「エシカルPR」は会話のラリーで作る。これからのPRについてみんなで考えてみよう #1

本記事では、2月3日(水)にClubhouseにて開催されたセッション『ハフポスト編集部 南さん注目の「エシカルPR」って何?これからのPRについてみんなで喋ってみよう』のレポートをお届けします。※事前許可を得ております。


|登壇者プロフィール|
南 麻理江 [ハフポスト日本版編集者 生配信番組「ハフライブ」プロデューサー]
広島県福山市生まれ。大学卒業後、博報堂・博報堂DYメディアパートナーズに入社。主にインターネット広告のセールス、企画・運用に携わる。2017年5月から現職。ニュースやインタビュー記事の執筆・編集をしながら、生配信番組「ハフライブ」の企画プロデュースを担当。2021年のハフライブは年間を通じて「SDGs」に取り組む予定。
●寺口 浩大 [株式会社ワンキャリア 経営企画室 PR Director]
ワンキャリア経営企画室PR Director。1988年兵庫県伊丹市出身。京都大学工学部卒。リーマンショック直後に三井住友銀行で企業再生、M&A関連業務に従事し、デロイトトーマツグループなどを経て現職。現在は経営企画とパブリックリレーションズ全般に関わる。コラム連載、カンファレンス登壇のほか、採用マーケットの透明化を推進するムーブメントを仕掛ける。共著に『トップ企業の人材育成力』。
●関 マテリアル 航 [株式会社マテリアル 執行役員兼Executive Storyteller]
1991年生まれ。学生時代にRedBull Japanでブランドマーケティング論を学び、当時20名程のマテリアルへ入社。同社にプランニングセクションを立ち上げる。これまで海外ではカンヌライオンズの金賞受賞をはじめ、国内外で100以上のアワードを受賞。現在は、自社の経営とプロジェクトにおける現場の肌感を行き来しながら、社会を舞台に「ブランド」と「社会」と「経済」とを結びつけるストーリーテリングの可能性を模索している。

企業にとっての“エシカルシンキング”って?

南:わたしは新卒で博報堂に入社したのですが、代理店時代はとにかく「ロジカルシンキング」が求められました。でもここ数年で、例えば「Black Lives Matter」のように、ロジックだけでは語れないものや、解決できないことが増えてきたと感じています。そんな社会の変化を見ているうちに、これからの時代に求められるのは、「ロジカルシンキング」ではなく「エシカルシンキング」ではないかと思うようになりました。

企業においても同様で、純粋に売り上げを伸ばすための“マーケティング施策”ではなく、企業の思想や姿勢を示すような“理念的な施策”に取り組むところが増えていますよね。ハフポストの編集者としても、一見「きれいごと」にも見える、企業の理念的な取り組みを取材する機会が多くなっています。

始めの頃は、この“売上”と“理念”という二項対立をどうクリアしてるのかが、いまいちピンと来ませんでした。でも昨年の後半あたりから、「二項対立ではない」ことがわかってきたんです。今の時代では、「真・善・美」が揃っていない会社の商品は売れない。だから企業は倫理的に、グッドハートを持って仕事に取り組みますし、わたしたちメディアとしては、そんな企業を応援することも仕事のひとつだと思っています。

関:僕自身も、経済合理という観点において「ロジカル」と「エシカル」ってどうすれば両立できるんだっけ?ということを、ここ最近よく考える機会が多かったかもしれません。エシカルさが重要とは言え、例えば経営者が意思決定をする上で「倫理」だけではなかなか首を縦に振りにくい部分があります。それは「無形資産」なのかもですが、それも含めて、全体像を設計できないと、きっと企業として意思決定を行うことは難しいんだなあと。

南:何周回ってもやっぱり「人権」は大事なんですよね。360度のステークホルダーに対する人権を前提にしなければ、ほころびが出てしまう。今は“本質が伴っていない会社”というのが見抜かれやすい時代だと思います。財務諸表だけではだめで、倫理的であること、良い会社であることが求められます。

