さまざまな業界でECも販売の軸となっている昨今、注目を集めている『STAFF START』というサービスをご存じでしょうか。『STAFF START』は、店舗スタッフをDX化させ、自社ECサイトでオンライン接客を可能にする“Staff Tech(スタッフテック)”サービスです。コーディネート投稿や動画、レビューなどのコンテンツを通じて店舗スタッフが顧客に接客を行い、その売上や貢献を可視化することで、個人や所属する店舗の評価につなげるというものです。
今回は、『STAFF START』を提供する株式会社バニッシュ・スタンダード代表 小野里 寧晃さんにインタビューを実施。オンライン接客の重要性がますます高まっていく時代において、『STAFF START』の浸透により生まれた、時世に則した新しい“カリスマ店員ブーム”について紐解き、生活者から支持を得られる人材やコンテンツを生み出すためのポイントについて探っていきます。
株式会社 バニッシュ・スタンダード代表 小野里 寧晃 デジタルハリウッド大学卒業後、キノトロープに入社。ウェブ制作などを手掛けるとともに、EC事業部の立ち上げに携わる。2011年に株式会社バニッシュ・スタンダードを設立し、2016年に『STAFF START』を立ち上げ、現在に至る。 |
「バニッシュ・スタンダード」を体現する挑戦
―はじめに、バニッシュ・スタンダードを設立された背景について教えてください。
きっかけは、前職でEC事業部を立ち上げたことです。そこで、さまざまなアパレルブランドの通販サイトを手掛けた経験をもとに、バニッシュ・スタンダードを設立しました。設立当初は、EC開発会社のような立ち位置で、ジャンルを問わず幅広く手掛けていましたね。EC以外には、プリクラのシステム開発などにも携わっていました。
―2016年に立ち上げた『STAFF START』は、利用ブランド数が1,700を超え、2021年1月~2021年12月での流通総額は1,380億円にのぼるとお伺いしました。この『STAFF START』立ち上げの背景についてもお聞かせください。
実は、会社設立から『STAFF START』立ち上げまでの間に、社員が全員辞めてしまうという出来事がありました。色々と要因はありますが、一番の理由は「バニッシュ・スタンダード」という社名を体現できていないことでした。「バニッシュ・スタンダード」は、常識を改める・変えていくという意味ですが、これまでのEC開発事業で常識を変えるような大きなことを成し遂げられていなかったんです。この反省を活かし、もともと持っていた『STAFF START』のアイデアをもとに、サービスを立ち上げました。
サービスを立ち上げることで、店頭だけではなくECサイトにも販売員が立てるようになったり、そこから販売員のお給料を上げていくような働きかけをしたりと、常識を変えるさまざまな挑戦をしたことにより、ついてきてくれるメンバーも増えていきました。
令和の「カリスマ店員」になるための3大要素とは
―『STAFF START』の浸透により、令和の時代に則した新しい“カリスマ店員ブーム”が起きていると伺いました。「カリスマ店員」と呼ばれる皆さんに何か共通点などは見られますか。
令和におけるカリスマ店員とは、「リアルでもオンラインでも、生活者とうまくコミュニケーションが取れる人」です。そんな「カリスマ店員」と呼ばれる販売員になるためには、3つの要素が必要になります。
まず、1つ目は“汲取力”です。リアル・オンライン問わず、「接客」はお客様との重要なタッチポイントだと思いますが、オンラインにおける接客は、投稿とイコールになります。そのため、投稿頻度やクオリティも高くなければいけません。投稿数=リアルでの接客回数になるので、できるだけ質の高い投稿を多く出していくことも重要です。その際に、自分が発信したい情報ではなく「お客さんが求める情報はなんだろう?」というところから考えられる人、つまり“汲取力”がある人は、支持してくれるお客さんも増えていくと思います。
2つ目は“提案力”です。お客様が求めている情報を汲み取った次に必要となるのは、接客している一人ひとりに対し「この人にはどのような商品がベストなのか」を考えてコミュニケーションを行うことですよね。そのためには、ベースとなる商品知識はもちろんのこと、お客様に納得してもらえるような説得力も必要になってきます。それらを総合した“提案力”というのも、とても重要な要素です。
3つ目は“人間力”です。基本的に、接客は同性から同性へ行うことが多いと思いますが、その時に大切なのは、お客様に「友達になりたい」と思わせる人間力です。私が見てきた「カリスマ店員」の皆さんは、親しくなりたいと感じさせる表情や接し方が上手なんですね。つまり、「憧れではなく共感される人」になることがとても重要だと言えます。
