SNSが普及し、今では誰もが自分を発信できる世の中になりました。さらには企業に属しながら、副業やパラレルワークを行う人も増えてきており、まさに「個」の時代が到来したと言えるのではないでしょうか。
そんな中で昨年、突如にして見舞われた未曾有のコロナ禍。当たり前の日常が失われ、生活が一変したことによる反動は、人々や企業に対して大きな不安を与えるものとなりました。未だ厳しい状況が続いていますが、コロナ禍でも地に足をつけ、事業成長に大きく繋げた企業もあります。その1つが、オンラインで個人のスキルを売れるプラットフォーム「MOSH」です。
今回は、同サービスを運営するMOSH株式会社の代表取締役社長 籔 和弥さんに、創業から軌道に乗せるまでに工夫したことや今後の事業展開について話を伺いました。
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「個の時代」到来からCtoCビジネスの着想を得る
スタートアップ退職後は世界一周、放浪の旅へ
籔さんは、2020年に東証マザーズ上場を果たした実名型グルメサービス「Retty」へ新卒第1期生として入社。当時はまだ創業間もない生粋のスタートアップと呼べる規模で、ベンチャー気質溢れる風土を感じながら働いていたそうです。
アプリのマネージャーやUXデザイナーを経験後、2017年にRettyを退社して自身の見識を広げるために世界一周の旅へ。「アジア・インド・アフリカなどを点々と周る中で、現在のMOSHに繋がるアイディアの着想を得ました」と話す籔さんは、世界を放浪していくうちにあることに気づいたと言います。
「世界中、色々な場所を巡って自分と年齢が近い20~30代くらいの方に話を伺う機会がありました。大体150人近くの方と話をしていく中で気づいたのは『自分のやりたいこと、情熱を捧げられるものが見つからない』と感じている人が意外に多かったこと。志は高いのにどうしたらいいか思いあぐねたり、何を頑張ればいいかわからなかったりする人がいる一方、Airbnbのホストやインスタグラマーなど個人発信で稼ぐ人もいる。果たして、この違いは何だろうと考えるようになりました。」
“熱い情熱が通い合う”を実現するMOSHの誕生
スマホからSNSを開けば、世界中にいる人々のライフスタイルを垣間見ることができるでしょう。ただ、SNSを介してグローバルと繋がることはできても、「自分が本当に情熱を注げたい」と思うものに出会えるかというとそうではありません。
こうしたある種のギャップを感じていた籔さんは、「何か情熱を持ってやってみたいと思う人」と「自分の得意を生かしてスモールビジネスを営む人」とを結び、ライブ会場で熱狂の渦が生まれる「モッシュ現象」のような“熱い情熱が通い合う”世界観を体現した事業をやろうと思ったそう。
「世界を巡る中で、SNS起点の広がりから、個人間での商取引を行うニーズが今後増えるのではと感じました。まさしく『個の時代』の到来だと思い、CtoCサービスを構想したのがMOSHを起業した背景になります。」
カテゴリーキーマンを起点に口コミの広がりをつくる
デジタルノウハウを提供するところから信頼を獲得
帰国後は2017年7月にMOSHを創業。「情熱がめぐる経済をつくる。」をミッションに掲げ、熱量や才能を持つ個人をエンパワーメントするべく立ち上げたわけですが、最初のうちは山あり谷ありの苦労を経験したそうです。
「立ち上げ当初は領域を広げず、ヨガのカテゴリーに特化していたんですが、言わずもがな無名のサービスなわけで、地道にサービスを使ってもらうために泥臭いこともやりましたね(笑)。ヨガインストラクターの方にSNS経由でDMを送ってアポを取り、実際に対面でお会いしながらコミュニケーションをとってMOSHの利用を促す活動を行いました。実際にヨガのレッスンに通って仲を深めたケースもあります。当時はデジタルを活用しきれていない人も多かったので、ヨガの先生の困りごとに応じて、こちらからはデジタル領域のノウハウを提供し、少しずつ関係性を築きながらMOSHの魅力を伝えていきました。」
