『岩下の新生姜』社長直伝!“感謝”を形にするTwitter運用がファンに愛され続けるアカウントをつくる

企業における広報・PR活動では、SNSを駆使して生活者に情報発信することが主流になっています。有益かつ生活者の目線に立った情報提供を行えば、企業のブランドイメージや認知度の向上、企業とファンとの良質な関係構築につながることでしょう。

そんな中、Twitterをうまく活用しながら、ブランドエンゲージメントを高めることに成功しているのが、『岩下の新生姜』を販売する岩下食品です。他の企業と異なる最大の特徴は、社長が自らTwitterのアカウントを運用し、情報発信に取り組んでいること。Twitterを起点にしたコミュニケーションや、異業種とのコラボを次々と実現させる“異色のPR術”について、岩下食品株式会社 4代目社長の岩下和了さんにお話を伺いました。

社長自ら手掛けるTwitter運用の裏側

▲ 岩下食品株式会社4代目社長・岩下和了さん


―岩下食品には公式
Twitterがなく、岩下社長自ら情報発信をされていますが、Twitter運営を始めるきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

Twitterアカウントを作成した背景からお話すると、私がもともと大衆音楽が好きだったことから、音楽関係の知り合いが多くいまして、2010年のある時、交流のあったミュージシャンがTwitterを始めたのを見て、自分もやってみようと思ったのがきっかけです。最初の頃は、あくまでプライベート用として使用していたため、本名ではなくハンドルネームを付けていました。IDが「@shinshoga」なので、会社の情報発信用に作成したと思われがちですが、実はこれも当時たまたま登録できたIDだったというだけでした。

Twitterを本格的にやろうと思った転機はいつですか?

2011年の東日本大震災の影響から、Twitterは検索機能が便利なのだと気づき、今で言うところの「エゴサーチ(以下、エゴサ)」をするようになりました。『岩下の新生姜』についてツイートを調べてみたところ、当時、具体的な商品名が出ている投稿が1日10〜15件くらいあったんです。嬉しかったのは、ほとんどが「美味しい」や「好き」といったお褒めの言葉だったこと。お礼の気持ちを伝えたくなり、リプライするためにアカウント名を実名に変更することにしました。

―具体的にはどのようにユーザーとコミュニケーションを行っていったのでしょうか。

エゴサをして、自社の商品について投稿しているユーザーにお礼の言葉をリプライしていただけで、特別なことはやっていません。当時は社長自らTwitterに現れてリプライをすることが珍しかったため、驚かれたユーザーの方もいましたが、おおむね好意的に捉えていただいたと思っています。エゴサし始めてから約1年間は、見つけた当社商品に関わるツイートのすべてにリプライをしていましたが、ツイートが増えるに従って、この対応は物理的に不可能となりました。その分、心を込めて「いいね」(当時は「お気に入り」)を送り、またフォローをし、「大切なお客様」というリストに上げるようにしていきました。もちろん、エゴサで見つけた、フォロワーにも知らせたいようなツイートは、リツイートしたり、メンションしたりしています。

エゴサ11年目となる現在では、いいねしている当社関連ツイートの数は1日1,000〜2,000件。エゴサ開始時の100倍になりました。いいねを押す役割など、日中の一部の作業をスタッフに担当してもらうようにしたり、当社に関わるすべてのツイートになんらかの反応を継続できるよう工夫して運営しています。すべてにリプライをするのは最早不可能となりましたが、私は今も、すべての当社関連ツイートに目を通し、リツイートする等の作業を続けています。

たびたび話題を呼ぶ『岩下の新生姜』の企画はどう生まれる?

商品のPRは二の次!感謝を伝える為のコミュニケーション

―日々、多くのファンの方と直接コミュニケーションを取られていますが、 Twitterを通じて生活者に情報発信していく上で、何か心がけていることはありますか。

お客様(=最終消費者)に支持される仕事を実現していくことが、当社の果たすべき役割と考えてきましたが、製造卸売業者である当社にとって、かつては、お客様の声を直接聴けるチャンスが少なかったのが実情でした。公式サイト上でお客様相談窓口を設けていますが、問い合わせやクレームを除いた、率直なご意見・ご感想は1年間でせいぜい10~20件です。それに比べ、Twitterでは今や1日1,000〜2,000件。次元が違うのです。しかも、すべてがお客様の「今」の生の声です。これを商品開発や営業活動、ひいては経営そのものに活用しない手はありません。しかし、それらは副次的な目的に過ぎません。それよりも、Twitterの運営にあたっては、あくまで、いいねやフォローを通して、感謝の気持ちを伝えることが最も大切と考えています。

