なぜ令和のビジネスにカスタマーサクセスが必要なのか。企業における“顧客の成功体験”の重要性

近年、注目度が高まっている「カスタマーサクセス」。BtoBのSaaSサービスを提供する企業が多く取り入れているイメージもあり、自社でどう活用できるのかと悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

今回は、カスタマーサクセスのプラットフォームサービスを提供するコミューン株式会社で、1人目のマーケターとしてご活躍されている杉山信弘さんに、ビジネスにおけるカスタマーサクセスの重要性と、導入時のポイントについてお伺いしました。

SaaSビジネスにおいて重要なカスタマーサクセスとは?

コロナ禍で追い風を受けたSaaSビジネス

ー初めに、SaaSビジネスの近年の動きをどう感じていますか?

SaaSは一時期バブルのような盛り上がりもありましたが、今は実力で評価されるマーケットになってきていると思います。直近だと、SmartHRが大きな資金調達に成功しましたよね。SaaSビジネスは、アメリカでは割と主流な「T2D3」という、売上高が3倍・3倍・2倍・2倍・2倍と伸びていく形が理想とされているのですが、日本でこれを達成している企業はこれまでありませんでした。理由としては、アメリカとマーケットの規模が違うことなどがよく挙げられていますが、その壁を始めてSmartHRが乗り越えたんです。SaaSビジネスに携わっている者としては、ようやくアメリカと同じようなスケール感で伸びるサービスが出てきたので、一種の希望になりました。

また、SaaSは①業種関係なくどこの企業も利用するホリゾンタル型、②業界特化のバーティカル型の2つに分類されるのですが、近年はバーティカル型のSaaSが伸びてきています。いくつか例を挙げると、「ANDPAD」のような建築業界向けのサービスや、カケハシの「Musubi」のような薬局・薬剤師向けのサービスなどです。このような業界特化型のサービスは、ターゲットの中で一気に利用を広げていきやすい反面、マーケットボリュームが売上の最大値を決めてしまう側面もあるので、各社複数商材を販売したり、業界を広げたりする動きをセットでしています。

他にも、コロナの影響で日本のビジネスのオンライン化が進み、飲食など顧客が影響を受けた業界を除いて、SaaSビジネスが全体的に底上げされました。特に、ホリゾンタル型のSaaSを扱う企業、わかりやすい例だとZOOMなどが追い風を受けました。

ーたしかに、コロナの影響でようやく日本のビジネスにもオンラインが根付いてきた気がします。それでは、BtoCSaaSビジネスの動向に関して、何か感じる部分はありますか?

近年、D2Cブランドの増加により、流通や小売りを介さず商品をダイレクトに販売できるようになっています。そのため、今まではやり取りできていなかった店舗や顧客と、「今回の商品どうでしたか?」というようなコミュニケーションが直接取れるようになりました。SaaSビジネスに限ったことではありませんが、この“顧客とのコミュニケーション”を大切にしている企業が、最近では顕著に伸びてきているように感じます。

カスタマーサクセスの本質は、“顧客の成功を支援した企業にも利益が生まれる”こと

SaaSビジネスを行う上で注目されている、カスタマーサクセスとはどういうものでしょうか。

カスタマーサクセスとは、純粋に訳すと「顧客の成功」ですが、顧客が成功するとその成功を支援した企業にも利益があるような仕組みにすることが重要であると言えます。コミューンをご利用頂いているBASE FOODさんを例に挙げてみます。BASE FOODさんの商品を購入している顧客の成功とは、イコール‟健康的な生活を送れるようになること”ですが、その成功が「商品をより健康的なものへブラッシュアップしていくこと」で得られるのか、はたまた、「提供している商品に合う健康的な食材の情報を提供すること」で得られるのかは、顧客がどのような成功を求めているかによって変化します。持っている商品・サービスを提供することだけではなく、“顧客が望む成功”と“自社の商品・サービス”を結びつける活動全体がカスタマーサクセスだと考えています。

ー各顧客にとっての「成功の定義」をしっかり確認する必要があるのですね。現状、日本企業でカスタマーサクセスはどの程度取り入れられているのでしょうか?

