サステナブル先進商社から学ぶSDGsとの向き合い方。賛同者を巻き込むコミュニケーションとは

昨今、企業が環境問題やSDGsについて考え、持続可能なビジネスを展開するための指針を目指すことが求められています。一方で、表明や宣言までは行えても、実際のアクションに結びつけられておらず、「グリーンウォッシュ」や「SDGsウォッシュ」などと揶揄されることも少なくありません。持続可能な社会の実現に向け、本質的に取り組むべきことは何なのか。

今回は、繊維商社として創業180年の歴史を誇り、いち早く環境問題に取り組んできた、豊島株式会社営業企画室の佐藤菜津紀さんと中村洋太郎さんに、同社が取り組むサステナブル素材の開発背景や、顧客に選ばれるためのコミュニケーションについて、お話を伺いました。

30年以上前からサステナブルに着目していた豊島

アパレル生産が地球環境の負荷になっていることへの課題意識

豊島は、綿花商から始まり、時代とともに繊維原料の生産やアパレルの生産管理、納品管理など、サプライチェーンにおける一連のプロセスに至るまで、ビジネスを広げてきました。2019年にはサステナビリティに対する姿勢を表した「MY WILL」を掲げ、地球環境に考慮した素材開発や持続可能なファッションの普及に対して、企業の声明を打ち出しています。

そんな豊島は、SDGsが注目される約30年以上も前から、地球に優しい素材の展開やサステナブルなプロジェクトの立ち上げなど、持続可能な仕組みを見出してきたそうです。なぜ、早くからサステナブルな取り組みに着目してきたのでしょうか。佐藤さんは、「以前から、ファッション業界が地球環境に負荷をかけてしまっていることに対し、ファッションに携わる企業として何かできないかと考えていた」とし、次のように説明します。

「豊島は、アパレル生産の川上から川下まで全てに関わっていますが、衣類へ染色する際の水質汚染や、生地の原料となる綿の栽培時に大量の農薬が使われるなど、地球環境に大きな負担がかかっていることに対して問題意識を持っておりました。そこで今のようにSDGsの考えが広まる前からサステナブル素材に着目し、1990年代にレンチング社様が展開する環境負荷の低い、植物由来のセルロース繊維『TENCEL™(テンセル)』の取り扱いを開始しました。さらに、オーガニックコットンの普及を推進するため、2005年には『ORGABITS(オーガビッツ)』というプロジェクトを立ち上げました。」

2013年の事件がファッション業界の意識を変えた

しかし、かつてのファッション業界は華やかさが際立ち、こうした環境に負荷がかかることに対しては、あまりフォーカスされてきませんでした。豊島のサステナブル素材やプロジェクトも、あくまでラインナップの一つとして存在するような状況でしたが、転機となったのは2013年の痛ましい出来事でした。バングラデシュの縫製工場が入ったビルが崩落し、多くの犠牲者を出す大惨事となってしまったのです。

「この出来事をきっかけに、きらびやかなイメージを持つファッション業界の裏側では、“低賃金で劣悪な労働環境を強いられている側面がある”という現状が浮き彫りになり、業界全体に批判が集まりました。それ以来、ファッション業界全体で洋服を生産する意義や、持続可能性などを真剣に考える機運が生まれてきたと考えています。」

サステナブル実現に向けたプロジェクトは現場から生まれる

そして、2015年には国連がSDGsを採択し、ファッション業界におけるサステナビリティへの関心は次第に高まっていきました。豊島では年2回、素材の展示会を実施しており、年々サステナブル素材の取り扱いが増えているそうで、環境保全のプロジェクトなどを合わせると、その数は16素材にも上ります。ここまで広げることができた所以として、「現場と接する営業部署の声をもとに、多くのプロジェクトが立ち上がってきたからだ」と佐藤さんは言います。

「近年、商談先から『サステナブルな素材を使った商品を作りたい』と言われる場面も多くなってきていて、SDGsへの意識は確実に広まっていると感じています。企業としても、サステナビリティを追求する姿勢が求められ、行動で示していくことが大切になると思います。

また、営業の部署はファッションブランドのニーズを捉えるために、現場の声や課題感を常に拾っています。その過程で、持続可能な素材づくりのアイデアや提案が生まれ、ボトムアップ型でプロジェクトが誕生することが多いですね。あとは、豊島の持つネットワークでサステナブル素材を開発する場合もあります。」

