“選ばれ続ける”強いブランドになるための3ステップ。凸版印刷のブランディングも解説!

2021年4月からテレビCMを中心に企業広告『すべてを突破する。 TOPPA!!!TOPPAN』を展開している、凸版印刷株式会社。その社名からイメージされる「印刷」の事業にとどまらず、社会課題解決に向けた幅広い事業を展開していることを「すべてをTOPPA(突破)する会社」であると打ち出したリブランディングが大きな話題を呼んでいます。

本記事では、同社のブランドコンサルティング部門でさまざまな企業のブランディングを手掛け、現在は、自社のリブランディングに携わられている、広報本部 宣伝部長・佐藤圭一さんにインタビュー。“選ばれ続ける”ブランドになるためのポイントから、話題のリブランディング施策の背景についてお伺いしました。

凸版印刷株式会社 広報本部 宣伝部長 佐藤 圭一
慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了。広告会社の営業職を経て、2006年に凸版印刷株式会社入社。以来、ブランドコンサルティング部門にて数多くのコーポレートブランディングプロジェクトに携わる。2017年より本社の広報部門へ異動。広報部部長を経て、2021年4月から宣伝部長。現在、凸版印刷のリブランディング活動を推進する。日本マーケティング学会 理事、日本パブリックリレーションズ協会 教育委員。著書に『選ばれ続ける必然 誰でもできる「ブランディング」のはじめ方』(講談社)など。

“選ばれ続ける”強いブランドになるためのポイント

多くの企業がブランディングに対して抱える課題とは

2006年の入社後、凸版印刷のブランドコンサルティング部門で、ジャンルを問わず、さまざまな企業のブランディングに関する相談を受けられてきたと思います。そのご経験から、ブランディングに対してどのような課題を持つ企業が多いと感じていますか?

まず、企業にとってブランディングが必要とされるタイミングは、下記のようなきっかけがあるのではないかと思います。

特に近年では、デジタル化やグローバル化など、ビジネス環境が大きく変化していく中で、ビジネスモデルの改革や、それに伴う専門人材の採用強化、コロナ禍による多様な働き方のもと従業員の一体感の醸成・モチベーションの向上などを課題として、ブランディングを検討する企業が多いと感じますね。

なかでも、よくある課題のひとつが、「ビジネス環境にあわせて自社も変わらなければならないのに、これまでの会社のイメージが固定化してしまっている」というものです。これは、今までとビジネスモデルや事業領域が変わってきてはいるけれど、自分たちが今は何の会社なのかを定義できていないという状況ですよね。そうなると、世間が既に持っている「○○の会社」「○○業」というイメージが、その後の企業変革や新しい活動にマイナスの影響を与える可能性があるんです。最近、「私たちは○○の会社です」と明言するようなテレビCMをよく見かけると思いますが、それらの企業のように、自分たちが何の会社なのかを再定義して、社名とともに広く社会に認知してもらいたいと考えている企業が多いのではないでしょうか。

「BRAND」と「ING」に分けて考える

―確かに、最近そういった広告やテレビCMが顕著になってきたように思います。それでは、そのような課題を持った企業がブランディングに着手していく場合のコツやポイントはあるのでしょうか。

そもそも、ブランディングの定義として私が考えているのは、送り手側の「あるべき姿」と、受け手側の「イメージ」とのギャップを埋めるために、意図的にブランドをつくることです。そのために、企業や商品に「意味や価値」を付け、それを「カタチにする」。そして「伝える」活動がブランディングであると言えます。

それを踏まえてブランディングに取り組む際に意識してほしいのは、ブランディングを「BRAND」と「ING」に分けて考えることです。

「BRAND」は、“あるべき姿を規定してカタチにする”、つまり自分たちの会社や商品はどのような価値を提供し、どのようなブランドであるのかをしっかり固めて、言葉や視覚でカタチにしていく活動。そして「ING」は、“あるべき姿をあらゆる活動を通して伝え、浸透させる”、受け手側のイメージとのギャップを埋めていく活動です。

