第三者の商品評価が小売を動かす!テスト誌LDKが消費行動に影響を与える理由

優れた商品やさまざまな情報で溢れ、モノ選びにも一苦労な現代。オンライン上で買い物を済ませる機会が増え、クチコミの影響力も大きくなる一方で、発信元や根拠が不透明であり、信憑性が確証できないという課題も残ります。実際に試したくても試せない、欲しいけど失敗したくない。いつの時代も変わらない、これらの消費者ニーズを真摯に受け止め、専用のラボでいくつもの商品テストを行ってきた『LDK』は、人々の消費行動に対してどれだけの影響力を持っているのでしょうか。

今回は、気になるテスト商品の選定方法から、ベストバイに選ばれた商品の売れ行き、またLDKでのテスト結果が小売に与える影響まで、LDK、LDK the Beautyの責任者を務めながら、テストメディアの新たな可能性を模索するマーケティング事業部を統括する、株式会社晋遊舎編集局の木村大介さんに話を伺いました。

信頼と消費意欲を高める“第三者の商品評価”

令和時代、消費行動はどのように変化したか

晋遊舎の専門テストラボ「LAB.360」にて ※撮影時のみマスクを外しています

-木村編集長は、ここ数年の消費行動の変化についてどのように受け取っていらっしゃいますか?

今の物選びの2本柱は、大きく①クチコミ②第三者からの商品評価のふたつだと考えています。

数年前からクチコミは消費者の選択を左右する指標として重視されていますが、今後もさらにパワーを持ち続けると思います。年代に関係なく、Amazonや楽天などのECサイトでレビューを見てから購入する方は多いですし、「商品名 メリット」などと欲しい商品のメリット・デメリットを検索して検討することも多いです。他にも、美容コスメ系に関しては、アットコスメやLIPSのようなレビューが売りのウェブメディアもあります。“自分の体験を誰かに伝えたい”と思うのは人間の性なので、これまでもこれからも変わらないと思いますし、商品の購入を検討している側にとっても、ユーザーのリアルな感想や幅広い意見が得られるため、クチコミはモノ選びに必要な指標のひとつとして価値があります。

しかし、そんなクチコミにも問題点があります。クチコミでは、発言元や具体的な根拠までが把握できなかったり、ステマが紛れていたりするため、決して100%純粋なレビューとは言えないんですよね。また、デジタル・SNSネイティブ世代は消費者としても賢いので、そういったレビューを鵜呑みにすることもなかなかありません。そこでクチコミの信憑性を高めるためにも求められるのが、第三者としての根拠に基づいた「商品評価」です。

一般的なクチコミとLDKで行っている商品評価の最大の違いは、発言元だけでなく、具体的な客観的根拠も明確になっている点です。クチコミは、一部を除いてニックネームや無記名性である一方、LDKは身元をしっかり提示しています。また、クチコミは書いた人の主観が入りますが、LDKは検証項目のひとつである科学的データ等も重視しています。クチコミを見て商品を選択する人が増えれば増えるほど、クチコミの信憑性を確かめるためにも、第三者の商品評価を求めるニーズも高まると考えています。

-メディアやメーカーでも、第三者からの評価として専門家からコメントをもらうケースが多いと思うのですが、そことの違いはありますか?

我々も専門家のご意見をお聞きすることもありますが、その声を大切に汲み取りつつも、決してすべてをそのままに伝えるようなことはしません。専門家はあくまでも「オピニオンリーダー」としての立ち位置であり、専門家の意見を参考にさせていただきながら、最終的には自分たちでの検証も含めて評価しています。

メーカーや小売からの信頼も厚い“LDKのベストバイ”

-オンライン上での買い物が増えたことにより、更に「第三者の意見」が求められるようになったと思うのですが、メディアとして発行部数やPV数など何か変化はありましたか?

おっしゃる通り、第三者の意見の重要性や需要は確実に上がったと思います。the 360.lifeというWEBメディアを運営しているのですが、実際に去年の4、5月や今年のPV数はかなり好調ですし、外出自粛によって時間に余裕ができたからか、雑誌の売り上げも堅調でしたね。

-実際に、LDKさんのお墨付きを得たことによって、売上が伸びた商品などはありますか?

完全に消費者目線の商品評価だからこそでしょうか。「LDKやLDK the Beautyのベストバイがついた商品の売り上げが伸びた」という声は、各所からいただいています。

クチコミの文化が普及して、消費者も賢くなったことにより、メーカーがどんなに主体的に商品の魅力を訴求しても、それが響きにくくなってしまっている部分があります。また、「○○売上No,1」「○○クチコミNo,1」のようなマークも今や飽和してしまい、どれが本当に良い商品なのかが一目ではわかりにくい現状です。

しかし、LDKのベストバイマークは、忖度なく客観的なテストによって選ばれた“本当に良いもの”にしか付いていないマークであるため、消費者だけでなく、メーカーや小売からも厚い信頼をいただいています。ベストの数も現状それほど多くないため、その希少価値から実際の売り上げにも繋がりやすいようです。LDKのベストバイがついたことを、ニュースリリースやSNSなどで発信してくださっている企業もあります。このあたりは、現在新たな事業として行っているものもあるので、後ほど触れさせていただきます。

LDKの商品テストが消費行動に及ぼす影響

商品改良にも生かされるLDKの商品評価

後ろではヘアカラー剤のテストを実施中

-“忖度のない評価”となると、どうしても低評価を付けなければならない商品も出てくると思います。そうやって低評価をつけたメーカーからは、どのようなリアクションがありますか?