実は、カスタマーサクセスという名称を使っていないだけで、もともと取り入れていた企業は多いです。例えば、旅館に行くと、チェックインの際に荷物を部屋まで運んでくれたり、部屋に入ると「ようこそ、お越しくださいました」というメッセージが書かれた紙が置いてあったりした経験があるのではないでしょうか。これは、旅館で過ごす時間を通じて、顧客に癒されて帰っていただくために企業が行っている、一種のカスタマーサクセスです。

しかし、今まではその取り組みが“本当に顧客から必要とされているものなのか”という部分を計ってはいませんでした。もしかすると、旅館を利用した顧客は、サービスの充実よりも、安価で泊まれることの方が必要としていたかもしれません。特に最近は、コロナの影響で需要が目まぐるしく変化していて、これまでは対面でのやり取りが良しとされていましたが、今は顔を合わせることに抵抗があるお客さんも多いと思います。そのため、状況に応じて顧客の成功を見極め、既存の商品・サービスを改善する動きも多くみられています。

SaaSビジネスが目指すのは「ツールやサービスの導入が企業のステータスとなる」未来

SaaSビジネスにおいて、カスタマーサクセスが重要だと言われる理由はどのようなものでしょうか?

SaaSはある一定期間で契約を更新していくビジネスなので、1人の顧客がどれくらいの売上高になるのかが、解約するまでわからないという側面があります。そのため、SaaSビジネスを開始する前に、“Life Time Value(LTV)”という顧客生涯価値、つまり「どれくらいの期間契約してくれそうか」の見込みを立て、獲得予算を決定するという流れを踏む必要があります。その見込みの期間、もしくはそれ以降も継続して利用してもらうためにカスタマーサクセスを行うので、SaaSビジネスでは特に重要視されています。

また、最近ではただ使い続けてもらうだけではなく、プラスαの商品・サービスを利用してもらう、つまりアップセルしてもらうための動きも活発になっています。たとえば、利用開始3か月でサービスをうまく活用できた場合、顧客はより高度なサービス内容や、同社が提供している別のサービスの併用などを希望してくれるかもしれません。そうなると、1社あたりの売上高向上とサービス利用を継続してもらえる可能性が上がりますよね。ですが、このサイクルを作るためにも、やはり顧客の成功体験というものが必須になってきます。そのため、1度ご契約いただいた顧客に、いかに成功してもらうか、つまりどうカスタマーサクセスを行っていくかが、SaaSビジネスでは肝になるのです。

ーカスタマーサクセスがここまで重要なものだと認識していない人も多いかもしれませんね。今後、SaaSビジネス全体として、どのような成長を期待していますか?

個人的な考えですが、そのツールやサービスを導入していることが企業にとってのステータスになることが、SaaSビジネスの1つの目標になると思っています。例えば、「このツールを使っている=広報・PRに力を入れている会社なんだな」とわかるような立ち位置までいけるのが理想です。コミューンで言えば、「commmuneを活用している=カスタマーサクセスに力を入れている。」というイメージの醸成まで行いたいです。今はエンジニアなどで顕著ですが、採用面接の際に「このツールを使用していますか?」という質問が出ることが増えてきました。導入いただいた企業様の後押しができるようなツールになりたいですね。

BtoB・BtoCサービスそれぞれでカスタマーサクセスが果たす役割

カスタマーサクセスはどんな企業にも必要な概念

SaaS、カスタマーサクセスと聞くと、BtoBサービスのイメージが強いですが、コミューンではBtoCサービスの活用事例も多く見受けられました。BtoBBtoCサービスのカスタマーサクセスの違いやそれぞれのポイントはどういった部分になるのでしょうか?

まず、BtoBサービスの顧客の成功は、数字で可視化できることが多いです。基本的には、売上の増加、コストの削減、顧客満足度の向上の3つに分かれるので、成果が明確であることが大きな特徴のひとつと言えます。

一方で、BtoCサービスの顧客の成功は、成果が明確ではないことが多いです。たとえば、洋服のサブスクサービスでの顧客の成功を考えてみると、「様々な洋服を試すことで自分に合うファッションが見つけられる」というものがひとつの解としてあると思います。しかし、その成功が売上に直結するかと言うとそうでもありませんし、定義がフワッとしていますよね。人によって成功の定義が異なってくるという部分が非常に難しく、BtoBサービスとの大きな違いになります。

また、サポートする対象人数が異なる点もポイントとして挙げられます。BtoBサービスの場合、組織全体を対象にカスタマーサクセスを行うため、経営層が成功を実感していても、現場で動いている社員が成功を実感していなければ、本当の意味での顧客の成功にはなりません。反対に、BtoCサービスの場合だと、商品・サービスを利用してくれる一人ひとりが成功を実感すること=顧客の成功になるので、サポートの仕方も異なってくると思います。

ー具体的な違いはどのような点になるのでしょうか?

