状況を目を皿のようにして見ていましたし、視聴者側も世界の動向にこれまで以上に関心が向くようになったと思います。それと同時に、結局こういうことがあると、身近な生活圏の中に閉じこもらないといけないので、ローカルなものを見直すきっかけにもなりました。だからこれからは、「グローバルな関心」と、身近な「ローカルな関心」、矛盾するようなふたつのリアルが両方伸びるのではと思っています。

報道内容が切り替わっていくタイミング

波賀:2月ごろからずっと新型コロナメインの報道になっていて、報道内容の切り替えが難しいタイミングではないかと思います。何を指針に、新型コロナ以外の情報を扱い始めるのでしょうか?

:制作者は、毎日その日その日の世の中の動きをみて、視聴者が求めている情報を探っているので、それに合わせてなめらかに変化していくと思います。

僕個人が今回の新型コロナの中で特に気になったのは、日本の医療のこと。ICUの数にしても、人工呼吸器の数にしても、「日本の医療ってそんなだめだったの?」って驚いてしまうことが多かったじゃないですか?これまでは日本の医療水準は非常に優れてると思っていたけど、いざ新型コロナが流行すると、全てが世界のお手本になるような状況ではないことに愕然とさせられましたね。

あとは、国力。東南アジアの諸国がしっかり感染対策を行っているのに対して、案外ヨーロッパが苦戦したりしていて。国のパワーバランスが変わってきてること、日本の国力が相対的に劣化してきていることを、誰もが痛感したと思うんです。この辺りは視聴者が特に気になってる部分ではないかと思うので、情報報道というジャンルに限った話だと、この「世界に目を向ける」ということが、一つの考える指針になっていきそうです。

波賀:これまで同じ基準で国同士を比較できていなかったものが、初めて「新型コロナ」という同じ指標が出来たことによって比較できるようになり、相対的に見た日本の国力がわかりやすくなった気がします。これまでテレビを観ながら、同じ基準で「世界がどうだ」って考えることがなかったので。

:まさしくおっしゃる通りで、今回のコロナへの対応で、国力の通信簿を貰っているみたいなものですよね。だから、日本が現状で収まっているのはミステリーだと言われているのはどうなんだろうと(笑)。なので、今後も国力への疑念はもっと出てくると思いますが、報道内容もそれに沿って自然に変化していくと思います。

今後新型コロナ以外の情報はどう取り扱われるのか

波賀:これまでの情報番組では、新商品や新店舗などの最新情報を扱うコーナーが多かったですが、このようなコーナーは今後どうなっていくのだろうって思います。やはりしばらくは、新型コロナに関連しない情報は、テレビでは取り上げられにくいのでしょうか?

:そうですね、今はコロナ禍でも安心して生活できるサービスや、製品に関する情報が最もありがたいです。世の中の関心が高いのもそこですし、新型コロナとの新生活を充実させたり、守ったりするサービスの情報が重要だと思います。他にも注目すべき情報は、ワクチンと治療薬を開発する企業になってきますよね。例えば宝酒造の『宝バイオ』のワクチン開発とか、富士フイルム富山化学の『アビガン』とか。そういう、「よくぞ地道にそういうことをやっててくれたなぁ」って思うような企業の動きには注目していきたいです。

波賀:新型コロナとの関連性の有無に関わらず、番組宛てに日々大量のプレスリリースが届いていると思いますが、これらのリリースについてどう思いますか?堤社長や吉崎さんは、どれくらいリリースに目を通されているのでしょうか。

:一つの番組をプロデュースしていたりすると、毎日莫大な数が送られてきますが、リリース1枚で情報の価値を把握することは難しいので、正直ほとんど確認できていないですね。ただ、「貴重な宝を見逃しているんじゃないか」っていう不安感はあります。とは言え、紙を見ただけではその重要さを測れないですし、かといって担当者に電話するような時間もないので…もどかしさはありますね。だからやっぱり、PR会社や広報の方が足を運んで直接話してくれるなど、1対1のコミュニケションは非常に大切です。

吉崎:波賀さんのように、色んな情報を番組やコーナーに合うようにろ過して、付加価値を加えて情報提供してくれると、こちらとしても取り上げやすくなります。このあたりの情報価値の作り方は、広報スキルが高くないと難しいかもしれないですね。ただ、99%のリリースはそのままにしていると流れていってしまうので、それはそれでもったいないですし、いつも「何か見落としているのではないか?」っていう気がしてしまいます。

テレビ業界の未来と堤社長の野望

曖昧になった情報番組と報道番組の境界線

波賀:堤社長がこれからテレビを通じて発信していきたい情報は、どのようなものですか?