昔よりも、低評価に対するメーカーからの反発は少なくなりました。以前は評価によっては、「納得いかない」などと敵対視されてしまうようなこともありました。しかし、唯一無二の商品が生まれにくく、優れた商品が飽和している近年では、むしろ「取り上げて評価してもらいたい」などと、ポジティブな声をいただくことが増えました。社内では提案しにくかった改良点についても、LDKという第三者からの指摘によって聞き入れてもらいやすくなるなど、商品レベルのボトムアップに貢献できているようです。

また、さまざまな情報で溢れて、メーカー発信の広告が刺さらなくなってしまった時代では、第三者目線の評価が非常に重視されています。それは小売でも同様で、メーカーの主張以上に「世間的な意見」が重視されるため、実際にメーカー側が小売のバイヤーへ商品を売り込むような交渉の場でも、LDKの掲載が意思決定の材料として使われているという話を伺いました。大ヒットが生まれにくい分、メーカーは新商品の数でカバーしなければならないため、棚を取るのも一苦労です。その場面においても、LDKの忖度ない評価は参考にしていただけているそうです。

-そのような場面でも活用されることを想定して、小売側に対しても何かコミュニケーションを取ったりされていたのですか?

あくまで消費者に対する“本当に良いものを選びやすくしたい”という思いから生まれた雑誌であるため、正直そこまでの使われ方は当初予測していなかったですね。そのため、特別なことは特にやっておりませんが、LDKのお墨付きが売れているという結果や、普段の忖度ないレビューから、信頼をいただいています。

最近は、LDKの価値を感じてくださった小売との店頭コラボにも積極的に取り組んでいます。イトーヨーカドーの新百合ヶ丘店では、すでにコスメ専門の姉妹誌LDK the Beautyの情報発信コーナーを展開していますし、ドラッグストアのアインズ&トルペとの店頭コラボも新たにスタートしました。良い商品と出会える場を、店頭という“リアル”で提供できることは、我々にとっても初めての取り組みですし、非常に嬉しく思います。

販路ごとの人気商品や隠れ実力派商品をテスト

イトーヨーカドー新百合ヶ丘店のLDK the Beautyコーナー

-特に、マーケティングや広報の担当者は気になる部分だと思うのですが、普段テストする商品はどのように選定されているのでしょうか。

テストする商品数を増やすだけでは価値がないと思っているので、大きく下記カテゴリーの中からまんべんなく選定するようにしています。

  • 定番商品
  • テレビCMなどで積極的に打ち出されているような新商品
  • 店頭では見かけないが、楽天などのECで売上1位を獲得しているような商品
  • LOFTや東急ハンズなど、販路ごとに人気を誇っている商品
  • 派手な宣伝はしていないが、ずっと店頭の棚に置かれ続けている商品・・・など

「派手な宣伝はしていないが、ずっと店頭の棚に置かれ続けている商品」は特に、目立っていなくてもずっと売れ続けている=その商品力の高さから、根強い人気を持っている可能性がある。そういった商品の実力を知りたいという思いで選定しています。このように、目立っている定番商品から販路ごとの人気商品まで、様々なところからピックアップしてテストを行った結果、本当に素晴らしい商品が見つかることもあれば、その反対もあります。実際にテストをして初めて、商品の本当の良さや実力が明らかになることは往々にしてあるんです。

-本格的な商品テストを行う中で、広告の謳い文句と乖離がある商品に出会うこともあるのではないかと思います。

謳い文句と乖離がある商品は正直よくありますね。唯一無二の商品が生まれにくい世の中なので、他と差別化するために謳い文句を誇張してしまう気持ちもわかります。しかし、このようにテストを行うと商品ごとの差は必ず明らかになりますし、クチコミで見抜かれることもあると思います。プロモーションももちろん大切ですが、今は本当に良い商品は第三者のレビューによって拡散されるパワーを持っているため、いかに商品改良を繰り返して商品のレベルを高めていけるかが肝だと思います。

特集は読者のリアルな不満から逆算して考える

-特集はどうやって組まれているのですか?

生活必需品であり、たとえばシャンプーのように種類が多いものは、年1回以上必ず取り上げています。その他には、時勢に応じてヒットしているものや、季節性のあるもの、また読者から調査依頼があったものを中心に、特集を検討することが多いです。

-このコロナ禍で、調査依頼が増えたジャンルなどはありますか?