とはいえ、経済合理性との両立はやはり難しいですね。きれいごとばかり言っていられないので…。Black Lives Matterを見ていても、日本企業が「支援します」と積極的に声をあげるのは、短期的にみた時にどうしても難しい側面があるのもわかります。だから企業としては、自らが手を挙げるだけでなく、こぶしを上げた人たちを応援することも大事だと思います。応援の気持ちが根底にあることが、エシカルPRの本質ではないかと。

ロジカルとエシカルは両立しうるのか

寺口:たしかに、もう二項対立ではなくなりつつあると思います。「儲かるか儲からないか」にリンクすることは結局大事で、やりたいという思いだけでは実行できないのが企業です。しかし、ロジックとエシカルは決して二項対立ではなく、もはや「因果」と言えるケースが増えています。

僕は人間の三大欲求のように、企業にも三大欲求があると考えています。企業は「財務諸表」を背負っているので、“儲かる、資産が溜まる、株価が上がる”この3つが三大欲求に該当すると捉えていて。このうち、儲かる(=PL)と資産が溜まる(=BS)はクローズドの情報ですが、時価総額だけはオープンな財務諸表です。だからこのエシカルシンキングを、いかに時価総額にヒットさせるか、これが因果になるポイントではないかと思います。

また、SNSの普及によって情報流通構造がオープンになったため、「不買運動」のようなソーシャルムーブメントも財務諸表にダイレクトに影響します。個人が声を上げることができ、情報流通構造がオープンになったからこそ、企業はエシカルPRを大切にしなければなりませんね。

南:一般市民だけでなく投資家の間でも、「ESG投資」(=環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行なう投資のこと)という言葉をよく聞くようになりました。人権や環境への配慮が大事だと、投資家たちがエシカルシンキングをはじめているんです。

最近では、地球温暖化に直結する「石炭火力発電」に多額の融資を続ける日本の企業に対して、大学生が株主総会で発言し、「説明責任」を求めるようなこともありました。このような行動力を冷笑するのではなくて、応援できる世の中になっていかなければなりません。

第3の人格登場説?企業の法人格と組織人格

南:最近サッポロの新商品の誤字が話題になっていましたが、SNS上ではフードロスなどの社会課題を背景に、サッポロを応援する動きが活発になっていましたね。こういう動きももっと増えてくると思います。

寺口:サッポロの誤字は大きなミスですし、食品は人の命にかかわるものなので、軽々しく「よかった!」とは言えないという前提のうえで、今回はコミュニケーションのおかげで商品ロスがなくなりましたね。きっと大幅に費用削減できたでしょうし、ひとつの成功体験になったと思います。これまでは、「誤字なんかありえない」「許してはいけない」と主張する個人に企業が抑圧されてきましたが、そんな圧力が徐々に緩まりつつあるかもしれません。

南:エシカルシンキングで社会を見渡せば、ミスした企業を単に叩くだけということはなくなるはずです。

寺口:これも僕が最近考えてることなんですけど、「第3の人格生まれてる説」があるかなと思っています。これまでは、「個人格」か「法人格」のどちらかだったのが、新たに「組織人格」というものが生まれて。これは、言い換えると“仕事をしているときの個人”で、その集合体が法人になるのではないかと。だから、法人がミスしたらひどく怒られるけど、組織人がミスしたとき、一瞬「共感」がよぎって、許容されることがあると思うんです。ツイッターで人格のある企業アカウントが支持される理由がそうですし、今回のサッポロの件もまさにこれだったかなと思います。

法人は集合体なので、「強者」として捉えられがちです。だから個人から攻撃されやすくなります。しかし、中の人の顔が見えたとたんに、みんな優しくなるんです。だからこれからは、組織人の集合として法人を見せていくことが大事だと思いますし、ここも「きれいごと」と「マーケティング」の接合点になりうるかなと思います。

関:組織人って、アンコントローラブルな部分があるので、その分リスクもあります。そこを含めて、会社のブランドやカルチャーを作ることができている企業っていうのは、やはり強いです。その上で、人の顔が見えて、人の感情やストーリーが乗っかると、それが「言霊」になり、人の気持ちをハックするようになります。

エシカルPRに必要なのは世の中とのラリー

関:南さんにお聞きしたいのですが、エシカルPRがうまくいくブランドと、そうでないブランドの特徴って何かあるのでしょうか?

