団地再生のカギは“住民共創”にあり。茶山台団地再生プロジェクトを支えたコミュニケーション戦略とは

現在、日本全国で進行している“空き家問題”。少子高齢化や人口減少などによる空き家の増加は、一戸建ての住居だけでなく、日本各地にある「団地」においても深刻な問題となっています。そんな中、昨年末に発表されたPRアワードグランプリ2019にて、見事グランプリを受賞したのは、大阪府住宅供給公社とオズマピーアールが取り組んだ『茶山台(ちゃやまだい)団地』再生プロジェクトでした。

独自のアイデアと住民共創で“団地再生”を実現し、国・自治体・大学など、様々な団体から視察が相次いだ当プロジェクトにおいて、この2社が実践したコミュニケーション戦略やPR活動は、どのような役割を果たしていたのでしょうか?今回は『茶山台団地』再生プロジェクトの舞台裏に迫ります。

茶山台団地再生プロジェクトのはじまり

日本全国で顕在化している団地の衰退

現在日本の各所には、高度経済成長期に開発された住宅団地が数多く存在しています。しかし、こうした住宅団地の多くは、建物の老朽化や入居者の高齢化など、様々な共通課題を抱えています。今回の団地再生の舞台となった、大阪南部に位置する泉北ニュータウンの中にある『茶山台団地』も、そのような課題を抱える団地のひとつでした。

高度経済成長期真っ只中の1967年にまちびらきし、最盛期には約16万5千人もの住民が暮らしていた『泉北ニュータウン』は、現在は居住者数約12万人と、4万5千人近くの人口が減少。茶山台団地も、かつては全戸(約1,000戸)が満室の時期もありましたが、ここ数年では約150戸が空き室状態になっていました。また、住民の半数近くが65歳以上であり、人口減少によって近隣スーパーも撤退。それによって買い物難民が発生したり、団地内コミュニティの若手の担い手が不足して、活気が喪失したりするなど、負の連鎖に陥っていました。

創業半世紀を経て新たに広報部門を立ち上げた大阪府住宅供給公社

この『茶山台団地』を管理している大阪府住宅供給公社(以下「公社」)は、大阪府内の住宅不足の解消を目的として、1950年に大阪府が設立した外郭団体です。現在公社は賃貸住宅を約22,000戸保有しており、そのうち約半数の団地タイプの賃貸住宅については、入居者の高齢化や空き部屋問題などを抱えています。

しかし、公社が管理・運営している団地では、駅からの距離や築年数などがネックとなり、なかなか住まいの探し手の選択肢にあがりにくいという課題があります。そんな中、調査結果からは、公社が管理・運営する団地の入居理由として、住民による「クチコミ」が上位にあがっていることが分かり、この『茶山台団地』の入居率を高めるためにも、ポジティブなクチコミ形成を助長する取り組みが不可欠と考えられました。

そこで公社は、団地ごとに異なる”ストーリー”を、団地の外に向けて発信していく活動が必要であると考え、2016年度に現在の広報戦略グループの前身である「企画・広報グループ」を新たに設置。2017年度からは、広報内製化を目指して、支援事業社としてオズマピーアールをパートナーに迎え、『茶山台団地』再生プロジェクトをはじめとした、広報活動の協働がスタートしました。

★この章のポイント
①建物の老朽化や入居者の高齢化など、日本全国の住宅団地は様々な共通課題を抱えている
②団地が”住まいの探し手”の選択肢に入るには、住民による「クチコミ」が重要
③団地ごとに異なる”ストーリー”を、団地外に向けて発信していく活動がスタート

プロジェクトを躍進させた3つのアプローチ

社内初となる広報部門を立ち上げた公社は、『茶山台団地』再生プロジェクトに取り組むにあたって、

  1. 共創型インナーリレーション
  2. 独自の団地再生の方程式
  3. 社会課題に対する先駆的事例として全国話題化

大きく上記3つのアプローチを、広報部門をはじめ各部署が連携して行いました。

共創型インナーリレーション

ひとつめに行ったのは、
公社=コーディネーター 
住民=まちづくりの担い手 
という位置づけで、対症療法的な施策ではなく、住民との共創型のインナーリレーションを重視したアプローチです。

その象徴的な場所とも言えるのが、集会所を持ち寄り型の図書館として活用している『茶山台としょかん』です。受託事業者が団地に“住みながら”運営しているこの図書館は、現在では年間約2,000人もの人が訪れ、団地の枠を越えた地域の交流拠点となっています。

公社は、4年間にわたってこの『茶山台としょかん』を基点に地道に住民との対話を重ね、住民との交流・コミュニティ形成や、ニーズ把握を実施。対話の中で住民のリアルな困りごとや痛みを知り、一緒にその課題解決に取り組む“共創体制”を築きました。また、住民を「サービスの受益者」としてだけでなく、「団地再生に共に取り組むパートナー」として巻き込み、公社は「コーディネーター役」という立ち位置で、住民が何かに取り組む際には全力でサポートしました。

