潜在需要喚起でフードテック産業を盛り上げる。リアル体験を生むFOOD TECH PARKの狙い

昨今、食の課題をテクノロジーで解決する、「フードテック」が世界的なトレンドとして台頭。日本でもサステナブルな食への意識は高まり、製造工程で環境への負担が少ない、植物原料の「プラントベースドフード」が注目を集めています。一方で、プラントベースドフードは「ヴィーガン」の文脈で語られることが多く、既存のニッチな市場の中で戦わざるを得ないのが実情です。

こうしたフードテック業界のジレンマを、これまでにない視点から突破しようとしているのが、ウェルビーイング事業を展開する株式会社TWOです。2021年4月にローンチし、現在、渋谷ロフト店をはじめ都内に5店舗展開している、プラントベースドフードブランドの『2foods(トゥーフーズ)』と、最新のフードテックブランドを体験できる『FOOD TECH PARK(フードテックパーク)』の実施背景や、今後のフードテック産業に与える影響などを、同社の代表を務める東義和さんに伺いました。

国内外のフードテック産業の現状とは?

フードテックのメインストリームは、地球に優しい代替食

いま、フードテック産業は世界的に注目されていますが、実際、マーケットとしてはどういった位置付けなのでしょうか?

そもそも「フードテック」とは、食の課題をテクノロジーで解決することを指す言葉ですが、広義では、IoTやICTを駆使して生産や調理、流通の可能性を広げていくことを目的としています。中でも、現在メインストリームとして語られているのは、植物由来の代替肉や、肉の細胞を抜き出して人工的に食肉を作る培養肉の生産です。こういった、サステナブルな原料と製法で、人口増加や気候変動がもたらす食糧不足、家畜産業による地球環境への負担などの課題解決が期待されています。

特に、欧米人はこうした食糧をめぐる問題にとてもシリアスに向き合っているので、アメリカのフードテック産業はどんどん発展し、自ずと金融がついてきている状態になっています。お金がついてくれば、マーケットも技術もさらに活性化していきますよね。

一方、欧米ほどではありませんが、日本でも食の課題意識は広がりつつあります。ですが、今はまだ「ヴィーガン」や「ベジタリアン」とった、ニッチな市場の中だけでのムーブメントになっているので、マーケットや金融機関もついてきていません。成功体験が乏しいため、真剣に取り組んでいこうとする企業も少ないのが現状です。

車の次は食への意識が変わる。フードテックが持つポテンシャル

それでは、日本におけるフードテック産業のどこに可能性を感じているのでしょうか?

成功体験が乏しい市場だからこそ、テクニカルに取り組んでいけば、自分たちが日本におけるフードテック産業のブレイクスルーを作れるという部分です。

車の産業を例に挙げると、かつてはEV車(電気自動車)も、イロモノ扱いされていました。ところが、テスラの登場によって市場の空気が一気に塗り変わり、今では「電気自動車を選択するのは正しいこと」という意識が、生活者全体に根付いていますよね。結果的には、国を挙げてEVシフトを進めるまでになりました。ひとつの市場を作ることで、国のルールまで変えてしまったんです。

食の業界でも同じことで、世の中全体に「代替肉をはじめとしたプラントベースドフードが食のオプションとして当たり前に選ばれる」というムードを作っていけば、ある瞬間、一気に生活者の感覚が変わって産業が生まれ、お金が集まる。私はフードテックにも、間もなくそういう世界が訪れると思っています。

実際、フードテック産業のポテンシャル自体はとても高く、車をEVに変えることの次に、代替肉を選択することも地球環境に貢献できることの一つだと言われています。自動車には既に、EVが正義であるというリテラシーが整った。ということは、自ずと次は食なんですよね。