豊島が取り組むサステナブル素材の具体例①

オーガニックコットン普及プロジェクト『ORGABITS(オーガビッツ)』

豊島が生み出す、サステナブル素材に関するプロジェクトのうちの3つをご紹介します。まず1つ目は『ORGABITS(オーガビッツ)』です。

これは、2005年から行われている、オーガニックコットン普及プロジェクトで、「全世界のうちオーガニックコットンの農業生産地は1%しかなく、流通量を増やしていくことで少しでもオーガニックコットンを扱う農地を増やしたいという思いを胸に取り組んでいる」と佐藤さんは話します。

「オーガニックコットンはよく肌に優しい素材と思われがちですが、実は肌触りに関しては一般的なものとあまり変わらないんです。むしろ、農薬を極力使わないことで、生産者にも環境にも優しいということの方が、大切な側面となっています。ただ、生産の手間やコストがかかる点や、品質の安定した供給ルートの確保が難しい点から、ファッションのテイストによっては扱いづらい素材として見られていました。」

オーガニックコットン使用への賛同者を増やした「逆転の発想」

この状況を打破したのが「逆転の発想」でした。1枚の服に100%のオーガニックコットンを使ってもらうのではなく、オーガニックコットンが10%以上使われている商品を、複数のファッションブランドに使ってもらう。こうすることで、無理なくオーガニックコットンを素材として服に取り入れることができ、オーガニックコットン自体の裾野も広がると考えたのです。

「オーガビッツという名前は、『オーガニックコットンをみんなで少し(bits)ずつ使い、地球環境に貢献する』という思いが由来になっています。100%にこだわらず、オーガニックコットンを10%使用した商品を100人、1000人に届けることができれば、それだけオーガニックコットンの普及につながるわけです。また、インドのオーガニックコットン農家や国内NPO団体への支援として、オーガビッツ商品1枚につき1円が寄付できる仕組みを取り入れています。このような循環型の取り組みは、生活者の社会貢献意識の醸成につながり、ソーシャルグッドな流れを作る原動力になっています。」

今では賛同するファッションブランドは135を超え、年間に生産される『オーガビッツ』のコットン製品は、100万点に達するほどのプロジェクトにまで成長しました。さまざまなステークホルダーを巻き込み、ソーシャルグッドな世界観を創ってきた好例と呼べるのではないでしょうか。

コロナ禍ではSNSによるコミュニケーション施策で認知度拡大

最近では、一般生活者に向けた、オンラインでのコミュニケーション施策を企画し、さらなる普及に向けたアクションも行なったそうです。

「これまで、賛同ブランドやNPO団体と共催でイベントを行ってきましたが、コロナ禍でオンラインへシフトしたこともあり、SNSを活用したチャリティキャンペーンを実施しました。一般生活者の皆さまを巻き込んだキャンペーンは初めてでしたが、結果として、InstagramやTwitterなどの投稿数は600件も集まりましたね。」

「また、同様の取り組みとして、今年8月に行った『RED NOSE DAY・チャリティSNSキャンペーン』では、“赤い鼻”を付けた写真とハッシュタグ『#レッドノーズデー2021』の投稿数が2万件に達するなど、多くの反響を得られた施策になりました。」

豊島が取り組むサステナブル素材の具体例②

漂着ペットボトルゴミ等を再利用した繊維『UpDRIFT™(アップドリフト)』

続いて2つ目は、クリーンアップ活動で回収した漂着ペットボトルゴミ等を再利用した繊維『UpDRIFT™(アップドリフト)』です。2019年よりこちらのプロジェクトを担当する中村さんは、『UpDRIFT™』が生まれた経緯について、次のように説明しました。

「近年、海洋プラスチックゴミや海岸での漂着ゴミが問題視されています。他方で、地域で活動するボランティア団体や、地方自治体などのクリーンアップ活動も行われていて、ゴミを回収するだけでなく、資源として生まれ変わらせることができないかと考えたことがきっかけでした。」

サステナブル市場でも関係者との信頼構築やビジネスの循環が大切

ですが、プロジェクトを進める上で、「いくつものハードルを乗り越えなければならなかった」と中村さんは振り返ります。

「プロジェクトを行う上で、関係先とのリレーションづくりは非常に肝となります。海岸に漂着したゴミを処理する責任は自治体にあるので、協力体制を仰ぐのはもちろん、クリーンアップ活動に励む非営利団体や、その地域の環境保全における礎を築いてきた当事者の方などに、豊島の考えるビジョンをしっかりと共有し、理解してもらうために対話を重ねました。また、持続可能なビジネスとして昇華させるには、素材としてアップサイクルした時のマーケットや産業規模も鑑みながら、価値あるものにしていかなければなりませんでした。

