未だ収束の目途が立たず、社会に大きな混乱を招いている新型コロナウイルス。この緊急事態に立ち向かうべく、日々さまざまな企業団体から新たな取り組みが生まれ、インターネットやSNSを中心に情報が拡散されています。
しかし、連日の報道や外出自粛、さらにはデマの拡散などで、生活者の間に“コロナ疲れ”が蔓延していることもまた事実であり、この状況下でコミュニケーション方法を一歩でも誤ってしまうと、企業ブランドに大きな傷を付けてしまうことに繋がりかねません。
このように、生活者が情報にセンシティブになっている今、企業はどのようなことを意識して、コミュニケーション設計を行ったら良いのでしょうか?今回は【基礎編・実践編】の2部構成で、株式会社ワンキャリアでPR Directorを務める寺口浩大さんが考える、社会との良好な関係を築く「コーポレートコミュニケーション」についてご紹介します。
CONTENTS
コーポレートコミュニケーションはキャラのメタ認知から始まる
社会の中で自社は“何キャラ”なのか
ー今、新型コロナウイルスの影響によってさまざまな企業が対応に追われていますが、そんな中でもワンキャリアさんの勢いが止まらないですね。寺口さんがこれらの情報を発信される中で、意識していることや心掛けていることはありますか?
ありがとうございます。最近いろんな発信をさせてもらっているので、「ブランドづくり」や「PR」「採用広報」などについてご相談をいただく機会が増えました。ただ、これらについて“点”で聞かれることも多いのですが、どれも「コーポレートコミュニケーション」活動の一部だと思っています。ブランドづくりやブランドコミュニケーション、また採用広報など、企業が社会の中でブランドを確立させるためには、コーポレートコミュニケーションを絶え間なく各ステークホルダーに対して取り続けることが必要です。なので、点の施策を模索する前に、まずはこの上位概念を理解する必要があります。
例えば、社会をひとつの「教室」に見立てて考えるとします。自分はクラスの中でどんなキャラクターになりたくて、今クラスメイトからはどんなふうに思われているのか。だから今の自分なら、こういう言い方をするのが「自分らしい」のではないか。このように、クラスメイトが自分に対して思っている「○○らしさ」を意識するのは、クラスの中で円滑にコミュニケーションを進める上で大切なことです。
つまり、企業が社会と良好な関係を築くためには、まずは社会が自社に対して期待していることや、求めていることを適切に知ることが重要なんです。それを知った上で「A is B」を成立させる。言い換えれば、自社の”こう見られたい”と、社会からの“見られ方”を一致させるために、コーポレートコミュニケーションを行い続けなければなりません。
誰でも同じことが言えるからこそ、パーセプションにおいては「何を言うか」以前に、「誰が言うか」がすごく大事で、「A is B」が成立して、ブランドキャラクターが育っている状態でコミュニケーションを取らないと、キャラじゃない発言や行動が社会から違和感を持たれて、“この企業は勘違いしてる”とか“二番煎じ”とかって言われてしまいます。
実際の学校を想像してみてほしいんですけど、キャラを履き違えているような人って、なんとなくクラスの中でも浮いてしまいやすいですよね?自分で思う「自分らしさ」と、クラスメイトが思う「○○らしさ」のメタ認知が一致していなければ、同じことをやっても嫌われる可能性が出てきてしまいます。これが、企業活動では“炎上”に繋がるんです。
たとえば、昨年のある大手銀行さんの『〇〇らしくない人に会いたい』という採用メッセージ。僕自身ももともと銀行員で、当時は何度も「銀行員として」っていう言葉を聞きながら働いていましたが、同じように、これまでずっと「銀行員らしくあれ」って言われながら従事してきた従業員があのメッセージを見たら、どう思うでしょうか?それに、これでもし”銀行員らしくない学生”が本当に入社したときに、実際の社風とその新入社員の間で、ミスマッチが起こってしまうことも想像できませんか?社内の統率がちゃんと取れていないまま、外に向けてメッセージを発信すると、結果として悲劇を生むことになりかねません。
だからこのメッセージが決まるプロセスにおいては、中からも外からも、企業のキャラクターがどのように認識されているかをメタ認知できていなくて、「今の自社の見られ方なら何が言えるか」っていうことを、考えられていなかったのではないかと思います。継続的に社会と対話していかないと、自社に対する見られ方を吸い上げることはできないんですよ。このような企業と社会のミスコミュニケーションのほとんどは、メタ認知を誤ってしまった結果から起こるものです。
社会と対話し続けることの重要性
ーどうすれば自社の見られ方を正しく認知することができますか?
