新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、芸能人のYouTube進出が相次いだり、大手動画配信サービスの「NETFLIX」が過去最高益を出したりと、テレビを取り巻くメディア環境は日に日に変化しています。情報流通構造が入り乱れる令和の時代では、それぞれのメディアはどのように発展し、またどのように融合・共存していくことになるのでしょうか?
今回は、新連載企画『ニューノーマル時代のテレビ』の第3弾として、TVクリエイターギルド 株式会社VVQ (バーベキュー)でFounder & CEO、株式会社Wednesday でCOOを務める放送作家の谷田彰吾さんに、「テレビとネットの共存未来」について話を伺いました。
新型コロナウイルスとメディア環境の変化
放送作家が感じるテレビ業界の脅威
谷田彰吾さん クロスボーダークリエイター・放送作家 / TVクリエイターギルド 株式会社VVQファウンダー / CEO ドキュメンタリー番組『プロ野球戦⼒外通告』『バース・デイ』、有吉弘⾏、乃⽊坂46、池上彰などのバラエティ番組を構成。放送作家だけでなく広告プランナーとしても活動。YouTube では『上原浩治の雑談魂』『Mr.都市伝説 関暁夫の情熱が止まらない』などを担当。業界の垣根を超えたクロスボーダークリエイティブがモットー。Twitter:@VVQ_SHOWGO |
インタビュアー:株式会社マテリアル メディアグループマネージャー 波賀 創太 25歳までプロキックボクサーとして活動(最高位:日本ランキング4位)。引退後は、イベント演出家の下でイベント制作及び演出を学び、ファッションに特化したマーケティング会社を経て、株式会社マテリアルに入社。大好きなメディアへの提案に頑なこだわりを持ち、メディア視点を活かして多岐に渡るプロジェクトを担当。ほぼ毎週のようにメディアの方々とお酒を酌み交わしていたため、早く通常に戻ることを切に願っている。 |
波賀:普段から放送作家の方々とお話しする中で、人によって仕事内容が結構異なる印象があります。谷田さんの放送作家としての普段の仕事内容を教えてください。
谷田:僕の主な仕事内容は5つあって、①番組の企画作りを行ったり、②ディレクターが企画や番組内容を詰める際の相談役になったりして、③それを台本に落とし込み、④ディレクターが撮ってきた映像を一緒に見て仕上げをブラッシュアップする。また、⑤ナレーションのある番組ではナレーションも書きます。放送作家によって仕事内容は様々ですが、僕は比較的番組作りの最初から最後まで携わっています。
放送作家って、テレビの中でもいちばん「不思議な職業」と言われているようなポジションで、立ち位置がかなりふわっとしています。ただ、制作現場では最初のアイデア出しで困っている人が特に多いので、いつでもそこでお役に立てるように、常に企画力は磨くよう心がけています。
波賀:新型コロナの感染拡大に伴う外出自粛によって、テレビとウェブ動画コンテンツの視聴数や視聴スタイルはどのように変化したと思いますか?
谷田:テレビもYouTubeも、ボーナスタイムのように視聴率や再生回数が増えました。NETFLIXなんかは、1月から3月の間、世界中で会員数が激増して過去最高益を出しました。一方、テレビとYouTubeに関しては、同じく視聴者数や再生回数は上がったけど、広告費は下がっているので、決して稼げてはいないんですよね。それに、外出自粛期間が終わった瞬間に、また視聴数がダウンした感覚もあります。
波賀:外出自粛で映像コンテンツとの接触回数が増えたことによって、その時に接触したコンテンツの良し悪しが、人々の今後の”映像コンテンツの選択”に響いてくるのではないかと思いました。
谷田:まさしくです。この外出自粛期間で、人々が大量にコンテンツに触れたと思うので、制作側としては、いかにして“その後も好まれ続けることが出来るか”が非常に大切です。今回NETFLIXのような有料動画配信サービスに初めて登録して、そのクオリティの高さにびっくりした方って多いと思うんです。そんな人々が、その後に予算規模が全く異なるテレビドラマを観た時に、どう思うかですよね。だからNETFLIXの会員は、テレビにとってかなりの脅威だと思います。
芸能人のYouTube進出が増えるとテレビはどうなる?
波賀:新型コロナの影響もあって、最近芸能人のYouTube進出がとても増えているように感じます。芸能人がYouTubeで収益を得る状態が続くことによって、テレビはどうなっていくと思いますか?