単にリサイクルするにしても、浮遊ゴミ全てが再利用できるわけではないので、その分別も大変な作業なわけです。製品化をしても、環境負荷に影響するマイクロプラスチックを生み出してしまう問題もある。市場性が見えにくい中ではありますが、協力団体や第三者機関などに助言をいただきつつ、全体最適の視点を持って一つひとつ確認しながら進めていきました。」

まだまだ山積みの課題はある一方で、地方自治体や企業、クリーンアップ活動に携わる団体、社会課題に関心のある人など、各方面の方々と共にビーチクリーン活動を行い、繊維の資源となる漂着ペットボトルゴミを回収する「グリーン・アンド・ブルー・チャレンジ」という体験型の取り組みを通し、環境問題の解決に向けて着実に前に進んでいると感じているそうです。

「沖縄の石垣島で活動するボランティア団体と協力して行ったグリーン・アンド・ブルー・チャレンジでは、自治体もそれらの活動をサポートし、取り組みの要素を発信してくださるなど、『大切な島の資源である海を綺麗にする。』という機運が高まり、海洋ゴミの回収率が上がってきています。こうした活動は、教育にも結びついてきており、全国各地の学生がSDGsを学ぶ機会になるなど、今後さらなる横展開が期待される状況です。」

豊島が取り組むサステナブル素材の具体例③

廃棄食材を再活用するプロジェクト『FOOD TEXTILE(フードテキスタイル)』

そして3つ目は、ファッション業界から廃棄食材を再活用するプロジェクト『FOOD TEXTILE(フードテキスタイル)』です。佐藤さんは「スタートした2015年ごろは、ファッション業界にサステナビリティがあまり浸透していなかったため、なぜ廃棄食材を利用して染色をするのか、ということをご理解いただくことが課題だった」と顧み、どのように浸透していったかについて以下のように述べました。

「当時は廃棄食材から抽出した色をファッションに活かしていくことに対して、あまり理解が進まなかったんです。しかし、フードロスが社会的にも注目され始めると、捨てられてしまう野菜や果物を再活用している事が付加価値となり、興味を持ってくださる方がどんどん増えてきました。『フードテキスタイル』は廃棄予定食材から抽出した染料を90%以上使用しており『食材からしか抽出することができない優しくて可愛い色』『フードロス問題にもアプローチできる』と現在では各方面から評価をいただいております。」

他方、廃棄予定食材の回収において連携している食品会社や飲食店など、各企業が持続的に取り組めるためのオペレーション設計には、苦労を要したそうです。

「廃棄食材を再活用する際に難しいのが、少しでも食品を腐らせてしまうと、染料にならないこと。食品の製造過程で発生する廃棄予定の食材を、各企業には都度、出荷してもらっていますが、管理方法などは、試行錯誤しました。」

繊維商社からライフスタイル商社への転換

サステナブルな社会の実現に向けた取り組みがこれまで以上に求められる中、豊島は繊維商社としてどのような目標を持っているのでしょうか。最後にお二方にこれからの展望について伺いました。

佐藤さん:今までは繊維商社として歩んできましたが、最近は『ライフスタイル商社』と打ち出し、アパレルを手に取る生活者の方にもサステナビリティを意識してもらえるようなコミュニケーションをしていければと思います。また、SDGsへの関心が高まってきたことも相まって、ファッション以外の異業種の方々からも引き合いをいただいているので、豊島としてどのような価値を提供できるか引き続き模索していきたいです。

中村さん:『アップドリフト』の認知度や社会的意義を広めるためにも、石垣島での成功事例を参考に、他の自治体にも拡大していけるよう、一歩一歩取り組んでいきたいです。

豊島から広がる環境への意識変化

いまや、企業において重要な務めとなっている環境問題解決に、30年以上も前から取り組んできた豊島。そこには、アパレル生産の川上から川下まで携わる同社だからこそ感じてきた、地球環境への大きな負担や、ファッション業界への課題に対する想いがありました。

豊島が取り組むサステナブルな社会の実現に向けたプロジェクトは、現場からすくい上げた課題感をもとに、誕生しています。今回紹介した、『オーガビッツ』『アップドリフト』『フードテキスタイル』をはじめ、16ものサステナブル素材やプロジェクトを取り扱えているのも、現場の声を常に拾い続け、アイデアや提案が生まれる機会が多い環境があったからこそではないでしょうか。

自社のブランドだけではなく、様々なステークホルダーを巻き込んでソーシャルグッドな流れを醸成していく。そのような豊島の考えに賛同し、活動に協力する人々が増えていくことで、世の中のサステナビリティに対する意識は変わっていくかもしれません。

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