これはリアルだけではなく、ウェブやSNSにおけるオンライン接客でも同じです。たとえば、TikTokやInstagramを見ている時は、直感的に一瞬で、自分の好みかそうでないかを判別しますよね。つまり、“物事から離脱するポイント”のようなものを、皆さんそれぞれが持っているんです。しかし、先述した“人間力のある販売員”は、ウェブやSNS上でもその離脱ポイントを踏まずに、共感されやすい投稿や発信をするのが上手な方です。このように、直接コミュニケーションをとることができなくても、その人らしい生活者との共感ポイントをつくって情報発信できるという点は、「カリスマ店員」と呼ばれるために必要になってきます。
これらを総合して、相手が求めている情報を的確に拾うことができる“汲取力”、相手にこの商品やサービスがベストだと感じてもらえる“提案力”、この人の接客をされたいと思わせる“人間力”の3つが「カリスマ店員」になるためのポイントだと言えますね。
―昭和、平成、令和の時代を経て、「カリスマ店員」に必要なポイントは変化しているのでしょうか。
変わっていますね。昔と比べて、人間力の重要性はかなり高まっています。これだけ情報に溢れた世の中で、「テレビや雑誌に出ているから」という理由だけでは、なかなか選ばれることはありません。情報を一方的に受け取るというよりは、自分の好きを探すことがメインになっていますし、その発信元にも自分の好きが絡んでくるようになっていますよね。「信頼している○○さんが発信している情報をみて購入をする」という消費行動がメジャーになってきたという意味でも、「カリスマ店員」になることは重要だと思います。
“販売員”の底上げを図る『STAFF OF THE YEAR』
―今年、日本一の“令和カリスマ店員”を決める『STAFF OF THE YEAR』の第2回開催を迎えられます。このイベントを立ち上げた背景について教えてください。
先述した、「バニッシュ・スタンダード=常識を変える」という部分のひとつとして、「販売員の給料を増やしていく」という常識をつくっているわけですが、これはものすごく重要なことでありつつも、お金を渡すことだけがスタッフの幸せではないと感じていました。本当に大切なのは、“自分の仕事を認められること”だと。
たとえば、医者や社長は、世間から認められている職業だと言えると思います。その職につけば親御さんは喜びますし、周りからも「すごいね」と言われる機会も多いのではないでしょうか。一方で、販売員はどうでしょう。もちろん、私は素敵な職業だと言い切れますが、世間一般としてはまだ「仕事としてすごい」という風に認められてはいませんよね。
たしかに、販売員という仕事は入口がとても広いですが、「お客さんを満足させる」という点で考えると狭き門です。よく、「アパレルの販売員の人にお店で話しかけられるのが嫌だ」という意見を耳にしますが、あれは、入口の広さゆえに、お客さんを満足させるレベルまで達していないスタッフも、店頭に立っているという現状があるからだと思います。なので、まずは販売員のなかにも、ものすごく頑張っている、とてもレベルの高い人たちがいることを世の中に知ってもらう必要があると考えました。この販売員の仕事の難しさや重要性を伝えていくために、『STAFF OF THE YEAR』を開催しました。
―昨年の動画を拝見したところ、生活者側から“推しスタッフ”を応援できるような仕組みも取り入れていると感じました。このような、生活者側を巻き込むことにも何か狙いはあったのでしょうか。
先述した、「販売員の仕事がすごい」と認めてもらうための狙いはもちろんありましたし、その上で販売員の仕事をやってみたい、販売員になりたいという気持ちを醸成したいという想いもありました。それにはやはり、メディアを介した情報だけではなく、販売員と接することのできるSNSでのコミュニケーションや、『STAFF OF THE YEAR』のような舞台で、リアルな販売員の姿を見せていくことが大切だと思うんです。そこが、生活者を巻き込んだ狙いであり、販売員という業界や職種の底上げを図る第一歩だと思っています。
―さいごに、今後の展望などについてお聞かせください。
現在『STAFF OF THE YEAR』では、アパレルにフォーカスを当てていますが、「販売員」を軸に業界をどんどん広げていきたいです。アパレル販売員のすごさが伝われば、コスメや家電、エステ、美容師、介護士、保育士…と、さまざまな業界の「日本に必要だけれど、その必要性に反して適正ではない給料で働いている人たち」の価値も上がっていくと思うんですね。そのお手伝いを色々な形で実現していきたいです。
1997年生まれの道産子。2020年に横浜国立大学を卒業し、株式会社マテリアルに新卒入社。新設のメディアリレーションチームに配属され、約1年間メディアの知識全般を深める。2021年6月より、『PR GENIC』の2代目編集長としてメディア運営を引き継ぎ、記事の執筆や編集業務に従事。新米編集長として、日々奮闘中。