ファンが顧客を呼び急成長。バーチャル上でリアルに近い“空間”を体現するoViceの成長戦略

コロナ禍でテレワークが常態化し、ウェブ会議ツールやチャットツールを使ったオンラインコミュニケーションが主流になる一方で、オンラインでは、対話相手の感情や表情を汲み取りづらく、思っていることがうまく伝わらなかったり、認識の齟齬が生じたりと、意思疎通の面で問題を抱えてしまうことも少なくありません。

そんな中、バーチャル空間のプラットフォームを提供する「oVice(オヴィス)」は、これらのオンラインコミュニケーションの課題を解消するサービスとして注目を集めています。今回は同サービスを運営するoVice株式会社の代表取締役社長、ジョン・セーヒョンさんに、oViceが熱狂的なファンを生む理由と、半歩先のオンラインコミュニケーションのあり方について伺いました。

「現実世界を代替する」バーチャル体験を届ける

既存のオンラインツールにはない“空間”を作る

まず、oViceのサービス概要や特徴についてジョンさんに伺いました。

「oViceは現実世界にある空間を、バーチャル上で表現したオンラインのコミュニケーションツールです。昨年の2月ごろから続くコロナ禍の影響でテレワークが普及しましたが、テキストでのコミュニケーションやウェブ会議は便利な反面、現実世界で日常的に発生する雑談や、ちょっとした社員同士の交流が図りづらいのが課題でした。そこで、テレワークの社内間コミュニケーションを円滑にするために、リアルとオンラインの垣根を取り払うような空間を提供するサービスを立ち上げたのです。」

2020年8月からサービスを開始したoViceは、アバター同士の距離感によって音量が変化する機能や、会議室でクローズドな会話ができる機能など、「現実世界で体験する日常に、限りなく近づける工夫をしている」とジョンさんは説明します。

「ZoomやSlack、Chatworkなど既存のツールには“空間”がなかったんです。他方でoViceは、何気ない立ち話や談笑、語り合いなどが気軽に行えます。つまり、一緒の空間にいるだけで安心するゆとりや、人間関係における余白などをバーチャル空間上で実現し、通り一辺倒なコミュニケーションになりがちなオンラインでの仕事環境を解消できるのが大きな特徴だと思っています。」

チャットツールで書くのは少し面倒な情報だったり、ほんの数秒で終わる伝達事項のために電話やZoomを使ったりと、遠隔での作業だからこそ発生する課題も、oViceであればアバター同士が近づくことで容易に意思疎通ができます。こうした現実世界を代替するバーチャル体験が、ユーザー数や活用実績を増やす肝になっていると言えるでしょう。

立ち上げ期はトライアル数よりもサービス理解を重視

しかし、サービスをリリースした当初は、まだまだ認知度が低く、「他のサービスとどこが違うのか」という質問をよくもらっていたそうです。コロナ禍でバーチャルオフィスやオンラインイベントの需要が高まっていた中、どのようにしてグロースに繋げていったのでしょうか。

「oViceをリリースした頃はRemoというツールが先行していたので、本当にoViceのようなサービスが世の中に求められるものなのかテストする必要がありました。そのため、まずは『他社とoViceとの違い』を明確にするために、デモサイト(https://tour.ovice.in/)を立ち上げました。リスティングやLP、SNS広告などにリンクを設置し、興味を持った人が気軽にoViceを体感いただける導線を作り、サービス理解を促すことに注力したのです。

次に、関心を持ってくださったお客様に対し、『RemoやZoomなどと何が違うのか』、『oViceはどんな使い方ができるのか』などといった、操作の説明やoViceの魅力をひとつひとつ丁寧に伝えていきました。その際、あえてデモ体験からトライアルユーザーへの転換数はKPIとして追わず、『興味を持ってデモサイトに来たお客様の疑問が解消されれば、必ずトライアルへ繋がる』という思いで、とにかくヒアリングを重視したんです。」

ビジョンに共感した熱狂的なファンがバイラルを生むきっかけに

どんな些細なことでも、真摯にヒアリングを重ね、お客様と対話を続けた結果、oViceの世界観に共感する「エバンジェリスト」のような存在が自然と生まれてきたとジョンさんは続けます。

「サービス自体の使い方や特徴以外に、oViceが目指すビジョンや世界観などに興味を持ってくれるお客様もいました。oViceを立ち上げた経緯や、プロダクトにかける情熱など、思いの丈を3時間近く話すこともありましたね。そんな中で出会ったのがエン・ジャパンさんです。東証一部に上場している会社ですが、ベンチャーマインドを大事にされる社風があり、oViceの世界観に共感してくれたのです。

今ではオフィスの半分を解約し、oVice上で『バーチャル本社ビル』を展開しているほどコアなユーザーで、クライアントへも自然に勧めてくださっています。また、初期の頃に名古屋大学などの教授がoViceを気に入ってくださったことをきっかけに、さまざまな大学に広まっていったケースもあります。サービス立ち上げ当初に熱狂的なファンを作れたことが、その後のバイラルに繋がり、ノンプロモーションでのユーザー数増加に大いに貢献しました。」