SDGsネイティブたちにクールと認識されることで、市場が活性化する

マーケットとしてのブレイクスルーポイントはどこにあるのでしょうか。

欧米では、セレブリティたちが環境問題やエシカルに対して強く発言し、それを見た若い人たちがファッションとして真似たことで、プラントベースドフードのマーケットが一気に広がりました。現在、日本でもその流れと近いことが起きていて、タレントやアーティストがエシカルを発信することで、若い人たちにもエシカルが“クールなもの”として根付き始めています。

いまの若い人たちは、言ってみればSDGsネイティブです。彼らにとっては、企業が健康や環境について考えることは当たり前で、逆に言えば、「そういうことをしていないブランドはダサい」という話になります。当然、企業としてもSDGsに取り組むことがベーシックなので、この先はより深く取り組んでいくことで優位性が出てきます。プラントベースドフードに関しても、そうなった時がブレイクスルーポイントで、市場がどんどん活性化していくと思いますね。

PR発想のブランドづくりで市場にイノベーションを

コモディティ化した市場のほうが、イノベーションを起こしやすい

―TWOではこれまで、中性重炭酸入浴剤「BARTH」や「Sleepdays」といった、入浴や睡眠を切り口にしたブランドを開発してきました。そんな中、新たにフードテック産業に着目した理由を教えてください。

おっしゃる通り、『BARTH』は、「入浴と睡眠」を切り口とした入浴剤ブランドですが、実は、入浴剤市場ではかなりの変化球でした。そもそも入浴剤市場は400億程度で、化粧品市場全体の中でもかなり小さく、化粧品のナンバーワンには一生勝てません。一方で、ニッチな市場で新規参入が少ないコモディティ化した市場は飽和しており、逆にイノベーションを起こしやすいというメリットがあります。つまり、付加価値の高い商品を投入することで、シェアが一気に入れ替わる可能性を持っていたんです。

僕たちが『BARTH』でチャレンジしてきたことが、まさにこれです。入浴および、入浴剤の付加価値を肌や睡眠の質の向上に結び付けることで、新しい価値を作りました。入浴剤に求める期待値は400億が限界でも、美容のための入浴剤があれば、きれいになりたい人のパイが取れ、快眠のための入浴剤があれば、睡眠の質を良くしたい人のパイが取れます。こうした付加価値を関連する市場から持ってきたことで、既存の入浴剤の市場を超えたシェアを取ることができたんです。

ニッチな「ヴィーガン市場」ではなく、みんなの「健康的な食事」

今回参入したフードテック産業にも、入浴剤事業と共通する部分があるのでしょうか?

ありますね。プラントベースドフードというと、多くの企業はヴィーガンマーケットに参入していきます。確かに、ヴィーガンマーケットは欧米も含め世界中で伸びていて、2025年には現在の約2倍になるとも言われていますが、一方で、日本ではまだまだニッチな市場です。その中で戦っていても、小さなパイの取り合いにしかなりません。

ですが、植物性の食事を摂りたいと考えるのは、ヴィーガン意識を持っている人だけではないんですよね。たとえば、「昨日は焼肉だったから、今日はヘルシーにサラダランチにしよう」とか、「いつもはカフェラテだけど、今日はソイラテにしてみよう」とか。これってまさに、プラントベースドフードなんです。

たしかに。自分たちの日常にそういうシーンは多々ありますね。

そう考えると、プラントベースドフードはもっと大衆的なものに持っていけるポテンシャルがあります。私たちが作った『2foods』は、「Yummy」と「Healthy」の相反するもののかけ合わせ。おいしくて健康的な、「ヘルシージャンクフード」というコンセプトを掲げています。より大衆的な「健康」という要素を使ってコミュニケーションをすることで、「ヘルシーだけどジャンクで、気分が上がるものを食べたい」という時に、プラントベースドフードが選択肢に挙がってくるようになる。それはつまり、ヴィーガンといったニッチな市場ではない、「健康的な食事」というマーケットへのチャレンジなんです。

“眠っている需要”を掘り起こすと、新しい付加価値が生まれる

―2foodsのような、既存の市場にない新しい切り口というのは、どのように発想されるのでしょうか?