実際に、この『茶山台としょかん』での対話によって、「流しそうめん大会」や、「巨大紙相撲大会」など、住民発案の様々な取り組みが実現。中でも、住民の結婚を住民みんなでお祝いした「団地ウェディング」は特に盛り上がり、団地外からの注目も集めました。

独自の団地再生の方程式

2つ目は、
「住民のリアルな課題・ニーズ」×「非常識なアイデア」=独自の解決策
という「独自の団地再生の方程式」によるアプローチです。『茶山台としょかん』を運営する中で、住民から寄せられた様々な声をもとに、賃貸住宅の慣習上”非常識”とも言えるアイデアの数々を実行しました。その例を3つご紹介します。

『DIY工房”DIYのいえ”』

団地で暮らす住民には、「DIYをしてみたいけど、用意すべき道具ややり方がわからないので教えてほしい」「壁の色を塗り替えたり、柵を取り付けたりして、部屋を自分らしくしたい」というニーズがあることがわかり、若年層の新規入居増と、既存入居者への住戸への愛着増を狙って、全戸(約1,000戸)をDIY可能にしました。

さらに、DIYの道具や材料を揃えて、インストラクターや技能をもった住民がサポートする『DIY工房』を、改装した住戸にて開設・運用。結果、DIYを通じた新たなコミュニティが生まれました。

『丘の上の総菜屋さん”やまわけキッチン”』

人口の減少により、団地近くのスーパーが撤退してしまったため、日々の買い物に困る高齢者の住民からの悩みが寄せられるようになりました。また、「一人暮らしなので、交流できるカフェが欲しい」というニーズも明らかになったため、若手住民がNPOと協業し、団地の一室に“イートイン可の総菜屋さん”を作ることを企画しました。

結果、“住居の飲食店への転用”というハードルを乗り越え、クラウドファンディングで資金調達を実施し、団地と近隣住民の約180名がDIYに参加してお店が完成。オープンから1年経った今も、「買い物難民」や「孤食」などといった社会課題を解決する取り組みとして、注目を集めています。

『ニコイチ』

住民には「団地でお洒落に住んでみたい」「団地の部屋は子供ができると手狭になってしまう」などのニーズや悩みがありました。そこで、隣り合う2つの住戸を繋ぎ合わせて、広々とした1つの空間にリノベーションすることで、若年層・子育て世代などの入居促進を図る取り組み『ニコイチ』を実施。

「子育て世代が暮らしやすい家」をテーマに、「ふたつのリビングを持つ家」「通り庭・サンルーム・土間がある家」など、様々なライフスタイルを提案するコンセプトを持つ創意・遊び心に満ちたプランを実現した『ニコイチ』は、1戸につき応募倍率が最高で11倍を超えるほどの人気を集め、現在は『ニコイチ』に入居した子育て世代の入居者たちが、団地再生の主たる担い手になるなど、好循環を生み出しています。

社会課題に対する先駆的事例として全国話題化

3つ目のアプローチとして、これらの『茶山台団地』再生プロジェクトの取り組みを、団地内だけでなく全国で話題化させるべく、

  • アーンドメディア
  • オウンドメディア
  • 第三者機関による評価

この三軸のメディア戦略を、公社とオズマピーアールの広報担当者が協働して実施しました。

アーンドメディアへのアプローチでは、住宅系のメディアには“住まい手目線”の情報提供を行い、テレビ・新聞等のマスメディアには“日本全国に共通する社会課題を解決する取り組み”という面を強調して紹介するなど、メディアごとに情報提供の仕方に工夫を施しました。

また、『ニコイチ』のような独自の取り組みでは、“応募倍率11倍”などといった、その人気ぶりや反響の大きさを示すファクトがあったため、この数字も重要なメディアフックに。さらに、普段から住民との関係構築ができていたため、取材依頼があった際にインタビューに協力してくれる住民がいたことも、“撮れる要素”を作るという点で効果的でした。

続いてオウンドメディアでの発信では、公社で『ニコイチ』『Danchi Dining』などのオリジナルメディアを運営し、住民や茶山台団地に興味を持っている人々に向けて、情報発信を実施。

第三者機関による評価では、「健康寿命をのばそうアワード」「マイクロライブラリーアワード」「グッドデザイン賞」「都市住宅学会賞」など、国内の様々なアワードで受賞を果たすことで、第三者からのお墨付きを得て、レピュテーション向上に繋げていきました。

★この章のポイント
①『茶山台としょかん』を基点に住民と対話を重ね、共創体制を構築
②対話の中で知った住民のリアルなニーズを、賃貸住宅の慣習上”非常識”とも言えるアイデアで実現
③取り組みを日本全国で話題化させるために、三軸のメディア戦略を実施