SNS上でキーマンを一人一人捕える地道な普及活動
また、日本はヨガインストラクターの国家試験がないゆえ、それを生業とする個人の多くは資格取得後に独立するのが一般的とされています。そのため、ヨガインストラクターを養成するスクールと緩やかなアライアンスを組み、MOSHの利用促進を図ることも行ったそう。そのほか、ヨガに興味関心のある人が集まるイベントに出展して認知を広げることなど、小さな積み重ねを繰り返しながらサービスを成長させてきました。
「やっぱりサービスを知ってもらうのは苦労しました。ただ、やっていくうちにだんだんカテゴリーの広げ方がわかってきて、ヨガ以外のフィットネスやダンサーなども、まずは『カテゴリーのキーマンと仲良くなって使ってもらう』ことを意識しました。カテゴリーごとにMOSHと親和性の高そうなユーザーをインスタで探して、DMを送っていました。フォロワーの多い少ないは関係なくて、“MOSHらしさを体現できそうか”ということを重視したんです。
キーマンにDMでアタックして、プロダクトを気に入ってもらうことができれば、自然と広がっていくだろうと。要はキーマンを起点にして、カテゴリーごとのトレンドや情報が循環していくわけなので、『あの人が使っているから、私も使おう』と、キーマンをフォローしている他のユーザーも思うようになる。広告費をかけずに、口コミでMOSHが広がっていく流れを作ろうと工夫しましたね。」
こうしてMOSHを広めるために奔走したことで、今ではスポーツトレーナー、ヨガインストラクター、美容家、アーティスト、お笑い芸人、クリエイターなど200種類以上の業種が利用するサービスにまで成長したのです。そして、昨年10月にシリーズAとなる複数の引受先からの資金調達を実施し、これまで地道に積み上げた成果が身を結んだのでした。
ユーザーの利用ハードルをとことん下げたサービス設計
ベンチマークを置かずに独自性を追求する
そんなMOSHですが、Eコマースの需要増に合わせて、無料でECサイトを開設できるサービスの競争は激しくなっているのが現状です。その例として、BASE(ベイス)、STORES(ストアーズ)、Ameba Ownd(アメーバオウンド)などが挙げられます。
籔さんに、これら競合の中でベンチマークしている企業や、差別化を図っている点について伺うと、「一番の違いはモノ(有形)を売るかスキル(無形)を売るか」と前置きをしつつ、次のように説きました。
「ベンチマークしている企業については特に定めていません。ただ、サービスの機能としてとても勉強させていただいているのはBASEさんですね。
MOSHが他のECサイトと違う点は、『個人の時間をブッキングして、サービスを提供する』こと。他のECサイトはハンドメイド商品やアパレル、日用品、食料品など有形商材がメインになっていますが、ことMOSHに関しては、個人のスキルを販売するプラットフォームとして運営している。例えるなら“個人版のホットペッパービューティー”です。
スキルシェアの文脈ではココナラさんとも比較されますが、MOSHの場合はスキマ時間で稼ぐユーザーよりも、フィットネスやヨガ講師、美容家など、その道のプロフェッショナルとして仕事をする方が多く使っています。」
ユーザーファーストの機能拡充
個人で活躍するユーザーが多いからこそ、質の高いレッスンやサービスが提供され、リピート率も高いそう。個が立つサービス設計に注力し、今までオンライン販売やデジタルへのシフトが遅れていた、サービス業を行う個人中心にユーザーを増やしてきたことで、MOSHの優位性が確立されてきたのかもしれません。
「また、MOSHのUXもユーザー目線を意識しています。スマホで誰でも簡単にホームページを作れるというのが大前提のもと、予約・決済・顧客管理・回数券の機能など、MOSH上で全てワンストップで完結する仕組みを提供しています。例えば、ポートフォリオやブログ機能でセルフブランディングに活用できたり、web会議ツール『zoom』との連携機能でオンラインレッスンを気軽に実施できたり。運用や管理の面で、様々なツールを行ったり来たりする煩雑さが生まれないような設計にしています。」
