代替肉のイメージを変える。他業界との“共創”で新規層にも魅力を届けるネクストミーツの挑戦

ビジネスの中に、SDGsの視点を取り入れることが当たり前となった昨今、持続可能な社会の実現や、地球環境に配慮した取り組みなど、各企業によって様々なアクションが起こされています。その中でも注目を集めているのが、環境負荷の削減に貢献するプラントベース(植物由来)の「代替肉」です。

畜産業界が生産する牛肉や豚肉、鶏肉といった動物性の肉は、市場に出回るまでに多くの環境負荷をかけています。牛のゲップから排出される温室効果ガスや、家畜排せつ物による水質汚染、家畜飼料を育てる土地を確保するための森林伐採…。動物性食品を消費し続ける限り、これらの問題が深刻化の一途をたどるような状況になっているのです。

こうした環境課題を解決するため、代替肉の研究や商品開発を行っているのが、フードテックベンチャーであるネクストミーツ株式会社です。同社は“地球を終わらせない。”という人類の悲願であるビジョンを掲げ、プラントベースフードの世界的ブランドを目指しています。今回は、ネクストミーツ株式会社 代表取締役の佐々木英之さんに、企業成長の背景と、「代替肉」の認知向上やバリューアップを図るためのマーケティング戦略などについて伺いました。

創業7か月で時価総額4,000億円を誇るユニコーン企業へ

“社会貢献 × ビジネス”を考える中で代替肉と出会う

中国に12年間在住し、現地でビジネスコンサルティングを手がけていた佐々木さんは、その当時から、ネクストミーツの共同創業者である白井良さんとともに、広告やIT、製造など、様々なビジネスに携わっていました。そんな中、白井さんの方から「環境に関わるビジネスをやりたい」と働きかけがあったことを受け、「将来は“社会貢献 × ビジネス”を体現するような事業を立ち上げようと考え始めた」と佐々木さんは話します。

「社会課題を解決しようとなったときに、環境問題は切っても切れないトピックでした。様々な事業のアイデアを探り、どれも参入障壁が高く難しいと感じていた中、たまたま代替肉を知るきっかけがあり、そこから食の分野に興味を抱くようになりました。

そして、食糧危機や環境問題の課題を解決するために、『自分たちで代替肉を研究開発すればいいのでは』と考え、2017年から代替肉の研究を開始しました。3年後の2020年6月に世界初の焼肉用代替肉『NEXTカルビ』が完成し、そのタイミングで、今のネクストミーツを立ち上げました。」

最短で資金調達を行い、最速で事業拡大していくための米国上場

2020年は、代替肉市場に参入する食品メーカーや食肉メーカーが相次ぎ、国内の代替肉市場が活性化した年でした。ネクストミーツも、2020年12月から、焼肉のファストフード「焼肉ライク」の全店舗にて、焼肉用代替肉「NEXTカルビ」と「NEXTハラミ」を販売し、市場の盛り上がりに大きく貢献しています。

2020年は「代替肉元年」と呼べるほど、代替肉市場に注目が集まった中、ネスクトミーツは創業わずか7か月の2021年1月に、米国店頭市場OTCブリティンボード(OTCBB)に上場しました。なぜ、これほどのスピード感を持って米国上場を果たすことができたのでしょうか。

「米国のスタートアップ事情は、創業から1か月足らずでユニコーン(未上場で時価総額が1,000億円以上の企業)に躍り出る企業が普通に存在しています。ネクストミーツがここまでスピード感を持って動けたのは、弊社のCFOである石塚が、米国の金融スタンダードに精通していたことが大きいですね。

また、植物由来の代替肉に勝機を見出した理由については、次のように説明します。

「どんなにテクノロジーが進化しても、人は食べないと生きていけません。つまり、『食』はいつの時代でも必要不可欠なものであり、ジャンルとしても非常に面白いんです。現在、世界の食肉市場全体では、およそ200兆円の規模があり、そのうちプラントベースの市場は15兆円に上るとも言われています。このように、環境問題と向き合うビジネスは今後ますます必要になってくるでしょう。ネクストミーツが世界を相手に事業を拡大させ、世界中の人たちに“地球環境に配慮した美味しい代替肉”を届けることができれば、非常に大きなビジネスチャンスだと感じています。」

多様性が進む欧米から学ぶ、食のビジネストレンド

他方、欧米では日本に比べて代替肉市場の成長拡大が顕著になっています。すでに代替肉を食べる習慣が取り入れられているのには、どのような背景があるのでしょうか。

「日本と欧米で最も異なるのは『食の多様性(フードダイバーシティ)』です。欧米では、ベジタリアンやヴィーガンといった概念が一般的になっていて、食の多様性における地場が根本的に違うと捉えています。米国では特に、『Beyond meat(ビヨンド・ミート)』と『Impossible Foods(インポッシブル・フーズ)』の2大代替肉ベンチャーが有名ですね。

