地域活性のカギは“地域の協力者”を増やすことにあり!保存版シティプロモーションの手引き

近年、耳にする機会が増えた「シティプロモーション」。しかし、シティプロモーションとはどういったものなのか、どのような手順で行っていくべきなのか、きちんと理解している人は少ないのではないでしょうか。今回は、東海大学 河井孝仁教授に、効果的なシティプロモーションの方法についてお聞きし、実際にどのようなポイントを意識して着手すべきなのか、探っていきます。

シティプロモーションの定義と目指すべき姿

東海大学文化社会学部広報メディア学科教授 河井孝仁
静岡県庁企画部情報政策室、財団法人静岡総合研究機関等を経て、2010年より現職。加えて、総務省地域情報化アドバイザー、公共コミュニケーション学会会長理事、日本広報学会常任理事などを務めるほか、静岡県富士市、栃木県那須塩原市をはじめとする、多数の自治体のシティプロモーションに関わる。

人口を増やす方法ではなく、自分たちの地域に必要な資源は何かを考える

―はじめに、河井先生が専門にされている「シティプロモーション」の定義について教えてください。

私は、行政広報論や地域マーケティングなどの研究を行っているのですが、その中でも特に専門としているのが「シティプロモーション」です。私が定義しているシティプロモーションとは、「地域を持続的に発展させるために、地域の魅力を創出し、地域内外に効果的に訴求し、それにより、人材・物財・資金・情報などの資源を地域内部で活用可能としていくこと」。つまり、「地域の人たちと一緒にその地域の魅力を発見して、それを効果的に発信することで資源を獲得する」ことだと考えています。

そのため、シティプロモーションでは、「私たちの地域はここが魅力ですよ!」という発信をうまくできたかどうかではなく、その発信によってどのような資源を獲得できたのかが重要です。さらに言えば、そもそもの目的は、「地域の持続が実現できるのか」という部分なので、「その発信がなぜ地域の発展に繋がるのか」をロジカルに説明できなければなりません。

―なるほど。一時期、自治体の観光PR動画などが流行りましたが、重要なのは発信して話題にすることではなく、発信することによって、それが地域の持続の実現にどう寄与するのかを考えることなんですね。

そうですね。シティプロモーションにとって、「住民を増やすこと」だけでは目的にはならないんです。もちろん人口も大切ですが、そこに意欲が掛け合わさることで、地域に関わろうとする意欲や地域に対する熱のある土台をどれだけ創れるかが重要になってきます。

現状、様々な地域でシティプロモーションを行う意義がわからなくなっている状況が散見されます。色んな手を打っても、結局、人口増加に繋がらないという声があがっているんですね。しかし、先述したとおり、シティプロモーションの目的は「人口増加」にとどまるものではありません。ましてや、日本全体の人口が減少している中で、地域の住民を増やすことは非常に難しい課題になっていますし、そこにフォーカスを当ててしまうと、地域ごとの「サービス合戦」になってしまいます。

「行政が様々なサービスを手厚くするので、私たちの地域から出て行かないでね。」というような取り組みがメインになってしまうと、自治体にとっては首を絞め続けることになりますよね。なので、シティプロモーションを行うことによって、人口以外で自分たちの地域にどんな資源が獲得できると良いのかを、それぞれが考えるべきなんです。

関係人口を増やし、地域間連携の実現を目指す

※引用元:総務省 関係人口ポータルサイト

―確かに、シティプロモーションに取り掛かると、まず「地域の人口を増やす、もしくは、減らさないためには」という考え方に陥りがちですよね。

むしろ、私は地域から一度出てもらった方がいいと思うんです。東京や大阪などの大都市がどのような場所なのかを肌で感じ、体験した上で戻ってきてもらう。場合によっては、1人で出て行って、結婚し、2人で戻ってくるような形がベストなのではと考えています。そのためには、多様な形で地域外からも積極的に関わってもらう必要があります。いまは東京で働いているけれど、地元の地域も大切に思っていて、何かあれば関わりたい・必要であれば仕事をしたいと考えてくれる人や、観光に来たけれど、その地域にとって何かプラスになることをして帰りたいと思ってくれる人など、地域外の協力者を増やしていくことが大切です。

たとえば、コロナ禍でワーケーションがメジャーになりましたが、これが単なるバケーションの域で終わってしまうと、あまり意味がありません。ワーケーションに来てもらう、プラスで、「素敵な場所だった」と周りに言ってもらうだけでもいいので、このような推奨意欲を高める取り組みにも着手していくべきです。また、リモートワーク施設などの「ただそこで働ける場所」を用意するだけでなく、その地域で新しく起業しようとしている人の支援を週に1回行うなど、ここまで明確ではなくても、“私たちの地域では新しい仲間作りもできます”という部分まで視野に入れた取り組みが必要になってくると思います。

―地域間で人口を奪い合うのではなく、それぞれの地域に関与してくれる人を増やすことを目的として、シティプロモーションを行っていく必要があるのですね。

そうですね。この課題に対して、総務省が関係人口(地域に関わる人)を増やしていきましょうという取り組みも行っています。シティプロモーション全体としては、今が転換期なので、こういった仕組みに頼り切るわけではないですが、どんどん活用していくべきでしょう。東京にいながらも、地元に対して常に関わりたいという意欲を持ってくれていれば、1人で2人分の関係人口になりますよね。そういった形で、地域間連携ができるようになると、非常に良いですね。

シティプロモーションは「意欲の向上」と「向上した意欲の活用」の2軸で考える

地域に関わる意欲を高める2つの施策

では、実際にシティプロモーションはどのように着手していくと良いのでしょうか?

