AI×サブスクで新しいおやつブランドを目指す。スナックミーの“ユーザーに愛される体験価値”

2018年ごろから、様々な業界で台頭し始めたサブスクリプション型のビジネスモデル。そして翌年には、流行語大賞に「サブスク」という言葉がノミネートされ、一躍日の目を見るようになりました。しかし、ブームに乗じてサブスク型のビジネスを取り入れても、なかなか利益が上がる仕組みへと昇華できず、苦労する企業も少なくないかもしれません。そんな中、2016年からサブスクビジネスをいち早く手がけ、事業を成長させてきたのが、おやつの定期便「snaq.me(スナックミー)」です。

▼「snaq.me」とは、自然素材や品質にこだわったお菓子を楽しむことができるサブスクリプションサービス。おやつ診断を通してパーソナライズされたお菓子が毎月自宅に届く、新しい“おやつ体験”を提供しています。

今回は、「新しいおやつ体験」をユーザーへ届けるために、サービスローンチ当初からサブスクに着目していた背景や、事業を拡大するために心がけたことについて、株式会社スナックミーの代表取締役を務める服部慎太郎さんに話を伺いました。

顧客体験を研ぎ澄まし、常に「ワクワク」と「サプライズ」を届ける

起業当初はピボットの連続。マルシェから「snaq.me」の着想を得る

服部さんが起業を志すようになったのは、DeNA時代に様々なシードやアーリーステージの起業家と話していくうちに、「自分もサービスを立ち上げる側に回りたい」と思うようになったからだと言います。

「数多くの起業家に会うことで自分も感化され、『起業したい』という気持ちがこみ上げてきました。そんな折、三田村(現 snaq.me取締役COO)と出会い、話していく中で気が合いそうだと感じ『事業をやろう』と持ちかけたことで、一緒に起業することになりました。」

ただ当初は明確なアイデアは固まっておらず、なんとなく“食とECを掛け合わせたもの”という漠然としたイメージしかなかったことから、何度もピボットを繰り返したそうです。ターニングポイントになったのは、マルシェへ足に運んだある日のこと。「真新しい商品がたくさん並ぶ、マルシェのような楽しい空間をECにできたら面白いのでは」というアイデアが降ってきたといいます。

「これまで考えてきた事業のアイデアは、コンサルの仕事をしてきたこともあり、どのくらいマーケットがあるのか。あるいはどんなユーザーがターゲットになりうるだろうかと、マクロ的な視点でしか考えられていませんでした。でも実は身近な生活にこそヒントがあったんです。娘が生まれてお菓子を食べさせるときも、袋の裏面に記載された原材料を見るようになったり、コンビニやスーパーには売ってないようなおやつを探したりと、お菓子で何かできないかと考えるようになりました。そんな中で、マルシェに出かけたことをきっかけに、“美味しそうな手作りお菓子を探すときのワクワク感や楽しさを表現できるサービスを立ち上げる”という構想を思いついたんです。」

海外のミステリーボックスを参考に“サプライズ体験”を演出

こうして2016年3月に「snaq.me」をリリースし、本格的に事業をスタートさせたわけですが、創業当初は社員数が少ないばかりか、サービスも伸びるか未知数だったため、「社員みんなでひとつひとつ、手作業でオペレーションを回していた」と服部さんは振り返ります。

「マルシェで販売されているお菓子を卸で購入し、詰め合わせボックスのような形でEC販売を始めたんです。ユーザーが100名くらいになるまでは、Facebook広告で訴求をしていて、お菓子の箱詰めも最初全部自分たちでやっていましたね。パッケージも今ではデザイナーを入れてクオリティの高いものになっていると思いますが、最初はフリー素材をダウンロードしてのりで貼ったり、ロゴもスタンプで押したりと、とにかく手作り感満載だったんですよ(笑)。サービスを開始してから半年くらい経ったころ、一度Facebook広告を止めてみて様子を見たのですが、それでもユーザーが増えていく状況で、お客様からも『snaq.meのようなサービスを求めてました』というお手紙をいただくこともあり、次第に手応えを感じるようになりました。」

また、サービス開始当初からサブスク型の収益モデルを取り入れた理由について服部さんへ伺うと、「サブスクを取り入れようとそこまで意識したわけではなく、海外の事例で何が届くかわからない『ミステリーボックス』のサービスから着想を得た」と言います。

「海外では、ファッションやコスメなど様々なジャンルの『ミステリーボックス』が盛んで、特に女性は平均で2~3つのサービスを利用するというデータもありました。これをお菓子で再現できないかと考えた結果、サブスクでお菓子を届けるビジネスモデルに着地しました。しかし、ただサブスクモデルを取り入れるのではなく、最も重視したかったのは“ユーザー体験”です。『今月はどんなお菓子が入っているんだろう』という箱を開けてからのお楽しみ感を演出し、ユーザーの“ワクワク”や“ドキドキ”を醸成できるようなサービス設計を大切にしています。」

ユーザードリブンなサービス設計を心がけ、常に改良していく

そんなユーザー体験を重視するようになったのも、サービス立ち上げ当初の「無添加でギルトフリー」という機能的価値から、「お菓子を食べる幸せな時間や楽しさを提供する」という情緒的価値へと訴求軸を変えたことに端を発しています。