南:答えになっているかわかりませんが、エシカルPRで大事なのは、会話のラリーだと思います。1つのメッセージで完パケするプロジェクトは難しい時代ですから、ラリーをする前提で世の中に出さなければなりません。ロジカルシンキングにはある程度正解がありますが、エシカルシンキングには“全員を黙らせる”唯一無二の答えがないですよね。その人の立場や価値観によって、それが正しいと思うかどうかは人それぞれです。

例えば、女性をエンパワメントするプロジェクトや意見広告などが賛否を呼ぶことがあります。批判の内容はさまざまですが、よく見かけるものに「まずは自分の会社の女性役員を増やしてからPRするべきではないか」という声などがあります。メッセージや問題提起は「誰が言うか」という主語も大事なので、その指摘にはその通りだと思います。

この時に大事なのは、そのメッセージを打ち出した会社が、世の中と「ラリー」を続ける前提で発信しているのか? ということ。こうした消費者の声を目にした社長が、次の人事で女性をより積極登用するかもしれませんよね。というか、そうしてほしいです。一度打ち上げて終わりではなく、次の施策やアクションで本気を見せ続けることで、真価が問われると思います。

とはいえ企業から出すキャンペーンなので、その瞬間も100%のものを出さなければなりません。その100%を積み重ねていく中で、世の中と会話をしてチューニングすることが大切だと思いますし、そういう取り組みは非常に取材したいです。

寺口:2ラリーを1ラリーにする方法もありますよね。例えば、そのようにつっこまれることを予想して、あらかじめ「役員一覧」を広告に載せてしまうとか(笑)

もうひとつ大事なこととして僕が思うのは、自己紹介をきちんと行うことです。企業の発信方法には様々な形があって、例えば時流に合わせて発信する「WHY NOW?」(なぜいま)タイプのコミュニケーションは、既に活発に行われていると思います。しかし現状の日本企業では、「WHY ME?」(なぜわたしが)が欠けている場合が多いように感じます。この「WHY ME?」がないから、「お前が言うな」というふうに叩かれてしまう。コミュニケーションを受け入れてもらうためにも、あらかじめ自己紹介を行っておくことは大切だと思います

南:自己紹介の大切さには同意なのですが、もはや今は「WHY ME?」を言っている暇すらないとも思います。2017年のカンヌライオンズで3部門でグランプリを受賞した”Fearless Girl(恐れを知らぬ少女)”も、ある意味、自己紹介すっ飛ばしのプロモーションですし、日本の多くの人はこの金融会社を知らなかったのではないでしょうか。もちろん、説明責任を十分に果たせるからこのように評価されたわけですが、最近はそれぐらいの切迫感も感じます。

関:そういう意味でも、ブランド主語だけで主張すると波風が立ってしまうので、「ブランドの主張のチャンスをデザインする」ことが非常に重要だなと思います。その上で、前提として個々人の情報に対する感じ方はそもそも多様なものなので、様々なステークホルダーのリアクションに対する想像力をどれだけ膨らませられるかがポイントになるかと。その上で、多様なステークホルダーと、ブランドとの結びつき方を、それぞれに合わせたストーリーを丁寧に紡がなければいけない。そうしたコミュニケーションを蓄積した結果、ブランドのアクションそのものに対する信頼が構築される。この流れを作れることは非常に理想的です。

