思わずクリックしたくなるキャッチーなタイトルで、日々多くの記事を配信している「BuzzFeed Japan」。そんなBuzzFeedに取り上げられる情報には、どのような特徴があるのでしょうか。今回は2020年11月より、BuzzFeed Japan編集長を務める小林明子さんに、媒体の編集方針から、“惹かれる情報”の特徴などについてインタビュー。BuzzFeedの企画が生まれる背景に迫ります。
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読者の“ほしい明日”がみつかるBuzzFeedの編集方針
コロナを経てより力を入れた「生活情報」のコンテンツ
BuzzFeed Japan編集長 小林 明子 毎日新聞社に記者として新卒入社。退職後、フリーライターを経て、週刊誌AERAで子育てや働き方について取材。2016年9月より、BuzzFeed Japan株式会社に入社し、BuzzFeed Japan Newsのニュースエディター/編集長を経て、現職。 |
-はじめに、BuzzFeed Japan株式会社で運営されているメディアについて教えてください。
今年の5月にハフポストと合併して、BuzzFeed Japan株式会社としては5つのメディアを運営しています。現在、私が編集長を務めているのはBuzzFeed Japan、通称・赤バズと呼んでいるものなのですが、その他に、BuzzFeed News/BuzzFeed Kawaii/Tasty Japan/ハフポストがあります。
-それぞれの運営方針はどういったものなのでしょうか。
BuzzFeed Japanは、生活情報全般を扱っているメディアです。対して、BuzzFeed Newsは、その名の通りニュース情報をメインに扱っており、最近だとコロナや医療関連の情報も積極的に発信しています。BuzzFeed Kawaiiは、若い女性を中心としたコスメや生活雑貨に関する情報を中心に発信していますが、記事ではなくTwitterを主戦場として運営しているメディアになります。そして、Tasty Japanは、思わず作りたくなる料理動画の発信を行っています。
-その中で小林さんが編集長を務めていらっしゃる、BuzzFeed Japanの編集方針について教えてください。
BuzzFeed Japanのローンチ当初は、規模も小さく、アメリカのBuzzFeedに合わせた編集方針で活動をしていました。そのため、ポップでエンタメ色の強いコンテンツが多かったですね。そこから徐々に規模も大きくなって日本のオリジナリティを出せるようになり、最近は「生活情報」のコンテンツ作りに力を入れています。
コロナ禍で、家でスマホを見る時間が増えた方が多いと思うのですが、皆さまもご存じの通り、スマホの中には溢れるほどの情報が詰まっています。その中から、自分が求めている情報、つまり“ほしい明日”を探すことはかなり難しくなっていますよね。そこで、我々ならばその情報を見つけ出すお手伝いができるのではないか、さらに、買い物やレジャーを疑似体験して楽しんでもらえるのではないかと考え、コロナ前よりも一層、コンテンツを増やしました。
生活者目線で「本当にオススメしたいもの」を紹介する
-「生活情報」の中でも、特に力を入れているジャンルはありますか。
ファッションや100円均一、コンビニの商品レビュー記事に力を入れています。商品やサービスを選ぶ基準は、多くの人が日常的に目にするような商品の中から、ライターが「自分が本当に良いと思ったもの、使ってよかったと感じたもの」であることです。そして、それをライター自身の言葉で、友達に話す感覚を意識して紹介する。これが、BuzzFeed Japanの編集方針であり、強みですね。
実は、商品を体験することは基本的に“必須”にしています。たとえば、洋服ひとつをとっても、着てみてただ「カッコよかったね」ということではなく、「3回洗濯したらどうなるのか?」という些細な疑問を実際に試してみるようなものが多いんです。他にも、“氷が解けない”ことが謳い文句のタンブラーに、「6時間氷を入れて放置したら溶けるのか?」という実験をしていたライターもいました。このように、生活者側の視点に寄り添って、気になる部分を紐解くようなアプローチを、レビュー記事というフォーマットを使って行っています。
-BuzzFeedさんは、思わずクリックしてしまうような記事が多く見受けられますが、企画会議はどれくらいの頻度で行われているのでしょうか?