服部さんは、「ユーザーの反応を見て打ち出し方を変え、常にサービスをブラッシュアップさせている」と解説しました。

「立ち上げ当初、実は画期的なサービスだったこともあり、メディアからの取材依頼も結構あったのですが、メディア露出して急激にユーザーが増えてもまだ耐えられない状態だったため、秘かにサービスを育てていました。友人知人にも何をやっているのか話していませんでしたから(笑)。あくまでオーガニックでユーザー数を伸ばすことを心がけていました。一方で、その分大切にしていたのはユーザーへの電話インタビューでした。『なぜサービスを利用していただいているのか』『どんな商品やサービスがあったらいいか』など、ユーザーの生の声を聞いてサービス向上に努めてきたんです。」

そのような形でユーザーと直接向き合っていたところ、TwiiterやInstagramといったSNS上での反応が良いことに気づいたと服部さんは続けます。

「ユーザーがお菓子の写真をSNSに投稿することで、自然に情報が拡散されユーザーが増えていったので、『どう写真を撮ったらSNS映えしやすいか』というフォトペーパーを定期便に挿入し、UGCを促すような取り組みも行いました。他にも、お菓子をつまみながら気軽に読める冊子を同梱したり、箱のデザインを毎月変えてみたりと、単にお菓子を届けるだけでなく、月1回の『snaq.me』との接点をいかに研ぎ澄ませ、サービスの体験価値を高められるかに注力しているんです。」

「お菓子×デジタル」を掲げる新たな製菓ブランドへ

 Webサービスを開発するかのように、新商品を創り出す

サブスクサービスでは、いかに顧客を飽きさせず、「Wow体験」を届け続けられるかが重要なポイントです。ユーザーに愛されるサービス設計が求められる中、「snaq.me」がこれまで取り組んできたサービスグロースの手法は、参考にすべきポイントが多いのではないでしょうか。サブスクとしてのサービス設計に加えて、「snaq.me」は新しいおやつ体験を創造するための、AIを用いた購買データの分析やパーソナライズの商品開発など、「お菓子×デジタル」の市場も切り開いてきました。テクノロジードリブンでサービスを運営する理由について、服部さんは「デジタルを軸にした新しいお菓子ブランドを目指している」ことを掲げます。

「お菓子を売っているというよりも、『Webサービスの開発』に近い感覚でやっていますね。購買データやユーザーのリクエストをもとに、自社のパティシエが新しいお菓子を開発したり、提携先の生産者の方と一緒に開発したりと、色々なパターンがありますが、とにかく大手のお菓子メーカーでは考えられないスピードで新商品を開発しています。お菓子の開発では一般的な、試食会やサンプリングなども行わないんですよ。ABテストに近い感覚で、作ってみたらまずはユーザーに食べてもらう。そこで評価をもらって、改善につなげていく。こうしたサイクルを繰り返し、累計33ジャンル、約1600種類のお菓子を今まで開発してきました。最近は海外の郷土菓子にも着目していて、まだまだジャンルは広げられるかなと思っています。」

ソーシャルゲームのような“飽きさせない工夫”を凝らしている

Webサービスを開発するかのような思考でグロースハックするのも、「DeNA時代にソーシャルゲームを見ていたことが大きい」と言います。

「ソーシャルゲームって、飽きずに長くプレイしてもらうため、毎回様々なイベントを立てているんですよね。それと同様に、①箱が届く②開封する③お菓子を食べる④SNSへ投稿するという“ユーザーとの各タッチポイント”を、いかに洗練させられるか、楽しく思ってもらえるかが大切だと考えているので、まだまだユーザー体験には満足していません。社内では『永遠のβ版』と称していますが、ブラッシュアップし続ける気構えで、サービスを成長させられるよう尽力しています。」

大手には真似できない価値提供を目指して。「snaq.me」が見出す成長戦略

商品を“売る”のではなく、サービスとして“体験”を届ける

2021年3月にサービスリリースから5周年を迎えた「snaq.me」は、毎月5~10%のペースで成長を続けているそうです。「お菓子×デジタル」を掲げる製菓ブランドのパイオニアとして、菓子業界の国内No.1サブスクサービスを目指すために、どのような青写真を描いているのでしょうか。まず、服部さんは「大手が入り込めないニッチな領域を見据え、事業を伸ばしていきたい」と抱負を語ります。

「単に商品を“売る”のではなく、サービスとして“体験”を届けること。そしてユーザーの声を反映させた新商品を、業界に例を見ない速さで出し続けることが、大手には真似できない価値だと考えているので、このような『snaq.me』の強みを生かして事業展開していこうと思っています。いずれは森永、カルビー、スナックミーと肩を並べられるような企業になりたいですね。直近での取り組みのひとつとしては、アップサイクル系の商品開発を行い、“食材ロス”という社会課題と向き合っています。廃棄されたドライフルーツやトマトジュースなど、行き場を失った食材を再活用し、提携する150社以上の生産者と共創しながら、これからも新商品を出していきたいです。」

複数のブランドを展開し、大手に肩を並べるようなサービスを目指す

最後に服部さんへ今後の展望を伺いました。

「『snaq.me』はマス向けのサービスではないので、無理にユーザー数を広げようとはせずに、ユーザー体験をさらに高められるようにしていきたいですね。今は、コンビニ菓子やスーパーのスナック菓子ではなく、カフェやデパ地下スイーツといったところをベンチマークしているんです。一人あたりが毎月お菓子に使うお金は、大体6000円くらいという試算も出ていて、実はまだまだポテンシャルがある市場だと捉えています。今後は主力の『snaq.me』のほか、晩酌の価値を上げるためのおつまみスナック『otuma.me(オツマミー)』や、植物由来の食材のみを使ったプロテインバー『CLR BAR (クリアバー)』など、複数のブランドポートフォリオを成長させるために取り組んでいく予定です。」

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