一番の違いは、個別サポートができるか否かという点です。BtoBサービスは個別サポートができ、BtoCサービスは難しいというのが現状になっています。本来はBtoCサービスでも個別サポートが行われるべきなのですが、現状ではペルソナの郡で管理されていることがほとんどです。ペルソナごとにコンテンツを作成したり、その中でも熱量の高い層に別のアプローチをしたりといったサポートと管理を行っています。

逆に、BtoBサービスだとヘルススコア管理などを用いて1社ごとに状況を分析し、個別サポートするという手法が特にエンタープライズでは主流になっています。主に、ハイタッチと呼ばれる個別カスタマイズがなされてたサポートから始めるのですが、サポートをしていく中で蓄積したノウハウを活かし、FAQの整備を行うことで工数の削減につなげたりもしています。

ー実際に、コミューンを利用しているBtoBサービスとBtoCサービスの割合はどれくらいなのでしょうか?

実は、割合は五分五分くらいなんです。どうしてもBtoBサービスのイメージが強くなっているのですが、例えば、BtoCサービスでは有料のファンクラブなどもカスタマーサクセスの一つです。皆さんが想像しているよりもかなり幅広いものなので、自社のサービスには関係ないと思わずに、BtoCサービスにも導入できるものだということを知ってほしいです。特に、BtoCサービスは、購入時以外で生活者にアクションしてもらうのがとても難しいと思うのですが、その部分を改善するためのコンテンツ整備などに注力している企業はかなり少ないです。生活者とのコミュニケーションや、どうしたらアクションしてもらえるかなどの悩みがある企業には、ぜひ取り入れてもらいたいです。

BtoB・BtoCサービス別、カスタマーサクセスの具体事例

ー最近のカスタマーサクセスの事例で、注目しているものはありますか?

この会社に入るまで不勉強だったのですが、RPAサービスのカスタマーサクセスは興味深いなと感じております。簡単にまとめてしまうとWebブラウザやExcelなどの操作を自動化できて、毎日同じことを繰り返してくれるようになるサービスなのですが、各社カスタマーサクセスに至るまでのプロセスに特色があります。

当社のお客様でもありますユーザックシステムさんではユーザー同士でのノウハウの共有や、助けあいによって活用を促進するというアプローチをとっており、コミュニティも非常に活発です。活用方法が無限にあることから、ユーザー同士で学びを深めることに多くのメリットがあります。

一方DeNAさんが運営しているRPAサービス「Coopel(クーペル)」はチュートリアルが丁寧でわかりやすく、上手にゲームフィケーションを活用しています。BtoBのサービスは、チュートリアルが全くないパターンもしくはとても多いパターンの両極端である場合が多く、わかりやすいものがなかなかありません。これは、ゲームのチュートリアルでノウハウを蓄積しているDeNAの強みだと思います。

ーBtoBのサービスを導入する時は、チュートリアルではなく説明会を設けてもらう場合も多いですよね。

そうですね。しかし、サービスを使用する担当者が途中で交代することを加味した場合、説明会というアクションはあまり優れていません。なぜなら、前任はサービスの説明会に参加しますが、後任は社内の前任からオリエンを受けることになり、両者の間で体験や認識の差が生まれてしまうためです。そのような事態が起こらないためにも、チュートリアルは非常に大切ですし、チュートリアルが設定されていることによって、その人がどこまで理解できているのかも把握できるため、サポートもよりスムーズになります。

ー確かに、そう考えるとチュートリアルがとても重要になりますね。それでは、BtoCサービスの事例はどうでしょうか?

BtoCサービスだと、スポーツジムがいい事例だと思います。スポーツジムの業界は、現在二極化していると考えていて、ひとつがエニタイムフィットネスのような、自分で自由に運動できるタイプ。もうひとつがトレーナーやAIなどによって運動量や食事まで管理されるようなタイプです。スポーツジムに通う人の成功とは、イコール“個人の健康”だと思うのですが、人によって健康の捉え方やなりたい身体、その手法は異なりますよね。そんな利用者一人ひとりの目的に合わせてサービスが提供出来ているところが、カスタマーサクセスとして、とてもうまくいっているなと感じます。

カスタマーサクセスをすべてのビジネスにとって不可欠なものに

カスタマーサクセスの実装に向けてやるべき3ステップ

ー今後、カスタマーサクセスを始める際に、どのような手順で考えていくことが望ましいでしょうか?

