テレワークの導入が進み、これまで通りの対面コミュニケーションが難しくなった今、社員のモチベーションやエンゲージメントアップに課題を感じている企業は多いのではないでしょうか。遠隔でも社員との円滑なコミュニケーションと意志疎通を実現するために、インターナルコミュニケーションの重要性がこれまで以上に高まっていると言えます。
今回は、「インターナルコミュニケーションで企業価値向上に寄与する」をミッションとして掲げ、毎年『社内報アワード』を主催しているウィズワークス株式会社で代表取締役社長 兼 CEOを務める、浪木克文さんに話を伺いました。
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インターナルコミュニケーションが企業課題を解決する
インターナルコミュニケーションの概念と役割
-企業にとってのインターナルコミュニケーションの重要性について教えてください。
「インターナルコミュニケーション」という言葉の歴史はまだ浅く、ここ10年ほどで使われるようになりました。それ以前は、「インナーコミュニケーション」や「社内広報」という言葉が使われてきましたが、「社内広報」と言うと“社内への情報浸透”がメインの目的となるため、意味合いが少し異なるんですよね。「インターナルコミュニケーション」は、もっと上位の概念であり、様々な企業課題を解決するものです。
私は、インターナルコミュニケーションには大きく4つの役割があると考えています。
1つ目は、会社の変革をスムーズに行うこと。会社は、人生と同じようにさまざまなライフイベントを迎えます。我々はそれを上の図の9つに分類していて、このライフイベントごとに会社の変革が求められる際に、インターナルコミュニケーションがその手助けをしてくれると考えています。
2つ目は、様々な組織課題を解決すること。事業部同士の横の連携が取れない、経営者と現場メンバーの意識の乖離、若手の離職、M&A後のシナジーが生まれない……など、これらの組織課題は、インターナルコミュニケーションによって解決されることが期待できます。
3つ目は、会社としての新たな取り組みを前に進めること。経営をしていく中では、たとえばコンプライアンスやSDGs、DXなど、社会的な動向への適応が求められます。このような、会社として新たに取り組むべきテーマを前に進める際にも、インターナルコミュニケーションが重要な役目を果たします。
4つ目は、社員への理念浸透の手助けをすること。トップが社員に対してメッセージを発信する際に、一方的な発信ばかりでは自分ゴト化がしづらく、なかなか理念浸透にまで至らないケースがあります。そのような場合でも、インターナルコミュニケーションを強化することによって、社員への理念浸透が促進されます。
インターナルコミュニケーションは対外的なブランディングに繋がる
-インターナルコミュニケーションに取り組むことは、対外的にも何かメリットがあるのでしょうか。
インターナルコミュニケーションは、決して社内のみに効果をもたらすものではありません。まずインターナルコミュニケーションによって、働く社員をブランディングすることにより、社員は自社のことが大好きになります。そんな自社が大好きな社員が、商品開発や接客に関わることによって、企業の魅力は社員を伝って外へと伝搬し、そのモチベーションの高さが成果に繋がっていきます。また、今はSNSで個人が情報発信者になれる時代であるため、自社が好きな社員が増えれば、自発的でポジティブな情報発信も増えます。
このように、インターナルコミュニケーションは、インターナルからエクスターナルへと働きかけていくものであるため、結果として外に対する企業のブランディングも加速されます。どれだけ対外的なブランディングを行っていても、そもそも社員が会社のことを好きでなければ、それは無意味なものになってしまう。だからまずは、社員に会社を好きになってもらうためのインターナルコミュニケーションが大切だと思います。
-ここ最近のインターナルコミュニケーションの潮流などはありますか?
特に最近感じるのは、ベンチャー企業ほどインターナルコミュニケーションを強く意識しているということです。スタートアップやベンチャー企業の場合、リファラル採用が主流になるため、優秀でカルチャーフィットする人を採用するには、社員へのブランディングが必要不可欠となります。それに加えて、最近では社員を大切にする経営者が増えているということも、インターナルコミュニケーションへの注目が集まる要因の一つになっています。
また、これまでは「社員数が300人を超えたら、インターナルコミュニケーション用のツールが必要」と言われていましたが、最近では数十人の企業規模でもツールの導入が進んでいます。インターナルコミュニケーションツールの定義は、「社員のエンゲージメントを高めて、持続的に会社の成長を後押しするもの」です。インターナルコミュニケーションは、企業の組織課題を解決し、次のステージへと進める際に重要な役割を果たすものであるため、会社の規模に関係なく注力されるべき領域だと捉えています。
テレワーク中のインターナルコミュニケーション
非常事態で高まるインターナルコミュニケーションの重要性
-このコロナ禍で、インターナルコミュニケーションの重要性はさらに高まっていると思います。インターナルコミュニケーションが担う役割や、求められる効果に変化はありましたか?
