SDGs、パーパス、ESG…“社会と向き合う技術”が求められる時代の新・マーケティング論「ソーシャル・ポジショニング」とは?

ソーシャル・ポジショニングを実践する際のポイント

自社に合うポジション選びはどう行う?

-それでは、自社に合ったポジションを選ぶためのポイントを教えてください。

いきなりポジションを決めるのではなく、ステップ1とステップ2を経て、7つのポジションを使い自社が社会の中で果たす役割を仮決めしてから、改めて3S分析を行い、またポジションについて検討する、というように、ステップ1とステップ2を往還することがポイントです。繰り返しになりますが、この往還を行うことで、“3S”に対する新しい発見が得られます。

企業が立つべきポジションを決めてから「社会」を見ると、“みんなが知っている社会課題”の“みんなが知らない側面”が見えてきます。この発見がとても大切で、取り組むべき社会課題を考える際に意識してほしい点です。“みんなが知っている社会課題”の解決を掲げても、他社も同じことを言っていたり、本当に解決できるかリアリティを持てないのが本音です。しかし、“みんなが知らない社会課題”だと、そもそも世の中から興味を持ってもらえない課題設定になってしまいます。そこで、“みんなが知っている社会課題”の、“みんなが知らない側面”を発見し、その企業らしい方法で解決するアクションにつなげることが重要になるのです。

加えて、「企業ストーリー」では、創業エピソードや企業の歴史、背景と、現代における企業の存在価値が見えてきます。なぜ、自分たちの企業ができたのか、どういう歴史を歩んできたのかを鑑みることで、自分たちが取り組むべき社会課題が見えてくるため、とても重要な要素となります。

-最終的なポジションを決める際の基準などはありますか?

自分の企業が本当にそのポジションをとれるのか?という基準として、7つのポジションそれぞれにフォーマットを設けています。ここでは、『応援者』を例にして考えてみます。『応援者』は、“誰の味方のブランドなのか”を明確にし、応援を表明することで社会から賛同を得るポジションです。そのため、ブランドが解決できる課題を抱えている生活者を見つけ、その味方になることが重要になります。

そこで、自社が『応援者』になれる企業かの基準として、図のフォーマットの穴埋めができれば、このポジションをとるにふさわしい企業だということがわかります。これは各ポジションごとに設けているフォーマットで、これを埋めていくことで、自社の強みや武器が分かりますし、コミュニケーションのコンセプトの発見にもつながります。ぜひ活用してほしいですね。

ポジションの取り方は柔軟に考える

-企業の成長フェーズごとに、ポジションを変えることもできるのでしょうか?

もちろんです。世の中に知られていない企業であれば、『破壊者』や『逆張り』、『シンボル』などのポジションで、すでに注目されているトピックへの対抗馬として、存在感を示すことができます。そして、ある程度の時間が経ったタイミングで『応援者』や『民主化』など、その企業が本当に実現したいことを主張していくことを検討していきます。

また、ポジションを組み合わせて考えることもできると思っています。たとえば、これまで『挑戦者』として新しい取り組みに注力してきた企業が、『民主化』にシフトしていきたいけれど、『挑戦者』としての顔つきも残しておきたいと思った時に、「民主化するための挑戦者」というポジションが取れると思うんです。組み合わせ方で個性を出すこともできますし、極論を言うと“第8のポジション”が出てきてもいいんですよね。

言語化した“USV”をアクションへと紐づける

『なぜか「惹かれる企業」の7つのポジション』より抜粋

-ポジションが決まった後のステップについても教えてください。

ステップ3は「USVの言語化」です。そもそも、USVとは、「Unique Social Vision」、つまり“社会をよくする独自の視点”を指しています。マーケット・ポジショニングでは、“独自のセールスポイント”である「USP(Unique Selling Proposition)」の考え方がセオリーでしたが、ソーシャル・ポジショニングでは、社会の中で企業が果たすべき独自の役割を示すことによって、生活者から応援してもらい、選ばれる企業になることを目指します。そのため、このUSVを言語化する必要があります。

そして、ステップ4の「企業アクションの実行」へ進みます。ステップ3で言語化したUSVを、「言葉」だけではなく「行動」で示すことがとても重要です。特に最近は、“言葉だけで行動を伴わない企業が批判される”傾向が顕著です。なので、USVを決めた後は、その実現に向けて何をしていけばいいのか、言葉だけではなく行動で伝えるにはどうするのかを考えてみてください。

ソーシャル・ポジショニングまとめ

“社会をよりよくするための選択肢”を生み出すツールを目指して

-ソーシャル・ポジショニングを通じて、社会や企業に期待されていることはありますか。

社会に応援されながら、社会を変えていく企業が増えると良いなと思います。「消費は投票である」という考え方が徐々に広まりつつありますが、実際に生活者が「せっかく買うならあの企業の商品を買いたい」と思うようになった際に、それにちゃんと応えられるよう、企業が様々な選択肢を出せる世の中になるといいですよね。

先述した、「高齢ドライバー問題」も、免許を返納しても生きられる社会と、返納しなくても生きられる社会、どちらもあっていいと思うんです。ずっと車を運転できるような仕組みを作る企業も、車がなくても生きられる世の中を作る企業も、どちらも必要だと思うんですよね。この2つの企業があった時に、どちらを応援するかは個人の判断ですし、選択肢があればあるほど選び甲斐があります。

いま、「社会をよりよくしたい」という生活者のエネルギーは確実にあって、それを企業の成長に変換できる企業が、これから選ばれて生き残っていくのではないかと考えています。なので、企業には社会をよりよくしたい生活者のエネルギーに応える、様々な選択肢を提示できるようになることを期待していますし、ソーシャル・ポジショニングがその選択肢を生み出すツールになるといいなと思います。


\菅 順史さん 書籍発売!/

SDGs社会、パーパス経営・・社会は大きく変わっています。そんな新しい時代に必要なマーケティングの視点を豊富な事例で紐解くのが新刊『なぜか「惹かれる企業」の7つのポジション』(日本経済新聞出版社)です。成功事例を分析・類型化したメソッドは、思考のプロセスを具体的なステップで紹介しているため、実践で活かせるエッセンスが満載な一冊です。「SDGsに取り組んでいることを、社会からもっと応援されるようになりたい」「パーパスをつくったけど行動にうつせていない」そんな悩みを解決するヒントが見つかるはずです。

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