谷田:いろんな変化が起こると思いますが、テレビはこの先キャスティングでは勝てなくなると思います。
僕が外出自粛の時期に一番驚いたのが、YouTubeの『NO GOOD TV』。元ジャニーズの錦戸亮さんと赤西仁さんが立ち上げたチャンネルです。特別ゲストとして登場したのが、小栗旬さんと山田孝之さんだったんですよ。完全に個人的な交友関係で成立したキャスティングです。冷静に考えてみてください。まず、ジャニーズを退所してテレビでめっきり見なくなった二人が話している時点で超レアコンテンツですし、そこにカリスマ的な俳優が二人も加わって、スター増し増し状態。しかも撮影場所はスタジオではなくそれぞれの自宅で、自然な友達同士のトークっていう感じで…。こんな“よだれコンテンツ”があっていいのかよ!って思ってしまいました(笑)。
コンテンツの質はさておき、同じキャスティングの番組がテレビでできるか?っていうと、僕はできないと思うんですよね。理由は明快です。YouTubeは自分のメディアですから編集権限が自分にあります。しかし、テレビは局に権限がある。基本的にはオンエアされるまでどこをどう使われるのか、芸能人は知りません。そして、YouTubeなら著作権も収益も、自分で確保することができる。でも、テレビでは著作権は局にあるし、収益は出演料しかありません。となると、芸能人にとって「テレビに出るメリットってなんだろう?」という疑問が浮かぶ。そんな動きが、このコロナで加速してしまった部分だと思います。
来たる「芸能人1人1チャンネル時代」
谷田:加えて、近い将来に「芸能人1人1チャンネル時代」が間違いなく到来すると思います。そうなると、チャンネル登録者数5万人の芸能人ならテレビに出たいって思うかもしれませんが、登録者数が100万人いる人にとっては、テレビに出る意味が薄れてくる。
もうひとつ大きいのが、YouTubeとテレビの性質上の違いです。YouTubeは自分の動画がアーカイブされ、資産としても残る。一方でテレビは、基本的に流れるのは一度きり。インスタグラムで言う「ストーリーズ」に近いというか、その時見ないと消えちゃうという。そうなると、自分のプライベートや交友関係、とっておきのエピソードを出すのはどっちのメディアがいいですか? 優先順位として、良いネタは自分のメディアに出しますよね。わざわざテレビに出なくても、自分のYouTubeチャンネルで自由に発信出来てしまうので、メディアとしての立ち位置が曖昧で難しくなっていくと思うんです。
波賀:タレントのYouTubeチャンネルが増えて成り立ってくると、逆にそれらの映像やネタがテレビで使われたりするような流れが増えるのでしょうか?
谷田:そうですね、芸能人のYouTubeチャンネルを見たテレビの人たちが、「これをテレビでやってくれませんか?」と依頼する流れは既に始まっています。
例えば、芸人のヒロシさんがキャンプをしている『ヒロシちゃんねる』っていうYouTubeチャンネルが人気です。それを見て、テレビ側の人たちは「ヒロシでキャンプの番組作ろう」って考えるわけですよ。テレビはもともと“人からネタを借りて”番組を作る傾向が強い。ワイドショーを見ていても、テレビがスクープを持ってくることはなくて、文春を受けてから取材する。YouTubeやSNSに上がっている一般人のコンテンツを取り上げたり。衝撃映像系の番組がその典型例ですよね。なので、YouTubeから番組を作る流れは今後ももっと増えていくと思います。
スマホ同時配信開始でテレビに革命は起こるか
波賀:だからテレビが”最後に情報を出すメディア”と言われるのですね。今後も人気芸能人や人気YouTuberに出演してもらうために、テレビは何に力を入れたら良いのでしょうか。
谷田:このように、キャスティングの部分ではテレビ側がかなり厳しくなっているので、これからはよりコンテンツの面白さで勝負する必要があります。これからはタレント側が自ら出演する番組を選択し、決定権を持つ傾向が強まるはずです。だからテレビ側としてはこれまで以上に、企画力を高めていかなければなりません。
波賀:芸能人が個人でやっているSNSやYouTubeの、身近に感じられる雰囲気をテレビでも作ることは難しいですよね。
谷田:だから同じものを作ってはいけないんです。自分に語り掛けてくれるようなリアリティや、スマホの画面上だからこその手作り感は絶対に再現できない。別物です。やっぱりテレビでは企画力が重要になってきます。
ただ、今後テレビに大きな転機が訪れる可能性もあります。それは、テレビ番組のスマホ同時配信開始です。既にNHKがやり始めていますが、今年の秋から民放も実験的に乗り出すっていう話があって、それが定着すると、テレビ番組の在り方もまた大きく変わってくると思います。今のテレビの絶望的なデメリットって、「テレビを観るときはテレビの前にいなきゃいけない」ことじゃないですか。「テレビはおもしろくなくなった」とかよく言われるけど、その前にスマホの圧倒的便利さに負けているところが大きい。そこにテレビも入り込んでいくことができれば、いよいよ「コンテンツ戦国時代」に突入すると思います。
テレビとYouTubeはもっと融合できる?