先行投資が功を奏し、月間流通総額は7倍に
コロナ禍では毎週1回プレスリリースを配信
コロナ禍でオンライン需要が高まる中、MOSHは2020年3月から12月の期間で月間流通総額が7倍に急拡大しました。リアルを生業にしていたサービス事業者が、オンラインへの切り替えを余儀なくされ、その受け皿としてMOSHが選ばれたわけですが、うまくユーザーニーズを汲んで成長させられたのはどのような理由があったのでしょうか。
「実はコロナになる前から、オンラインサービスの提供機能はあったんです」と吐露する籔さんは、コロナ禍においても順調にサービスをグロースできた理由についてこう説明します。
「コロナ以前は、まだまだオンラインレッスンが求められる状況ではなく、導入もされなかったんですよ。ただ、今後必要になるかもしれないと、一旦機能だけは残していた。それがコロナになってからは、サービスの提供者側や消費者側を取り巻く環境が一変し、機能が急速に使われ始めました。また、コロナ禍で新しい働き方の一例として、TV番組『ガイアの夜明け』で取り上げられたのは大きかったですね。
コロナによって、ちょうど『オンラインビジネス』や『副業』を探す人が増え始めた頃だったので、マスに露出できたことでサービスの認知度が上がり、MOSHに登録いただく個人事業主やスモールビジネスを営む方が増えたんです。
また、プレスリリースも結構仕込んだ時期があって、2020年の6月後半から7月にかけては、毎週1回のペースでリリースを出していました。フィットネスやヨガ、フラワーアレンジメント・占いなど、様々なジャンルの事業者が導入していて、登録者数も急増しているということを中心に打ち出し、メディアへの露出やサービスの認知拡大に努めたんです。こうしたことが相まって、急成長に繋がったのだと思っています。」
“情熱が生み出す新しい経済圏”の創造を目指して
MOSHが掲げる「情熱がめぐる経済をつくる。」というミッションを体現するため、今後も事業拡大へ邁進する籔さん。最後にこれからの目標について話を伺いました。
「これからもユーザーに寄り添った形で、サービスをブラッシュアップしていきたいと考えています。事業者の新規開拓や客付け、リピート率の向上に寄与できるように機能を改善したり、送客の支援や検索機能の拡充、他のプラットフォームとの連携を行ったりと、よりMOSHの利便性や有用性を高めていきたい。また、事業者の売上を高めるためのノウハウも無料で提供しているので、個人のエンパワーメントに貢献できる環境を整え、情熱が生み出す新しい経済圏を創っていきます。」
コロナ禍で不安に苛まれ、先行き不透明な社会が訪れようとも、人が持つ「情熱」や「想い」は決して消えることはありません。小さな灯火はやがて大きな輝きとなり、明るさや希望を求めて多くの人が集まるようになる。情熱がめぐり、そして想いが通うことで生まれる新たな経済圏。MOSHが思い描く「パッション・エコノミー」の今後に目が離せません。
\メンバー募集中/ MOSHでは、創業以来1人目となるビジネスサイドのメンバーを絶賛募集中です。昨年10月にシリーズAの資金調達が完了し、次のシリーズに向け事業を急加速させていくタイミングです。ボードメンバーの一員として、非常にチャレンジングな経験を積んでいただけると思っています。ご興味ある方は下記をご覧ください。 https://corp.mosh.jp/recruit/ |
籔和弥 MOSH Founder, 代表取締役CEO
福井出身、2014年にRettyに社員7人目で新卒入社。Rettyアプリのリーダーを担当。2017年Retty退社後、アジア・インド・アフリカなど世界一周を行い、現在のMOSHを着想し創業する。
主にwebメディアでの編集・執筆・取材を行なっており、ビジネスからライフスタイル、イベントまで様々な領域で記事を寄稿している。 趣味はダンスやDJ、旅行。