プレスリリースやSNS、オウンドメディアなど、企業自身が情報を発信する機会は昨今、非常に多くなっています。一方で、発信する情報がしっかりと広まっているかというと、そうではないこともあるかもしれません。なぜメディアに掲載されるプレスリリースと、掲載されないプレスリリースがあるのでしょうか。あるいはシェアされるSNSとシェアされないSNSは何が違うのでしょうか。
そのヒントはワーディング、つまり“言葉の選び方”にあります。どのように言葉を紡ぎ出せば、より多くの生活者に商品やサービスの魅力が伝わるのか。明日から使えるテクニックや、ワーディングスキルの鍛え方などについて、『超ライティング大全』『100倍クリックされる 超Webライティング』の著者であるコラムニスト・東香名子さんにお聞きしました。
CONTENTS
そもそも“わかりやすい表現”とは何なのか
“わかりやすい”とは誰もが同じ解釈をできる表現
東香名子(コラムニスト/ウェブメディアコンサルタント) 1983年生まれ。東洋大学大学院修了。外資系企業、編集プロダクション、女性サイト編集長を経て現在フリー。おもに鉄道、旅行、ライフスタイルのコラムを執筆。編集長時代、サイトのアクセス数を650倍にした経験を生かして、文章テクニックを集めた著書『100倍クリックされる 超Webライティング』シリーズを上梓。趣味は鉄道、クイズ、語学(英語、ドイツ語、中国語など) |
―企業の広報は、自社の商品やサービスの魅力を多くの人にわかりやすく伝えたいという思いで情報を発信しています。そもそも「わかりやすい表現」とはどういう表現なのでしょうか。
私が思う「わかりやすい表現」とは、100人が聞いて100人が同じ解釈をする表現です。たとえば、商品の説明で「美肌」という言葉を用いたとします。「美肌」と聞いて何をイメージするでしょうか。人によってはつるつるの肌かもしれないし、白い肌かもしれません。つまり、解釈が人によって違っているのです。これではわかりやすい表現とは言えません。
ではどうすればいいのか。たとえば「美肌」ではなく、「白くて透き通るような肌」と言い換えてみてはどうでしょうか。このように表現すれば、ほとんどの人が同じような肌をイメージできるはずです。これが、私が思う「わかりやすい表現」です。
―より具体的に表現することが大事なのですね。
具体的であっても、言葉自体がわかりにくいと伝わりにくくなります。たとえば「しなやかでプレシャスな美肌」と表現しても、なんだかよくわからないですよね(笑)。かっこつけずに、誰もが知っている言葉で表現することが大切です。中には、かっこいい表現を使いつつわかりやすくできる人もいます。でも、それは言葉を操るのがうまい上級者です。
言葉が素材、表現が料理だとしたら、いきなり複雑な料理は作れません。まずは素材を生かしていくことを意識しましょう。LINEで友だちや家族に話すようなイメージで表現することを心がけてください。LINEで話すときって、かっこつけないですよね。
―たしかにSNSでバズることが多い企業の文章は、誰かに話しかけているようなやわらかい雰囲気であることが多いですね。
そうなんです。目の前に誰かがいることをイメージして、その人に話しかけるように書くとグッとわかりやすくなります。
文章を書くときはターゲットを自分に“憑依”させる
―『超ライティング大全』では、「相手によって表現も変えるべき」と書かれていました。
相手に合わせて表現を変えるのはとても重要です。小学生向けと80歳向けのPR文では当然、選ぶべき言葉も違ってくるでしょう。
―それぞれに合う言葉を見つけていくポイントはありますか。
これはもう、研究するしかありません。たとえば小学5年生をターゲットにしているなら、小学5年生が読む雑誌やウェブサイトを研究しましょう。そうやって徹底的に調べることで、自分自身に小学5年生を憑依させるんです。私もよく“憑依”させて、ターゲットになったつもりで文章を書いています。
―言葉は出てきても、「文章」になるとなぜか読みにくくなることもあります。
