もし明日“炎上”したら?専門家に訊く、いま企業に求められるリスク回避と炎上対応

ソーシャルメディアの普及で企業の情報発信源は増え続けていますが、一方で、炎上のリスクも常に付きまとっています。どのような情報が炎上の火種になるかわからない時代だからこそ、企業としては炎上のリスク回避だけでなく、もし起きてしまった場合の対処法などについても、事前に考えておかなければなりません。

今回は、帝京大学文化部社会学科准教授であり、『炎上する社会-企業広報、SNS公式アカウント運営者が知っておきたいネットリンチの構造』の著者・吉野ヒロ子さんに、炎上が起こるメカニズムから、企業がどのように炎上と向き合っていくべきかについて、事例を交えながらお話しいただきました。

炎上が起こるメカニズムとリスク回避のための防衛策

ソーシャルメディアで炎上が起こる4ステップ

ーはじめに、ソーシャルメディアで炎上が起こる仕組みについて教えてください。

炎上は、基本的に①発見 ②拡散 ③報道 ④収束の流れで進んでいきます。まず、①「発見」の段階は、ソーシャルメディアで火種となる投稿に注目が集まりはじめる状態です。不特定多数から批判が殺到していくことで、②の「拡散」が始まります。これらの批判が、「まとめサイト」で記事になるとそれがまた拡散され、どんどん広がっていきます。

拡散がある程度の規模に達すると、ネットニュースが取り上げ、③「報道」の段階へと進んでいきます。知名度のあるネットニュースが記事にして、『Yahoo! ニュース』などのポータルサイトに配信されると、認知する人がさらに増え、批判が膨れ上がりますね。さらに、マスメディアで報道されると、ソーシャルメディアを利用している・いないに関わらず、生活者の目に入る機会が格段に増えるため、企業にとって大ダメージに繋がる事態となります。企業が謝罪文を公表したり、批判する材料がなくなると、④「収束」の段階に入ります。さらに批判されるような材料が出てきて、再度拡散・報道され、問題が長引いた事例もありますが、炎上の寿命は1週間ほどではないでしょうか。

ーソーシャルメディアで話題になっているものを、マスメディアが報道するという構図は、いつごろから定着したのでしょうか?

ターニングポイントになったのは、2011年の東日本大震災あたりだと思います。Twitterをはじめとするソーシャルメディアに各地の被災状況が投稿され、マスメディアがその情報を基に報道を行うという構図が生まれました。東日本大震災の前に起きた尖閣諸島中国漁船衝突動画流出事件もあって、ソーシャルメディアで話題になっていることが、社会的な出来事としてマスメディアで盛んに報道されるようになったんです。

炎上に加担する人の特徴とは

ーそれでは、どのような投稿が炎上の火種になりやすいのでしょうか?

近年、企業単位で炎上しやすいのは、①バイトテロ②広告やウェブ動画、企業公式アカウントの投稿などのマーケティング・コミュニケーションにおける不適切なジェンダー表現の2軸です。この2つに共通しているのは、「法律では罰せられない、または罰せられにくいけれど、倫理的には問題がある」という点です。この「法では裁けない悪」に対して「許せない」と世間が反応することが炎上につながっていく面もあるのではないでしょうか。ジェンダー表現に関しては、ジェンダーに関する意識の世代間ギャップが大きくなってきているため、古い意識を前提とした表現に若い世代が反発しやすく、炎上につながることが多いのではないかと見ています。

ー炎上に加担する人にはどのような特徴があるのでしょうか?

田中辰雄先生と山口真一先生の『ネット炎上の研究』(2016年)などでは、「女性よりも男性の方が多い」「世帯年収が高い人は参加しやすい」「一般社員よりも管理職(特に部長)の方が参加しやすい」と言われています。メディアでよく使われる、暗い部屋に閉じこもってカチャカチャとキーボードを打っているようなイメージとはかなり差がありますよね。企業広報としては、その差をしっかりと認識した上で危機管理や炎上時の対応を行わないと、被害の拡大に繋がる可能性もあります。

情報発信の際に必要なのは「常に不特定多数に見られている」という意識

ー企業が炎上を起こさないためには、どのような危機管理が必要でしょうか?