基本的には、ウィークリーで実施しています。BuzzFeedの特徴として、“企画を立てる”よりも、とりあえず試してみて“振り返りをする”ことを重視しているため、企画会議ではなく「振り返りミーティング」と呼んでいます。なので、各ライターが気になることをとにかくやってみて、その結果を検証し、どのように次の記事に落とし込むかを考えるという流れがベースです。
すべての記事は、エディターがチェックしてから公開するというフローを取っています。もちろん、エディターだけでは判断が難しい記事などもあるため、その際は私まで相談がくることもありますね。このフローを踏むことで、編集方針とずれることなく、BuzzFeedを運営できていると思います。
タイトルにあえてキーワードを入れず、読者の間口を広げる
-コロナ禍でいくつか特集も組まれていましたよね。
そうですね。生活情報に力を入れていることを皆さんにお伝えするために、『ひとり暮らしの神』や『全国のおいしい!』などの特集を組みました。たとえば、『全国のおいしい!』は、緊急事態宣言中で旅行に行けない中、「自宅にいながらでもできることは何か?」を考えて、オンラインでも買える全国のおいしいものを紹介しましたね。
ある記事で、北海道で有名なしゃぶしゃぶのタレの紹介をしたのですが、地域が限定された情報にも関わらず、SNSでかなり拡散され、話題になったんです。その時上がっていたのは、「知ってる!」「懐かしい!」というものから、「これみんな知らなかったの?!」という驚きの声、さらに「ぜひ食べて欲しい」という推奨の声などでした。コロナ以前はよく見受けられた、地域の物産展が減少したことで、こういった情報が貴重なものとなっていたんですね。
-近年、関心が高まっているSDGsなどのサステナブル特集も拝見しました。
SDGsに関する記事については、あえてタイトルに「SDGs」というワードを使わないように意識しています。仮に、タイトル内に「SDGs」を入れてしまうと、その話題に興味のある人にしか読んでもらえない記事になってしまうんですね。なので、まずはとっつきやすいように間口を広げ、興味のない人にも関心を持ってもらうきっかけを作るような、コンテンツ作りを心掛けています。
たとえば、以前、「リサイクルポリエステルでできた白Tシャツ」の記事を執筆したのですが、「環境に配慮した…」という文脈ではなく、まず「究極の白Tシャツを見つけた!」と、いかにそのシャツが優れているかを説明したんです。その後で、「実はこれ、ペットボトルからできているんです!」という流れを作ったことで、記事としてはSDGsの内容だけれど、入口は白Tシャツが好きな人/買いたい人に向けている記事としてみせることができました。
BuzzFeed編集部のリアルな情報収集方法
“バズる予感がする情報”の特徴とは?
-記事のもととなる情報は、どこで入手されているのでしょうか。
基本的には、ライターが実際に店舗に足を運んで、自分の目で見て商品をピックアップしています。大切にしているのは、「自分が店舗で見た時に買いたいか」という部分なので、積極的に店舗を回ってもらっていますね。私自身も、コンビニや店舗は通りかかるたびにチェックするようにしています。
また、基本的にBuzzFeedのメンバーは、空気を吸うようにTwitterを中心にSNSをチェックしているので、そこから情報を得ることもかなり多いと思います。その中で、バズりそうなものを拾って記事にするということもありますね。
-“バズる予感がする情報”に、何か特徴はあるのでしょうか?
ライターによって、関心のあるジャンルや得意なカテゴリーは違うので、SNSではそれぞれの興味のある分野の議論を継続的に追うことができています。加えて、自分に必要な情報をより漏れなく届きやすくするために、その道の専門家のような人を積極的にフォローしています。この「専門家の方がツイートしている情報」などは、バズる予兆のひとつとして挙げられるのではないかと感じますね。
また、バズるとは少し異なりますが、「この言い回しがあると炎上するかもしれないな」という感覚もあります。このような、SNS上で話題になりそうな情報は、社内のチャットツールなどでリアルタイムで共有し、様々なジャンルの話題に対応できるよう意識しています。
-小林さんが個人的に情報収集のためにチェックされているツールなどはありますか?
