心身と社会的な健康を意味し、年々注目が高まっている「ウェルビーイング」。さまざまな企業が、ウェルビーイングを高めるために試行錯誤するなか、株式会社Mizkanは、社内外のウェルビーイングの実現を目指し、『凹メシプロジェクト』を立ち上げました。
同社は、料理を通じた身体と心の健康を促進する活動の一環として、「凹んでない課」を設立し、活動の第1弾では『凹メシ食堂』を期間限定でオープン。今回は、「凹んでない課」の課長・田中保憲さんと、川口莉奈さんにインタビューを実施。『凹メシプロジェクト』誕生の背景や、新しい挑戦を応援するミツカンの風土についてお伺いしました。
ミツカン 凹んでない課 課長 田中 保憲 ミツカンに入社後、開発、工場、商品企画などを経て、2022年よりCRM推進部に配属。ウェブサイト、SNS、PRなどを通じて、ミツカンファンを増やすためのマーケティング戦略立案と実行を担う。鍋つゆの商品企画の経験が長く、鍋に対する思い入れが人一倍強い。 |
ミツカン 凹んでない課 川口 莉奈 2020年に新卒でミツカンに入社。大阪支店にて1年間営業活動を行った後、現CRM推進部に配属。ミツカンという会社そのものを好きになってもらえるような、企業PRの検討を進める。 |
インタビュアー 株式会社マテリアル ブランドプロデュース局 兼 SDGs/ESG担当 山崎 未早希 ブランディングのエージェンシーを経て、2021年にマテリアルに中途入社。ブランドプロデュース3局にて、ナショナルクライアントを中心に、企業やブランド価値向上に貢献するPRのプロジェクトマネジメントを担当。 |
CONTENTS
“ちょっとしたへこみ”に寄り添う、ミツカンの『凹メシプロジェクト』
狙いは、へこんだ時にミツカンを想起してもらえる関係性
山崎:『凹メシプロジェクト』は、どのようなきっかけで企画されたのでしょうか。
川口:私たちミツカンは、200年以上、さまざまな商品やレシピを通じて、皆さんの「身体の健康」をテーマに活動してきました。近年、ウェルビーイングが注目されるなか、身体だけではなく、心も伴ってこそ本当の健康だと言えるのではないかと考えなおしたことが、プロジェクト誕生のきっかけです。
田中:ミツカンが2018年に策定した『未来ビジョン宣言』という中長期的な取り組みがありまして、その活動のコアとして定めているのが“おいしさと健康の一致”です。これは、「心身ともに健康である状態を“おいしさ”を通じて実現していく」という意味で、ミツカンの大義となっています。このミツカンとしての想いが、プロジェクトの根源となっています。
山崎:『凹メシプロジェクト』では、どのような取り組みをされているのでしょうか。
川口:『凹メシプロジェクト』の第1弾として、「へこんだときには鍋だ鍋」という標語を掲げ、活動しています。これは、温かいお鍋を通じて、身体だけではなく、心ももっと温まっていただこうという目的で行っているものです。具体的には、SNS上で生活者の方にへこんだエピソードを教えていただくキャンペーンを行ったり、いまお話をしている、ここ『凹メシ食堂』という期間限定の店舗を立ち上げ、凹んだエピソードと引き換えに温かいお鍋を提供したり、直接生活者の方とコミュニケーションが取れるような活動をメインに取り組んでいます。
田中:へこみの中でも、特に「ちょっとしたへこみ」「誰かに言いたくなるようなへこみ」に、フォーカスを当てています。これには、UGCが自然発生するような状況をつくりたいという意図がありました。たとえば、今回ミツカンが『凹メシプロジェクト』をやっていることを知ってくださった生活者の方が、「長期連休明けでまた平日が始まっちゃった」などの、“ちょっとしたへこみ”を感じた時に、「助けて、ミツカン!」とミツカンを想起するような。そういった意味で、まずは“ちょっとしたへこみに寄り添ってくれるミツカン”というイメージを付けていきたいと考えていました。
山崎:『凹メシプロジェクト』は、どのあたりの年齢層をターゲットにされているのでしょうか。
田中:ミツカンの従来のメインターゲットは、40代以上の主婦層ですが、今回のプロジェクトはそれよりももう少し若い層、20~30代にアプローチしていきたいものでした。
川口:若年層の方は、身体は元気でも小さなことでへこんでしまったり、心の元気が足りていなかったりしても、「若いから」「健康的に見えるから」と、なかなか自分の不調を表に出せていないのではないか。そんな方々を私たちが料理を通じて元気にすることができないか、と考えたんです。