YouTubeチャンネルを持つテレビ番組
波賀:徐々にテレビ番組の公式YouTubeチャンネルも増えているように感じますが、テレビとYouTubeの融合は今後どのように発展すると思いますか?
谷田:もっと発展すると思うし、自分自身も積極的にチャレンジしたい部分です。今、テレビ局が運営している『有吉の壁』や『ナスDの大冒険』など、YouTubeでも成功している面白い番組や、いいコラボレーションができている番組が増えていると思います。ただ、テレビマンがYouTubeを使いこなせているかというと、そこは微妙な気がします。まだ、“ロケで撮った素材の完全版を、オンエア後にYouTubeで流す”など、テレビ番組制作の延長線上のような作り方がメインになっているので。もっともっと融合させられる方法はないだろうかと、日々模索しているところです。
YouTube動画はよりロジカルに作られている
波賀:ウェブ動画コンテンツを楽しんでいる視聴者は、テレビの視聴者とはまた異なる性質を持っていると思うのですが、その違いについて制作の段階ではどのように意識されていますか?
谷田:マスメディアとそうでないもの、つまりターゲティングされているコンテンツとでは、制作側も視聴者側もスタンスが全く異なると思います。
「これ知ってるよね」っていう大前提で進められないのがテレビなので、その結果として、前置きや前振りがどうしても長くなってしまいます。反対にウェブやYouTubeってなると、もともとそれを観たい人が来ているので、最速で本題に辿り着けるような作り方をしています。また、テレビは最初にイントロダクションはあるものの、その後何が見られるかはわからない。YouTubeのように飛ばすことができないので、そこの作り方の違いは大きいですね。
波賀:そういう意味では、テレビのほうが離脱するのが遅くなりそうですね。
谷田:たしかに、YouTubeのほうが観る・観ないの判断が早くなるかもしれません。とにかく離脱率を下げるように工夫した結果、あの“余計なものを一切はぶいた編集”に行き着いたんですよね。「不要なものは何だ」っていうのを徹底的に切り捨てているので、YouTube動画って、テレビよりもある意味ロジカルに作られていると思います。
企業はどうYouTubeを活用できるのか
波賀:それでは、企業がプロモーションとしてYouTubeを活用する際のアドバイスはありますか?こういう商材はYouTube向きとか、今までタイアップコンテンツを作ったご経験があれば教えていただきたいです。
谷田:YouTubeでもタイアップ企画はたくさんありますが、ナチュラルにやらないと全く再生数が取れません。ストレートに商品紹介をやってしまうと視聴者に嫌われるので、YouTuberの間では、”案件動画でいかに遊べるか?”っていう大喜利になっています。
結局プロモーションも見てもらわないと意味がないので、その商品の面白さや素晴らしさに辿り着くまでのフックの部分が大事。YouTuberたちはそこを遊んでいるわけです。だから、企業さんには、これはダメあれはダメと規制を厳しくするのではなく、その遊びを楽しんでほしい。少しわがままですけど、そのYouTuberの文化や企画力にも頼ってほしいと言いますか。YouTubeに限らずプロモーション手段の選択肢がとても増えているので、効果や結果ばかりにこだわりすぎず、自分がプロモーションを楽しむつもりで取り組んで欲しいです。
波賀:たしかに情報の出し先はかなり増えています。媒体の垣根を超えたメディアプランニングの重要性を日々感じてるところです。
メディアの共存、制作者と視聴者の共創
「国民総クリエイター時代」の制作者と視聴者の関係
波賀:谷田さんの言葉でいう「国民総クリエイター時代」では、制作側と視聴者の関係はどう変化すると思いますか?
谷田:どんどん融合すると思うし、プロかどうかっていう線引きもどんどん曖昧になると思います。例えば韓国では、アイドルのオーディション番組で、一般のファンが自分の推しメンの広告ポスターを作って駅に出稿するようなことがありました。結果、注目されたのであれば、それはもう立派なクリエイティブ。YouTubeだってそうですよね。プロとアマの線引きが難しいからこそ、プロがもっと違いを見せつけないといけないし、もっとテレビ制作側の人もSNSの声を意識する必要があると思います。
波賀:いまテレビ番組を制作するにあたって、SNSの声はどれぐらい意識されているのですか?
