1990年代から、深夜帯のバラエティ番組にも力を入れているテレビ朝日。2020年10月よりその放送枠をリニューアルし、それまでの『ネオバラ』シリーズから、『バラバラ大作戦』へと生まれ変わらせました。そんな『バラバラ大作戦』では、番組同士がしのぎを削る「バラバラ大選挙」をはじめ、視聴者参加型のコンテンツを多数展開しています。
今回は、テレビ朝日で番組編成・企画を統括する吉冨大輔さんにインタビューを実施。『バラバラ大作戦』誕生の背景から番組制作の裏側、視聴者を巻き込んだ番組づくりのポイントなどについてお聞きしました。
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「テレビコンテンツ離れ」を避ける新しい取り組みを。放送枠刷新のワケ
―まずは『バラバラ大作戦』がどういう放送枠なのか、改めて教えていただけますか?
『バラバラ大作戦』は、2020年10月より新たに開始した深夜帯のバラエティ放送枠のことです。月曜日~木曜日は深夜1時56分から、金曜日は深夜2時20分から、2~3個の番組を深夜3時まで放送しています。この放送枠の特徴は、一つひとつの番組がCM込みで20分と短尺なこと。昨今の視聴者のテレビ離れやスマホでの動画視聴の増加など、ライフスタイルの変化も意識しながら番組を構成しています。
メインの視聴者は、男女問わず10~30代のバラエティ好きの方です。ただ、深夜帯の放送ということもあり、リアルタイム視聴にはあまりこだわらず、見逃し配信をはじめ、色んなプラットフォームで楽しんでいただきたいと考えています。「テレビ離れ」ではなく「テレビコンテンツ離れ」にならなければいいなと思っています。
―『バラバラ大作戦』は、なぜ誕生したのでしょう?
大きなきっかけは、コロナ禍です。ちょうど秋の番組編成に向けて議論を開始した2020年4月、新型コロナウイルスが猛威を振るい、ご存じの通りテレビコンテンツを含めた動画配信の視聴者が増えました。少し前に、最近の楽曲はイントロが非常に短いということが話題になっていたように、コロナ禍を機に、多くの人が「手軽に」「早く」楽しめるコンテンツを求めている印象があります。そんな世の中の流れを踏まえて、新しい取り組みができないかと社内で検討した結果生まれたのが、『バラバラ大作戦』なのです。
―そもそも、テレビ朝日におけるバラエティ番組の制作方針は、どのようなものでしょうか。
時間帯にもよりますが、基本的には「オールターゲット」で多くの方に楽しんでいただける番組をつくりたいと考えています。ただ、時間帯や曜日によって、大きなコントラストをつけていますね。ゴールデンタイムや土日に放送する番組は、子どもから高齢層の方まで楽しめるものをつくり、逆に深夜帯は若年層向けに番組を制作しています。
テレビ朝日としては『ネオバラエティ』と称して、1993年から深夜帯のバラエティ番組づくりに取り組んできました。代表的な番組には『アメトーーク!』や『激レアさんを連れてきた。』『ロンドンハーツ』などがあります。これらの番組に共通する挑戦マインドは、『バラバラ大作戦』に変わった今でも大きくは変わっていません。
番組を通じた選挙に若手育成…今までにない深夜帯ならではの挑戦
「選挙」を通じ視聴者と一緒に番組を育てる
―深夜帯だからこそできるチャレンジとは、具体的にどのようなことなのでしょうか。
1つは、やはり「選挙」という仕組みを取り入れたことでしょうか。『バラバラ大作戦』では、各クールごとに、放送中の全14番組から最もおもしろいものを決定すべく『バラバラ大選挙』を行っています。視聴者とテレビ朝日社員による投票で、最も票数を集めグランプリに輝いた番組は、1時間の特番を放送したり、もう少し早い時間帯の放送枠へと「昇格」になったりします。ゴールデン番組だと、このような取り組みは難しいです。選挙があることを前提に放送枠を構えたことは、ひとつの挑戦的な試みだと思います。
また、番組制作においても、さまざまなチャレンジができる環境を整えています。番組を盛り上げたり、おもしろくしたりするためなら、どんどん好きなことをしてほしいとスタッフには伝えていて。イベントを開催したり、『カメラを止めるな!』の上田監督とスピンオフムービーを制作したり、番組同士でコラボレーションしたりと、制作費は多くなく大変な作業も多いと思うのですが、フレキシブルに動ける身軽さが『バラバラ大作戦』にはあると思います。
―「選挙」という仕組みを取り入れたことに、何か狙いや理由はありますか?
投票結果で番組の価値がすべて決まるわけではないことが前提のうえで、選挙という仕組みを導入した理由は2つあります。
1つ目は、投票結果が番組支持のひとつの指標となるからです。深夜帯はリアルタイムで視聴する人が限られているため、ゴールデン番組のように「視聴率」という分かりやすい指標がありません。ですから、番組への好意や評価を測るには、視聴者やテレビ朝日社員からの投票制度がうまく機能するのではないかと考えました。
2つ目は、投票してもらうことで視聴者を番組づくりに巻き込めると考えたからです。テレビ局のコンテンツは、どうしても一方的に「お届けする」だけになっていることが多い。でも、投票制度があれば、自分が推している番組をグランプリにすべく友達に勧めたり、SNSで番組のおもしろさをシェアしてもらったりしやすくなります。番組を一緒に育てている感覚を、視聴者に持ってもらえるのではないかと考え、「選挙」という仕組みを取り入れることにしたのです。
若手クリエイター育成を兼ねた制作方針が現代流のヒット番組を生む
―今回の第4回選挙で『トゲアリトゲナシトゲトゲ』がグランプリに輝いた理由は、どこにあると思いますか?