シティプロモーションの仕組みは、「意欲を高める」「高めた意欲を基に行動してもらう」の2段階で考えるとわかりやすいです。

まず、第1フェーズの「意欲を高める」では、人々の地域に関わろうとする意欲を、地域の中および外から獲得することを目指します。具体的な施策としては、①地域魅力創造・革新スパイラル②メディア活用戦略モデルの2つが考えられます。

地域魅力創造・革新スパイラル
『地域魅力創造・革新スパイラル』とは、地域においてブランドを形成していく際に、「市民や地域外の人に関わってもらう」ための仕掛けを指します。

流れとしては、まず、地域の魅力を考え、挙げていく「発散」の段階を経て、周囲の人々とその魅力を「共有」します。その上で、地域の魅力を再構築する「編集」を行います。ここでは、「どのような人がどのような形で、その地域で幸せになれるのか。また、どのような暮らしができるのか。」という具体的なペルソナとストーリーを考え、ブランド形成へと繋げていきます。加えて、地域の魅力は更新し続けるため、都度「研磨」していくことも求められます。そして、最終的なアウトプットとして、それらをブランドメッセージや動画にしていく。これが、基本的な手順になります。

ポイントは、以上の流れを、サイクルではなく、スパイラルのように向上的かつ多発的に行うことです。これらのブランド形成に関わるだけで、市民の“地域に関わりたい意欲”が向上することは、過去のデータ上から明らかになっています。ですので、この仕掛けを多発的に行い、自分の街に関わりたい/推奨したい意欲を向上させていくことが重要なのです。

メディア活用戦略モデル
さらなる意欲を促すためには、地域に関わってほしい人をセグメントし、その人たちに向けて関心を引き起こして、各着地点や接点でさらに信頼・共感をしてもらう流れが必要です。その流れを生み出す施策として、『メディア活用戦略モデル』が挙げられます。

まず、幅広い認知を得るために、地域の「誘発ポイント」を用意します。次に、そのポイントに関心を持ってもらうため、より感度が高いであろう人たちをセグメントターゲティングし、地域ブランドについて探索してもらうよう誘導します。そして、公共性やデータをメディアから供給してもらうことで、信頼の獲得や共感の形成につなげていきます。この流れを活用することで、さらなる意欲の獲得が見込めます。

たとえば、関心を引き起こしたい層が「緑のある暮らしがしたい25~34歳の人」だとすると、その人たちが普段どんなメディアに触れているのかを明確にし、そのメディアにどのような情報が必要なのかを考えて、データを用意するイメージですね。メディアを使って「どのように人を動かすのか」という部分まで考えることが大切です。

“関与の窓”を用意し、地域に参加するきっかけを与える

―一言に「地域へ関わる意欲を高める」と言っても、様々な施策を打つことが大切なんですね。

そうですね。シティプロモーションは、地域に関わる意欲の量をどれだけ増やせるかが大切だと先述しましたが、そこには、地域に関する「推奨」の思い、地域に関わろうとする「参加」の思い、地域に対しての「感謝」の思いの3つがあります。この思いを持つ人が増えれば、同時に“地域(まち)に真剣(マジ)になる力”を増やすこともできる。つまり、“地域に真剣になる力”を地域内外に広げていくことこそが、シティプロモーションの根幹になるのです。

さらに、その地域に熱を持った人々の力によって、シティプロモーションの土台ができれば、自治体や関係者からアクションを促さずとも、自ら行動を起こしてくれる人たちが増えることが期待できます。

―それでは、第2段階の「意欲を基に行動してもらう」という部分では、どのような施策があるのでしょうか?

第1段階では、こちらが用意した地域の魅力などに対して、関わりたいと思ってもらうことが目的でしたが、当然それだけでは、地域の持続には繋がりません。地域を持続させるには、地域内外に住む人々からの、地域を維持・発展させようとする“多様な自発的活動”を実現させる必要があります。そして、その“多様な自発的活動”を生み出すために必要なのが、地域へ関わりたい意欲が高まった人たちが「参加できる機会を積極的に創る」ことです。私は、その参加できる機会・きっかけのことを“関与の窓”と呼んでおり、先述した「地域魅力創造・革新スパイラル」に当てはめると、「研磨」の部分に位置づきます。

関与の窓とは、たとえば、「編集」の部分で考えたペルソナとストーリーをもとに「私たちの地域に来ると、こんなことができますよ」という具体的な取り組みを作成/明示することなどが該当します。このような“関与の窓”を用意してあげることで、意欲は高まっているけれど、その意欲をどうしたらいいのかがわからない人たちに、実際に行動するきっかけを与えることができます。もっと言えば、こちらが期待している以上の行動をしてくれる可能性を秘めているんです。

≫後半『シティプロモーションの好事例』

 

1

2

関連記事

  1. Withコロナは「地元の魅力再発見期」地域活性化のニューノーマルを探る…

  2. “変化”を“当たり前”まで昇華する。59種類の栄養素がバランスよく含ま…

  3. 生活者に支持されるジャーナリズムとは?読者+社会と繋がる「あなたの特命…

  4. 広報は“3つの断捨離”をしよう!南麻理江さんが考える、広報に必要な“S…

  5. “生理タブー視”問題は次のフェーズへ。#NoBagForMeが日本社会…

  6. 団地再生のカギは“住民共創”にあり。茶山台団地再生プロジェクトを支えた…

  7. 潜在需要喚起でフードテック産業を盛り上げる。リアル体験を生むFOOD …

  8. JALの「#かくれナビリティ」が生活者に響くワケ。“やってみよう”を醸…

RECOMMEND

人気記事 最新記事

ARCHIVE