地域と大人と子供を結ぶ“チロ”の魔法。軽やかな支え合いを促すチロル堂のコミュニケーション術

2022年11月、グッドデザイン賞大賞を受賞した、奈良県生駒市の『チロル堂』という駄菓子屋をご存じでしょうか。同店は、店内のみで使える通貨「チロル札」で物を買えたり、大人による寄付を「チロ」と表現したりするなど、さまざまな仕組みによってお店全体に“まほう”をかけ、どんな子どもも気兼ねなく食事を楽しみ、安心して過ごせる居場所としても機能しています。

今回、チロル堂の企画から運営に携わる、アトリエe.f.t. 代表・吉田田タカシさんにインタビューを実施。チロル堂の仕組みやオープンの背景をはじめ、地域を起点とした取り組みが、その土地の住民に根付くためのポイントについて、詳しくお話を伺いました。

まほうのだがしや『チロル堂』。子どもが集う“居場所”が生まれた背景とは

多い日は200名の子どもが来店!お店に“まほう”をかけるチロル札の仕組み

まず、『チロル堂』はどのようなお店なのでしょうか。

『チロル堂』は、2021年8月にオープンした、奈良県生駒市にある駄菓子屋です。多い日は小学生を中心に合計200名ほどの子どもが来店する、地域の子どもの“居場所”となっています。ただ、当店は少し変わった駄菓子屋で、子どもたちが持ってきたお金にちょっとした工夫を施しているんです。

『チロル堂』には、店内のみで使用可能な通貨「チロル札」が出てくるカプセル自販機を置いています。18歳未満の子どもであれば誰でも回せるもので、1日1回100円で、通常は1枚のチロル札を手にすることができます。そのチロル札を使って買い物をするのですが、自販機の中にはチロル札が2枚や3枚入ったカプセルも混ぜてあります。その日の運によって、持ってきた100円が、200円や300円分のお菓子を手に入れられるチロル札へと姿を変えるのです。

ただ、チロル札をどう使うのかは、子どもたちの自由。実は、チロル札1枚、つまり1チロルで頼める食事メニューもあるため、お腹が空いているのなら、1チロルと交換できる300円分のポテトフライや500円分のカレーを食べても構いません。こうした仕組みを設けることで、どんな家庭環境の子どもも食事を楽しめ、また安心して過ごせる場所として機能しています。

チロル札の仕組みを可能にするためには、原資が必要かと思います。どのように確保しているのでしょうか。

おっしゃる通り、駄菓子の売上だけでこの仕組みを成り立たせることはできません。チロル札で食事まで提供するためには、大人の寄付が必要です。そこで、店内では、大人向けにカレーや牛すじ丼、チキン、お弁当、コーヒーなどを販売しています。これらのメニューを頼むと、代金の一部をチロル札の運営資金として寄付することができるんです。大人がチロル堂を利用すればするほど、子どもたちを間接的に支えられる仕組みとなっています。

—1メニューあたり、どれくらいの金額を寄付できるのですか?

1チロルから3チロルまで、メニューによってさまざまです。『チロル堂』では寄付のことを「チロ」と呼んでいて、店内のメニュー表には、そのメニューを頼むとどれくらいの寄付につながるのかが分かるよう、料理名の横に金額とは別で「1チロル」などと表記しています。

駄菓子屋を選んだ決め手は「子供だけで行っていい場所と社会に認められている」から

『チロル堂』をオープンすることになったきっかけは何でしょうか。

もともと生駒市にあった子ども食堂が、コロナの影響で運営をストップしてしまったんです。加えて、コロナの影響により学校に通えない期間が生じたことで、家計が厳しい家庭の子どもたちにとって、栄養摂取の命綱となっていた学校給食も止まってしまいました。この状況を打開し、食事にありつけずに困っている子どもたちの力となるためには、すぐにでも子ども食堂の新拠点を立ち上げる必要がある。仲間たちと想いが一致し、『チロル堂』立ち上げの動きが生まれました。

通常の子ども食堂にしなかったのはなぜですか?

