定義刷新!重なり合いつつある「PR」と「マーケティング」について考える|PR GENIC MEETING#3 レポート

「PR」とは一体何なのか?——2023年6月から2024年1月にかけて「PR」と「マーケティング」の定義がそれぞれの協会から発表されました。時代の変遷とともに生活者が情報に触れる手段が増えているなかで顧客や生活者とのエンゲージメントを高める考え方とはどのようなものなのでしょうか。

4月25日に開催された『PR GENIC MEETING#3 ~PRの定義が変わった時代に、改めて考えたいパブリックリレーションズの可能性~』では、そもそもPRとは何かという解説や、世の中の情報流通構造がどのように変化したのかなどのPR業界の変遷に加え、刷新された「PR」と「マーケティング」の定義について深堀り。広報・PR・宣伝・マーケティング・経営者の方々に向けて、明日から使える「PR発想術」をお伝えしました。本記事では、セミナーの様子をサマリーレポートとしてお届けします。

株式会社マテリアル 取締役/コミュニケーションコンサルティングユニット 尾上 玲円奈
大学卒業後、NHK(日本放送協会)に記者として入局し、ニュース原稿の出稿や特集の制作、番組内でのリポートや記者解説などを担当。警察・検察、政治・行政の取材にとどまらず、隠岐の島から産科医が1人もいなくなるという話題をスクープし、厚生労働省や日本医師会などを含めた取材を続けて、国会も巻き込んだ「勤務医不足」論議を巻き起こした。前職井之上パブリックリレーションズでは執行役員として事業の推進にあたり、農業から運輸業、製造業や小売業、金融業やサービス業、医薬業界、観光業、学校法人、政党、政治家、IT産業に至るまで幅広い分野のクライアントを担当。ジャーナリストや国会議員秘書としての経験を活かし、PRコンサルティングやPR戦略立案、危機管理やメディアトレーニングの他に、スピーチライティング、ロビイングやマーケティングサポートなどの業務に従事。
株式会社マテリアル Business Producer/PR Planner/PR協会教育委員 右田 清志郎
奄美大島生まれの大自然育ち。小学生の頃は、大自然の中で鍛えられた足腰を生かし、サッカーに没頭。日本サッカー協会をはじめとして、オリンピック競技の広報に従事し、その後企業PRへ。企業PRでは多岐に渡る業種を担当。現在は、ビジネスプロデューサー兼PRプランナーとしてお客様の課題抽出から提案までの全体指揮を執りながら、PRの魅力を広めるためにPR協会教育委員に従事している。

PRとは「共感」である。広聴×広報で適切なコミュニケーションを

左から、尾上 玲円奈 / 右田 清志郎

はじめに、株式会社マテリアルのBusiness Producerで、PR協会教育委員も勤める右田が、本セミナーの肝である「PR」とはそもそもどのようなものなのかについて解説。PRとは、パブリックリレーションズの略であるとしたうえで、広く伝えていく「広報」と、広く聴く「広聴」の意味も兼ね備えていると言います。そして、「PRを一言で表すと何か?」と問いを掲げ、それは「共感」であると述べました。たとえば、会議の中で「PR思考やPR視点を持って考えていこう」などというフレーズを耳にしたことはないでしょうか。これは、「共感を生むためにはどうしたらいいか考えていこう」という意味に捉えると理解しやすいと言います。

この「共感を生む考え方」について、右田は以下の図のように「自分の周りにいる人の関係」に置き換えて説明。自分の周りにいる「親」「子ども」「友人」「仕事仲間」などとコミュニケーションを取る際に、相手の想いや考えを汲み取って接したり、伝え方を変えたりするだけで、良好な関係を築くことができるはずだと述べました。

そして、企業を軸としたステークホルダーとのコミュニケーションにおいても、この考え方は同様であると言います。たとえば、企業が「新しい商品を発売するので、ぜひ購入してください!」とコミュニケーションをしても、実際に購入してくれる人は少ないでしょう。そうではなく、誰に届けたいのかを考え、そのうえで届けたい人がどんな思いや考えを持っているかを広聴する。そうすることで、どのようにコミュニケーションを取るべきかが考えやすくなると同時に、PRへの理解を深めることができると述べました。