朝の情報番組や新聞は基本的にチェックしています。そこに加えて、先述したSNSでの情報収集を行う形が基本ですね。Twitterではトレンド欄をみて、リアルタイムで話題になっているものを確認し、Instagramでは、インスタグラマーがまとめている情報をチェックしています。たとえば、「100均グッズ」などで検索し、インスタグラマーの投稿を見ると、かなりきれいにまとまっているので、情報収集としてはかなり活用しています。むしろ、ライバルはインスタグラマーの方々かもしれません。(笑)
目に留まり、活用されるプレスリリースの共通点
-それらの情報収集に加えて、毎日大量のプレスリリースが編集部に届くと思いますが、リリースの情報はどれくらい見られているのでしょうか。
全てのリリースに目を通すことはできないので、やはりタイトルに気になる要素が入っているかは、とても重要ですね。日々、多くのメールを拝見する中で、もったいないなと思うのは、表示される文字数が決まっているにも関わらず、「ニュースリリース」「報道資料」などの定型文が件名の頭に入っているものです。既定のアドレスに送られてきている時点で、プレスリリースだということはわかるので、そこで文字数を使っているものをみると、少し残念に思います。ここに関しては、皆さんが記事を読む/読まないの判断をされる時と同じなので、ぜひ意識してみてほしいです。
また、冒頭に、いかにキャッチーなワードを持ってこられるかも肝だと思います。「ニュースリリース」という頭出しだけ見えて、肝心な情報の中身/要素について全文表示されていないようなものもよく見かけます。基本的なことではありますが、提示している情報の中で、引きがある部分はどこなのかをしっかり見極めることが、やはり“目に留まる情報”になるのではと思いますね。
-「目に留まった」次に、「調べてみたい、取材してみたい」と思うような情報に共通点はありますか?
個人的には、バックグラウンドがある情報には惹かれますね。たとえば、単なる新商品紹介ではなく、「このような背景のもと開発しました」であったり、「コロナでこのようなお悩みの声が寄せられたため、取り組みを開始しました」というような、社会背景と結びついているものだと、ニュースバリューを感じます。
加えて、社会の時勢に合わせた情報にも注目しています。コロナが流行りだした時期には、メールの受信トレイで「コロナ 新商品 取り組み」などを検索し、“コロナ禍でオンラインに切り替えたサービス”や“コロナがきっかけでできた商品”のプレスリリースに対して、企画書をお送りしたこともありましたね。
また、書きたいジャンルの記事がある時には、検索でも情報を集めますね。その際、企業の調査リリースを参考にすることもあります。調査内容と結果を見て傾向を掴んだ後で、厚生労働省などの公的な調査を確認したり、その企業に直接取材したり、様々な形で活用させてもらっています。こういった調査リリースは、メールでの検索で引っかからない場合が多いので、Google検索などの上位に上がりやすいリリースの方が、参考にする機会が多いかもしれません。
生活者と企業の架け橋を目指す
-さいごに、BuzzFeedとして今後チャレンジしていきたいことがあればお聞かせください。
これからも、「生活情報」に注力する中で、自分たちが良いと思ったものを取り上げることはブレずに行っていきつつ、企業の方々とのリレーションを深めることにも力を入れていきたいです。企業からでる新商品の情報ひとつにも、ストーリーや背景がありますし、開発の秘話や工夫が隠されています。そういった、表には出にくい情報や、企業が自分たちを主語として発信しづらい情報を、私たちが代弁することで生活者と企業をつなげていきたいですね。
また、地元で奮闘している企業さんへの取材も、積極的にできたらと考えています。コロナ禍で、地域限定だった商品がオンライン販売を開始するなどの動きも、活発になってきていますよね。なので、これをきっかけに開発の背景や苦労を私たちが伝えていくことで、企業を知ってもらうだけでなく、その地域の町おこしなどにも発展できればいいなと思います。
1997年生まれの道産子。2020年に横浜国立大学を卒業し、株式会社マテリアルに新卒入社。新設のメディアリレーションチームに配属され、約1年間メディアの知識全般を深める。2021年6月より、『PR GENIC』の2代目編集長としてメディア運営を引き継ぎ、記事の執筆や編集業務に従事。新米編集長として、日々奮闘中。