コミュニケーションを活性化させた3つのリレーション

『茶山台団地』再生プロジェクトを大きく躍進させたのには、3つのリレーション構築が大きく関係しています。

社内リレーション:「住民共創」のベースとなる公社内の共創体制づくり

1つ目のリレーションは、公社の社内(インナー)のリレーションです。『茶山台団地』再生プロジェクトをはじめとした、対外的なプロジェクトのパブリック・リレーションズ活動を行うにあたって、新設された広報部門だけでなく、キーとなる他部署も巻き込み、チームでPR活動を推進

外部パートナーとして参画していたオズマピーアールは、社内・社外のコミュニケーションが円滑に進むよう、コーディネーターとして公社のパブリック・リレーションズ活動をサポートしていきました。

住民リレーション:住民共創のチームづくり

2つ目のリレーションは、住民とのリレーションです。『茶山台としょかん』の事業者に、団地に住みながら図書館を運営してもらい、公社スタッフと共に住民の声を拾い上げ、関係性を中長期的に築く役割を担ってもらいました。「DIY工房」や「やまわけキッチン」など、特に社会的な反響を呼んだ取り組みは、この関係性の中で生まれたアイデアでした。

また、公社が住民との間で長期的に築き上げた関係性をベースとして、メディアの取材対応についても協力を得る体制を構築するなど、情報発信も共創的に行っていきました。

メディア・第三者機関リレーション:プロジェクトの言語化・ストーリー化

3つ目は、茶山台団地での取り組みを社会へ広めていくための、メディア・第三者機関とのリレーション構築です。まず、公社とオズマピーアールの間で、このプロジェクトの社会的意義や特徴を、デザイン思考のメソッドなどを用いながら言語化・ストーリー化するところから始めました。

そして、そのストーリーを直接メディア担当者のもとに届けるメディアキャラバン活動を、オズマピーアールのメディアリレーションズを活かして首都圏・関西圏で積極的に実施。訪問したメディア担当者に共感をしてもらい、取材・掲載を実現する地道な取り組みを積み重ねて、全国的な話題化に繋げていきました。

★この章のポイント
①社内のインナーリレーションを強化し、外部パートナーも一体となってチームでPR活動を推進
②長いスパンをかけて住民との良好な関係性を構築し、情報発信も共創的に実施
③メディアキャラバンを地道に積み重ねることで、全国的な話題化を実現

PR活動が団地再生に寄与したこと

茶山台再生プロジェクトの成果

これらの活動の結果、新規入居者に占める20-40代の割合は、団地再生前の4年間に比べると10%増加し、下落を辿っていた入居率は上昇。団地に活気が戻っただけでなく、団地再生の取り組みを「これからも続けて欲しい」と回答した団地住民の割合は、「75%」にも及びました。また、国、自治体、全国の大学、NPO法人など様々な団体から視察が相次ぎ、団地再生プロジェクトは多方面に波及効果をもたらしたほか、茶山台団地以外の自社団地や、他の企業が運営する団地でも『ニコイチ』が導入されるなど、横の広がりも見られました。

公社は、茶山台団地の次のフェーズとして、住民の共創をさらに進めながら、『(仮称)茶山台パーク化プロジェクト』を構想するなど、“地域に開かれた団地”として、さらなる発展を目指していくそうです。

日本社会が抱える課題とPRの可能性

団地の中にも、大阪府住宅供給公社が運営しているような公社住宅や、市が管理している市営住宅など、様々な種類がありますが、一般的な団地に対する人々のイメージは、決して良いものではないと言えます。いま全国の団地が抱えている課題を解決するためには、固定概念を打破するような変化を起こす必要があり、そのために出来ることとして『茶山台団地』が示してくれたのが、住民と共創して取り組んだ団地再生活動と、その活動内容を正しく団地外へと広めていくPR活動の大切さでした。

この『茶山台団地』の取り組みの数々は、大阪府住宅供給公社をはじめとする様々な関係者の長年の努力によって実現したものであるため、一朝一夕でマネできるものではありません。しかし、 対住民、対メディア、対住まいの探し手、これらの全ステークホルダーに対して、最適な形でコミュニケーションを取り合い、良好な関係(=共創体制)を築き上げていったこの取り組みは、まさにパブリック・リレーションズの本質であると言えます。

自分たちが抱える課題を解決するために、既存の概念を変えなければならない、また生活者の意識変容を起こさなければならない。そんな時こそ、まずは最も身近に存在するステークホルダーを”共創者”として巻き込み、段階的に成功体験を積み上げて”共感者”を増やしていくような、一貫性のある「コミュニケーション戦略」が求められるのではないでしょうか。


『茶山台団地』再生プロジェクト受賞歴
グッドデザイン賞(2017年)
マイクロライブラリーアワード(2018年)
第8回健康寿命をのばそうアワード 厚生労働大臣優秀賞(2019年)
都市住宅学会都市住宅会長賞(2019年)
PRアワードグランプリ2019 グランプリ(2019年)

その他PRアワードグランプリの受賞事例解説はこちら

 

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