ひとつは、感覚です。普段から膨大なインプットをしている中で、いろいろなものがつながってくるので、ある意味、“入り口が妄想”ではあります。定量調査では出てこない潜在的な需要を掘り起こし、いかにその人に気づかせて消費させるのかということが、私たちがやってきたPR的な事業づくりです。

『BARTH』の例で言えば、生活者に「入浴剤に求めるもの」を聞いても、「睡眠」というワードはまず出てきませんよね。新しい世の中を作ろうとすると、数字で見るマーケティングよりもPR的な感覚や発想がすごく重要になるんです。仮にこの先、「プラントベースドが健康にいいんだ」という解釈が世の中に浸透すると、市場はとんでもなく広がるはずで私たちのブランドの作り方が正しかったと言えますよね。

もうひとつは、固定概念にとらわれないことじゃないでしょうか。固定概念をもっていると新しい価値は生めないので、型破りな発想をしていくことも大切です。

なぜいま、ユーザーとのリアルな接点が必要か

リアルな体験の場が、フードブランドとしての価値を高める

―2021年の4月、プラントベースドフードをより身近に食べられる場である『2foods』と、世界中から集めた最新のフードテックブランドを五感で体験できる『FOOD TECH PARK』をオープンされました。ウィズコロナの時代に突入したいま、なぜあえてリアル体験の場を作ろうとしたのでしょうか?

ひとつは、新しい食において「体験の場」がとにかく少ないということがあります。気軽に体験できる場がないと、エンドユーザーを大きく巻き込むことって難しいですよね。一時期、ニュースで頻繁に取り上げられた「コオロギパウダー」も、登場時は話題になったけれど、実際に食べたことがある人ってあまり見かけません。特に食の分野は体験との親和性が高いので、食べてみないことには認知が上がりにくいんです。

欧米では、『インポッシブル・フーズ』が『バーガー・キング』とコラボしたことで、誰もが気軽に代替肉を食べられる状況ができ、認知が一気に広がりました。日本でもそんなお店があれば、「意外においしい」ということを、ヴィーガンでもなんでもない一般の人に伝えられると思いました。

たしかに。代替肉のバーガーを食べたことがあるのですが、ちゃんとおいしくて驚きました。

そうなんですよね。実際、プラントベースドの代替肉は普通のお肉よりもヘルシーだし、製造工程の中でも環境負荷が低いんです。エシカルやヴィーガンに対してそこまでの思い入れがなくても、食べてみて「意外とおいしいんだ、しかも地球に優しいんだ」となれば、ポジティブな体験や思い入れが醸成されていき、それぞれの中で意識が育っていきます。

そうなれば、やがて世の中全体にプラントベースドフードが浸透していくと思うんです。”ちりつも”の一番入り口に『2foods』があって、エンドユーザーに一番近いところでマーケットを盛り上げていけば、市場をリードしていけるのではと感じています。

リアルだからこそ、顧客体験の価値を高められるということですね。

私たちは飲食店ではなく、フードブランドをやりたいんです。ブランドを作る上で大切なのはオフラインでの体験だということをよく知っています。しかしいま、私たちのように顧客体験の価値を考えている企業は少ないと思います。どうしても店舗を出してしまうと、知らぬ間に飲食店の経営になってしまうんです。

目指すは世界中のメーカーに「2foodsと組めば流行る」と思わせること

他にも、体験を重視している理由はあるのでしょうか?