そもそも、商品のPRは二の次で、自社をアピールする目的は重視していないのです。世界に向けて当社の商品が好きだと語ってくださるお客様がありがたく、感謝の気持ちがすべてを上回っています。それだけに小さなご要望でも、できる限り対応して差し上げたいという恩返しの気持ちで運営しています。商品を褒めていただいたり、更に期待を持っていただけることは、本当に嬉しく、楽しいことだからこそ、エゴサを10年以上続けられたのです。

―「お客様の生の声」という部分でいうと、Twitterでの意見をきっかけにさまざまなコラボや企画が立ち上がり、ユニークなプロモーションを多くやられている印象を持っています。

エゴサを始めた2012年頃から、Twitterで発言してくださる『岩下の新生姜』のファンの方達は、『岩下の新生姜』への愛を惜しみなく語ってくださる方が非常に多く、その熱量に影響され、ライトユーザーの方たちもどんどん好きになっていく、そういう“熱”が感じられました。私は何も仕掛けていません。ただ、いいねと、お礼のリプライと、リツイート。ステマ全盛の時代に、企業側が仕掛けていないことを誇らしく感じていました。本当に高く評価していただいているのだと。だからこそ、感謝の気持ちも熱くなっていったのです。その恩返しのひとつとして、更に商品を美味しく召し上がっていただくための情報提供と共有を積極的に媒介しました。

お客様にとって恐らく有用だったのは、『岩下の新生姜』を使ったレシピの紹介です。岩下の新生姜の汎用性の広さは驚異的なほどですので、和洋中さまざまな料理に応用できることもあり、お客様が実践された料理のレシピをリツイート共有することなどを通して、多くのお客様と意見や要望をやりとりし、関係が深まっていったと感じています。

Twitter上でのコミュニケーションが増え始めてからは、商品以外のご要望なども多くいただくようになりました。お客様からの声で生まれた企画の中で代表的なものは、まず2013年に出版した「We Love 岩下の新生姜 ツイッターから生まれたFANBOOK(マガジンハウス)」。これはレシピ本を出してほしいという声に対応したものです。せっかくなので、当時の『岩下の新生姜』を取り巻くTwitterの“熱”を活写したいと考え、お客様の熱いツイートを集めた本としました。全員から許諾をいただきましたので、大変な労力をかけた本となりました。ワン・テーマでツイートを集めた本は、私は、今に至っても他に見たことがありません。お客様の“熱”に、編集する私も“熱”で応えて完成した本です。

▲ 『岩下の新生姜ミュージアム』

そして、2015年には、栃木市に『岩下の新生姜ミュージアム』をオープンします。これもまたTwitterで知ったお客様方のご要望やご期待にお応えし、また、お客様に喜んでいただけるようにという思いを胸に、開館しました。『岩下の新生姜』関連施設の話題で楽しんでいただくのも、日頃のユーザーのSNS発信に対する恩返しになるのではないかと考えていました。

具体的には、「『岩下の新生姜』を使った料理専門のカフェやレストランがほしい」「音楽ライブを見ながら『岩下の新生姜』を食べたい」などの声に対応しました。これらを通じて、Twitterでお世話になったお客様に笑っていただいたり、喜んでいただければ、それで十分と考えてオープンしたのです。

お客様への恩返しでもあるため、入館無料としました。また、Twitterで「『岩下の新生姜』といえばピンク」というイメージで好意的に語られていると日々感じていたことから、ピンクをモチーフにした展示やアトラクションを用意。ひとえに、日頃から岩下の新生姜を愛してくれているお客様への、感謝の気持ちを伝えたかったからこそ誕生した場所です。幸いにも、テレビなどのマスメディアで取り上げてもらえる機会も増え、ミュージアムの認知度向上はもとより、Twitterのフォロワー数も更に増えていきました。

食品会社の枠を越えたコラボ、商品を愛していただいていればこそ

▲ 『東京純豆腐』とのコラボメニューを食べる岩下さん


―他企業やキャラクターとのコラボレーションにも非常に多く取り組まれていて、常に生活者が楽しめるような仕掛けづくりをされていますが、これらはどのような想いのもとで実現するのでしょうか。