:医療や国力、また最前線で頑張っている企業はもちろん気になっていますが、僕自身は新型コロナに関係なく、もう一度情報の価値(①早くて、②正しくて、③わかりやすくて、④鋭くて、⑤深い)を追求するニュース番組を作ってみたいと思っています。

20年ごろ前、自分が夕方ニュースのチーフプロデューサーになったとき、番組の尺が初めて2時間に拡大されて、ニュースがそんなにないことが多々あって、その時に、番組コンセプトとして「知りたいことは全部“ニュース”だ」ってスタッフに伝えたんです。その結果、視聴者には受け入れられたので良かったんですけど、その後だんだん情報番組と報道番組の境目が薄くなってきてしまって。良いか悪いかは別にして、そうなった原因の一端は僕の中にもあるので、もう一度、「これを見れば世の中のことがちゃんとわかる」っていう”ニュースらしいニュース”を、自分の手で作ってみたいと思います。

波賀:テレビ業界への願望や、テレビでできる余白はどれくらい残っていると思いますか?

:テレビは以前よりも冷ややかに見られているけど、実はものすごい便利になっていて、視聴者の皆様にもそれに気づいて欲しいなって思います。でも、そのように「やっぱりテレビっていいな」って思わせるためには、テレビの新しい姿を見せる必要がありますね。

昔で言うトレンディドラマや『電波少年』、最近では『チコちゃん』など、新たなトレンドを作った“革命を起こす天才”が登場すると、「テレビ面白いなぁ」っていう印象を視聴者に対して与えられるはずですし、テレビの姿もまた変わってくると思います。その卵は今もたくさんいるので、どんどんまた革命を起こす天才が登場して、テレビの舞台で羽ばたいて欲しいですね。

波賀:それでは最後に、もしも堤社長が20代に戻ってまたテレビ業界に飛び込むとしたら、何にチャレンジしたいと思いますか?

:うーん、まったくイメージがわかないですね(笑)20代に戻ってしまったら、今やりたいことがやれなくなる、そんなイメージのほうが強いです。なぜなら、今もまだ現場で制作をしていますし、今やりたいことがまだまだたくさんあるので、むしろ20代に戻ってしまったほうが、やりたいことができなくなってしまうかなって思います。

吉崎:いまだに走り続けている証拠なので、いいことですよね。昔に戻りたいって思わないって、制作者としてすごい励まされます。

取材を終えて

波賀:普段からメディアの方とお会いしたり、お話ししたりする機会は多いのですが、「テレビ業界」という大きなテーマについて会話することは、今回が初めてでした。しかもこのテーマについて、“あの”堤社長とお話しできるという貴重な機会をいただき、大変ありがたく思っております。堤社長がお話しして下さった内容はもちろんですが、長い間人に伝える分野の最前線でご活躍されている堤社長は、常に聞き手側のことを考えた話し方をされており、そういった点でも非常に勉強になりました。

特に印象的だったのは、社長兼プロデューサーという立場にもかかわらず、現場で自らディレクションすること、また視聴者に良い情報を伝えることに対して、強いモチベーションを持っていらっしゃったことです。“視聴者の変化に対して制作側がアジャストし切れていない”と業界の課題を認識し、それを視聴者側の責任にせず、また新たなテレビの価値を見出そうとしている堤社長の姿は、これからのニューノーマル時代のテレビ業界に、大きな期待を抱かせてくれるようでした。また、視聴者が気付いていない、痒い所を指摘してくれるような”鋭い報道”というポリシーを持ちつつも、常に新しく、良くしていこうとする強い信念があるからこそ、「20代に戻ってやってみたいことはない」と自信を持って言えるのだと、尊敬の念を抱きました。

プレスリリースや広報活動のあり方については、PR業界側の課題であり、改めて考えていかなければならない部分であると痛感しました。メディア側は「貴重な宝を逃してしまっている」と感じ、PR会社側もまた「届いていると思っていた情報が、実は届いていなかった」とすれ違っている現状に対して、一刻も早く双方にとってメリットのある形で解決する必要があります。頭の中で分かってはいるものの、なかなか実践できていない“媒体に合わせた丁寧な提案ができる広報スキル”は、今後もさらに求められるでしょうし、私自身もより確実に、また情報価値を最大限に高めた状態で、メディアに提供できるよう意識していきたいです。そして、今後もメディアパーソンとPRパーソンが、ポジティブな形で共存できる方法を模索していきたいと思います。

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