前者はスーパーやマクドナルドとタッグを組んでいて、後者は多くの飲食店で独自開発した『インポッシブル・バーガー』を提供しています。特にインポッシブル・バーガーは、すでに固有名詞として定着しているので、我々も海外の先進企業の打ち出し方や商品のデザインなどを参考にしながら、事業を展開していこうと思っています。」

日本市場で代替肉とのタッチポイントを増やすための戦略とは

大豆ミートへの先入観を払しょくする商品開発とネーミング

それでは、地球環境に優しい植物由来の代替肉を世の中に広めていくため、どのようなコミュニケーション戦略を展開しているのでしょうか。佐々木さんは、「まずは代替肉の美味しさを伝えていく必要がある」と語ります。

「大豆由来の食品というイメージが先行していて、どうしても大豆ならではの豆臭さやパサパサした食感が気になってしまう方もいると思っています。そんなイメージを払拭し、動物性食品と遜色のない美味しさを追求するため、研究開発にかなり力を入れています。

ネクストミーツの商品には『NEXTハラミ1.1』や『NEXTカルビ2.0』、『NEXTバーガー2.1』など数字を入れているのですが、これはさながら、IT企業のプロダクト開発のように、商品を常に改善し、バージョンアップさせていく意味を込めたネーミングにしているんです。商品の魅力を伝える写真も“シズル感”を意識し、ビジュアルで美味しさが訴求できるように心がけています。」

また、飲食店とコラボする際も、大豆ミートという言葉をあえて使わず、「『NEXT〇〇』という固有名詞で料理名を考えている」と佐々木さんは続けます。

「2021年11月に、渋谷肉横丁とコラボした際も、『NEXTチンジャオロース』や『NEXTてっぱんライスバーガー』といった料理名でお客様へ提供しました。『大豆ミートを使った〇〇』だと、いかにも代替肉を使用した感じが出てしまうので、美味しそうな名前を意識し、新しい食品の概念が伝わるように『NEXT〇〇』としています。

お客様からすると、『“NEXT”って何だろう』と思うかもしれませんが、その商品が代替肉を使ったものと知らなくても、普通に食べてもらえるよう工夫を凝らしています。ソニーのウォークマンが、商品名から固有名詞として定着したように、将来的にはネクストミーツも単なる代替肉の商品ではなく、固有名詞としてお客様に認知してもらえるようにしていきたいです。」

ご当地グルメや他業界とのコラボで新規層へリーチを広げる

さらに、代替肉とのタッチポイントを創出していくために、スーパーやコンビニなどの流通販路の拡大や、ご当地グルメとのコラボなど、日本全国への普及にも努めているそうです。

「自社のオンラインショップのほか、リアルでの取り扱い店舗も拡大しています。現在では、全国のイトーヨーカドーでネクストミーツの商品を置いてもらっていて、そのほか、イオンやライフの一部店舗でも販売させていただいています。

また、『47都道府県コラボプロジェクト』を始動させ、各都道府県と連携しながら話題性を仕掛けていく予定です。第1弾としては、長野県の名産品である、おやきとコラボした『NEXTおやき』を発売しました。今後も各地域の名産品と掛け合わせ、地方創生やSDGsの文脈と絡めながら、代替肉で日本を元気にしていく取り組みをしていきたいですね。」

加えて、代替肉に前向きな事業者やコミュニティと共創し、「さまざまな業界で話題喚起を図っていく」と佐々木さんは述べます。

食は、どの業界とも親和性を持たせやすく、シナジー効果を生み出しやすいと思っています。事例としては、吉本興業とのパートナー提携やサッカーのクラブチーム『アルビレックス新潟』のユニフォームパートナーなどが挙げられますが、実は我々から働きかけは行なっておらず、紹介を通じて提携の話へと発展したんです。

それぞれの業界とコラボすることで、代替肉をまだ知らない新規層にもリーチできるので、コミュニティごとに最適なコンテンツや商品を提供すれば、ネクストミーツの認知度向上やブランドのバリューアップにもつながると考えています。」

独自技術に裏打ちされた商品とブランド力で世界に挑む

日本発の代替肉製品を扱うフードテックベンチャーとして、今後も国内外問わずに事業成長が期待されるネクストミーツ。最後に今後の展望について佐々木さんに伺いました。

「日本には代替肉専門ブランドを持っているところが少ないので、そこはネクストミーツならではの強みとして打ち出していこうと思います。代替肉は海外を含めてもひき肉タイプのものが多いのですが、ネクストミーツは独自の技術によってスライスタイプの代替肉を製造できるので、海外に売って出るときも武器になると捉えています。こうした独自性を追求しながら、事業を拡大していきたいですね。

加えて、代替肉以外にもツナや卵、ミルクといった、他の動物性食品をプラントベースに置き換えることにも取り組んでいく予定です。さらに、『教育×代替肉』という切り口でも、学校給食で代替肉を使ったメニューを提供し、SDGsや食育の観点から子供たちに代替肉を知ってもらい、介護食を必要とする方向けにも代替肉の魅力を届けるなど、裾野をもっと広げていけるよう尽力したいと思います。」

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