谷田:番組によりますね。会議で、「Twitterでこんなふうに言われてました」って資料で出てくる番組はまだ少ないと思います。個人の意識差やリテラシーによる部分があるので、ちゃんとSNSの声を吸い上げている人もいるし、反対にそうじゃない人もいるのが現状です。
僕は芸能人のYouTubeの仕事をたくさんやってきましたが、動画を一本出しただけで、毎回ものすごい量のコメントが付きます。中にはアンチコメントもあって正直腹は立つんですけど、この経験は自分にとっての強みだなと。漠然とテレビを作っていても視聴者からの声は届かない。YouTubeは視聴者がかなり強い媒体なので、容赦なく厳しいコメントが来ます。「番組を作って納品して、放送したら終わり」っていう時代はもう終わりで、今は視聴者からフィードバックをもらって、すぐ次のアウトプットに反映させる時代なんです。
波賀:制作して、公開して、視聴者のリアクションを見てサイクルを回す。反響をダイレクトに得られる時代になったからこそ、作り手側ももっと視聴者の声を吸収する必要があるんですね。
谷田:そのサイクルを回す速度がめちゃくちゃ早くなった気がします。ずっと人気の番組は、ちゃんと視聴者の声を吸収してるから、高視聴率を取り続けているのだと思いますよ。もっともっと同じように吸収できる人が増えれば、テレビ業界の大きな底上げになるはずです。
媒体という名の国境を超えるクロスボーダークリエイター
波賀:なぜ谷田さんはテレビとYouTubeの両軸で仕事をしているのですか?
谷田:この先楽しみなジャンルだったっていうのと、業界間の「国境」を超えていきたかったからです。
僕は大学を出てすぐに放送作家になりましたが、若い頃からテレビ以外の仕事をする機会が多くて、20代後半の時なんかはパチンコ台の液晶画面で流れる映像のストーリーを書く仕事をしていました。10年ほど前のテレビ業界には、「テレビ以外の仕事をやっているやつは、テレビで通用しなかったやつ」っていう共通認識があったんですけど、実際のギャランティーで言うと、パチンコの仕事のほうが圧倒的に高くて。そんな経験があったので、「テレビが全てである必要はない」っていう価値観を持つようになりました。
そうこうしているうちに、4~5年前からYouTubeがだんだん商業化してきた。そこで、YouTubeチャンネルのコンサルティングや運営を行う「Wednesday」っていう会社を立ち上げたんです。そして去年の秋に芸能人のYouTubeチャンネルに舵を切りました。きっかけは、『中田敦彦のYouTube大学』を微力ながらお手伝いさせてもらったこと。その成長の速さを見て、これは来るぞと。
波賀:どのメディア媒体の人も、少なからず「自分の媒体が上」っていうプライドを持っているのかもしれませんが、それを取っ払ってフラットに考えられることで初めて、様々なメディアが融合できるのだと谷田さんのお話を聞いていて思いました。
谷田:今って誰が何を考えてもいい時代なので、業界の線引きなんてどうでもいいなって思っていて。だから僕、肩書を「クロスボーダークリエイター」と名乗ってるんですよ。今はまだくっきり分かれてる”媒体という名の国境”を飛び越えて活動していこうっていう意味を込めました。
どっちのメディアが面白いとか、どっちのメディアがいいことやってるとかは、もはや重要ではないんです。むしろ、この時代に変なこだわりを見せることのほうがナンセンスだと思います。でも実際に周りを見渡すと、テレビの制作しかやったことのない人がほとんど。マスメディアの制作をやってきた人たちの技術ってダテじゃないのに、それを他で活かさないのは非常にもったいない。だから、テレビの人気番組を作っている優秀な演出家や放送作家を20人ぐらい集めて、テレビ番組以外の仕事をする「VVQ」という会社も立ち上げました。
波賀:「VVQ」にはどのような経歴の方が所属していらっしゃるのですか?
