テレ東印のドラマはどう生まれる?あえて“流行りに乗らない”ドラマづくりを紐解く

2022年4月期から、さらに深夜ドラマの枠を増やしたテレビ東京。ニッチで尖った作品が印象的なテレビ東京のドラマはどのように生まれ、視聴者や社会に対しどのような影響を与えているのでしょうか。今回は、テレビ東京のプロデューサーとして、さまざまな作品を手掛ける太田勇さんにインタビュー。プロデューサーの役割から、テレビ東京ブランドが確立されつつあるドラマへのこだわり、ドラマが社会に与える影響力などについてお伺いしました。

株式会社テレビ東京 配信ビジネス局 配信ビジネスセンタープロデューサー 太田
2002年テレビ東京入社。ディレクター兼プロデューサーとして、さまざまなドラマ・バラエティ制作を担当。手掛けた作品として「何かおかしい」「ヒヤマケンタロウの妊娠」「YOUは何しに日本へ?」「ピラメキーノ」「山田孝之の東京都北区赤羽」などがある。

十人十色のプロデューサー職。情報収集に欠かせないのは人とのコミュニケーション

バラエティで培った“スピード”を武器にドラマをつくる

―はじめに、プロデューサーの役割や業務内容について教えてください。

プロデューサーと聞くと、どんな業務をしているのか曖昧で、想像がつきにくいと思いますが、それはプロデューサーによって業務が異なっているからだと思います。企画だけを考える人、企画を考えずに面白い原作漫画を探す人、芸能事務所と関係を築いてキャスティングから企画を練る人、お金周りの管理を行う人など、その手法や業務内容は人によって大きく変わってきます。企画に対するスポンサー探しなど、制作会社でいう営業活動のような業務をするプロデューサーもいます。ただ、ざっくり線引きをするのであれば、作品を生み出すところから撮影の現場に入るまでがプロデューサーの仕事で、撮影現場に入ってから仕上げまでがディレクターの仕事と捉えられることが多いですね。

―作品の撮影に入るまでのあらゆる業務を行っているのがプロデューサーなのですね。

そうですね。この前提があった上で、私が「ディレクター兼プロデューサー」と名乗っている理由は、元テレビ東京(以下、テレ東)のディレクター・佐久間宣行さんから受け継いだ考え方があるからです。佐久間さんはディレクターでありつつも、「プロデューサーでなければ自分のやりたい企画を通せない」という考えのもと、プロデューサーの業務も兼任されていました。その教えが今の私のベースになっていますね。

―太田さんは、バラエティからドラマと幅広い制作を担当されていますが、そんな太田さんならではの強みなどはあるのでしょうか。

1番の強みは、「スピ―ド」ですね。バラエティの現場は、出演いただく方が売れっ子だと、さまざまな局で、1日に何本も収録があるので、撮影時間が結構シビアに決められているんです。そのため、とにかく無駄を省いたスピード重視の仕事が求められていました。一方、ドラマの現場では、主演がドラマを掛け持ちしているなんてことはないので、バラエティ番組に比べると、ゆとりをもったスケジュールで撮影が進んでいきます。

個人的に、バラエティの現場のような、効率の良い撮影は好きなので、私のドラマ撮影の現場では、段取りやリハーサルを行わず、本番一発撮りをしたりするケースもあります。通常、深夜ドラマ1話で最低でも撮影に2日かかると言われているんですが、ParaviとYouTubeで先行配信していて、現在放送中の『何かおかしい』というヒューマンホラーサスペンスのドラマ作品は、3日間で6話分の撮影を行いました(笑)。そういった意味では、ずっとドラマの現場を担当されている方と、撮影に対する根本の考え方が異なるのかもしれませんね。

ドラマの企画アイデアはどこから生まれるのか?

―プロデューサーとして作品を生むために、さまざまな情報収集をされていると思います。その際に意識していることなどはあるのでしょうか。

意識しているのは、色々な人に会うようにすることですね。私の場合、芸能事務所の方、制作会社の社長、バラエティの作家さんなどが多いです。特に、バラエティの作家さんの中には、レギュラーを10~20番組抱えて、さまざまなテレビ局を出入りしている方がいます。そういった方は、1日で色んな人から多岐に渡る新鮮な情報を仕入れているので、積極的にコミュニケーションを取るようにしています。

また、テレビ局以外の人に会うチャンスがあれば、意識的にアプローチしています。たとえば、昨年の10月に放送した『JKからやり直すシルバープラン』という、女子高生がお金のライフプランを立てる描写のあるドラマでは、ファイナンシャルプランナーの方にお会いして、台本の監修を担っていただきました。私の立場からすると、ファイナンシャルプランナーの方と接点を持たずとも制作は進められるのですが、あえてお会いしてお話することで、自分の情報収集の幅を広げています。

