インフルエンサーのD2Cブランドが強い理由。“自主発信”で勝ち抜くウェブプロモーション

小売業界を中心に注目を集めている「D2C」(=Direct to Consumer)。D2Cとは、メーカーが製造した商品を、小売の流通経路を利用せずにダイレクトに消費者に販売する、新時代のビジネスモデルです。さまざまな領域でD2C発のヒット商品が生まれている今、埋もれることなく生活者にプロダクトを届け、ファンになってもらうためには、何を意識してウェブプロモーションに取り組んだら良いのでしょうか。

今回は、 “売れないもの”を売る会社として多くの企業のマーケティング支援を行い、自社オリジナルのD2Cブランドなども手掛けるコクハク株式会社代表の木本考紀さんに、D2Cビジネスで勝ち抜くウェブプロモーションのポイントについて伺いました。

D2Cブランドの初動は“インフルエンサー力”で決まる

近年盛り上がりを見せるD2Cビジネス

-ここ数年でD2Cブランドが一気に増加しましたが、生活者側と事業者側の両方の視点でどのような変化があったと思いますか?

世の中全般的に、ECで買い物することがごく当たり前になりました。それと同時に、これまではブランドを持とうと思ったら「店を構える」という準備が必要でしたが、現在はそうする必要もなく、誰もが簡単にECを持てる環境も整いました。この初期費用の圧倒的な違いから、参入ハードルが大幅に下がって誰でも挑戦しやすくなったことと、新型コロナウイルス流行などといった世の中的な流れ、この2つの要因が重なったことによって、現在D2Cビジネスが注目されていると思います。

また、D2Cのもうひとつの大きな特徴は、データを自社で扱える点です。自社でデータを溜めながら次の商品開発を行い、プロモーションに活かしていくことができるため、マーケティング精度を高めていくことはもちろん、PDCAサイクルを回すスピードも速くなります。

-オンライン上で買い物をする人が増えたことに加えて、何か生活者側にも消費行動的な変化があったのでしょうか?

商品マインドやこだわりを持った人が増えてきているような感覚は、確実にあります。以前からも言われてきていますが、“20代女性といえばコレ”というように、その属性を一言で言い表すことが難しくなっていて、人によって趣味嗜好が大きく異なります。これは、情報の取り方がほぼネットに移行したことも大きく影響していると思いますし、まさに、生活者のニーズの細分化はますます加速してきていると思います。

-ネットで情報収集を行えるとはいえ、これまで同様にリアルで商品を確かめたいという人も多いと思います。

もちろん購入する前に手に取りたいとか、実際に目で確かめたいというような慎重派も、一定数はいると思います。そういうニーズがあるからこそ、「ポップアップショップ」という形態も今増えているのではないでしょうか。こちらも通常の店舗を構えることと比較するとランニングコストがかからないため、参入ハードルは低いです。また、ポップアップやショールームで商品を見てもらって、購入はネットから、という形態も増えていますね。購買データを全て取得することがD2Cビジネスの基本なので、こういう形態が取られるわけです。

コミュニティから派生するブランド

-ずばり、D2Cビジネスにおける正攻法を教えてください。

まずはブランドローンチ時やリニューアル時に、ファンになり得る人がどの程度存在するのか?がポイントだと思います。わかりやすい例だと、インフルエンサー発祥のブランドの場合、既にファンがついてるところに対して商品を出すため、初動が圧倒的に早く、継続もしやすいです。しかし、ただフォロワーが多ければ良いというわけではありません。数ではなく根強いファンがいるということ、またインフルエンサーそのものが、コミュニティとして機能していることが非常に重要です。

-インフルエンサーのコミュニティ化というのはどういうことですか?

インフルエンサーが“フォロワーのニーズに応える意識”を持っているか否かによって、コミュニティの質は大きく異なります。私の知り合いにもD2Cブランドを立ち上げた人がいて、自身がインフルエンサーになると言い出して、YouTuberの活動を始めました。最初はYouTubeからの収益化を目的としていましたが、自身が動画内でオススメする商品が売れ始めたりすることを確認してから、ブランド開発に乗り出しました。この“商品が売れ始める”というのがポイントで、発信する情報とフォロワーのニーズが合致していれば、自身が開発した商品も確実に売れるので、その戦略はかなり当たっています。

ただ、インフルエンサーになると言ってもそれもかなりのハードルはあるので、そこで挫折してしまう人も多いです。ブランド開発も始めることは比較的簡単ですが、売り続けることが大変なので、最初にコミュニティを作って影響力を持つ活動をすることは、どちらにしても必要なのかもしれません。

D2Cビジネスで勝敗を分ける生産者の“自主発信”

ECサイトはコンバージョン導線の確保を最優先せよ

-オンライン上でビジネスをする際には、“ECサイト”のクオリティが購買率に直結してくると思うのですが、サイト構築の際に木本さんがよくアドバイスされることはありますか?