“情報の受信者同時に“発信者であることを忘れずに

次に、PRにおいて重要な「メディアや生活者が情報を取得する方法」が、年々変化しているというテーマについて解説されました。下の図は、少し前の時代における、企業が発信した際の情報の流れ方です。

これまでの情報流通網では、一次情報としてダイレクトに生活者伝える方法が「広告」であり、その他では、「マスメディア」を媒介して編集された二次情報が生活者に伝わっていました。そこから時を経て情報の流れ方は複雑化していきました。

上の図は、現代の一般的な情報流通構造です。これまでの「オフライン」による発信に加えて、「オンライン」での発信手段が台頭し、主に4つの流通パターンが挙げられるようになりました。

1つ目は「広告」。不特定多数の方の目に留まるオフラインの広告に対して、オンラインの広告は受け手の興味関心に合わせてターゲティング配信されており、より効果的だということができます。2つ目は「自社サイト」です。近年、オウンドメディアを持つ企業やブランドが増えており、企業が届けたい情報を発信する手段のひとつとして確立しています。3つ目は「リリース」。オンライン上のリリースは、マイナビなどのニュースプラットフォームに取り上げられ、その記事に注目が集まると、Yahoo!やGoogleなどのポータルサイトへ二次転載されたり、まとめサイトへ三次転載されたりします。さらに、それらのプラットフォームやサイトには、SNSアカウントもあるため、そこから情報が派生していくことも考えられます。さいごに、4つ目の「公式SNS」からの発信と合わせて、生活者に情報が届いていく構造、これが現代の情報の流れ方です。

右田はそこに加えて、「生活者一人ひとりが情報発信者である」ことについても言及。近年、耳にする「1億総メディア時代」がこのような構造で成り立っていると説明しました。

そして、尾上も情報流通構造の変化について、「つい最近まで一方向のやり取りであった」と解説。これまでは、メディアから発信される情報を受け取ると、そこでコミュニケーションが終了してしまうような関係性でしたが、誰もが情報発信をできる今の時代では、「情報の受信者は同時に発信者である」ことを意識した情報発信が求められると述べました。

PRとマーケティングが絡み合う時代。それぞれの新しい定義とは?

続いて、本セミナーのもうひとつのテーマである、「マーケティングと広報の定義の変化」について、日本広報学会から、2023年6月に発表されたPRの定義(上の図参照)を読み上げたうえで、右田は「PRが“経営機能のひとつである”と初めて定義づけられたこと」がポイントだと言いました。経営というと、人材・財務・マーケティングの三本柱を思い浮かべることが多いと思いますが、この定義により、PRもその軸に入っていくことが期待されます。さらに、2024年1月に日本マーケティング協会によって刷新された、マーケティングの定義についても触れ、「顧客や社会と共に価値を創造する」点がポイントだと加えました。

そして、PRの「経営機能のひとつ」という側面は、マーケティングでは当たり前の考え方であり、マーケティングの「ともに価値を創造する」ことは、PRでも当たり前に意識すべき考え方であると解説。つまり、情報流通の仕組みが変化した時代背景とともに、PRとマーケティングが寄り添い合い、重なり始めているのではないかと加えました。その後の講義では、双方が携わった事例を紹介し、施策やプロジェクトに対して、PR発想をどのように組み込んでいけばよいのか解説され、イベントは幕を閉じました。

今回、情報流通に関する時代の変遷や、PRとマーケティングの定義が刷新されたことを受け、改めて「PRとは何か?」について探ってきました。常に、時代の流れを読み、適切なコミュニケーションをおこなうことが求められるPR活動。その根本となるPRそのものについて正しい理解を深め、認識を揃えた上で、さまざまなアプローチを考えていくことが重要になるのではないでしょうか。

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