ブランディングに着手する時に、「たくさん広告を打とう」「ウェブサイトを変えよう」「会社案内をリニューアルしよう」といった考えに陥りがちですが、それは先述したところで言うと「ING」のコミュニケーションの部分なんですね。その前にまず、「BRAND」のあるべき姿の認識が揃っていなければ、アウトプットで出される広告やウェブサイト、パンフレットなどのメッセージやデザインがそれぞれ異なったテイストになってしまう可能性があります。コミュニケーション施策がバラバラでは、伝えるべきことがなかなか伝わりません。つまり、「どう伝えるか」ばかりに目を向けるのではなく、「何を伝えるべきか」をしっかりと考え、関係者と共有することが重要なのです。

“選ばれ続ける”ブランドへの3ステップ

―それらのポイントを押さえ、 選ばれ続けるブランドになるためには、どのようなポイントを意識すべきなのでしょうか。

選ばれ続ける強いブランドになるためには、いくつか段階があると考えています。

まず、「知らない」というレベル0の段階では、名前を知ってもらうための「認知獲得」活動が必要です。知られていなければ選択肢にすら入れませんよね。なので、この段階はまだブランドとは言えないんです。ただ、ここで無理に社会全体に知ってもらう必要はないと思っているので、自分たちが認知を獲得すべき層はどこなのかを見極めてみてください。

次に、「名前は知っているけれど聞いたことがある程度」というレベル1の段階です。ここでは、ブランドの特徴や提供価値を伝える「理解向上」のための施策を検討します。受け手側が求める価値をしっかり提供できることを伝え、理解してもらう。さらに、実際の活動で、期待を裏切らない確かな品質を提供できれば、「好意」や「信頼」を獲得することにもつながります。

そして、「好意・信頼」を得たレベル2の段階では、「共感醸成」が必要になります。この段階では、夢やビジョンを語ると同時に、期待を超えた満足感や感動を提供し続けることで愛着を強め、ファンになってもらうことを目指します。ここまでくれば、“選ばれ続けるブランド”になるはずです。つまり、いま自分たちのブランドがレベル0なのか、レベル1なのか、どの段階にあるのかを正確に見極め、それに応じた施策を行うことが大切になります。

その上で、核となる「あるべき姿=アイデンティティ」と、それを基にした「社員の行動」や「企業活動」が伴わなければ、強いブランドは形成されないと考えています。レベル0から上の段階に上がっていくにつれて、コミュニケーションだけではなく、実際の企業活動がブランドの「あるべき姿」と連動している必要があります。確かな品質を提供すること、期待を超えた満足感や感動を提供することが叶わなければ、いくら良いことを言っても受け手は信用してくれず、ブランドが選ばれることはありません。

そのためにも、企業活動の源泉となる社員の意識や行動が重要になります。したがって、外部に向けてだけではなく、内部(社員)にも「あるべき姿」をしっかり伝え、浸透させるインターナルコミュニケーションを強く意識することが重要になってくると考えます。

話題の凸版印刷のリブランディングに迫る

「紙に印刷をしている会社」というイメージからの脱却

―ありがとうございます。凸版印刷さんでも、リブランディングを行われたと伺いましたが、そもそも、凸版印刷さんにはどのような課題があったのでしょうか。

凸版印刷という社名から世間が抱いている企業イメージと、実際に行っている事業に乖離があったことです。凸版印刷は、1900年の創業以来進化させてきた「印刷テクノロジー」をベースに、現在では「情報コミュニケーション」「生活・産業」「エレクトロニクス」の3分野で事業を展開しています。

全体の約60%の売上を占める「情報コミュニケーション」分野では、マーケティングソリューションやセキュア事業、BPO(業務代行)事業などを。「生活・産業」分野では、パッケージや、壁材・床材などの建装材事業を展開。「エレクトロニクス」分野では、半導体関連製品やディスプレイ関連製品を提供するなど、非常に幅広い事業を手掛けています。

さらに、現在は「Digital & Sustainable Transformation」をキーコンセプトに、「DX」と「SX」でワールドワイドに社会課題を解決するリーディングカンパニーになることを中期経営計画で掲げ、DX事業やサステナブル関連事業、さらには医療・ヘルスケアなどの新事業創出を重点事業として、大きく事業ポートフォリオを変革しようとしています。

以上のことからもわかる通り、印刷会社というと「紙への印刷」を連想されがちですが、実は凸版印刷におけるペーパーメディア(紙の出版物やチラシ)の売上は全体の3割程度なんです。しかし、世間では「紙に印刷をしている会社」というイメージが非常に大きい。自分たちの実体やあるべき姿と、世間のイメージに大きなギャップがありました。今後さらに会社が変革しようとする中で、このギャップを埋めていくことが課題でした。