読者の声としてよく届いたものは、ハンドソープや、自宅で使える運動グッズのような、家ごもり需要品ですね。また、テストではありませんが、生活に関する豆知識や、生活が楽になるテクニックなどの記事は、コロナ禍で特に人気が上がりました。例えば、スーパーマーケットの活用術や、楽な買い物の仕方、「がんばらない夕ご飯」のための、ブランド別冷凍野菜の美味しさ比較など、読者層の消費者が楽に生活できるような情報のニーズが高まっています。

これらの特集は、主に読者との座談会で得た「リアルな悩み」や「不満」から逆算して、そこに対する解決策を提示するようなスタイルで組んでいます。「毎日スーパーに行きたくない」という不満があれば、「それじゃあ毎日スーパーに行かなくて済むいい方法はなんだろう?」と考え、それを企画に落とし込むようなイメージです。

-座談会は普段どのように行っていらっしゃるのですか?

これまでは、誌面やSNSで募った読者の方々や、スタッフつてで読者層に近い方々に集まっていただき、定期的に座談会を開催していましたが、コロナ禍で対面で集まることが厳しくなり、メールや電話で1対1でヒアリングを行うことも増えました。その結果、座談会を行っていたときよりもリアルな声が聞ける例も増えました。集団だと参加者の方々が周囲の声に同調して、「生」の本音に届かない場合もあるということがわかったんです。

どうしても座談会では、周りを意識した、見栄を張った意見になってしまいます。たとえば、誰かが「ファンデーションはやっぱりいいやつ使ったほうがいいよね」と言うと、他の参加者も同調して「そうだよね」と言います。しかし、その裏には実は「本当は安くていいものがあればそれでいいじゃん」という本音が潜んでいて、その意見を持った人のほうが多数派だったりします。美容意識の高い人の声がどうしても目立ってしまいますが、それ以上に“安くていいもの”を求めている方のほうが多いんです。読者層の中でも、ここに対する金銭感覚や意識の高さは異なるので、1対1で話すことによって内なる本音が聞けたのは嬉しい誤算でした。コロナが明けた後も、みんなで話す座談会に加えて個人ヒアリングは続けていく予定です。

本当に良い商品を消費者に真面目に届ける

LDKブランドそのものをマーケティングする

-今後LDKでテストしてみたいジャンルはありますか?

現状、読者層が特に興味のあるジャンルを最優先でテストしているため、まだまだテストしきれていない商品やジャンルがたくさんあります。今後はそれらを網羅するために、紙はもちろんウェブでもしっかり展開していくという方針です。雑誌では引きが弱くても、調査すべきジャンルは多岐に渡るので、そういったものはウェブでロングテールでやっていきたいですね。雑誌でニッチなテーマを取り上げることは新しい側面も多いのですが、反対にウェブの場合はニッチであることが大切です。

また、テストを売りとした出版社にしかできない事業の機能も高めていきたいと考え、編集部とは別にマーケティング事業部も組織されました。はじめは、商品選びに迷った際の指標になるようにと、消費者向けにベストバイマークを誌面上で掲載していただけなのですが、メーカーから「マークを使いたい」という依頼が増え、この2年で専門の部署を整えたんです。今後は、ベストバイマークが貼り付けられた商品のその後の売れ行きなど、統計まできちんと取っていければと考えています。

とは言え、ベストバイマークのみではその事実しか伝えられず、いかに優れているのかという部分まではわかりません。そこで最近は、マークを購入してくれたメーカーに対して、テストの様子や選定の根拠を動画に編集して、格安で提供するサービスも始めました。動画の使い先は多く、公式サイトのLPや、Amazonの商品写真一覧、店頭モニターなど、さまざまな場所で活用いただいています。実際に動画を店頭に設置してくださったあるメーカーは、180%くらい売り上げが伸びたと教えてくださりました。先ほど触れた小売りとのコラボも、マーケティング事業部が実施しています。売り場では、どの商品も同じようなことを謳っているため、どれを選ぶべきか悩んでしまいますよね。そんな時に、メーカー自身ではなく第三者によって発信された情報があることで、目にとめて信頼してもらえます。

出版業界の常識を覆すLDKの挑戦

-さいごに、テスト雑誌の責任者としてこれから挑戦したいことを教えてください。

出版業界は年々縮小傾向ですが、LDKはもともと広告収入に一切頼っていないため、出版不況の打撃は同業他社ほどはありません。その分他の雑誌に比べると原価率は高いですが、本を売ることだけに固執するのではなく、本を軸にあらゆる展開に挑戦しているため、大きな問題はないと思っています。

LDKのマーケティング部の役割は、雑誌を買わない人にももっとLDKの商品評価をリーチさせることです。これからは誌面だけでなく、ウェブでの展開や、ベストバイマークを活用したマーケティング、また売り場づくりに至るまで、さまざまな手段を用いて本当に良い商品を消費者に届けていきたいです。ただ純粋に、「世の中にある良いものがたくさん売れて欲しい!」という思いでこれからもたくさん調査し続けたいですし、商品が溢れる現代だからこそ、LDKが消費者の選択を助ける存在でありたいと思います。


木村 大介
1978年生まれ。東京都出身。生活情報紙記者、広告・広報制作を経て、2010 年に株式会社晋遊舎入社。2016年にLDK編集長に就任し、現在は編集局・LDK事業部長として、LDKとLDK the Beautyの責任者を務める傍ら、新たに誕生したマーケティング事業を推進する。

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