コンプライアンスだけでなく、倫理的な観点からも問題のない企業活動を行うというのが大前提ですが、まず行うべきなのは、社員へのソーシャルメディアリスクの啓発です。炎上は企業アカウントだけではなく、個人アカウントから起きることもありますよね。2021年7月には、ホビージャパンや徳間書店が社員の投稿から炎上しました。今後このタイプの炎上が増える可能性もありますから、差別的な発言、他者への誹謗中傷、無意味に挑発的な表現などを行わないよう、ソーシャルメディア利用時のガイドラインの設定や、研修の実施が必要だと思います。

バイトテロに関しては、アルバイトの雇用契約を交わす際、「職場へのスマートフォンの持ち込みを制限する」「勤務中は写真や動画を撮影しない」などのルールを提示することは珍しくないようです。逆に言えば、このようなルールがあっても抑止しきれないから、バイトテロがいまだに起きているとも言えます。ただルールを示すだけでなく、バイトテロを起こしてしまうとデジタル・タトゥーによって生涯にわたり就職・転職などで不利になる可能性があることや、場合によっては企業が損害賠償を請求することなど、できる限り具体的に当人のリスクを伝えなければならないのかもしれません。

ー企業内の意識を変えていく必要があるのですね。それでは、実際に企業がソーシャルメディア上で情報を発信する際に、抑えるべきポイントはありますか?

一番大切なのは、「自分たちとは異なる価値観を持っているかもしれない不特定多数の人々に常に見られている」という意識を持つことかなと思います。身内の感覚でこれくらいOKだろう、面白いだろうと思ってしたことが、他の人々には到底許されないことだと批判されてしまうという構造は、多くの炎上事例に見られます。

例えば、バイトテロは、友達に面白がってもらおうと投稿したことが「身内」ではない人達に見られて、批判されたものと言えますよね。広告などの炎上にしても、社内ではOKだと思ったからこそ出したものが、問題だと批判されるわけです。なぜ広告やウェブ動画のジェンダー表現で炎上が起こるかというと、公開する前に社内確認を行っていても、その中にジェンダー問題に敏感な人がいない、もしくは表現を不快に感じた人がいても指摘できるような環境ではないからではないでしょうか。

なので、アドバイザーを複数付けたり、多様なバックグラウンドを持つ方にチェックしてもらったりするなどの工夫が必要になってきます。私の講義をとっている学生の中にLGBTQであることをオープンにしている学生がいるのですが、特にジェンダーに絡む問題に関してはこちらが気づかなかった指摘をしてくれます。より多様な人々の意見を聞くことはとても大切だと思いますね。

また、今のインターネットの論調がどのようになっているのかを、常に把握できるようにすることも重要です。特にソーシャルメディアは、個人の好みにカスタマイズされていく傾向にあるため、使っているうちに自分の興味のある情報や、同じような意見しか目に入らなくなります。それに気づかないまま、自分の周りの世界がすべてだと思い込んで情報を発信してしまうと、思わぬところから批判を受けることになります。国内外の事例の収集を通じて、なにが問題になりやすいのか、社会の風潮を掴んでおくことをお勧めします。

国内最初のソーシャルメディア炎上事例と教訓にすべき過去事例

事例1:東芝クレーマー事件

ーここからは炎上の事例についてお伺いできればと思います。国内で最初に起きた炎上はどういったものだったのでしょうか?

「炎上」という言葉が使われ始めたのが2005年なので、当時は炎上と呼ばれていなかったのですが、「東芝クレーマー事件」(1999年)が国内で最初に起きた炎上事例だと考えています。

事の発端は、ある顧客が製品に不具合があると東芝に修理を依頼したことです。製造ミスではなく、規格の問題だったのですが、東芝は顧客の要望に応えようとしました。ですが、顧客が納得するような対応ができず、顧客から再修理の依頼や問い合わせがたびたび来るようになります。やりとりがこじれるうちに、東芝の社員が電話対応中に顧客をクレーマー呼ばわりしてしまい、顧客はその音声や、東芝の対応を自身のホームページで公開しました。そこから、インターネットの掲示板で批判が広がっていきました。

東芝は、顧客のホームページの一部削除を求める仮処分を申請しますが、大企業が個人のホームページに対して仮処分を申請したことが注目を集め、マスメディアでも報道されてしまいます。最終的には2万件を超えるクレームが寄せられ、副社長が顧客のもとに出向いて謝罪する事態となりました。現在の炎上ほど速く広がったわけではありませんが、ソーシャルメディアから火がつき、マスコミが報道し、企業に多数の人が抗議するという流れは、後の炎上と同じです。