この話は、南さんの「ラリー」に通ずると思います。今は、いかに相手に対する想像力を働かせながら、世の中とコニュニケーションできるか否かがすべてなんです。しかも、社会を一括りで「同じ人」として絶対に捉えない。ひとりひとり違っているという当たり前のことを、今更ながらきちんと踏まえて真摯に向き合っていく。さらに、それ自体も時間軸の中で様々な変化が起きます。これって非常に面倒で大変な作業ではありますが、それくらい腹を括って突破しなければ、ブランドは「社会」という舞台の中ではもう生き残っていけないとも思っています。

エシカルPRで「炎上」をアップデートする

寺口:これまでコミュニケーションを生産する側と消費する側の話をしてきましたが、その両脇にいる人たちからは、「正しいか正しくないか」の話ではなく、「好きか嫌いか」で議論されてしまうことが多いです。「正しいか正しくないか」には、倫理的、もしくは法律的ルールがあるので、ある程度判断しやすいです。しかし、そこに「好きか嫌いか」論争まで入り混じってしまって、結果的に炎上に繋がる。本来は、“正しい正しくないルーム”と“好き嫌いルーム”とを分けて議論しなければならないのに、SNSはそれらを全部ひとつにしてしまったと思います。

とは言え、この問題が解決されることはないので、「炎上」という言葉自体をアップデートさせる必要がある気がします。「炎上」という言葉がこのままの意味で使われ続けると、進歩は生まれないなと。中には“いい炎”もあったりするので、もう少し「炎上」という言葉について要素分解する時間が必要だと思います。

関:ちょっと話が変わるかもしれませんが、異なる意見をどうするかに関しては、ブランドのコミュニケーションも同じですね。例えば、小学生に給食で「カレーかうどんのどちらを食べたいか」を選ばせたら、カレーも人気はあると思うのですが、多分うどんにもある程度票は入ると思うんですよね。これって社会も同じで、そもそも全員が賛成したり、同じ意見を持ったりすることって、この先きっとないと思います。つまり、反対意見があることを恐れていたら、何もコミュニケーションできなくなってしまいます。もっというと、0か100かみたいな二項対立にもならないかもしれない。人それぞれ意見や感情が異なることを受け入れた上で、いかに嫌われる勇気を持ち、違う価値観と向き合っていけるか。そういう真摯なスタンスでコミュニケーションをすることで、社会を舞台に「新しい答え」が見えてくるはずです。

今は多くの企業が「批判」を極端に恐れすぎていて、そもそも一歩踏み出すチャレンジができていない現状があります。あまりに「批判」が多く発生してしまうものは、そもそものコミュニケーション戦略の設計ミスも考えられますが、真摯に向き合った上での一部の批判であれば、いくらでも新しい答えはつくりだせるはずです。学校の話に戻ると、例えば「じゃあカレーうどんをメニューにしよう。場合によっては上にコロッケを乗せるオプションもある」ということもできますよね。

南:だからこそ「エシカルPR」が大切ですよね。どうやって企業のメッセージをラリーに変えて、多様な価値観の中で共存していくかは、PRパーソンの腕の見せ所だと思います。何回多く世の中とラリーするか、その勇気を持つことが初めの一歩です。

関:企業は世の中に対して、未完成なストーリーを走らせ続けなければいけません。そのためには、様々な登場人物に合わせて脚本を更新し続けなければいけない。「つくった情報を届けて終わる」という発想では、もう厳しい気がしています。それこそ南さんもおっしゃっていたように、ロンチ時点で「企画が完パケしている」というものは、もはやコミュニケーションとしては成立しないと、僕自身も肌で感じます。世の中と向き合って並走し、アドリブも含めてストーリーを更新し続けていく覚悟を持つこと。そして、一緒に向き合っていくために、チームのバイブスが通じ合うこと。これが、これからのPRに欠かせない大切な要素のひとつではないでしょうか。

……To be continued

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