まず、僕はウェブと対面の両方を使って、呼吸するように社会と対話し続けることを意識しています。
ウェブ上では自社の関連ワードで常にエゴサを行っています。自社に対してどんな声が上がっていて、それはどんなワードと一緒に発信されていて、どんなことが期待されているのか。それらの社会の声を、はじめにウェブ上で拾い上げて、自社の見られ方について自分の中で仮説を立てます。
次に、さまざまなステークホルダーと直接対話をします。例えば、学生や、クライアントの声を直接聞いている現場社員とか、仕事でご一緒した社外の方から、自社に対するイメージやリアルな意見を聞くことで、自分で立てた仮説にズレがなかったかを確かめます。これらの対話を通じて、自社の見られ方や、社会から持たれているイメージを、高い解像度で理解し続けるようにしています。イメージは角度でも時間でも変化するので、高い頻度で息をするように見られ方を感じ続ける必要があります。
ただ、本音で意見を聞くためには、まずは自分が相手から信頼してもらう必要があります。相手から信頼してもらうためには、話を一方的に聞くだけでなく、「自己紹介」と「自己開示」を行わなければなりません。でも、毎回自分の話をしていては時間がもったいないので、僕の場合は「自己紹介」と「自己開示」をウェブ上で先出ししています。ウェブ上で、不特定多数の人に向けてこの2つを済ませておけば、実際に対面した時に、聞き手に徹することができるので。コミュニケーションの観点において、「対面コミュニケーションを充実させるためのウェブコンテンツ」は今後必須になると思っています。
企業ブランドを確立させる「SAY DO SAY」サイクル
社会の中で「A is B」を確立させる方法
ーそれでは、社会の中で思い通りの「A is B」を確立させるには、企業は何に取り組んだら良いのでしょうか?
ブランドは期待値でできていくものです。そのため、期待値を作ってその期待に応えていく「SAY DO SAY」サイクルを回すことが、ブランドを成立させる上での初歩的な活動だと思います。
「SAY DO SAY」というのはつまり、最初に「これやります」っていう宣言(=SAY)をした上で、それを有言実行(=DO)して、最後に「ほらやったでしょ?」って報告(=SAY)するサイクルのこと。「What to say」で社会に対して期待値をつくって、「What to do」でそれを実現し、また発信する。これを繰り返すことで、社会から企業に対する期待値が醸成されて、キャラを確立できるようになります。
でも、多くの企業は、実績を作ることには一生懸命なんですが、最初の「SAY」が抜けて“無言実行型”になってしまっているところが多いように感じます。これだと残念ながら期待値は付きません。株式市場に置き換えて考えてみてほしいんですけど、株式市場では常にマーケットと企業が対話をしていますよね。たとえば四半期に1回、決算発表で言ったこととやったことの報告を行っていますが、これがまさに「SAY DO SAY」サイクルを回して期待値を作る活動であると言えます。この活動を、株式市場以外でもしたほうがいい。
今は応援でモノを買う時代、つまり期待値ですべてが動く時代に変化しつつあります。採用活動にしても広報活動にしても、もっと持続的でインタラクティブになっていかないと、時間やお金を払う対象にはなりにくいし、コミュニケーションがちゃんと対話として成立しません。だから、例として投資家と行っているようなコミュニケーションを、継続的かつ相互的に、いろんな方面にローカライズしていく。これがすごく重要なことだと思います。
ーなぜ最初の「SAY」が言えない企業が多いのだと思いますか?
シンプルに、何がリスクになり得るのかわからないんじゃないですかね。先に言ったことがないから。「リスクを取れないからやらない」という言葉はよく聞きますが、本当は「何がリスクかわからないし、一旦やめとく」なんだと思いますよ。
ただ、実際法人格で宣言をするのは難易度が高い。「DO SAY」はニュースリリースなどを使って法人格で発信できるのですが、最初の「SAY」は大きな責任を伴うので、法人格では言いにくいんですよね。でも個人格なら、法人格ではまだ言えない最初の「SAY」も、上手く予言しやすいです。
一方で、個人のTwitterなどのSNSアカウントをビジネスで活用する人が増えたことに伴い、口だけで留まっている「JUST SAY」も増えているように感じます。派手な宣言はかっこいいので脚光を浴びやすいですが、意外とマーケットはその宣言を記憶していて、実行報告を待っています。実行報告がないままに次の宣言をしていると、オオカミ少年アカウント化して誰にも見向きされなくなっていくので、気をつけたほうがいいですね。
「DO」が抜けてしまうことはもっての外ですが、これからどんなアクションをするか、先に宣言しないと誰も期待してくれないし、やった後にちゃんと報告しないと、誰も気付いてくれないものです。だから、企業への期待値を醸成するためには、やったことを報告するのが法人格で、法人格ではまだ言えないけど、なんとなく予言するのが個人格、などと、法人格と個人格をうまく使い分けながら、「SAY DO SAY」サイクルを回していくことが重要です。
「SAY DO SAY」サイクルと法人格・個人格の関係
ー最初の「SAY」を法人格で言うことが難しくて、無言実行型になってしまう企業が多いということは、つまり個人格の必要性がまだ見出されていない企業が多いためでしょうか?