ーインターネットの怖さが一気に知れ渡った事例ですね。その後の炎上の変遷についても教えてください。

新しいソーシャルメディアがある程度使われるようになると、そこで炎上が起きるようになっています。炎上のきっかけとなる場は、ブログ、mixi、Twitterと移り変わっていますね。近年では、InstagramやTikTokなど他のソーシャルメディアで投稿されたものが、Twitterに回ってきて拡散されるというパターンが多く見られます。

最初に申し上げたように、インターネットで話題になっていることをマスメディアが積極的に報じるようになったため、企業が炎上した場合のダメージがどんどん大きくなっています。特に、2013年にはバイトテロが頻発し、マスメディアでも盛んに報じられています。マスメディアで炎上が報道されると、有意に株価が下がるという研究もありますね。

事例2:PCデポの高額契約解除料問題

ーその他に、数ある炎上事例の中で特に知っておくべきものはありますか?

2016年に起きた、PC DEPOT(以下 PCデポ)の事例は教訓になると思います。PCデポは、高齢者やパソコンなどの機器に弱い方に手厚くサポートすることを謳ったパソコン販売店で、炎上前は独自の取り組みが評価されていました。事の発端は、「PCデポに契約解除料として10万円請求された」というTwitterへの投稿です。投稿者は契約者の息子さんで、契約者の認知症が進み、身辺整理を行う中でPCデポに契約解除を申し入れたところ、高額の契約解除料を請求されたとのことでした。契約者の認知機能が弱っていたところにつけこんで、不必要な高額契約を結ばせたのではないかと疑われたこともあり、Twitterへの投稿だけで、1ヶ月弱の間に約60万件という大きな炎上になりました。

この事例を知っておくべきだと思うのは、初動対応が悪いと炎上が拡大しつづけるという怖さがよくわかる事例だからです。当初、PCデポ側は、「ご契約者様とご家族の皆様には、ご理解・ご納得いただけるように働きかけをしてまいる所存です」というコメントを公表しました。この表現では、“契約者側の理解が足りないだけで、私たちに非はありません、私たちが正しいんです”と主張してしまっているようなものです。結果、炎上はさらに拡大しました。

初動で印象を悪くしてしまうと、その後いくら抜本的な施策を打ち出しても、企業への信頼やイメージを回復することは難しくなります。実際にPCデポは「70歳以上の契約者は3ヶ月以内であれば無料で解約できる」という施策を打ち出しますが、批判の流れは変わらず、従業員や元従業員からの内部告発や、それまでは見過ごされていた不適切な企業活動への指摘が次々とTwitterなどに投稿され、株価は炎上前の50%以下まで下落することになりました。

この事例の教訓として、まずなにが起きたのか正確な事実確認を行う、そしてそれが、社内からではなく社会からどう見えるのか把握し、向き合うことが、炎上対応の前提だと言えると思います。

事例3:チロルチョコの虫混入騒動

ーPCデポとは反対に、炎上後の対応が良かった事例はありますか?

一番良いのは、騒動が広がった時点でうまく対応し、炎上を回避することだと思います。それに成功した例として、2013年に起きたチロルチョコの事例がよく挙げられます。購入したチロルチョコに芋虫が混入していたと、画像付きでTwitterに投稿され、その投稿が拡散されて炎上しかけたのですが、初期対応が良かったために炎上には至らなかった事例です。

対応として非常に良かった点が2つあります。1つは、きっかけとなる投稿の3時間後という速さで、公式アカウントから正式な見解を公表したこと、もう1つは、その中に第三者のウェブサイトをエビデンスとして組み込んだことです。

まず、チロルチョコは、画像を基に問題となった製品の最終出荷日と芋虫の成長段階を分析し、芋虫が生後30~40日の幼虫である一方、製品の最終出荷日から半年近く経っていたことから、出荷前にその虫が製品に入り込んだわけではないと説明しました。さらに、第三者機関である日本チョコレートココア協会のウェブサイトのURLを説明に添えました。このサイトには「チョコレート製品に虫が混入した多くのケースは、出荷後に家庭内で起きます」という内容がエビデンス付きで書かれており、多くの人がチロルチョコの説明に納得した結果、この騒動は炎上になる前に収束しました。