まず、一定数の顧客や、これまで顧客サポートを担当していた人に話を聞くことが大切です。カスタマーサクセスを検討している=現状成功していないと感じているということなので、本当に成功していないのか、成功するためのポイントは何か、成功している会社との違いはどこなのかを最初に把握します。情報収集はカスタマーサクセスを考える上での基盤でもあるため、非常に重要なフローです。

できればこの時に、うまくカスタマーサクセスを行っている企業をベンチマークしてみてください。その際、意識してほしいのは、ターゲットとなるクライアントとその職種が同じ企業かということです。例えば、同じ会社でも、使用する人が広報の人と生産管理の人では、必要とするものが異なりますよね。ですので社名だけで決めないようにしてください。加えて、そのベンチマーク企業のユーザーに話を聞けると、なお良いです。サイトだけではわからない使用感などを生の声として聞き、自社にアレンジできると工数の削減にもなります。安価なサービスであれば、自分で契約して実際に体験してみるのもアリだと思います。

ーここまでリサーチできている人はまだ少なそうですね。他社の分析・比較までできた後は、どのようなことに取り組むべきでしょうか?

分析・比較ができた後は、成功している顧客としていない顧客の差を埋めていきます。あまり効率などは考えず、しっかりリソースを注ぎ込んで成功に導けるよう、PDCAを回していくことが大切です。そして、ある程度成功へと導けるようになったら、その手法を型化・効率化し、どういう順序で進めると良いのか、それにはどんなツールやサービスが必要なのかを考えていきます。まずは自社で決めた型に沿って、実際に顧客の成功まで繋げられるかどうかを数社で実施してみてください。

カスタマーサクセスは非常に手間がかかるものなので、一人一人がどの程度の顧客数を担当できるのか集計することも大切です。まず、1社を成功に導けるというのが最も重要なことではありますが、1人当たり何社を担当できるかという指標が、SaaSビジネス成長の肝になります。そのため、この部分を最初の段階で把握できると、よりカスタマーサクセスの実装に向けて動きやすくなると思います。

そして、もう一つ忘れてはいけないのは、いつ成果が出るのかを提示することです。カスタマーサクセスは成果が出るまでに時間がかかるため、顧客に利用し続けてもらうためにも、社内からの信頼を得てチームとして確立させていくためにも、いつ成果が出るのかは必ず提示しておくことをオススメします。

〈カスタマーサクセスの開始手順〉

  1. 顧客と顧客サポート担当から情報を収集する
  2. ベンチマーク企業を選定し、提供しているサービスを分析する
  3. 成功している顧客としていない顧客の差を埋め、その手法を型化・効率化する

1人目のマーケターとしての今後の展望

ーカスタマーサクセスを実装していく際に生じる、不安や悩みはどのように解決していましたか?

悩んで答えが出ないときには、CSカレッジなどに登壇しているトップのカスタマーサクセスの方々に相談してしまっても良いと思います。やはり、人の成功を支援する仕事なので、優しく親切な人が多く、様々なことを教えてくれます。カスタマーサクセスの担当に向いているのも、そのような性格の人かもしれません。行っている活動としてはすぐに売上に直結するというようなものではなく、顧客へのGiveから全て始まりますので。

ーそうなると、営業とは別にチームを設けることが大切でしょうか?

場合によりますが、大切ですね。カスタマーサクセスが、アップセル・クロスセルのような直接的な売上増加の提案を行うかどうかは、企業によってまちまちです。とある企業では、追加提案やアップセルなどを行うチームを、カスタマーサクセスとも、新規営業とも別で設けていたりします。そのくらい、カスタマーサクセスと営業を切り離して考えている企業も増えてきていますね。

ーカスタマーサクセスの重要性が理解され始めているのですね。最後に、コミューンのマーケター1人目としての今後の展望をお聞かせください。

今回、コミューンで1人目のマーケターになることを決意したのは、自分たちの作るサービスが、カスタマーサクセスという「お客様の成功」にダイレクトにコミットできることに魅力を感じたためです。やっぱり、マーケターとして世に広めるなら、自分が必要だと思うものを広めたい。コミューンはそこにしっかり合致していました。コミューンのサービス自体を成長させることも当然行いますが、まずはカスタマーサクセスという概念がどのような会社にも必要だということを、日本で浸透させていきたいです。

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