田中:このプロジェクトの実施を伝えた時に、ターゲット層と同世代である20代の若手社員が、「自分と同じ年代の人にもこの企画を広めていきたい!」と熱意を持ってくれたことも印象的でしたね。
“中の人が見える直のコミュニケーション”で会社自体を深く知ってもらう
山崎:活動を行うだけではなく、同時に「凹んでない課」という課の設立もされています。こちらは、どのような経緯で生まれたのでしょうか。
田中:実は、この課は川口の想いから立ち上がりました。川口自身が、これまで食に助けられてきた人生だったようで、色々と話を聞く中で、「やっぱり“食”って、身体だけじゃなくて心の健康にもつながるんじゃないか」と僕たちも思うようになったんですね。
「“食”が心の健康にもつながる」という我々の仮説を確かめるために、まず行ったのが、ミツカン社員への「凹メシ実証実験」です。これは、1日の中で、仕事に疲れて少しへこみやすい夕方あたりの時間帯に、ミツカン社員を集めてお鍋を食べてもらい、食べる前と後での気持ちの変化を調査するという実験です。結果は、予想していた通り「お鍋を食べると気持ちがほっこりする」「温かいものを食べることでセカセカしていた気持ちが落ち着いた」など、ポジティブな変化が見られました。このことから、自分たちの仮説は正しいと自信を持つことができ、さらにこの活動を社内外に広めるべく、「凹んでない課」を立ち上げました。
山崎:「凹んでない課」は、CRM(顧客関係管理)推進部から発展した部署とのことですが、そもそもお二人は、どのようなきっかけでCRM推進部に入られたのですか?
川口:私は、とにかくミツカンという会社が好きで。その気持ちを周りに伝播していきたいという想いが強かったことが大きな理由です。
田中:僕はもともと商品企画部で、日々商品と向き合っていたのですが、あるタイミングで「お客様と直接コミュニケーションを取りたいな」と感じたことがきっかけだったと思います。同時に、商品がメインのコミュニケーションよりも、会社の“中の人が見えるコミュニケーション”の方が、いまの生活者には刺さるのではないかと感じていました。
たとえば、商品をタレントの方に宣伝してもらうだけではなく、YouTubeやTwitterなどのツールを通して、社員の顔が分かる状態でコミュニケーションをとるような形ですね。その方が、僕らの熱意もそのまま伝わりますし、ミツカンのことを正しく、深く知ってもらえると思ったんです。そんな話を社内のさまざまな場所でしたり、実際に行動していたところ、今年の春にCRM推進部が立ち上がるタイミングで声をかけてもらえました。
山崎:お話を聞いていても、お二人の想いの強さや熱意をひしひしと感じています。
田中:今回の『凹メシ食堂』でも、ご来店いただいた方と直接コミュニケーションを取ったりしているのですが、僕らの方が勇気をもらっています。皆さんのへこみを癒そうと企画したのに、僕らの方が癒されているような。やはり、直のコミュニケーションには特別なものがあるなと感じますね。
川口:いま、お客様と直接コミュニケーションができる機会は本当に減っていますし、今回の『凹メシ食堂』のような機会はとても嬉しかったです。
生活者に寄り添いたい社員の想いを形にした「凹んでない課」
商品を介さない、ミツカンとしてのコミュニケーションが社内共感を生んだ
山崎:「凹んでない課」のようなサステナブル文脈の活動は、社内に浸透させることが難しいと感じている企業も多くいらっしゃいます。社内浸透にあたり、工夫されたポイントなどはあるのでしょうか。
田中:先述した実証実験を行ったあと、「凹んでない課」をつくろうと思っているという話を会社にしたところ、とてもポジティブに受け取ってくれました。僕たちとしては、批判的な意見が出ることも覚悟していたのですが、ふたを開けてみると「協力するよ!」などという声をたくさんもらったんです。
恐らく、ミツカン社員の中には、心の健康や生活者に寄り添う姿勢をもっと見せていきたいと思いつつも、それを実現できていない状況にもどかしさを感じているメンバーがたくさんいたのだと思います。どうしても商品ありきのコミュニケーションが基本になってしまって、ミツカン自体が「こんな会社なんだよ」とアプローチする機会がほとんどなかった。そんな中でのプロジェクト提案だったので、社内には割とすんなり受け入れてもらえました。
たとえば、福利厚生を変えるような議論をするなど、「凹んでない課」を主体にさまざまな部署と手を組んでいます。いまはまだ、形になるかわからない部分もありますが、今までになかったような社内の動きが生まれているという点においては、「凹んでない課」を立ち上げてよかったと感じますね。
山崎:「凹んでない課」の皆さんだけではなく、さまざまな方が協力してくださって、プロジェクトの幅が広がっていっているのですね。