状況を冷静に分析し、なおかつスピード感をもって初動に当たれたこと、第三者のエビデンスを活用して客観的な根拠を出せたことが、評価されている事例です。

炎上対応は初動が肝心。俯瞰して冷静な判断を

あえてネットニュースの取材を受け、企業の声を届ける

ーそれでは、炎上が起きてしまった場合、具体的にどのような対応を行うべきなのでしょうか。

まず、PCデポの事例でもお伝えした通り、初動の印象が肝心です。多くの場合、謝罪文を公表すると思うのですが、よけいに悪印象を残すような表現を入れてしまうことがよくあります。多々見受けられるのは、「皆様を不快にさせてしまっていたら申し訳ございません」というものです。この表現は、「自分たちは間違ったことをしていないのに、勝手に騒がれて不本意だ」と捉えているような印象を与えてしまいます。騒ぎになったからとぼんやりと頭を下げるのではなく、なにが起きたのか、なにが悪かったのか、今後どう対応していくのかをきちんと明示して対応することがなにより重要です。

また、謝罪するならば、謝罪文に入れるべき内容の精査もきちんと行うべきです。差別的な表現に絡んだ謝罪リリースなどで、「傷つける意図はなかった」という意味合いの表現をしていることがあります。最初から誰かを傷つけるようなマーケティング・コミュニケーションをわざと行う企業なんてまずありえないのに、なにが言いたいのだろう?といつも不思議に思ってしまいます。いずれにせよ、起きたことをごまかさず、①なにが良くなかったと認識しているのか、②今後はどうするのかを具体的に示すことが、謝罪対応で納得してもらうために欠かせないポイントだと思います。

ー謝罪文を公開する以外の対応方法にはどのようなものがあるのでしょうか?

バイトテロであったり、PCデポのようなビジネスモデルそのものに由来する炎上であれば、どう再発防止に取り組むか、具体的に詰めて公表することがまず大事です。

あとは、あえてネットニュースの取材を受けるというのも、一つの手段だと思います。2021年春に、文部科学省が「#教師のバトン」というハッシュタグを使い、Twitterで現場の教員に教職の良さを伝えてもらおうとしたところ、教員の過重労働問題などが多数投稿されて炎上しました。この時、文部科学省のプロジェクト担当者は複数のネットニュースの取材に応え、一方的な批判ではなく、担当者の言い分を汲み取った記事が配信されています。

ネットニュースの取材を受けるメリットとしては、第三者の視点からわかりやすく企業の声を届けられるという点があります。特に炎上の直後は、当事者が何を発言しても信頼は得られにくくなりますよね。そこで、第三者に取材してもらうことで、企業の「中の人」の思いを、ある程度客観的な形で伝えてもらうことができる可能性があります。

ネットニュースは炎上を拡散させるトリガーでもありますが、それと同時に、炎上してしまった企業の立場や意見を伝える手段となるかもしれません。もちろん、適切なメディア・リレーションズが前提ですが、リリースや公式文書だと、どうしても堅い表現になるため、企業の「思い」を伝えるのは難しい面があります。公式情報の補完として、メディアを活用することも、有効だと思います。

正解がない炎上対応にどう向き合うべきか?

ー最後に、企業は炎上とどのように向き合っていくべきでしょうか?

炎上と聞くと、激しい批判や罵倒がものすごい勢いで投稿されるというイメージがあると思いますが、実のところ、そのような投稿はそれほど多くありません。炎上事例に関するTwitterや掲示板の投稿を分析した研究はいくつかあるのですが、私の研究も含めて、感情的・攻撃的な投稿は数パーセントで、明確に批判している投稿は2割から3割強というところです。なので、一部の極端な投稿に囚われず、全体を俯瞰して見るように心がけておくといいですね。幅広く批判が広がっているのでなければ、あえて大事にせずにスルーしてしまうのが一つの手となることもあると思います。

基本的に炎上対応に正解はありません。今回お話したことも、将棋の定跡のようなものです。どんな盤面でもそのとおりに打てば勝てる定跡なんてありえませんよね。それと同じで炎上の内容や状況によって、ふさわしい対応は異なります。逆に言えば、対応のテクニックを知らなくても、顧客や生活者に対して真摯に向き合える企業であれば、仮に炎上しかけたとしても、良いかたちで収束させることができるのではないかと思っています。


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