今までの商品とのコラボ件数は数百に登り、その多くはTwitterがきっかけになっています。当社から営業したことはあまりなく、コラボ先から直接話がくることが多いですね。Twitterは気軽にコラボしやすいと感じていますし、お客様からいただいた「こんなことをやってほしい」といった意見を具現化していくには、非常に適したSNSだと思っています。だからこそ、食品会社としての枠を越えたような企画が生まれ、ユニークなコラボが実現できていると思いますね。コラボを取り組むか否かを決めるのは、『岩下の新生姜』に愛情を感じられるかどうかということが大きいです。その気持ちが感じられれば、『岩下の新生姜』のファンの方はきっと喜んでくださるでしょうから、私達も一肌脱ごうという気持ちになります。幸い、これまでは、『岩下の新生姜』を大切に扱って下さるコラボ先が多く、いいコラボができてきます。恵まれていると感じていますね。ありがたいことに、最近では多数のお声がけをいただくため、一部交通整備をしている段階です。

―実施された取り組みの中で、特に反響が良かったものがあれば教えてください。

思い出深いのは、2012年くらいに実現した、日本橋や銀座などにある『よもだそば』とのコラボですね。これがTwitterを通じた最初の『岩下の新生姜』コラボだったと思います。よもだ・岩下の双方のユーザーであるお客様が「コラボしたらいい」とツイートされたことをきっかけに、双方のアカウントが反応しました。『よもだそば』も、当時は社長さんがTwitterを担当されており、トップ同士が公開でやり取りするため、話が早かったですね。たしか翌月には「岩下の新生姜天そば」がメニューに登場していました。ツイートでの対話をご覧になっていたフォロワーさん達も拍手喝采。今では珍しくもないのかもしれませんが、この話の進み方のテンポの良さには、新しい時代の到来を実感しました。

そのほか、ニチフリ食品とコラボした、ピンク色の『岩下の新生姜味ふりかけ』や、エフェクターブランド「Effects Bakery」とのコラボ商品、「Effects Bakery NEW GINGER FUZZ」など、お客様のTwitterが起点になって実現したコラボは数多くあります。

感謝を行動で返す姿勢が、熱量の高い離れないファンを増やす

―近年、著名人をはじめ、「岩下の新生姜が好き!」と公言されている方が多く、メディアで拝見する機会も増えました。何かターニングポイントなどはあったのでしょうか。

ターニングポイントと言えば、間違いなく、Twitterでエゴサーチを始めたときでしょう。そして、勇気を出して、お客様に「ありがとうございます」とリプライをしたとき。「好きだ」と言ってくださる方々に、そこの社長から感謝の気持ちを伝えられて、ますます好きになっていただけることも多かったです。その繰り返し、積み重ねに話は尽きています。本当に「好き」と思えることは、それ自体に“熱”があります。力があります。メディアの方々も、その熱気を感じて、取り上げておられるのだと思います。

著名人の方に「好きだ」と発信していただくことの影響力の大きさは、誰もがご想像の通りです。ありがたく思う一方で、とても恩返ししきれないと、青くなることもしばしばです。たとえば、音楽関係の方であれば真剣にCDを聴いたりライブに行ったり、漫画家の方であれば作品をじっくり読んだりと、「好きだ」と言ってもらえたことに対して、私もなるべく時間を割いて、実際の行動でせめてものお返しをしていきたいと思っています。真剣に向かい合うと、良さがわかってきて、こちらもその著名人の作品を、私も本当に「好き」になるのです。そういったことを繰り返しているうちに、自然と結びつきが強くなっていった部分もあると思いますね。

―さいごに、岩下食品としての今後の展望や、これからチャレンジしていきたいことなどがあれば教えてください。

私自身、Twitterに10年間の労力と時間を費やしてきて、採算で考えると釣り合わない部分もあったなと感じていますが、お客様と向き合うその瞬間瞬間で、素敵な思いをさせてもらっています。今後も、どんな形にせよ、お客様に喜んでいただけることを目指していきます。

たとえば、かまいたち・濱家さんのような著名な方が好きと公言してくださったり、コラボ商品が目に止まる機会が増えたりしたことで、「初めて岩下の新生姜を食べた。おいしかった!」とおっしゃるお客様が多くなってきました。「名前を知っている」人はかなり増えましたが、実際に食べてもらうまでには、まだまだ高いハードルがあると感じています。『岩下の新生姜』は、一度、ピーク時の3分の1まで売上が落ちた商品です。それが近年、ようやくピーク時の3分の2くらいまで売上が戻ってきているので、今後も新しいファンの裾野を広げていき、お客様の笑顔を増やしていきたいです。

『岩下の新生姜』は、とてもよい商品だと思っています。たくさんの方を喜ばせることのできる品です。私も大好きです。それだけに、この商品の歴史を終わらせてはいけないですし、そのためにも更に多くの方々に支持していただける商品に育てていきたいです。

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