谷田:『水曜日のダウンタウン』『世界の果てまでイッテQ』『笑ってはいけないシリーズ』『しくじり先生』『モニタリング』『逃走中』といった人気バラエティを手がける人もいれば、『全裸監督』や『ごくせん』を作ったドラマチームもいます。さらには、『中田敦彦のYouTube大学』『カジサック』『しもふりチューブ』などの人気YouTubeチャンネルを作っている人も。それだけじゃありません。ナショナルクライアントの広告を作ってきたプロデューサーもいれば、元テレビ局員もいる。コピーライターや写真家までいます。
みなその道では名の知れたクリエイターです。まさにクロスボーダーなメンバーで、新しいクリエイティブを追い求めていきたい。具体的な仕事は、広告の企画制作や企業のブランディング、YouTubeチャンネルのコンサルティング、各種コンテンツの企画プロデュースといった感じです。
5Gが本格化すれば、動画の可能性は爆発的に広がります。あらゆるものが動画によって表現されるようになる。ネット環境がさらに良くなれば、長尺の動画が増えます。そうなった時、30分や1時間の番組を毎週作ってきたテレビマンの「長尺を飽きさせずに見せるスキル」が重宝される。テレビマンはストーリーを作るのが上手ですから、さまざまな仕事に対応できます。よく「テレビは終わった」と言われますが、僕は「テレビマンの未来は明るい」と確信しています。クライアントさんにはぜひ、自分の好きな番組のクリエイターとものづくりをして欲しい。これからは、このVVQの活動に力を入れていきたいと思っています。
テレビ最大の価値は“国民的”を生み出せること
波賀:さいごに、メディア環境が激変する中で、今後テレビでやるべきことや切り捨てるべきことなど、テレビ業界の未来についてのお考えを教えてください。
谷田:「予算をどう使っていくか」っていうのは考えどころですね。再放送の番組でも高い視聴率を取ることがわかったので、一概に毎週新作コンテンツを出すべきであるとは言えません。これまで守られてきたルールの数々も、一度立ち止まって見直さなければならない気がします。その上で、テレビの良さや、テレビでしか出来ないことをもう一度洗い出して、そこを伸ばせるようなコンテンツにお金と時間を注ぐべきなのではないでしょうか。
YouTubeなどのウェブ動画コンテンツには出来なくて、テレビにしか出来ないのは、「国民的なものを生み出すこと」です。YouTubeでどれだけバズっても、視聴者層に偏りがあるので、国民的と呼べるものは作れない。一方でテレビは、子供からお年寄りまでの全国民が、同時に同じものを視聴することが出来ます。例えば『M-1グランプリ』とかは、テレビでしかできない最強のコンテンツです。テレビは、国民的イベントや歴史的瞬間に向き合える、唯一のメディアなんですよ。昔で言う“『電波少年』の有吉のゴールを全員で迎える”みたいに、いかにして国民的イベントを創っていけるかがテレビの使命だと思います。
波賀:谷田さんのお話を聞いて、これからどのメディアが伸びて、どのメディアがなくなるとかではなく、それぞれが強みを生かして共存していく未来が見えました。それに、そうなっていってほしいなと思います。
取材を終えて
波賀:谷田さんはテレビ、新聞、雑誌、ネットなどの媒体を全てフラットに捉えていて、業界ごとの話ではなく、大きな「エンタメ」というくくりで仕事や企画について考えていらっしゃるところが印象的でした。これからは、どのメディアが勢いがあって、どのメディアが上で…と業界内で争うのではなく、メディア間で連携が生まれるような工夫や、メディア全体の情報流通構造を意識した企画作りが求められるのだと思います。
媒体の垣根が溶けていくのと同じように、情報を得る場所が増えて情報過多となっている現代では、どの業界においても今まで以上に「コンテンツ力」や「企画力」が求められているように感じます。これは映像に限った話ではなく、企業のプロモーション活動や、キャンペーン施策などにも大きく関係する話です。そのため、PR業界としても谷田さんのような放送作家とのコラボレーションを期待したいですし、そういった企画力に強みを持った方々の活躍の場面は、これからどんどん広がっていくのだろうと感じました。
また、一部でバズることはあっても、まだネットだけでは国民的なブームまでを作ることは難しいというのは、肝に銘じなければならない部分です。PRや広告の業界にいると、周囲では話題になっていることも、実は業界の外では全く知られていなかったりすることが、まだまだ多いように感じます。そのため、真の”国民的ブーム”を巻き起こすには、全メディアを俯瞰し、情報流通構造を強く意識して企画を作る必要がありますし、自分自身もそのようなメディアプランニングに挑戦していきたいと思いました。そして余談ですが、いつか放送作家の方々の企画会議を見学してみたいです。
1995年生まれ大阪育ち。2018年同志社大学卒業後、株式会社マテリアルに新卒入社。1年目でウェブメディア『PR GENIC』を立ち上げ、記事の執筆と編集全般や、セミナーの企画など、コンテンツ作りを幅広く担当。半年間ハウスメーカーのマーケティング部への出向も経験。現在はオープンイノベーション支援に従事しつつ、外部アドバイザーとして編集のサポートを行っている。