インバウンドプロモーションに欠かせないPR戦略の考え方とは?

東京オリンピックを控え、年々伸び続けている日本のインバウンド市場。本記事では、先日12月14日に株式会社Fun Japan Communications株式会社マテリアル2社合同で行われたセミナー、『春節前の今がチャンス!インバウンドプロモーションの最新トレンド解説セミナー』の内容をもとに、インバウンドプロモーション成功のカギとなるPR戦略について解説します。

訪日インバウンドの現状とインバウンドプロモーションの今後の可能性

年々訪日外国人が増えているものの、市場のニーズが掴めなかったり、上手く情報を届けられなかったりと、インバウンドプロモーションに関する課題を抱えている日本企業や自治体は非常に多いです。そもそもインバウンドプロモーションとは、何のためにどのようなことを行うものなのでしょうか。

インバウンドプロモーションとは?

インバウンドプロモーションとは、訪日外国人の製品やサービスに対する関心を高め、購買意欲を喚起するための活動のことを指します。考え方そのものは普段のプロモーションと変わりないですが、文化や趣味嗜好の違い、距離、また言語の壁などから、インバウンドプロモーションは難しいもののように感じられます。

たしかに、「訪日外国人」という1つのくくりにすると、ターゲットの規模が莫大に広くなってしまい、戦略を考えることも難しくなりますが、訪日外国人の中にも様々な属性があることを忘れてはいけません。

データから見るインバウンドプロモーションの狙い目

アジア地域No.1規模の日本紹介メディア『FUN! JAPAN』を運営している、株式会社Fun Japan Communicationsのゼネラル・マネージャー石田和也氏は、自社で抱える様々なデータをもとに、インバウンド市場の現状について解説。親日国が多いアジアのインバウンド市場が年々拡大していることは周知の通りですが、石田氏曰く同じアジア市場でも、インバウンド購入のインサイトはその属性によって異なってくるそうです。

たとえば訪日ショッピング。『FUN!JAPAN』が展開している東南アジア・台湾・香港を対象に行った調査から、訪日回数に比例して、日本国内においてより多く消費する傾向があることが明らかになったそう。また訪日ショッピングの際に感じるストレスや、情報収集するサイトの種類も、訪日回数によって異なるという面白いデータを発表しました。

1度だけ訪日したことのある外国人にとって、日本でのショッピングでストレスとなるものは、全国共通して「言語」でした。しかし、複数回訪日している外国人にとってストレスになるのは、なんと言語ではなく「商品情報」だったそうです。また1回しか日本に訪れたことのない外国人は、自国の日本紹介サイトを見て情報収集を行いますが、リピート回数の多い外国人ほど、日本のサイトから国内で取り上げられている情報を収集していることも発覚。

ここから、リピート回数の多い外国人ほどよりディープな情報を求めているという、リピーターならではのインサイトを見出すことができます。石田氏は訪日回数によって求めるものに違いがあることを解説した上で、いかにお金を落としてくれるリピーターを狙うかが重要と話しました。

インバウンドプロモーションで必要なのは「ファクトづくり」と「ストーリー設計」

インバウンドプロモーションにもターゲティングが欠かせないことがわかったところで、次に重要になるのは、ターゲットの心にささる「ファクトづくり」と「ストーリー設計」です。

他国でのファクトが次の国のプロモーションに活きる

ストーリーテリングを強みとするPR会社、株式会社マテリアルのゼネラル・マネージャー竹中久貴氏は、親日外国人への情報発信力・影響力を高めるためには、日本国内での話題化が必要であると話しました。

竹中氏は以前NYのカウントダウンイベントを担当していた際、人気ハンバーガー店「SHAKE SHACK」に並ぶ大行列を毎年見ていました。その後「ニューヨークでも行列のハンバーガー店、日本に初上陸」という文脈で日本に1号店が登場し、日本でもニューヨークと同じように行列ができているのを目の当たりにしたそうです。

