冷凍×ITでパン業界のDXを推進。事業の提供価値をストレートに訴求するパンフォーユーの信念に迫る

独自の冷凍技術とテクノロジーを駆使し、パン業界のDXを推進する「パンフォーユー 」。同社は、紆余曲折しながらも現在のビジネスモデルを確立し、複数の事業展開で急成長しているスタートアップのひとつです。今回は、株式会社パンフォーユーで代表取締役を務める矢野健太さんに、サービス立ち上げの裏側から、競合の多い「食」のサブスクリプションサービスで生活者に選ばれるために意識していることなど、事業成長の勘所についてお話を伺いました。

独自の冷凍技術×ITでベーカリーDXを推進

“新しいパン経済圏”の構築を目指しBtoBサービスを立ち上げる

ーはじめに、パンフォーユーが提供しているサービスの概要について教えてください。

2017年に会社を設立して以来、パンを「作る人・売る人・食べる人」をつなげる、三方良しのプラットフォームを提供しています。現在は、オフィス向け冷凍パンの福利厚生サービス『パンフォーユーオフィス』、冷凍パンの定期便サービス『パンスク』、パンを売りたい事業者とパン屋さんをつなぐプラットフォーム『パンフォーユーBiz』、そして電子ギフトサービス『全国パン共通券』の4つの事業を展開しています。

はじまりは、地域のパン屋さんが作るこだわりのパンを厳選し、オフィスワーカーに冷凍パンを届ける、BtoB向けのサービスでした。その後、BtoC領域にも事業を拡大し、冷凍パン市場を広げている状況です。

パンフォーユーが手がけるこれらの事業を下支えしているのは、独自の冷凍技術とITの力です。双方を掛け合わせ、全国のパン屋さんのDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めていくことで、“新しいパン経済圏”を構築していくことを目標に、事業の運営を行っています。

ー仰っていただいた“三方良しのプラットフォーム”を構築するために、パン屋との提携は非常に肝になると言えます。パン屋の開拓はどのように行ってきたのでしょうか。

パンフォーユーは群馬県の桐生市で起業したため、初めの頃は群馬県を中心に、パン屋さんの開拓をしていきました。地元の人から紹介してもらうほか、多店舗展開していない、地域に根を下ろした個店ベーカリーをリストアップし、電話やメールでアプローチしながら地道な営業活動を行ってきたのです。

ただ、障壁になったのは「なかなか話を聞いてもらえなかったこと」でした。というのも、個店のベーカリーは地域住民に愛され続けていて評判も良く、売上には困っていないことがほとんどだったので、新たな売上アップにつながるような提案は、受け入れてもらいにくかった。むしろ、「おいしい手作りのパンを、地元の人に食べてもらいたい」という思いの方が強く、当初はこのニーズを汲み取ることができませんでした。

しかし、何軒も足を運び、何度も話を重ねていくうちに、「東京で働くオフィスユーザーに、おいしいパンをお届けする」ことのメリットや価値について理解してもらえるようになりました。そこから徐々にパートナーとなるパン屋さんが増え、4~5か月ほどの試験販売を実施したのち、2018年の10月に『パンフォーユーオフィス』をリリースすることができました。

福利厚生や働き方改革の文脈でオフィス需要を取り込む

ー最初に事業展開された『パンフォーユーオフィス』は、福利厚生を充実させたい企業をターゲットにしたサービスですが、どのように成長させてきたのでしょうか?

東京に住んでいると、なかなか地方のベーカリーに行く機会がないため、『パンフォーユーオフィス』を通して地方のおいしいパンを食べられるという価値は、オフィスワーカーにとってベネフィットに感じてもらえる部分でした。そのため、サービス開始のタイミングでプレスリリースを打ったところ、企業から「福利厚生で使いたい」と多くのお問い合わせをいただくことができました。一方で、導入企業からの紹介など、口コミで広がっていった側面もあります。

また、導入する企業側にとっても、従業員の満足度向上などにつながるため、『パンフォーユーオフィス』はサービス開始から順調に成長させていくことができました。

ー一方で、導入する企業が増えるほど、パートナーとなるパン屋の更なる開拓も必要になったのではないでしょうか。

仰るとおりです。導入企業が増える分、生産量を増やす必要があるため、提携するパン屋さんを広げることにも注力しました。いま考えると、この開拓に成功したのは、一定の商品をリピートしてくださる企業が多く、パートナーのパン屋さんに継続的なパンの発注を行えたことが大きいと思います。

開拓に注力していた当初は、「1回きりの発注で、次回の注文が来ない」ことを懸念し、『パンフォーユーオフィス』の導入に踏み切ってくださらないパン屋さんが多かったんです。しかし、幸いにもこのサービスがオフィスワーカーに好評で、継続的に発注を行うことができ、作り手にも東京のお客様へおいしいパンを届けることにやりがいを感じてもらうことができました。

また、商品の改善や開発に役立てるため、お届けしたパンの感想や実際のユーザーの声をまとめてパートナーのパン屋さんにフィードバックしていました。サービスにプラスαの価値を感じてもらうことを心掛けていましたね。

情緒的価値の提供とディティールへのこだわりがポイント

ノンプロモーションでもサブスクサービスが成長した理由とは

ー『パンフォーユーオフィス』は、メディアにも多く取り上げられていましたよね。メディアへの露出は、事業拡大に影響しましたか?