コロナの流行によって、社会的な不安や業績への不安、また雇用に対する不安など、誰もが一時は不安定な状態になりました。また、テレワークの導入によって多様化した働き方に対して、どのように対応し、社員とのエンゲージメントをどう高めていくか、様々な課題がこのコロナによって一気に押し寄せられました。これらの不安を払拭して、社員のモチベーションを維持し、会社として次のステージに進む力を高めること。それが、このコロナ禍で求められるようになった、インターナルコミュニケーションが果たすべき新たな役割だと思います。
-テレワークの普及により、社員同士のエンゲージメントを高めることが、以前よりも難しくなっているのではないかと思います。
これまで作っていた紙の社内報が社員に届けられなかったり、会社のイントラネットに自宅からアクセスできなかったりと、テレワークの導入によってこれまで通りのやり方が通用しなくなりました。また、発信するコンテンツについても、取材の難しさから企画を考え直す必要が出てくるなど、様々な課題が発生しています。社内報を発行するそもそもの目的や、使うツールの選定、また作るコンテンツの内容が、このコロナの影響で大きく変化したと思います。
弊社の調査結果から、今年の3月から4月にかけて、社内報の紙からウェブへの移行が本格化すると予測されています。既に、ウェブ上に掲示板を設ける企業や、動画コンテンツの制作と発信に取り組む企業が現れていますし、Clubhouseをはじめとした音声プラットフォームの活用など、新たな形でのコミュニケーションが可能になっています。このようにウェブ化が進むことによってツールの多様化が後押しされ、双方向のコミュニケーションが活発になるなど、インターナルコミュニケーションをより良い方向に加速できると考えています。
“リアル”から“オンライン”へシフトしたことによるメリット
-テレワーク中もインターナルコミュニケーションを深めるためには、具体的にどのような活動が有効だとお考えですか?
ある旅行会社さんは社内報専用のアプリを導入していて、非常に良い取り組みだと思いました。同社は以前からアプリの導入を検討されていましたが、このコロナで業界的に大きなダメージを受け、社員の皆さんが不安な状態になっている中で、どのようなメッセージやコンテンツを発信していくべきか考え、本格的に社内報のアプリを導入しました。それによって、テレワーク中の社員とも繋がりやすくなっただけでなく、アプリ内で出した記事へのリアクションが可能になったり、手軽にアンケートを実施できたりと、双方向のコミュニケーションが成り立つようになったんです。アプリのおかげで、経営陣も社員の意見やアイデアをダイレクトに受け取れるようになり、PDCAを回す速度も速くなったと伺いました。
また、リアルイベントの実施が厳しくなったため、社員総会や中期経営計画の発表会などで、オンラインイベントを有効的に取り入れている会社も多く見られました。このイベントのオンライン化にも、たくさんのメリットがあります。最も大きいのは、参加者との距離がなくなること。交通費をかけずに誰でも参加できるため、地方との距離を縮めてくれました。また、トップメッセージを発信するようなシーンでも、これまでは社長が会場に集まった社員のほうを向いて話していましたが、オンラインでは自分の顔を見ながら発信することになるため、社長自らが直接自分に語りかけるように話すことで、これまでとは全く違った伝わり方になるという調査結果も出ています。
加えて、働く場所がオフィスから自宅に切り替わったことにより、これまで以上に社員の家族も含めたブランディングが求められるようになりました。そこで、今までは家族を会社に招いていたファミリーイベントをオンラインで実施し、会社だけでなく商品やサービスへの理解も深めてもらうなど、社員の家族へのコミュニケーションもうまく取り入れている企業もありました。他にもユニークな例で言えば、Yahoo!JAPANさんは、「アップデートジャパン」という社内報動画をYouTubeでも公開していて、社員向けのコンテンツを対外的にも発信することで、様々なステークホルダーからの信頼獲得に繋げています。このように、インターナルコミュニケーションのオンライン化にはメリットもたくさんあるんですよ。
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1995年生まれ大阪育ち。2018年同志社大学卒業後、株式会社マテリアルに新卒入社。1年目でウェブメディア『PR GENIC』を立ち上げ、記事の執筆と編集全般や、セミナーの企画など、コンテンツ作りを幅広く担当。半年間ハウスメーカーのマーケティング部への出向も経験。現在はオープンイノベーション支援に従事しつつ、外部アドバイザーとして編集のサポートを行っている。
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