ここからわかるのは、「今どこかの国の若者に大人気」「どこかの国で売上1位」「あの国から来た観光者が選ぶランキング1位」などといった事実は、外国人にも大きなインパクトを与え、興味関心を引くことができるということ。それが親日な外国人であればあるほど、日本国内で話題になったものや、日本人が好きなものに大きく反応します。消費額の大きいリピーターほど日本のメディアから情報取集するというデータからも、やはり日本国内での話題化がインバウンドプロモーションに大きく貢献すると言えます。

双方向のコミュニケーションを生むストーリー設計で訪日外国人のファンを獲得する

日本国内だけでなく、海外でも話題になったPRの事例として竹中氏が紹介したのは、「食べられるお箸・畳味」。この食べられるお箸は、かつて1万戸以上あった熊本県のいぐさ農家が、500戸程度まで減少しているという社会課題を背景に、農薬使用にも制限を持つ高品質な国産いぐさの需要を、再び喚起することを目的に開発されたそうです。

熊本県八代市産いぐさの、見た目ではわかりにくい品質を可視化し、もう一度いぐさの需要を生み出したい。そこでいぐさの隠れた素材価値である“栄養値の高さ”に着目し、品質の良さを訴求するだけでなく、「超健康野菜」としてリブランディングする戦略を立案した結果、衝撃作、「食べられるお箸・畳味」が誕生しました。

結果として、この食べられるお箸はTVや有名ユーチューバーに取り上げられ一気に話題に。さらには海外版ロケットニュースを皮切りに、10カ国以上の海外メディアで取り上げられただけでなく、アメリカの大手航空会社の機内誌にも掲載され、世界中から注目を集めました。その後国内外から問合せが殺到して一般販売が開始され、他の企業もこぞっていぐさを使用した食べ物やグッズの作成に着手。見事、いぐさの新たな需要を生み出すことに成功しました。

これまで畳の原料としてしか認識されていなかった「いぐさ」が、実は栄養素満点のスーパーフードだったこと、また熊本県産の「いぐさ」は、食べられるほど品質が良いということ。この2つの新事実が、1つのストーリーとなって衝撃を与え、日本人だけでなく外国人の心も掴み、一気に熊本県産いぐさの名を世界中に広めました。

このように日本国内で話題になったものは、外国人の注目を集められる可能性を秘めていることがわかります。インプレッション獲得目的の広告出稿や、大々的なプロモーションを行わなくても、人々の感情をゆさぶるような真実さえあれば、国境線を超えてインバウンド需要を喚起することができるのです。

訪日外国人の感情を揺さぶる戦略PRでインバウンドプロモーションを成功に導く

ここまで説明してきたように、インバウンドプロモーションでは

  • どの国の
  • どんなターゲットに
  • どんな情報を届けて
  • どんな感情を持たせるか

が、非常に重要になります。

「訪日外国人」という大きなくくりにするのではなく、国内でのマーケティング活動と同様にターゲットを明確に定め、そのターゲットに刺さるプロモーション活動を行うこと。また国内での成功実績から、外国人からも信頼される、また興味を引くファクトを作ること。この2つを意識してインバウンドプロモーションを実践することで、少しずつ外国人のファンを獲得することができるでしょう。

文=森奏子

関連記事

  1. 社会のデジタル化に潜むリスクとは?“ガラス張りの時代”における対策・マネジメント法を徹底解説!

  2. テレビPRで有名経済番組の取材を受けるには?

  3. コロナ時代のPRイベントの新様式。オンラインイベント実施時に押さえたいポイントと事例5選

  4. “選ばれ続ける”強いブランドになるための3ステップ。凸版印刷のブランディングも解説!

  5. 桃太郎が“金儲け”のために鬼退治をしたらどうなっちゃうの??『桃太郎』をPR視点から考察してみた|もしピー#1

  6. コロナ禍で急成長。CtoCサービス「MOSH」のユーザー拡大を後押しした口コミ戦略と先行投資

  7. PR GENIC オープンカレッジ#1 レポート 『広報PR業務の基本~スキルアップに欠かせない”ゴールイメージ・メソッド”とは?~』

  8. 元記者直伝!プレスリリース作成に活きる“読みやすい”文章の書き方