従来のマーケティングは、競合商品との比較によって、市場の中で他社と差別化できる優位性をみつける“マーケット・ポジショニング”の考え方が一般的でした。しかし、SDGsの理念が生活者にも浸透した現代では、「市場」ではなく「社会」の視座で企業活動を行うことが求められています。この変化に対応するために、企業にはどのようなマーケティング思考やコミュニケーションが必要なのでしょうか。
今回は、企業が社会から応援されながら、社会を変えるためのメソッド「ソーシャル・ポジショニング」を掲げ、書籍『なぜか「惹かれる企業」の7つのポジション』の著者である博報堂 戦略クリエイティブディレクター/PRディレクターの菅順史さんにインタビューし、そのポイントや具体的なプロセスについてお伺いします。
株式会社博報堂 戦略CD/PRディレクター 菅 順史 2010年に博報堂へ新卒入社。「社会発想」を武器にクライアントのコーポレートコミュニケーションを支援するPR戦略局を経て、2013年に「生活者発想」を掲げる博報堂生活総合研究所へ異動。未来研究などに従事したのち、クリエイティブ部門へ異動し現職。コミュニケーション戦略の立案から実施までを統括するほか、新規事業開発などにも携わる。 |
CONTENTS
“社会に応援される企業”になるためのソーシャル・ポジショニング
-はじめに、菅さんのご経歴についてお聞かせください。
2010年に博報堂へ新卒で入社し、PR戦略局、博報堂生活総合研究所、統合プランニング局という配属を経て、現在、生活者エクスペリエンスクリエイティブ局で戦略クリエイティブディレクター兼PRディレクターをしています。
さまざまな業務を経験してきましたが、PR戦略局では「社会発想」、生活総合研究所では「生活者発想」、統合プランニング局では「ブランド発想」というように、様々な視点から物事を考えることを学び、現在の業務にも非常に活かされています。
-そのような経験を経て生まれた、「ソーシャル・ポジショニング」とはどのようなメソッドでしょうか
ソーシャル・ポジショニングは、「経済価値の創出」と「社会価値の創出」の両立が求められる時代に、“社会から応援される企業”になるための新しい方法論です。
今までは、市場の中で競合との優位性を出す、いわば「マーケット・ポジショニング」が主流となっていました。これに対して「ソーシャル・ポジショニング」は、よりよい社会を作るためにどのような役割を果たすべきなのか、社会における自社のポジショニングを考えようというメソッドになります。「市場」の中で競合との差を競うのではなく、「社会」の中で役割を持つことを重視するメソッドです。
-なぜ、この考え方が必要になったのでしょうか。
これまで、社会課題は「国や自治体が解決してくれるもの」として捉えられており、企業に求められたのは生活を便利にする商品などでした。そのため、企業は市場の中でポジションを取ることが大切でしたし、3C分析や4P分析はマーケティングのセオリーでした。しかし、次第に生活者が製品やサービスの質に満足し始め、競合との差がつきづらい時代に。それと同時に、提起される社会課題もまた、国や自治体だけでは解決できないものへと変化し、「企業と生活者が一緒になって解決に向けて働きかけるべきもの」として捉えられるようになっていきました。
実際に、“生活をよりよくする商品”よりも、“社会をよりよくする企業”を応援したいという考えを持つ生活者が増えてきていますし、投資家も、企業価値と社会価値の両立を企業に求めるようになっています。このような社会の変化を見た時に、従来の3C分析/4P分析を起点にするマーケット・ポジショニングの考え方では、“社会と向き合う”ための視点やノウハウが欠けていると考えるようになりました。そこで生まれたのが、「ソーシャル・ポジショニング」です。
「ソーシャル・ポジショニング」を実践する4ステップ
分析の視点は「3C」から「3S」へ
-ソーシャル・ポジショニングとは、具体的にどのような手順で進めると良いのでしょうか。
ソーシャル・ポジショニングは、①「3S分析」②「7つのポジションの選定」③「USVの言語化」④「企業アクションの実行」の4つのステップで構成されています。
まず、ステップ1の3S分析は、3C分析に対して掲げているフレームになります。「Social(社会)」「Sei-katsu-sha(生活者)」「Story of Corporate(企業ストーリー)」の3つの視点から、企業が社会でどのような役割を果たせるのかを探るものです。3C分析は「市場」という観点で行われるのに対し、3S分析は「社会」から見ていくという考え方ですね。
3S分析で特に意識してほしいのは、「社会」です。“プロダクト・アウト”や“マーケット・イン”という考え方に対して、 “ソーシャル・イン”と呼んでいるのですが、きちんと「社会」から入ることで、「この企業は社会の中でどんな存在になることを期待されているのか」「社会からどう見られるべきか」といった、社会の中でその企業にふさわしい立ち位置を見つけることができます。
取り組むべき社会課題を見つける“7Social Positions”
-まずは、「市場」から「社会」へ考える舞台を変えていくのですね。
その通りです。3S分析で自社の立ち位置がみえたら、次にステップ2の「7つのポジションの選定」を行います。「7つのポジション」とは、社会から応援されている企業の事例を分析して類型化した、“社会から応援される企業がとるポジション”です。これまでは、競合と比較した優位性を4象限で見つけていましたが、ソーシャル・ポジショニングでは社会の中で果たす役割を「7つのポジション」をベースに規定していきます。
このフレームで企業の立ち位置を決めて、社会や生活者、企業の歴史を見ると、これまでは気づかなかった社会課題や生活者インサイト、企業の誇るべき歴史が見えてくるようになります。
-このポジションが、社会を見る上でのひとつのレンズになるのですね。
そうですね。たとえば、自動車会社が「高齢者ドライバー」という社会課題について考えたとします。この時に、「7つのポジション」の中から自分たちを『応援者』と位置付けたとすると、「高齢者ドライバーの方が最後まで運転ができるようなサポートを行おう」という考えがひとつ挙げられると思います。一方で、自分たちを『挑戦者』と位置付けると、「そもそもの自動車の仕組みから変えていこう」であったり、「高齢者が自分で運転しなくていい仕組みを自動運転で作っていこう」というような考えに変わると思うんです。つまり、打ち手が変わってくるんですね。
各ポジションから考えることで、世の中の見え方や切り取り方も変わってきますし、このフレームを使って、自社のポジションやスタンスを決めておけば、チーム内での認識も統一されます。
-様々なポジションから見ることで、今までになかった新しい課題も見つかりそうです。
そうですね。この思考は、社会の新たなインサイトを見つける際に役立ちます。インサイトを見抜けなければ生活者に響かない時代に、「それじゃあどのように探せばよいのか?」という指標がこれまではなかったんですね。なので、そこでぜひ活用していただきたいです。
≫後半『ソーシャル・ポジショニングを実践する際のポイント』 |
1997年生まれの道産子。2020年に横浜国立大学を卒業し、株式会社マテリアルに新卒入社。新設のメディアリレーションチームに配属され、約1年間メディアの知識全般を深める。2021年6月より、『PR GENIC』の2代目編集長としてメディア運営を引き継ぎ、記事の執筆や編集業務に従事。新米編集長として、日々奮闘中。
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