そうですね。2019年3月にテレビ番組『がっちりマンデー』で取り上げられた後、雑誌やウェブなどの様々な媒体でも取り上げられ、安定した収益を確保できるようになりました。そして、ある程度軌道に乗ってきたタイミングで、「『パンフォーユーオフィス』で培ってきた継続収入モデル(サブスクリプション)を、BtoC向けにも横展開できないか」と考え始め、新たな事業の仕込みをし始めました。これが後の『パンスク』です。

2019年9月に、テストマーケティングを兼ねて100名無料モニターを募集したところ、3,000名以上もの方から応募いただき、これはニーズがありそうだなと。そう確信しました。そして、2020年2月に『パンスク』を立ち上げ、個人向けのサブスクリプションサービスを展開するようになりました。

-『パンスク』はリリースから1年ほどで急成長していると聞きます。有料サービスの会員数を、短期間でどのように増やされたのでしょうか?

『パンスク』については、ノンプロモーションでしたが、オーガニックでのメディア露出やユーザーの口コミによって、自然発生的に広がっていきました。大きな理由のひとつとして、コロナ禍で巣ごもり需要が高まり、「おうち時間を充実させたい」という人々のニーズと合致したことが挙げられます。

他方で、会員数を増やすだけでなく、解約数を抑えることにも成功しました。その要因は、“厳選したパンの品揃え”と“ディティールへのこだわり”を意識していた点にあると思います。『パンスク』のリリース直後に感じたのは、「パンの個数に対して満足感が少ないとユーザーが離脱してしまう」という課題でした。そこで2020年の夏頃から、毎月お届けするパンの種類の豊富さや見栄えを工夫し、ユーザーの満足度を高めるように改善を図ったのです。

また、お届けする箱にもこだわっており、開けたときのワクワク感を醸成できるようなデザインや、おいしい冷凍パンの食べ方の記載、パン屋さんからのメッセージカードの封入など、ユーザーに情緒的価値が伝わるよう心がけました。このように、ディティールにも気を配ることで「全国各地の知られざるパン屋さんとの出会い」というパンスクの世界観がユーザーへしっかりと伝わり、パンスクを愛用いただけるようになったと考えています。

ユーザーの目的別にサービスを細分化し、具体性を持たせる

ー他方で、2020年7月にサービス開始した『パンフォーユーBiz』は、昨年12月にリブランディングしたとお聞きしました。こちらはどのような経緯があるのでしょうか?

先述したとおり、『パンフォーユーBiz』は、パンを売りたい事業者とパン屋さんをつなぐプラットフォームサービスで、リリース以降、飲食店やリアル店舗を運営する多くの事業者からお問い合わせをいただきました。しかし、パンを売る目的は事業者によって異なるため、サービス参画後にビジネス指針を定めきれないという、新たな課題が生じていました。

そこで、今回のリブランディングでは、「パンを取り扱うことで利益を出したい」、「手づくりのパンを販売することで売り場に賑わいを出したい」、「OEMでパンの商品開発をしたい」など、具体的な目的別にプラットフォームを活用できるようアップデートしました。

多種多様な冷凍パンを取り揃えたセレクトショップや、ゴーストベーカリー(職人・焼成機械などがなくても、冷凍庫さえあればパン屋さんを開業できるサービス)など、“冷凍パン”という切り口でも、アイデア次第でいろいろな可能性があると思っています。今後も、事業者ごとの要望を汲み、冷凍パンの活用を通じたビジネス支援ができるよう、サービスの向上に取り組んでいく予定です。

現状に固執せず長期的な視点で事業を見据える

競合との差別化ではなく自社サービスの魅力をストレートに訴求する

ーコロナ禍で食分野のサブスクサービスも増え、競争も激しくなっていますが、パンフォーユーではどのように差別化を意識したマーケティングを行っているのでしょうか。

コロナ禍でライフスタイルが一変したことで、日々の暮らしの中にサブスクリプションサービスを取り入れる生活者も増えていると感じます。ただ、よく社内で言っているのは「今置かれている状況に固執せず、100年後でも事業が残り続けているか」ということです。

100年後でも価値提供できるサービスはどのようなものか。ユーザーに長く愛される普遍的なブランドの魅力は何か。このような長期的な視座を持って日々事業に取り組んでいるので、他社との差別化はあまり重要視していないと言えるかもしれません。

それよりも、冷凍パンの持つポテンシャルや、まだまだ知られてない地域のパン屋さんが作るパンのおいしさなど、パンフォーユーが提供できる価値をストレートに訴求することが大事だと捉えています。冷凍食品全体の歴史は長いですが、焼きたてのパンを冷凍食品として提供する“焼成冷凍パン”は、これからさらに伸びしろがある市場です。パンフォーユーが焼成冷凍パン市場を牽引できる存在として、世の中に認知してもらえるように尽力していきたいと思っています。

冷凍パンの可能性を広げ、新しいパン経済圏を創造する

ーそれでは最後に、今後の展望についてお聞かせください。

冷凍とITの技術を駆使すれば、パン屋さんの販路拡大や安定収入の確保、働き方の改善などにも寄与することができます。そのため、これからも当社の掲げる「新しいパン経済圏を作り、地域経済に貢献する」というミッションを体現できるよう、事業を成長させていきたいです。

しかし、中には「出来立てのパンでないとおいしくない」というように、冷凍パンに対するネガティブなイメージを抱くパン屋さんも存在しているのが現状です。まだ冷凍パンの可能性が伝わっていないパン屋さんにも、もっと魅力を知ってもらいたいですし、パンフォーユーの価値が届けられるように励んでいこうと思っています。

また、ベーカリー向けの独自開発システム『パンフォーユーモット』を既存のサービス全てに展開したことで、これまでパン職人が感覚に頼っていた部分を可視化することができました。今後もパン業界のDXを推進し、パン屋さんのあらゆる課題と向き合いながら精進していきたいですね。

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