『トゲアリトゲナシトゲトゲ』は3期目の選挙参加で、今回初めて念願のグランプリを獲得しました。受賞できた理由は複数あると思っています。
1つ目は、MCを務める3時のヒロイン・福田麻貴さん、Aマッソ・加納さん、ラランド・サーヤさんの3名が化学反応を起こし、そのおもしろさが画面に出ていたこと。異なるグループに所属する彼女たちの掛け合いが絶妙なおもしろさを生み出し、それが視聴者に支持されたことは大きな要因だと思います。
2つ目は、MCの化学変化を引き起こすために、スタッフが「企画」を通じておもしろくしようと、知恵を絞って努力したこと。『バラバラ大作戦』で放送している番組は、実は制作費がかなり限られており、番組を盛り上げるためには企画の力も必要不可欠なのです。若手スタッフの創意工夫も奏功したと考えています。
3つ目は、MCの皆さんが積極的にSNSなどでの告知や、選挙活動を行ってくださったことです。それらの告知を見て、「そろそろトップをとらせてあげたい」と番組ファンの方が団結してくださったことも影響していると思いますね。
―『トゲアリトゲナシトゲトゲ』の制作は、若手スタッフの方が中心なのですか?
そうなんです。この番組に限らず、『バラバラ大作戦』は入社10年目未満の社員がつくった企画から生まれるものが多く、制作チームも若手スタッフを中心としている場合が多いです。若手クリエイターの育成場所としても機能しているんですね。若手が企画を書いて、それが通ればディレクターとして出演者交渉から演出まで、番組全体のプロデュースを任せてもらえます。ある意味で、社内スタートアップのような位置づけの放送枠かもしれません。
このように若手が挑戦できる環境は、2007年入社の私の若手時代にはありませんでした。中堅社員が企画をバンバン通していく中で、若手が企画を通すのは針の穴に糸を通すほど難しいもの。若手には一緒に仕事をしたいタレントを巻き込みながら、やりたいことに挑戦して、さまざまなアイデアを実現していってほしい。ここで実力をつけて、いずれはゴールデン番組など他の放送枠で活躍できる人材に育ってもらえたら嬉しく思います。
MCの新たな魅力を引き出せるかが鍵。目指すのは放送枠のブランド化
―『バラバラ大作戦』を開始して約2年。さまざまなチャレンジを続ける中で、少しずつ知見もたまってきたのではないかと思います。現代において、視聴者に刺さるコンテンツをつくるうえで大切な要素は何だと思いますか?
正解がないのが難しいところですが、ひとつ思うのは「人気のタレントや芸人を出せば人気番組になるわけではない」ということです。企画と出演者がマッチし、“MCの新しい魅力を引き出すマジック”を番組の中でつくれるかどうか。ここが大切なように思います。
たとえば、『バラバラ大作戦』から水曜深夜0時15分の放送枠『スーパーバラバラ大作戦』へ昇格した『キョコロヒー』(現在は月曜23時45分の放送枠に昇格)は、日向坂46の齊藤京子さんとお笑いタレントのヒコロヒーさんという意外な組み合わせの2人が化学反応を起こした結果、人気が出た番組です。そういった「組み合わせの妙」から、いかに出演者の新たな一面が見られる企画をつくるか。現代の視聴者に刺さるコンテンツをつくるうえでは、そういったことが大切なのではと考えています。
―『キョコロヒー』のような出演者の人選は、どのように決めているのでしょうか。
企画をつくった若手ディレクターに完全に任せていますね。彼らが持っている人脈や日ごろ接している情報源などから着想を得て、出演者をはじめとした企画を考えている人が多いようです。たとえば、10月から新しく始まった『トンツカタン森本&フワちゃんの「Thursday Night Show」~学ばない英語~』は、担当ディレクターが「トンツカタンの森本さんとフワちゃんが実はとても仲が良く、2人とも英語を話せる」という共通点に目を付けたことから実現した企画です。
―企画の立て方については、この時代だからこそ意識することはありますか?
放送する時間帯や番組の性質によっても変わってくると思いますが、あくまでバラエティに関して言えば、やはり視聴者に寄り添う内容にする必要があると個人的には思っています。テレビが与えるものがすべてという空気の漂う、偉そうな企画は求められていない気がしますね。
―さいごに、『バラバラ大作戦』という放送枠で描く、今後の目標や展望について教えてください。
バラバラ大作戦をスタートした当初から描いていることなのですが、今後は放送枠のブランド化を進めていきたいと考えています。ラジオの世界でいうなら、「オールナイトニッポン」のようなブランド力を持ちたいですね。
オールナイトニッポンは、あの放送枠で誰が番組を持つのかがいまだに話題になりますし、そこに出ることが、タレントさんにとってもひとつの勲章となっています。また、イベント開催など、ブランド力を活かした挑戦も続けていますよね。
バラバラ大作戦も同じように、「テレ朝の深夜帯を観れば、おもしろい番組がありそう」と思ってもらえるような放送枠に成長していきたいです。加えて、業界関係者からも「事務所のタレントを出演させたい」と評価していただけるようなブランドにできたらと思っています。バラバラ大作戦をスタートさせて約2年。ブランド化の兆しが少しずつ出てきているため、今後も深夜帯ならではの挑戦を積極的に続けていきたいです。
広報歴7年のフリーライター。中堅大学、PR会社、新規事業創出ベンチャーにて広報・採用広報を経験。2021年より企業パンフレット、オウンドメディア、大手メディア、地方メディアなどでインタビュー記事を執筆中。書籍の編集・ライティングも行う。