川口:そうですね。広報、ウェブ、SNS、人事、総務…など、数えきれないほどのメンバーに協力してもらっています。これは、「手料理でみんなを元気にしたい」という想いに、それぞれのメンバーが本気で共感してくれているからこそ、私たちの活動に協力してくれたり、自主的に参加してくれたり、課に加わりたいと言ってくれたりするのだと思います。
ただ、正直に言うと、もう少し丁寧に社内発信を行いたかったという気持ちもあります。今回、不完全な状態で色々な社内メンバーに協力を依頼していた部分もあるのですが、誰に相談をしても協力的で、中には「こうしたらもっとうまくいくんじゃないか」とアドバイスをくれる人もいました。総じて、皆さんに支えられて実施できたプロジェクトだなと感じます。
新しい取り組みを応援する風土が、チャレンジングな企画のベースに
山崎:お話を聞いていて、ミツカンの社風的にも、社員の挑戦を応援してくれるような環境が整っているように感じます。
川口:そうですね。ミツカンの企業理念は大きく2つありまして、ひとつは「相手の身になって考えること」、もうひとつは「現状に満足せず、常に挑戦すること」です。ミツカンは、歴史のある古い会社ですが、特に後者と紐づく「新しいことに挑戦する」という部分においては、メンバーの挑戦意欲も、それを応援する会社の風土もきちんと整っていますね。
山崎:こういった取り組みがすぐに浸透する風土が整っている企業は少ないですよね。
田中:僕たちには、林という上長がいるのですが、彼の存在も大きかったと思います。ミツカンの社風はいわゆる「まじめ」であり、さすがに「凹んでない課」は難しいかなと思っていました(笑)。ですが、林は昨年エンタメ業界からミツカンに入社をしていたこともあり、いい意味でミツカンの社風に染まりきっていなかったんです。だからこそ、「これまでにとらわれすぎなくていいじゃん」という気持ちで、今回のプロジェクトにも賛同して、実現まで伴走してくれましたし、周囲の理解を得やすい環境を整えてくれたと思います。
山崎:これまでの社風を振り切るような挑戦をしつつも、「凹んでない課」の取り組みが、ミツカンの理念としっかりリンクしているからこそ、社内全体の共感が生まれ、ポジティブに企画を進められたのですね。
田中:そうですね。僕自身は、『未来ビジョン宣言』の大きなコンテンツのひとつに「凹メシ」が昇華していってもおかしくはないなと思っていますし、そのような位置づけまでもっていけたらと考えています。
山崎:さいごに、今後『凹メシプロジェクト』としてどのような活動を描いていらっしゃるのか、教えてください。
川口:今回は第1弾として「お鍋」に絞った活動を行ってみて、改めて「お鍋」の魅力に気付けました。もしかしたら、寒い時期だけではなく、年中お鍋を介したコミュニケーションができるかもしれませんよね。一方で、ミツカンは本当にさまざまな商品を販売しているので、「これもミツカンなの!?」と、皆さんが気付いていないけれど、実は身近に潜んでいるミツカン商品があると思うんです。そこに気付いてもらえるように、他の商品を用いた企画も考えていきたいなと思います。
また、商品が売れるためには、社員が自社の商品をきちんと愛してこそだと思います。その“愛”を醸成させるのも、我々の使命だと思っているので、「凹んでない課」の仲間をどんどん増やして、これからも積極的に社内へアプローチしていきたいです。
田中:「心身の健康」はどこまでいってもつきまとってくるものです。そういった、皆さんの些細な不安にも寄り添える企業でありたいですし、そう思ってもらえるような活動は、今後も意識的に続けていきたいです。他の企業と比べても、ミツカンが先駆けて活動をスタートすることができたと思うので、他社さんを巻き込みつつ、中長期的に社会全体に浸透するようなプロジェクトにしていきたいです。
取材を終えて
ミツカンさんが事業を通じて達成されたいことと、ご担当者さんが実際に体験して感じられている「ごはんの力を信じるパワー」が重なり、共感値の高いコアコンセプトが生まれ、ミツカンさんらしい、かつ、多くの人を巻き込むPRになったと感じました。今後も「凹んでない課」の皆さん含めたミツカンさんの活動が楽しみです!
1997年生まれの道産子。2020年に横浜国立大学を卒業し、株式会社マテリアルに新卒入社。新設のメディアリレーションチームに配属され、約1年間メディアの知識全般を深める。2021年6月より、『PR GENIC』の2代目編集長としてメディア運営を引き継ぎ、記事の執筆や編集業務に従事。新米編集長として、日々奮闘中。