文章が読みにくい原因の多くは、一文が長すぎることです。一文が長すぎると、途中で何を言っているのかよくわからなくなってしまいます。おそれずに「。」でしっかりと文章を切りましょう。書いた後からでもいいので、文章をぶった切ってください。最初は抵抗があるかもしれませんが、意外と切った方が読みやすいものなんです。
具体的には、「なぜなら」や「そして」のような接続詞が一文に2回出てきたら危険です。その文章はわかりにくくなっている可能性が高いです。私は接続詞を極力使わないか、使ったとしても一文に1回までと決めています。
読み手の興味を引くタイトルとワーディング
タイトルには「読み手のメリット」を入れる
―ここからは、“わかりやすい”のさらに一歩先をいく「ワーディング」についてお聞きします。SNSでシェアされやすい、あるいはメディアに取り上げられやすい文章やタイトルを作るためにはどうすればいいのでしょうか。
SNSでのシェアにしても、メディアへの掲載にしても、重要なのはタイトルです。タイトルで惹きつけなければ記事もプレスリリースもクリックされませんから、仮に文章がすばらしくても読まれることはありません。
では、どうすればタイトルで惹きつけられるのか。最大のポイントは、「読み手のメリットを入れる」ことです。たとえば私の著書『100倍クリックされる 超Webライティング』の場合、「100倍クリックされる」が読み手にとってのメリットになります。この本を読むことでどんなメリットがあるのかを端的に伝えています。
他にも例を挙げましょう。よくあるタイトルに「夏に飲みたいジュース」のような表現があります。これではメリットがよくわかりません。ではどうするか。たとえば、「飲むと夏の暑さが吹き飛ぶジュース」にしてみるのはどうでしょうか。このジュースを飲むことで「夏の暑さが吹き飛ぶ」というメリットがあると伝えているわけです。
文章のアクセントになる「数字」の魔力
―タイトルを作ったら、しっかりと「メリット」が入っているかをチェックするとよさそうですね。
もうひとつのポイントは「数字」です。再び、先ほどの『100倍クリックされる 超Webライティング』を例に挙げましょう。仮に『100倍クリックされる』が『たくさんクリックされる』だったらどうでしょうか。少し印象が弱くなりますよね。逆に言えば、数字があることでより具体的にすごさが伝わるのです。
ですから、プレスリリースや記事のタイトルをつくるときは、とにかく数字にできる要素を探しましょう。どうしても見つからなかったら、極端な話ですが「魂の5000字インタビュー!」みたいに入れてしまうのもひとつの手です。
数字のメリットはほかにもあります。それは、日本語の中に数字が入ると目立つことです。ウェブのニュースをタイトルだけサーッと見ていってみてください。日本語だけのタイトルだとスルーしがちですが、数字があると何となく「ハッ」と目が止まりませんか? これは、数字が文章の中のアクセントとして機能するからです。
さらに付け加えると、数字はより細かく記載したほうがよいでしょう。たとえば、プレスリリースでよく「500人に聞きました」のような調査レポートがあります。このとき、500人ではなく「511人」のように端数を入れるのです。というのも、500のように切りのいい数字だとシンプルすぎて目が滑ってしまいがちなんです。511人のような半端な数字にすることで、より具体的なのではという印象を与えられます。同様に「%」で表すときも、小数点以下まで入れるとよいでしょう。50%よりも、50.3%の方がいい意味での引っかかりが生まれます。ほかの記事やプレスリリースの数字ともかぶりにくい効果もあります。
また、これは私の勝手な持論なのですが、切りのいい数字って頭の中で読んだときに文字数が少ないんです。たとえば1万だと「いちまん」ですよね。これが「10491」だと、「いちまんよんひゃくきゅうじゅういち」と非常に長くなります。情報が詰まっている感があり、頭の中で読んでもらったときに少しだけ長く意識を留められる効果があるんじゃないかと思っています。
メディアが思わず取り上げたくなる要素とは?