―なるほど。人とのコミュニケーション以外に、他局のドラマなどの映像作品から情報やアイデアを得る機会も多いのでしょうか。

多いですね。ドラマで言うと、毎クール全局のドラマの第1話は必ず見ています。現在は、30~35本くらいの数がありますね。そこで、傾向を掴んだり、情報を得たりしています。今は、配信サービスが台頭していることもあり、1話が面白くなければ続きを見てもらえません。もっと言うと、第1話の頭10分と続きを期待させるような話の終わり方(クリフハンガー)が大切になります。他局の作品を見る際にも、そこでどのような要素が盛り込まれているのかは、意識的に見ていますね。

また、ドラマからの情報収集を、芸能事務所の方とのやり取りに活かしています。本来は、作品の制作を通じて頻繁に連絡を取ることが1番良いですが、先述したように、私は「ディレクター兼プロデューサー」という立場なので、携われる作品の数も、通常のプロデューサーより少なくなってしまうんです。そのため、「○○さんが、あのドラマに出演されていましたね」といった形で連絡を取ったりしています。そこから派生して企画が生まれることもあるので、自分を覚えておいてもらうためにも、こういったコミュニケーションは欠かさないようにしていますね。

目指すのはテレ東印のドラマブランドの確立

「ライフスタイルに紐づいたニッチなドラマ」で独自の路線を攻める

―そのような情報収集を経て、テレ東ではどのようにドラマの題材やテーマを決めているのでしょうか。

テレ東の方針というわけではないですが、僕の場合は、「やらない題材」を決めています。現在、テレビのメイン視聴者は女性で、激しめの不倫を題材にした尖った恋愛モノや、BL系のドラマが強く、実際に放送すると外れることはそうありません。ただ、僕はそこを狙いにはいきません。僕らの部署では、傾向として「ライフスタイルに紐づけたニッチなドラマ」を多く手掛けています。『サ道』ドラマシリーズなどが良い例です。独自の路線の作品づくりを意識しているため、その分当たらないことも多いですが、テレ東のドラマがひとつのブランドとして確立し始めているなと感じています。

―ある種、王道ではない作品がブランドとして受け入れられ始めているのですね。

そうですね。たとえば、フジテレビの月9のように、「ヒットして当然」という枠に比べると、求められるハードルがそこまで高くない分、色々と挑戦できる環境なので、むしろ、王道でなくてもいいと考えています。フットワークを軽くして、これからもニッチな作品をつくっていきたいですね。

―現在、テレ東では「深夜ドラマ」に力を入れているとのことですが、その背景にはどういった理由があるのでしょうか。

深夜ドラマに力を入れ始めたのは、バラエティ番組に比べるとドラマの方が配信サービスでよく見てもらいやすい傾向にあるんです。先述した「ライフスタイルに紐づけたニッチなドラマ」という方向性の作品から、「テレ東の深夜ドラマ=尖った作品」という印象を与えることができ、さまざまな配信会社やスポンサーの方から「一緒にドラマを作りたい」とお声がけいただけるようにもなりましたね。

ドラマは堅苦しいテーマもエンタメに昇華できるコンテンツ

―チャレンジングな作品づくりを続ける太田さんから見て、ドラマは視聴者にどのような影響を与えられるコンテンツだと思いますか?

ドラマは、ニュースで真正面から取り上げると堅苦しくなってしまうものを、もう少しやわらかく届けられるコンテンツだと考えています。たとえば、最近私がプロデューサーとして入った『ヒヤマケンタロウの妊娠』は、斎藤工さん演じるヒヤマケンタロウという男性が妊娠をするという内容なのですが、コメディと言うよりは社会的な風刺が効いている作品なんですね。これをドキュメンタリーなどでつくってしまうと、テーマとして重すぎると判断され、視聴されることは難しいと思います。こういった題材をドラマで扱うことで、エンタメに昇華でき、より多くの人に見てもらうことができる。これが、ドラマが与える大きな影響力だと思います。

―『ヒヤマケンタロウの妊娠』は、作品のビジュアルも非常にインパクトがあります。

文字だけだと読み飛ばしてしまうものでも、このようにビジュアル化することで、目に留まりますし、作品自体の捉えられ方も変わってきますよね。最近では、こういったテレ東の尖った作品に対して、業界内の方からお褒めの言葉をいただくこともありますね。そういった意味では、テレ東のドラマは、視聴者だけではなく、業界や社会に対しても少しずつ影響力を与えられるコンテンツになりつつあるのかもと感じます。

―ありがとうございます。さいごに、これからどんな挑戦をされていきたいですか?

今後は、シリーズ化できるオリジナル原作ドラマをつくりたいと考えています。近年、海外資本の配信サービスの台頭により、日本のドラマが衰退していくと叫ばれていますが、私はそんなことはないと思っているんです。低予算で作られたドラマでも、面白ければその作品のあるところに人は集まってきますよね。なので、予算だけが全てだとは思っていません。これからも、ひとつでも多くのオリジナル作品をつくって、“テレビ東京ならでは”のコンテンツを提供していきたいです。

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