子ども食堂の果たす役割に、大きな意義とリスペクトを感じていることは大前提として、その仕組みの中に存在している、いくつもの小さな課題をなかなか解決できないことに、「どうにかならないか」と以前から悩ましく思っていたからです。

僕や一緒に企画を考えた仲間たちは、アートスクールなどを手がけるクリエイターです。そのため、子ども食堂という仕組みが構造的に抱えていた課題をきちんと洗い出し、それらを解決して、円滑で美しくまわるようなものへと作り変えていくことが、僕らの仕事だと感じました。通常の子ども食堂とは違う形での運営を考え、結果としてたどり着いたのが『チロル堂』の仕組みだったんです。

駄菓子屋に決めたのは、「子どもたちだけで行っていい場所」と社会に認められているから。仮に、レストランだと、子どもだけでの入店にハードルがありますが、駄菓子屋であれば、子どもも気軽に入りやすいですよね。

子ども食堂の根本的解決に寄与する「チロル札」や「チロ」というキーワード

子ども食堂のイメージを払拭し、「情けない」と感じる子どもを減らす

チロル堂の店内に集う子どもたち


子ども食堂の抱える小さな課題や構造的な課題とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。

今からお話することは、子ども食堂の存在や成し遂げてきたことを否定するものではなく、大きなリスペクトがあった上での発言だという大前提のもとお聞きください。

子ども食堂の抱える課題のひとつとして挙げられるのは、子どもが情けない想いをしたり、偏見にさらされたりする可能性が高いことだと思っています。子ども食堂という言葉を聞いて、「家計が厳しく、食事に困っている子どもたちが、ご飯を食べさせてもらえるところ」というイメージを持つ方も多いでしょう。そういうイメージは、子ども食堂を訪れた子に対して、「家計の苦しい家の子」という要らぬ偏見がつくことにもつながりかねません。

『チロル堂』の仕組みを考える際にも、もし僕が小学5~6年生で、日頃の食事にありつけなくて困っていたとしたら、どういう行動をするだろうと想像してみました。そこで思ったのが、僕はたぶん、周囲からの哀れみや、偏見の目で見られて自分のプライドを傷つけるのが嫌で、子ども食堂にはいかないだろうなということでした。

そのように「情けない」と感じてしまう子を生まないためには、どうしたらいいのか。そこでカギとなったのが、子ども専用の店内通貨「チロル札」や、大人の寄付の存在を外側からは見えにくくする「チロ」という言葉なのです。

寄付ではなく「チロ」。軽やかに支え合う文化を目指した表現の工夫

チロル札があれば、どんな子も同じ条件のもとに過ごすことができますから、情けない思いをする子は出ませんね。しかし、大人からの寄付をあえて「チロ」と表現し、外からは見えないようにしたのはなぜでしょうか?

寄付という言葉にまとわりつくイメージを払拭し、『チロル堂』の店内では、もっと軽やかに支え合う文化をつくりたいと思ったからです。日本の「寄付する」という言葉には、上から人を助けるような、施しをするかのようなニュアンスがつきまといます。でも、寄付は本来、寄付する側にも得るものがあるはずなんです。たとえ、お金が出ていったとしても、精神的には何か満たされるものがある。そういった、一方通行ではない支え合いの形を意識して生まれたのが、寄付の代わりとなる「チロ」という言葉でした。

この言葉を使い始めてから、思い描いていたとおり、多くの方がよりカジュアルに、嬉しそうに寄付をしてくれるようになりました。チロル堂は、夜になると『チロる酒場』に変身し、大人の方によりチロってもらいやすい環境を整えています。そんな仕組み作りも相まって、SNSでは「ついにチロっちゃいました!」「ずっとチロりたいと思ってて、ようやくチロル堂に来れました!」と投稿してくれる方も現れて。これが「寄付」という言葉のままだったら、こうはいかなかったと思いますね。