体験を重視する理由はもうひとつあって、それはメーカーがユーザーとの接点を求めているということです。メーカーには、どれだけ優れた技術があっても、市場を巻き込めなければ「マニアックな話」で終わってしまうという実情があります。エンドユーザーが動かなければ、お金が集まっても事業化には至らないのです。

私たちが『2foods』や『FOOD TECH PARK』で商品と情報の提供を同時に行い、エンドユーザーを巻き込んだ展開を作ることで、世界中のフードテックメーカーが、「世の中に流行らせるには2foodsと組もう」と考える。それがFOOD TECH PARKの一番大きな狙いです。

なるほど、では、若者の街と言われる渋谷に出店したのには、何か理由があるのでしょうか?個人的なイメージでは、プラントベースドフードに対する興味が高そうなのは、健康志向のビジネスマンや子育て世代のイメージでした。

たしかにそういうイメージはありますよね。しかし実は、Z世代やミレニアルのような若い世代の方がエシカルマインドが強いということは、きちんとデータで実証されています。それは先ほどもお話ししたように、彼らのほうが理屈抜きに、エシカルを「ファッション」として取り入れることができるからです。

ミレニアルよりも上の世代は、「エシカル」や「ヴィーガン」と謳うものに対して、合理性と理屈を求める傾向にあります。そこに向けてコミュニケーションするには、日本ではまだ状況が整っていません。しかし今の若い人は、もっともっとピュアに受け入れることができるんです。そういう意味で、私たちのやっていることに対する若い世代の反応が見たかったというのが、今回渋谷に出店した理由の一つです。

実際、若者たちの反応はいかがですか?

面白がってくれていると感じます。最新のフードテック商品って、日本ではまだ馴染みがないし、さらに集合体で見られることもないですからね。あとは、買いたいと言ってくださる声も多いです。『FOOD TECH PARK』で展示している商品は、今は感染対策もあって控えていますが、本来は試食もできます。購入も今は一部のみですが、今後、試食やすべての商品が購入できるような展開を考えています。試食が始まったら、また違うリアクションが取れるでしょうね。

フードテック市場を牽引し、世の中の意識を変えたい

「ストーリーテラー」を通して、定量的には測れないリアクションを得る

FOOD TECH PARK』では、各ブランドのもつ背景や仕組みをお客様に伝える「ブランドストーリーテラー」が接客してくれます。店舗にはタブレットが設置され、動画での商品紹介も自由に見られる中で、なぜストーリーテラーが必要だったのでしょうか?

シンプルに、人を介することでメーカーの想いを丁寧に伝えられるからです。それに加え、ペルソナの精度を上げるためですね。店舗にはAIカメラを導入しているので、性別や年齢、興味度合いなどの定量的なデータはいくらでも取れますが、インプットはそれだけでは完結しません。人がアクションして直接コミュニケーションをとる中で、はじめて「どんなポイントに興味を持ったか」などの細かいリアクションが得られるんです。

FOOD TECH PARK』はかなり画期的な試みですが、海外や他社で参考にしたケースはあるのでしょうか?

展示形式は、シリコンバレー発の「b8ta(ベータ)」というショップをヒントにしました。最新のガジェットを展示し、タブレットで商品の情報を詳しく知ることができるお店です。AIカメラが定期的にフィードバックを行っている部分も近いですね。

「ブランドストーリーテラー」は、新しいスタイルの小売店、『Neighborhood Goods(ネイバーフッドグッズ)』の販売員から着想を得ています。店員さんが、メーカーと同じパッションを持って売り場でプレゼンしてくれるところが面白いんです。このように、食以外の分野など、様々な視点からいいとこ取りをしています。

フードブランドとして、プラントベースドが当たり前の世づくりを

最後に、フードテック事業の今後の展望を教えてください。

まずは店舗を増やすことに注力したいです。『2foods』は現在(※2021年7月)都内に5店舗展開していますが、今後も増やしていく予定です。『FOOD TECH PARK』は現在1店舗で、年内にもう1店舗出店予定です。

あとはやはり、『2foods』と『FOOD TECH PARK』を活用して世界中の企業とコラボし、海外からの技術や考えをもっと取り入れていきたいですね。現在は、海外規模のアワードなども構想しています。

最終的な目標は、世の中にフードテックやプラントベースドを浸透させ、市場を牽引していくことです。ゴールを100%とすると、現時点での実現度は0.1%程度。世の中がフードテックやプラントベースドに意識を持ってくれて、初めて結果がついてくると思っています。

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