“バーチャル不動産企業”の先駆者を目指す

時世に合わせて行うマーケティングとプロモーション

最近では、企業の大規模なイベントや宴会に加えて、婚活などの様々なシーンでもoViceが導入されるようになりました。プロモーションやマーケティングで心がけている点についてジョンさんに伺うと、「緊急事態宣言が発令されたタイミングに合わせて、集中的に施策を打つことを意識している」とし、次のように語りました。

「oVice自体の認知度を高めるために、SNSやキャンペーン施策の実行、イベントの企画、メディアへの露出などを中心に取り組んでいます。特に緊急事態宣言下では、テレワークや外出自粛の機運が高まるため、積極的なアクションを行うことでサービスのバイラル効果や既存顧客のアップセルの強化を促すことができます。また、直近の8月からは潜在層へのアプローチを狙うため、テレビCMおよびタクシーCMを開始しました。サービスのリリース以来、初めて予算をかけて行ったマス広告ですが、実は2ヶ月前から仕込んでいた施策です。

ちょうどこの頃は新型コロナの新規感染者数が増加し、政府もテレワークを推奨するようになっていたので、オリンピック明けのタイミングにテレワークへの関心が一気に高まるだろうと予想していました。案の定、初めのお盆休みの頃はいまひとつの成果でしたが、それ以降は順調にユーザー数の増加に寄与。さらには『CMを出せるくらいのサービス』という認知が広まったことで、会社の格上げにも繋がりました。過去のリード顧客が再びトライアルへ申し込むなどの相乗効果も見られ、マス広告は一定の収穫が得られた施策でした。」

「現実世界ではどうなのか」を常に意識する

現在、oViceはサービス開始から1年足らずで、導入社数1,200社を超える成長を遂げています。oViceにしかない「バーチャル空間でのユーザー体験」を研ぎ澄ませることで、サービスグロースしてきたわけですが、ジョンさんは「常に『リアルならどうなのか』ということを念頭に置いている」と話します。

「同じ空間を共有するからこそ生まれる一体感や親密感が、現実世界における価値だと思っています。オフィスの共有スペースでの何気ない会話や雑談がアイデアを生むことだってありますし、お互い話しかけやすい距離感にいることから、生産性の向上にも繋がるでしょう。こうしたリアルでは当たり前の体験を、oViceのバーチャル空間でも体現できるよう努めています。例えばイベントにしても、多くの人が同時に拍手ボタンを押すと、共鳴してリアクションが大きくなるような設計にしているんです。単に絵文字を表示させるのではなく、リアルではどんな体験が起きるかを想定しながら、サービスを創り込んでいます。」

アカウント課金ではなく坪単位課金にした背景

さらに、oViceの急成長の背景には、オンラインコミュニケーションツールの課金体系としてよくある“アカウント課金制”ではなく、“坪単位課金制”を取り入れていることも大きく関係していました。

「私自身、アカウントごとに課金されるビジネスモデルがあまり好きではなかったんです。空間を提供するのであれば、リアルの不動産事業と同様に、面積に応じて費用をいただく方が理にかなっていると思いました。一番ミニマムのBasicプランでは、同時接続50人を上限に、月額5,000円で『1200×640』の面積を提供しているため、1人当たり100円で利用することができます。リーズナブルで導入ハードルが低いことも、企業にとってメリットに感じてもらえているポイントですね。

また、『オフィスを拡大すれば社内のモチベーションも高まる』という機運も醸成できると思っていて、規模や目的に応じてStandardプランやOrganizationプランにアップグレードし、バーチャルオフィスを自由にカスタマイズしてもらうことで、企業風土に合わせたバーチャル空間を創ることも可能です。今後はoViceを、SaaS企業ではなくバーチャル不動産企業として打ち出していきたいと考えています。」

ハイブリッド社会を見据えたoViceの付加価値とは

これまでさまざまなシーンで活用されてきたoViceですが、今後力を入れていきたい活用方法として、ジョンさんは「バーチャル空間 × 食」を掲げます。「昨年末に飲食業の銀座クルーズさんと提携したので、食と絡めたoViceの活用を提案していきたいと思っています。考えているのは、企業の内定式後の懇親会や交流会で、食を交えながら先輩後輩が交流できるような活用事例ですね。また、9月上旬にはビアガーデンをoVice上で開き、異業種交流会や街コンなどのバーチャルイベントを行いました。このようなイベントごとには食事が付きものですので、oViceで『バーチャル空間 ×食』の体験を創っていきたいですね。」

これから、oViceはさらなる成長が期待されることでしょう。最後に今後の展望含め、バーチャル空間ビジネスの可能性について、ジョンさんに聞きました。

他サービスと比較した年間経常収益

「今年中に国内1万社を目指し、バーチャルオフィス市場を席巻できるよう尽力していきます。実はサービス開始から8か月で1億円のARR(年間経常収益)を達成したのですが、1年6か月で10億円に到達すれば、初期のslackに次ぐ驚異的な成長スピードを実現できたことになるんです。このままのペースでいけば十分射程圏内にはあると思っています。もちろん成長率は維持しながらも、オンラインコミュニケーションが主流となっている今が勝負だと考えているので、今のうちにバーチャル空間の素晴らしさを経験してもらうべく、多くの企業へoViceの魅力が伝わるよう頑張りたいと思います。将来的には、リアルとオンラインが共存するハイブリッドな社会になっていくので、時世が変わろうとも、oViceの付加価値を見出しながらサービスをグロースさせていきたいです。」

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