これまで“モノ消費”から“コト消費”へと変化してきましたが、最近では新たに“ヒト消費”化が始まっています。消費財、嗜好品などでは顕著で、例えば化粧品のプロモーションでは、よくインフルエンサーが起用されていますし、Twitterでは、中の人が人間らしい企業アカウントってバズりやすいですよね。このBtoCでは当たり前になっていた“ヒト文脈”が、最近ではBtoBや採用においても重要になってきているんです。
“ヒト消費”が始まっている社会の中では、法人格で企業理念を言い続けても、なかなか人々には伝わりません。法人のブランドキャラクターを個人に分散させて、それぞれの言葉を使って発信するからこそ、理念が浸透します。だから、法人格にこだわらず、個人のオリジナルのストーリーやキャラクターを生かせる場面では個人格を生かすなど、主語を使い分けることが大切です。
さらに、当たり前ですが、ミッションやビジョンを言葉だけで完全に差別化することは難しいです。この、言葉だけでは十分に差別化できないミッションやビジョンを浸透させるには、“WHY”を言葉でそのまま押し出す「説明型」のコミュニケーションだけでなく、個々のアクションによって“WHY”の輪郭を滲み出させる「表現型」のコミュニケーションを組み合わせていかなければなりません。説得力を持たせる企業の「SAY DO SAY」と、差別化を助ける個人の「SAY DO SAY」の両輪を回し続けることで、ミッションやビジョンの解像度を高めて、他の企業やブランドと差別化していくことができます。
ー法人格と個人格の使い分けは、まさにワンキャリアさんが実践されていることですよね。
ありがとうございます。以前ある方から、「ワンキャリアさんは、いろんな社員がいろんなところでそれぞれの言葉を発しているけど、結局みんな本質は同じ事言ってるよね」って言われて、めっちゃ嬉しかったんですよ。
「Visuarize Everything」を掲げマーケットの透明化のためのアクションを取り続けていますが、例えば取締役の北野は『OPENNESS』などの書籍を書いたりしているし、僕はパンテーンさんのソーシャルムーブメント『#令和の就活ヘアをもっと自由に』に関わらせてもらったりしていて、それぞれ違った言葉で自由にアクションを取っています。他のメンバーもそれぞれの関心分野で発信を続けている。でも、つまるところは同じことを言っています。「企業情報を透明化して可視化することが大事なんだ」って。
企業のひとつひとつの取り組みや、個人のひとつひとつの言動が、点ではなく線で繋がっている状態を作ることって、ブランドを確立する上ですごく重要です。そして、個人格と法人格を使い分けながら、「SAY DO SAY」サイクルを愚直に回し続けることで、他企業との差別化、つまり社会の中でのキャラ立ちが実現するのだと思います。
基礎編のまとめ
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実践編「企業ミッションとスピード感の密接な関係。3事例から学ぶコーポレートコミュニケーション」はこちら
寺口浩大 株式会社ワンキャリア 経営企画室 PR Director
ワンキャリア経営企画室PR Director。1988年兵庫県伊丹市出身。京都大学工学部卒。リーマンショック直後に三井住友銀行で企業再生、M&A関連業務に従事し、デロイトトーマツグループなどを経て現職。現在は経営企画とパブリックリレーションズ全般に関わる。コラム連載、カンファレンス登壇のほか、採用マーケットの透明化を推進するムーブメントを仕掛ける。現在は日本最大級のYouTube企業説明会「ONE CAREER SUPER LIVE」の企画に携わる。共著に『トップ企業の人材育成力』。
1995年生まれ大阪育ち。2018年同志社大学卒業後、株式会社マテリアルに新卒入社。1年目でウェブメディア『PR GENIC』を立ち上げ、記事の執筆と編集全般や、セミナーの企画など、コンテンツ作りを幅広く担当。半年間ハウスメーカーのマーケティング部への出向も経験。現在はオープンイノベーション支援に従事しつつ、外部アドバイザーとして編集のサポートを行っている。