印刷だけじゃない「真の姿」を伝えるために

―そこから、「印刷だけではなく、さまざまな事業を手掛けている」という認知を広めるため、どのようなリブランディング活動をされたのでしょうか。

まずは、「幅広い領域で事業を展開し、世界中のあらゆる課題解決に取り組んでいる、凸版印刷の真の姿」を世の中に広く知ってもらい、“TOPPANブランド”を再構築することで、企業変革のスピードアップを牽引していきたいと考えました。広く社会にTOPPANブランドを認知させれば、世間からの期待が膨らむことで、社内の士気も高まり、企業変革がより加速するのではと思ったんですね。さらには新事業の拡大への後押しや、優秀な人材の獲得なども期待しています。

そして、世の中に「凸版印刷の真の姿」を伝えるため、私たちが選んだのがテレビCMです。近年、若者を中心にテレビ離れが危惧されていますが、広く社会に情報を伝える手段として、まだまだテレビメディアのパワーが強いことをデータ等で確認し、テレビCMをメインに展開することにしました。ただ、15秒や30秒のテレビCMで伝えられることには限界があります。そこでまずは「TOPPANは印刷だけじゃない」ということだけでも伝わればと、訴求ポイントを大きく絞り込むことにしました。

「あるべき姿」を規定してカタチにしようと、約3か月に及ぶワークショップやさまざまな議論の結果、ブランドコピーを「すべてを突破する。TOPPA!!!TOPPAN」と言語化しました。さらに、広告では“印刷だけじゃない、すべてを突破する会社”であることを、大泉洋さん・成田凌さんの軽妙な掛け合いとコミカルな演技でわかりやすく伝えながら、TOPPANのロゴとともにTOPPA!!!とオレンジ色で大きく記すことで、力強さや躍動感を持たせて社名を強く印象付けることを狙いました。

まだ活動の途中ではありつつも、さまざまな企業の方からお声がけをいただいたり、SNS上でも大きな反響があったり、社内からも非常に多くのポジティブな声が寄せられたりと、大きな話題と好意的評価を得られています。これからは、先述した「好意・信頼」、そして最終的には「愛着」の段階まで持っていけるように、さらにリブランディング活動を推進していきたいです。

「変革のエンジン」となり、強いTOPPANブランドの確立を目指す

―さいごに、凸版印刷として、そして佐藤さんとしての今後の展望についてお聞かせください。

まずは、私の所属する広報・宣伝部門が凸版印刷の「変革のエンジン」となって、コミュニケーションによって、企業変革および組織風土の改革をリードしていきたい、と考えています。そして、ステークホルダーから選ばれ、愛され続ける、強いTOPPANブランドを確立することが直近の目標です。

そのためにも、現在は、テレビCMなどを通して、広く社会に向けて「印刷だけじゃないTOPPAN」の認知拡大に取り組んでいますが、今後は理解向上フェーズへ徐々に移すべく、オウンドメディア対応や戦略PRなど、様々な施策を考えています。

また、自分自身についてもブランディングのプロフェッショナルとして、企業の魅力を引き出し、社内外にわかりやすく伝えることで、選ばれ続けるブランドづくりに引き続き貢献していきたい。そのためにも日々自己研鑽に励みながら、絶えずチャレンジをし続けることで、変化を起こしていきたいと思います。


\佐藤 圭一さん書籍発売中!/

『選ばれ続ける必然 誰でもできる「ブランディング」のはじめ方』
佐藤圭一(著) 2016年 講談社
http://www.amazon.co.jp/dp/406272944X

情報が爆発的に多くなり、人々の価値観も多様化し、さらにビジネスにおいては差別化が非常に難しくなった現代において、会社が持続的に成長・発展していくためには、多くの人から信頼され、選ばれ続ける必要があります。「選ばれ続ける」ブランドになるためには、社内をどう変え、お客様に何を伝えればいいのか? この本では、「会社のあるべき姿を規定して、カタチにする」ブランディングの方法について、豊富な事例をもとに、誰でも実践できるよう、わかりやすく解説しています。

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