商品開発の時点では、いかにはっきりしたUSP(=Unique Selling Proposition)を作れるかがポイントです。確固たる商品の訴求内容を固めて、クリエイティブで表現するところまでは、多くのD2Cブランドが実現できていると思います。しかしここから重要なのは、「いかにコンバージョンを意識したウェブサイトを作れるか」ということです。コンセプトやブランドの世界観が伝わるだけではNGで、まずはコンバージョンさせることを最優先して、導線を確保したサイト設計を行わなければなりません。

デジタルマーケティングに精通している方であれば、この点は意識できると思うのですが、様々なサイトを見ていると、ブランドの世界観を最優先してしまっているものも多く散見されます。まずは「ECとしての土台を整える」という順番を守ること。ここは特に、D2CブランドのECサイトづくりでは押さえておきたい部分だと思います。

-導線を確保するというテクニック的な土台があった上で、よりコンバージョンしやすくするためにはどのようなコンテンツを用意すると良いのでしょうか。

コンバージョンしやすいコンテンツの例のひとつは「動画」ですね。動画では、世界観やこだわりの他、機能性や使用例など、写真でアピールしきれない具体的な部分まで紹介できます。Amazonなどでも、写真と並んで動画が掲載されていることがありますよね。リアルで商品を手に取れないからこそ、動画で様々な角度から商品訴求を行うことは、売上にも直結する大切な要素だと思います。ただ先ほども話した通り、ブランド訴求ばかりのイメージ動画ではコンバージョンにはつながりにくいので、その点はしっかり押さえておく必要があります。

KPIは数でもOK、まずは自ら発信すること

-コンバージョンを意識したコンテンツ制作のほかに、ウェブ上にどのような情報があれば、生活者はブランドのファンになってくれるのでしょうか。

ウェブ上で生産者の想いを発信し続けることは、今の時代において非常に大切です。即効性があるような手法ではありませんが、続けることによって必ず何かしらの結果には繋がるので、長期的な視点で続けることが重要だと思います。

こういった情報発信などは後回しになりがちですが、「人の想い」や「会社の思想」が購買の意思決定においても重要視される現代では、もはや欠かしてはならない重大作業のひとつと言えます。初めの頃のKPIはもはや数でも良いので、とにかく毎日1回はSNSを更新するとか、月に1回はプレスリリースを作るなど、目標を立てて継続的に取り組むことが大切だと思います。

“本当に良いモノ”をオンライン上で届ける

企業PRの一貫でオリジナルブランドを立ち上げたKokuhaku

-木本さんが代表を務めてらっしゃるKokuhakuも、オリジナルブランドを持っていますよね。マーケティング支援を行いながらブランドを開発しようと思ったきっかけは何だったのですか?

マーケティング支援を行っている企業は多く存在しますが、その中でクライアントからパートナーに選ばれるにはどうすれば良いか?と考える中で、会社や自分自身がもっとステップアップする必要があり、そのためにも本気で「事業主側の気持ちをもっと理解したい」という思いを持っていました。自分でいいものを作って、それを売るにはどうしたら良いか。クライアントの気持ちをより自分ゴト化させると同時に、それが成功すればKokuhakuの実績としても示すことができる。ある意味“仮説検証”のためにも、オリジナルブランドを開発・販売するプロジェクトに着手しました。

そのような経緯があって、これまで“読むチョコレート”をコンセプトとした「Chocolate Library」や、昆虫ドレッシングブランドの「TWO THIRDS」を開発し、自社のECや提携先の店舗などで販売を行ってきましたが、徐々にメディアやセレクトショップなどからもお問い合わせをいただけるようになって。この経験ができたからこそ、良いモノであることを前提に、「“売れないもの”を売る会社」でありたいと強く思うようになりました。どれだけ良い商品を作ることができても、世の中にマーケットを作ることまではできないので、そのためのマーケティング支援を行っていきたいと考えています。

“自主発信”で勝ち抜くD2Cブランドのウェブプロモーション

デジタル環境の急速な変化に加えて、生活者のライフスタイルやニーズが多様化し、スモールマスを狙ったD2Cビジネスは急拡大を続けています。今後もD2Cビジネスのさらなる発展が期待できると同時に、「どれだけ良いモノをつくっても生活者に届かない」という課題が深刻化することも予測されます。

【ウェブプロモーションのポイントまとめ】

  1. D2Cブランドを立ち上げる前に、コミュニティを創る。その中で「ニーズの追求」をすることで、熱量の高いフォロワーを獲得する
  2. ECサイトではコンバージョン導線の確保を最優先。EC構築の基本の上に、世界観を乗せる
  3. 始めは「数」が目標でもOK。生産者が自らの想いやブランドに込められたメッセージを発信し続ける

これまで以上にモノや情報で溢れ返っていく中で、きちんと情報を届けてファンになってもらうためには、<ブランド立ち上げ前><準備期間><ローンチ後>の各フェーズで、上記のポイントをひとつひとつ押さえることが大切です。個人のオンライン上での発信が財産となる今、既にD2Cビジネスに取り組んでいる方や将来的に挑戦したいと思っている方は、明日からでも積極的なSNS発信に挑戦してみると良いかもしれません。

木本 考紀(Twitter:@kokuhakukimoto
Kokuhaku Inc.代表取締役/マーケター
新卒で広告代理店に入社。その後、SNSマーケティングのトレンダーズに転職し、マーケティング局長としてPRプランニングの他、動画やメディアにかかわる新規事業開発を担当。2012年に東証マザーズ上場を経験したのち、国内DMP最大手の株式会社インティメート・マージャーにマーケティング責任者として入社。多くの企業のマーケティング支援を手掛け、2018年2月にコクハク株式会社を創業。

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