―タイトルにはあえて切りのよくない数字を入れるというテクニックは、今すぐ使えそうですね。数字以外では何かテクニックはありますか?
“唯一無二”であることを示す言葉を使うと有効です。たとえば、「業界初」とか「世界初」とか「シェア1位」のような言葉が入っていると目立ちますね。
それから、「意外」という言葉も効きます。人は意外性に惹かれるものだからです。また、メディアに刺さるのは「今」というキーワードです。「今、◯◯」といわれると、旬なネタだということが伝わります。メディアの人間はニュース性の高い旬なネタに弱いのです。逆に「後でもいいかな」と思われるともうダメ。この情報には賞味期限がありますよ、と伝えなければなりません。「今」って一文字入れるだけなので、すごくコスパがいいですよ(笑)。
最後に「強調」するワードも有効です。「絶対」「本当に」「すぐに」のような強調ワードをスパイスとして少し入れてあげると、インパクトが出ます。
“基本の徹底”と“模倣”でライティングセンスは磨かれる
タイトルは何文字がベストなのか?
―細かい点ですが、タイトルの長さについてはどう考えればいいでしょうか。
昔からウェブのタイトルは30文字前後がベストだといわれています。おそらく、多くのニュースサイトが30文字前後を意識しているはずです。それよりも長いと情報量が多くなりすぎるのです。逆に短い分には構わないのですが、20文字よりも短くなってくると、ちょっと情報量が少なくてもったいないかなと思いますね。やはり30文字前後が、ぎりぎり読まれる中で最大限に情報を詰め込める長さだと思います。
もうひとつ重要なのは、オウンドメディアなどの場合、記事タイトルが並んだときに何文字まで表示されるのかという点です。タイトルが長すぎると、記事リストに収まりきらずに「…」などで省略されてしまいますよね。これはもったいないです。
長すぎるタイトルをなるべく構成を変えず短くしたい場合は、類語辞典を調べるのがおすすめです。いろいろな語句の言い換え表現が載っているので、同じ意味で短い表現を探しましょう。表現を変えるだけでタイトルは短くなり、余った文字数に別の情報に入れられます。
ライティング&ワーディングスキルを高めるトレーニング法
―ライティングやワーディングを苦手としている方も多いと思います。どのようにスキルを高めていけばいいでしょうか。
普段、ニュースなどを見ていて、「このタイトルいいな」と思ったらメモしておくのがおすすめです。なぜなら、自分がピンときたものは、ほかの人にもおそらく刺さる表現だからです。そして、そのタイトルに自社の商品やサービスを当てはめてみるのです。そうやってフォーマットを作っていくことで、自分の表現が磨かれていきます。大喜利だと思えば楽しめますよ。ニュースのタイトル以外にも、広告や電車の中吊りなんかもいいですね。プロが磨き上げた表現からは学べるものがたくさんあります。
こんなふうに言うと、「それってパクるってことでは」と心配する人がいますが、そうではありません。一言一句コピペするのではなく、自社の商品やサービスをからめながら表現すると、必ず自分自身の色がつくものなんです。オリジナリティは模倣から生まれるものだと信じています。いい表現はどんどん吸収していきましょう。
―最後に読者へメッセージをお願いします。
わかりやすい文章を書くことや、多くの人に見てもらえる文章を書くことに対して、「自分には難しい」と感じる人もいるかもしれません。でも、そんなことはありません。今回お話した基本的なやり方を忠実に実践するだけです。一流メディアが相手でも、SNSが相手でも、仕組みは同じですから。
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2001年からマルコ名義で趣味のテキストサイトを運営しているうちにいつのまにか書くことが仕事になっていた“テキサイライター”。好きなものはワインとカメラとBL。