地域に根差し主体的な参加を促す『チロル堂』のコミュニケーション術

合言葉は「ナイスチロ!」。大人が楽しんでやったことが、“気付いたら助けになっている”場所に

『チロル堂』をスタートして約2年。反響はいかがでしょうか。

先ほども少しお話したように、子どもは多い日で1日あたり200名ほどが来てくれるようになったため、子どもたちの居場所づくりとしては大成功したように思います。地域の大人も『チロル堂』に積極的に関わってくれるようになり、これまで地域とつながりを持つ機会のなかった方が、新しいチャレンジをする場としても機能し始めました。地域の子どもたちを支えることにつながるのなら、自分も何かできることをやってみようと、毎月のようにさまざまなイベントが開催されています。

たとえば、先日は食用ザリガニを持ってきた方がいらっしゃって、食用ザリガニを食べてみる会が催されましたし、ラーメンを提供する日もありました。あとは、表からは見えない部分での関わりになるのですが、有名飲食店を次々と立ち上げているオーナーの方が「自分はこれでチロることにする」と、『チロル堂』のオペレーション最適化について、無償でコンサルティングをしてくださっているんです。そのおかげで、お店の売上向上とコスト削減にもつながり、その分が子どもたちへの食事やお菓子の提供につながっています。

僕たちも、チロしてもらったことに対して、「ありがとう」とは言わないようにしていて。お礼を言ってしまうと、寄付のニュアンスが強くなってしまいますし、そこには上下の関係が発生してしまいますよね。僕たちは「ナイスチロ!」なんて言ったりするのですが、自分ができる範囲で、楽しいと思えることやできることをもとに、押しつけがましくなく自然と助け合っていく。僕が日頃から言っている“気付いたら助けになっている”ということが、『チロル堂』の中で行われるようになってきています。

ずっと待ち望まれた店舗を一緒に作り上げたことが、地域住民の自分ゴト化に寄与

自分が楽しんでやったことが、結果的に助けとなっているという仕組み自体が、大人も主体的に関わり、地域に深く根差すことができたポイントでしょうか?

そうですね。加えて、「この場所を応援してください」ではなく、地域の方に対して常にオープンな姿勢で、「一緒にやりましょう」というスタンスでいたことが良かったのではないでしょうか。『チロル堂』はオープン前から、地域の方向けに説明会を開き、店舗運営でまだ決まっていない部分についてアイデアの募集などを行ってきました。その結果、多くの方が『チロル堂』の運営を自分ゴトとして捉えてくれるようになったと思います。

その最たる例が、2022年にグッドデザイン賞大賞を受賞した日のエピソード。受賞発表の日は定休日だったのですが、受賞が発表されると、誰が言うでもなく、日頃から関わってくださっていた40名ほどの方がチロル堂に集まっていて。閉まっていたお店を開けて、全員で泣きながら受賞を喜び合うことができました。

また、『チロル堂』はクリエイティブとして本当に新しいものではありません。ただ、みんながずっと待ち望んでいたものを作り上げたと思っています。共感できるものを作ったからこそ、『チロル堂』が運営元の我々だけではなく、地域みんなのものとして受け入れてくださったのかなと感じますね。

さいごに、今後の展望について教えてください。

『チロル堂』は昨年から、金沢や大阪、広島、東京で新たに店舗をオープンさせました。ただ、複数の店舗を手がける中で分かったのは、僕らの行う『チロル堂』の仕組みはかなり難しいものだということでした。

『チロル堂』をやろうと思ったら、街で一番人気のレストランをつくるだけのスキルやノウハウが必要になり、『チロル堂』のスキームを真似したからといって、誰もが運営できるものではありません。そのため、今後は積極的に店舗を増やしていこうとは思っていないんです。むしろ、引き続き生駒市に根ざしながら、地域の大人が近所の困っている子どもを助けてあげられるような、大人として当たり前のことを当たり前に行える装置であり続けたいと考えています。

『チロル堂』の考えることを理解してくださる方が増えれば、街に主体的に関わる方がもっと増え、結果として生駒市をおもしろくすることにもつながっていくと思います。日本の社会全体を引っ張っていくというよりも、『チロル堂』は今この場所で、地域の子どもたちのためにあり続けていく。とてもスモールな取り組みですが、それでよいのだろうなと感じていますし、そのスタンスでこれからも運営していきたいです。

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